最悪の将軍 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087440348

感想・レビュー・書評

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  • 五代将軍綱吉と言えば、生類憐みの令で、評判が良くないのはよく知られているところ。
    その時代と、綱吉の真意は?
    新たな角度から描いた作品です。

    五代ともなれば世は穏やかで繁栄しているというイメージがありましたが。
    当初はそういう空気でもなく、過渡期だったのかもしれない。
    将軍になるとは思わずに育った綱吉は勉学好きで、理想主義者。
    戦国時代の荒々しさが残る世の中を憂い、命の大切さを説こうとしていた。
    動物愛護の精神まで先取りした先駆者だったのではないかという。
    そんな彼を理解していたのが正室の信子。公家の出で教養はあるが、大らかで形式ばってはいない女性。

    生類憐みの令は、跡継ぎに恵まれない綱吉が、母親の干支である犬を大切にすることで子が出来ると信じたという、今から見ればマザコンで、迷信に振り回されたという印象がありましたが。
    実は夫婦睦まじく、自立していたイメージに塗り替えられていて、感じよく読めます。
    ただそれが史実だったのかどうかは‥

    極端な政策に、人心を読めない面があったのは、否定できないところではないかと。
    その辺はガーッと通り過ぎていく描き方でした。
    御台所との関係も、仲がいい時期はあったかもしれないが、結末は悲劇に終わった説の方が説得力あるような気がします。

    ただ綱吉本人が本心目指したものは、高邁な理想だったのかもしれない。それはあり得ることでしょう。
    将軍の立場の難しさ、それは端からはわからないこと。
    政策も施行への段階のどこでどう歪んでしまうか。
    今も昔も、上に立つ者は意外と辛い?!

  • 読む前から疑心暗鬼で、好きじゃないと思うけど、朝井まかては読まなければという使命感の様な変な感情を持ちながら読み始める。犬公方が主観の本って初めてでは。生類憐みの令は人民の為に出したのが受け取る側の意趣を受け止めていないとか書かれている。一瞬本気になったけど、犬公方は犬公方なんだろうなと、じゃないとあれで罰せられて亡くなった人が浮かばない。悪政だったはず。読んでいてやめたい何度思ったのか自分。最後まで読んだ事が奇跡ですね。朝井まかてさんは何故に犬公方を題材にしたのか、未だにわからない何故でしかない。

  • 第五代将軍徳川綱吉、と聞くと思い浮かぶのは生類憐みの令。
    歴史の授業でしか知識がなかったのだが、この作品で、悩み、決意し、様々な思いを抱きながら、ただひたすらに政に邁進した姿を見せてもらえたように感じる。
    武士が、戦のない世を続けていくことの難しさ、いびつさを、改めて思う。
    武ではなく文で治めることを目指したこと、犬にフォーカスされがちだが、慈悲の心、命を大切にしたいという強い思いから令を発したことなど、新しい視点で綱吉を見て感情移入してしまった。

  • 政策は全ての人を満足させない
    成りたくて成った訳じゃない将軍の地位、綱吉の政策の一つである庶民の為の「生類憐れみの令」は、その時代の庶民の習慣(犬食い)と背景(捨子、捨老親)から「生きるものへの憐れみ」がこの令の発信となった、とある。一方を立てればもう一方が立たず、誹謗中傷的な庶民への「憐れみ」の「逆説」が発信されたことも史実なのだ。現代、政治家の政策はどちらかというと政治家への特典よりが多く、国民の声を反映した政策が消え失せた、と感じる。

  • 犬公方などとあだ名される江戸の五代将軍徳川綱吉の話。
    何となく知られた人物を、意外な側面から違った評価をら加えて描く手法、大好きです。

  • 徳川幕府の将軍で、評判の悪い筆頭に挙げられるのが「犬公方」と称される五代将軍綱吉だろう。
    その綱吉を主人公にした歴史長編。
    心ならずも将軍となった綱吉は、己の理想を実現せんと、「武」ではなく「文」で治める世の中にと、改革を断行する。
    赤穂浪士の討ち入りも、彼にしてみれば暴挙としか見做しえない。
    時代は大地震や富士山の噴火が相次ぎ、綱吉は民の安寧を一身に祈る。
    正室の信子は、「断じて、最悪の将軍にあらず」と断言する。彼女との仲睦まじい関係は、良き家庭人として、現代の理想の夫婦像にも匹敵。
    そんな綱吉の姿勢は、「我に邪無」という言葉に集約される。
    綱吉の死後、彼の政の評価について問う信子に対して、側用人の吉保が答える。
    「それを判ずるには時を要します。・・・5年、10年。あるいは、100年かかるやもしれませぬ」。
    視点を変えれば、人物評価も変わる。
    読者にとって、従来の評価を一変する鮮烈な魅力にあふれる綱吉を、著者は生み出してくれた。

  • 歴史というものは、人々が見たいものが積み重なり、出来上がるのかもしれない。

    ここで描かれているのは、心ならずも将軍になってしまった男の生き様であろう。

    戦国の世はすでに遠く、何を持って、この国を治めるのか、彼が出した答えに、家臣も民も理解が及ばない。

    正室の信子だけが真意を理解して、その背を押す。

    その繋がりが愛おしい。

    最悪とは、最善を尽くしても、報われる事のない綱吉の墓碑銘なのかもしれない。

  • 徳川綱吉、徳川五代将軍、生類憐みの令、犬公方……
    単語でしか知らなかった一人の将軍の生き様を見せてもらった。
    こんな人だったかもしれない、こんな人だったらいいなと思える。そして 側近の二人は仕事上の、妻 信子は心を支えてくれる強力な味方だったのだろう。
    特に 姑や側室にも気持ちを寄せながら夫との気持の繋がりを豊かにしている信子の在り様に惹かれた。

  • 学校で習った歴史上の人物で、その後大きく評価が変わったのが田沼意次とこの徳川綱吉だと思う。
    人間より犬の方を大事にする法律を作った暗愚な将軍、と習いましたが、それは当時の江戸の庶民レベルの評価だったようです。

    戦国時代はすでに過去のものとなり、太平の時代を迎えているはずなのに、武士の意識だけが変わらずにいる。
    そんな世の中を変えようと、武よりも文(法律)で世の中を統べようとする綱吉。
    しかし、世間はそんな綱吉の思いを一向に理解することはなかった。

    学校で習ったのは暗愚な将軍。
    その後、将軍になった当初は善政を布いたが、その後民衆を顧みることなく「生類憐みの令」を発して庶民を苦しめた、とした説も聞いたことがある。
    けれど、この本に書かれる綱吉は最後まで誠実で、最後まで清廉で、最後まで公正だった。

    堀田正俊や柳沢吉保のように、綱吉を理解し支えてくれる家臣がいなかったわけではない。
    けれど、前将軍の直系ではなく、将軍就任直後の強権的な治世の方針転換に反発するものも多く、在位が長かったにもかかわらず逝去後にあっという間に綱吉の政策は撤回または停止となった。
    つまり全然浸透していなかったということだ。

    将軍として無能だったわけではないと思う。
    しかし綱吉の時代、地震が頻発し、富士山が噴火するなどの自然災害が多発したというのは、当時、将軍の治世に問題があるからだとみられてしまったのはしょうがない。

    にしても、だ。
    元禄文化を謳歌できたのは、綱吉が太平の世を創り維持してきたからではないの?
    確かに極端な政策は庶民を混乱させただろう。
    命は等しく大事であるというのは理想だけど、人間と野良犬が飢えていたら、野良犬を見捨てるのはしょうがない、くらいの余裕がなかったのが敗因なのではないかとも思う。
    だけど将軍と身近に接する幕臣たちの多くが、綱吉の政策を支持しなかった理由は、今後の研究をもう少し待ちたいと思う。

    「我に邪無し」
    最期にそう言ったのは、自身を誇っていたのか無念だったのか。
    ほかの作家が綱吉を書いたら、また読んでみたいと思う、興味深い人物。

  • 読みはじめは文章が固くなかなか進まなかった。慣れると歴史再発見で綱吉の見方が変わってきて面白い小説だった。理想を追い続けた政治をした人だったんだなぁ。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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