弥勒 (集英社文庫)

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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (728ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087440102

感想・レビュー・書評

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  • これほどに重厚感のある小説を書ける作家はそんなにはいないのではないか。
    パキスムという小さな国でのクーデター。クーデターが起こった中、そこに閉じ込められた極限状態の人間から浮かび上がる、人間の愚かさや醜さが重厚感を持って描かれている。人間の心を救済するものは果たして何なのか。
    600ぺージを超える小説でしたが、一気に読み進めることができました。

  • 予想だにしなかった展開に驚く。
    夢に出てきそう。

  • ずしりと重かった。
    読了後、いろいろのテーマが頭の中で駆け巡った。

    あらすじは単純だ。

    日本人永岡英彰(新聞社勤務)が、パスキム王国なるヒマラヤの奥地での華麗な仏教文化美術に魅せられる。
    王国で政変が起こり、仏教美術危うしとさとった彼は、国交断絶の王国に潜入、そこで壮絶な経験をするのだ。

    物語性があり追っていく楽しさがある。
    美しい弥勒菩薩の仏像の行方はどうなったか?と。

    今のイラク、北朝鮮もかくやとばかり、髣髴させる場面がでてくる。
    仮想のパスキム王国は仏教王朝、カースト制度などで趣はちがうのだが、類似点が恐ろしい。

    物語は変化に富んでいるが、突きつけられるテーマは重く、深刻に考えさせられた。

    ☆ 人間が生きて行くこととは何か。

    哲学的に考えるのは意味のあることなのか。
    理想の国家体制はあるのか。
    『そこに導いていく絶対原理』はあるのか。
    衣食住が足りてこそ文化文明があるという事実。

    ☆ 人間が生きるためには何をしてしまうのか。

    身体を維持していくには他の動物を殺して食べていかなければならない。
    (今朝もニュース鳥インフルエンザ問題で2,800羽が死んだ、出荷数は15,000羽と聞き、その数の多さに愕然。)

    この物語の中ではカースト制度でもって殺すのを一部の人に押し付け、一部の人は罪や不浄から逃れ美しいことだけ考えて暮らしてるとある。(今、日本人が飽食に走り、あらゆるものを殺生して食べ尽くしているのを思う。私を含めて。)

    ☆ そして、救いはあるのか。

    『弥勒』にこう書かれている。

    『……死に至る理由は夜空の星の数よりも多く、生きるためのよすがとなるものは、真昼に見える星の数ほどしかない。太陽が昇り、月が沈み、太陽が沈み、月が昇るように、ただ生と死の輪は巡る。』

    私は涙が止まらなかった。

    篠田節子さんの『弥勒』に光明は示唆されていると思う。(これから読む方の興を削ぐので書かないが)


    篠田節子さんの筆力と構成力。相変わらずすごい!
    1998年に書かれたのだが、今もって世界で起こっていることを見れば、繰り返しである。普遍的である。

  • 篠田節子は、ストーリー・テラ-としては一流で、ぐいぐい物語に引き込まれ、700ページを超える話なのに、あっという間に読み終えた。これまで読んだ作品の範囲でも、『夏の災厄』、『ブラックボックス』、『女たちのジハード』とか取り上げるテーマは幅広く、どれも読みやすく面白かった。
    あらすじとしては、次のとおり。舞台は、パスキム王国というチベット辺りにある仮想の小国。チベット仏教やヒンドゥー教等が入り混じった独特の宗教文化が花開き、首都カターは、ヨーロッパの人々を魅了していた。新聞社の一社員で、たまたまパスキムを訪れたことがあった永岡英彰は、パスキムで政変があったと知り、貴重な文化が破壊されるのではと懸念し、近くまで出張した機会に、パスキムに密入国する。そこで見たものは、かつて賢王と称えられたイシェ・サーカルの秘書官だった男がラクパ・ゲルツェンと名乗り、カーストを破壊し、完全平等社会を作り出そうとして生み出した地獄絵図だった・・・。ただ、ラクパ・ゲルツェンは、私利私欲を追求するタイプでも、単なる狂人でもなく、理想を追い求めるあまり、いつの間にか袋小路に迷い込んでしまった人物として描かれており、意外とポル・ポトや毛沢東もそういう面があったのかもしれないと感じた。

  • 仏教美術の保護のため、ヒマラヤの小国「パスキム」に潜入した新聞社員・永岡英彰が直面したのは、壮絶なる政変という現実であった。この世に「救い」は必要なのか⋯

  • 永岡が日本にいる間の描写がつまらなくてあやうく挫折しかけたが、パスキムに入ってからは「これぞ篠田節子!」という展開で読まされた。永岡は終盤で坂を転がるように宗教的な境地に達するけど、それが不自然ではない。納得できるだけの辛苦にページが割かれているので。

    ー死に至る理由は夜空の星の数よりも多く、生きるためのよすがとなるものは、真昼に見える星の数ほどしかない。

  • 主人公の絶望的な状況が終わらない現実の重さを、残りページの分厚さから感じた。紙で読むべき一冊。

  • 分量も内容も読み応えがあった。

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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