韓国カルチャー 隣人の素顔と現在 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087211993

作品紹介・あらすじ

韓国カルチャーが世界で人気を得る、その理由は?

韓国人にとってのパワーワード「ヒョン(兄)」の意味は?
一般富裕層とは違う、財閥の役割とは?
挨拶がわりの「ご飯を食べましたか?」が持つ意味は?

本書で取り上げるのは、小説・映画『82年生まれ、キム・ジヨン』、ドラマ『サイコだけど大丈夫』『愛の不時着』『梨泰院クラス』『Mine』『SKYキャッスル』『賢い医師生活』、映画『南部軍』『ミナリ』『タクシー運転手 約束は海を越えて』、小説『もう死んでいる十二人の女たちと』『こびとが打ち上げた小さなボール』『野蛮なアリスさん』など……。
近年話題となった小説、ドラマ、映画などのさまざまなカルチャーから見た、韓国のリアルな姿を考察する。

【主な内容】
・キム・ジヨンはなぜ秋夕の日に憑依したか?
・治癒のための韓国料理、チャンポンとテンジャンチゲ
・日本とほぼ同時期に始まった、北朝鮮の韓流ブーム
・男の友情を南北関係に重ねる、パワーワードとしての「ヒョン(兄)」
・性的マイノリティと梨泰院
・『ミナリ』は『パラサイト』とは真逆の映画かもしれない
・財閥ファミリーの結婚
・3年前に大ヒットした、もうひとつの「上流階級ドラマ」
・悩める40代、エリート医師たちはどんな人生を選択するのだろう?
・自分が属するステータスを表す「住まい」
・チョンセの起源とその功罪

【著者プロフィール】
伊東順子(いとう・じゅんこ)
ライター、編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。
著書に、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書)、『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。

感想・レビュー・書評

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  • 8月某日、実に4年ぶりにパスポートをつくった。これは旅の気分盛り上げ選書の3冊目。つまり次回外国旅はきっと韓国。本書は様々な韓国映像作品を伊東さんが読み解き、更に付随するカルチャーに言及した本です。ただし、私の知っている作品が載っている「章」のみご紹介する。※すみません、作品自体の紹介は、冗長になるので省略します。

    ◯小説と映画、それぞれの凄絶「82年生まれ、キム・ジヨン」
    伊東さんは小説版の解説も書いている縁で、小説は何度も読み込み、映画も韓国と日本で2回観たという。そこで2つを丁寧に比較している。
    韓国フェミニズム作品の嚆矢である。伊東さんはキム・ジヨンの性格豹変を「憑依」と表現する。確かに韓国の町を歩いていると、角のあちこちにムーダン(巫堂)の家がある。日本の恐山的な口寄せをする霊媒師は、韓国ではまだ日常なのである。映画には原作にない、ジヨンが祖母に憑依し、その娘(つまりジヨンの母)に語りかける場面がある。このシーンは母親役の演技力もあり、伊東さんはゾッとしたという。
    映画は原作と結末が違う。その理由を、2015年(原作)と2019年(映画)では韓国社会が大きく変化したからだ、と伊東さんは言う。蝋燭革命を経て、当選した文在寅大統領はフェミニストを自認していた。希望が持てる内容になったのはそういうわけだ。
    伊東さんは現代では韓国よりも日本のほうが、特に若い女性の置かれている状況はしんどいという。日韓逆転が始まったのは2000年代だ。2005年「戸主制廃止」。戸籍がなくなり、個人登録制に切り替わったそうだ。(関連ドラマ「あなたはまだ夢見ているのか」「黄色いハンカチ」「息子と娘」)2010年代「学生人権条例」で体罰禁止、服装頭髪自由、校内集会許容。中学生で茶髪もミニスカートもOKを経験した子が今は大学生になっている。←この点で確かに日本は遅れている。甲子園の長髪が未だに話題になるすごい国だもんな。次回行けば、高校生の茶髪率を注目してみよう。

    ◯韓国ドラマ・映画と北朝鮮
    「JSA」(2000)では、主演はイ・ヨンエだったが、1番かっこよかったのは3番目の未だ若手だった北朝鮮兵士役のソン・ガンホだった。

    ◯映画「ミナリ」
    「半地下の家族」に続いて、2年連続韓国はアカデミー賞に沸いた(ユン・ヨジョンが助演女優賞)。「ミナリ」とはセリのこと。韓食のセリは、海鮮鍋に大量に投入される。慶尚道人には万能薬。
    韓国人口は約5000万人。海外同胞は700万人。米国国籍を取得した「韓国系米国人」と永住権者など「在米韓国人」合わせて約200万人。80年代韓国移民の話を描いて貴重。「パラサイト」と比べて「保守的」という批判を浴びた。

    ◯光州は世界をつなげる
    パク・ソルメの短編集に「じゃあ、なにを歌うんだ」という光州民主化運動をテーマにしたものがある。主人公が京都のバーで白竜が「光州City」という歌を歌っていたことを聞く。この小説の登場人物(日本人)は、「その時代に生きていたから知っていて当たり前」という。その時代に生きていた私なのにこの歌(1980年発表)は知らなかった。この歌は日本では未だ発禁処分になっている(←YouTubeには韓国サイトのものしかなかった。日本語なのに‥‥)。2010年に、主人公は光州のバーで「あなたのための行進曲」という光州民主化運動のシンボルとなった歌を聴こうとして「何故今更聴くのか」と他の客と口論になる、という粗筋である。光州の位置付けは、それから10年で大きく変わったと伊東さんは言う。
    映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」(2017)公開がメルクマールだった。文在寅政権の絶頂期でもあり1200万人の観客を動員したという(国民の5人に1人以上は観た)。この本で初めて知ったが、不明だったタクシー運転手の実像が公開後に判明した。息子が証言したのである。運転手は実は語学も堪能だったので、光州に行く目的も危険も承知していてドイツ人記者とは同志関係だったそうだ。それどころか、日本の記者もこの時潜入していて同様に命かながら抜け出している(←日本のバラエティの再現ドラマにしたら、映画ばりにスリルあるものが出来るぞ!‥‥いや、多分絶対作られない)。写真は光州民主化運動記念館に展示されているという。全く気が付かなかった。次回行った時は必ずチェックしよう。
    私も感動したテレビドラマ「砂時計」(1995)も外部者から見た光州民主化運動である。60%の視聴率。伊東さんはリアルで体験し、ホントに街が閑散となったという。
    画家冨山妙子、音楽家高橋悠治共作の「倒れたものへの祈祷1980年光州」の存在も初めて知った。これらの運動が金大中の救出、名誉復活、大統領当選にまで繋がっている。これら日本の動きはもっと、韓国や日本に知られて良い。
    ←日本のメディアのみなさん、この「運動」を「光州事件」と呼称するのは、もう止めようではないか!光州市民は犯罪を犯したのでもない、反乱でも紛争でも戦争でもなければ、偶発的に起きた虐殺でもないのだ。

    本書はWebサイトに連載(20.11〜21.09)文章を加筆・修正したもの。2022年1月発行。コロナ禍の下の「社会」ではなくて「文化」の雰囲気はなんとなくわかった。

  • とても読みやすかった。
    韓国で暮らす作者の韓国への想いが詰まった一冊だと思う。
    小説や映画を取り上げながら韓国カルチャーをわかりやすく説明してくれている。

    ドラマ「サイコだけど大丈夫」は観たことがある。
    最初はタイトルを見た時、最後まで観れる自信はなかったのだが、みるみるうちにストーリーに引き込まれ、女優さんの美しさに引き込まれていった。
    ソイェジさんは本当に綺麗だったなぁ。
    ドキドキハラハラそして最後は涙あり。
    大満足でした。
    このドラマで自閉症の兄サンテさんを演じていた役者さんが「真心が届く」の弁護士事務所の所長さんだった時にとてつもなく嬉しくなったのを思い出した。
    サンテさんには泣かされっぱなしだったな。

  • 韓国に所用あり。少し話題としてカルチャーに触れておこうと思ったが、甘かった。何せ、韓国映画も韓国ドラマも見たことが殆ど無い。だから、向こうの芸能人が分からない。本著はその映画やドラマを切り口にした内容だから、正直着いていけない。映画の話は映画を見た方が良いのだろう。唯一、理解し易かったのは『82年生まれ、キム・ジヨン』の話。これだけは、本で読んだから。

    韓国人とは寧ろ日本や韓国以外の国での付き合いがある。お互い歴史観に相違があっても、特に欧米では、第三国への互いのコンプレックスからか同族意識が高まる。どこかで一線を引いているという事かも知れないが、何故かとても大切にしてくれた印象だ。そういう経験からのイメージを、映画により見出せるかは分からない。結局、自分の周囲は、自分の選択により、接する人も変わる。その点は、外国人か日本人かは、あまり関係ない。当然ながら、一概には語れないだろう。

    今回の所用では、背伸びしてドラマの話をしてみるのはやめようと思った。自分たちは、目の前の自分たちであり、何も背負わなくて良い。

  • 集英社新書『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』(伊東順子・著)が1月17日(月)発売。韓国カルチャーが世界で人気を得る、その理由は?|株式会社集英社のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000299.000011454.html

    韓国カルチャー 隣人の素顔と現在/伊東 順子 | 集英社の本 公式
    https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-721199-3

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ミナリ」と「パラサイト」は真逆?映画やドラマ通して韓国のリアルを考察する書籍 - 映画ナタリー
      https://natalie.mu/ei...
      「ミナリ」と「パラサイト」は真逆?映画やドラマ通して韓国のリアルを考察する書籍 - 映画ナタリー
      https://natalie.mu/eiga/news/461788
      2022/01/16
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      6月、映画でふりかえる「6・25朝鮮戦争」 – 集英社新書プラス
      https://bit.ly/3zvIITX
      6月、映画でふりかえる「6・25朝鮮戦争」 – 集英社新書プラス
      https://bit.ly/3zvIITX
      2022/06/13
  • 韓国の話題の小説・映画・ドラマの背景を歴史、文化、慣習をもとに紐解く。実際に現地で暮らし、働いている著者ならではの詳細な解説は、より韓国カルチャーを楽しめるものとなる。ここ数年の話題作からの考察だが、過去の名作やこれからの作品を取り上げたものも読んでみたい。続編を希望したい。

  •  韓国の映画やドラマの紹介でもあり、それらの内容が前提で、かつ著者の個人的体験も多い。そもそも関心がない自分の期待とは少し違った。
     それでも興味深い内容はある。著者が初めて渡韓した1990年頃と現在の韓国国内の違い。光州事件が現代に残しているもの。ベトナム戦争のトラウマやチョンセ事情、「随試」受験競争。基地の街から多国籍、ダイバーシティの街に変化した梨泰院。国民感情から時にはスター扱いにもなる財閥ファミリー。三星のプリンス李在鎔は、財閥の中でも謙虚な姿勢という「帝王教育」を受けていたとも知った。

  • 「愛の不時着」が面白いらしいという話を聞いて、それでは観てみるかとNetflixに入ったのが運の尽き?
    それ以来すっかり韓国ドラマにハマってしまった。

    もう20年近く前、カミさんがガン見していた「冬のソナタ」大ブームの時は、全く関心がなかったが、今回は韓国ドラマの「沼」にズッポリ両足が沈み込んだ。

    そんな中、書店で偶々手に取った新書が、ドラマを絡めて現在の韓国カルチャー事情を記していたので興味深く読んだ。

    日本では、愛の不時着や梨泰院クラスが人気を誇るが、私の中では「サイコだけど大丈夫」が今のところ一番面白くて心に残った。

    この新書によれば、韓国やアセアン諸国、アフリカ圏では、「サイコだけど大丈夫」の人気が高くて、愛の不時着はそれ程でもないらしい。

    私は日本人離れしてたんだ、と勝手に思ったりしたが、日本で愛の不時着の人気が高いのは、主役のヒョンビン人気と、北朝鮮への関心の高さが理由ではないかと、この新書は分析している。

    私が「サイコだけど大丈夫」に惹かれた理由は、
    俳優がすごく魅力的であったことだ。

    まず、女優ソイェジの美しさにハッとする。
    次に彼女のサイコパスな言動にドン引きする。
    そして彼女の幼子の様な笑顔に心奪われる。

    男優キムスヒョンが、目で悲しみを表現する。その演技力に引き込まれる。兵役から復帰したばかりの俳優と知り更に驚く。そして、うちの三男にちょっと似てる(笑)

    でも何より素晴らしかったのは、自閉症の兄役を演じたオジョンセだ。次第に彼から目が離せなくなる。彼中心にドラマが回り始める。兄弟愛に胸を打たれる。 

    ドラマを観終わった人は彼ロスになるというが、私もまさにそうなった。

    新書によれば、このドラマは俳優の魅力はもちろんだが、家族関係、親の抑圧、ベトナム戦争の記憶など、
    韓国社会が抱える悩みやトラウマを持つ人々を慰めてくれる作品でもあると分析している。

    美味しそうな料理をご飯の上に載せてあげるシーンは、韓国民ならジーンとくる。皆が親から受けた家庭での愛情表現の一コマらしい。

    要はこのドラマは、韓国民の大きな共感を呼んでいるということなのだろう。

    このドラマの話ばかりしてしまったが、この新書は現在の韓国カルチャーの実情を、わかり易く詳細に記してあってとても参考になった。

    韓国カルチャーや韓国エンターテイメントが、世界で大きな人気を得ている。その理由が気になって、こういう本を見つけるとつい読みたくなる。

  • ドラマや映画、小説の背景が解説されているので、より一層、韓国のエンタメを楽しめるようになります。
    その代わりではないですが、まだ見ぬ課題ドラマと課題本がひと息に増えます。

  • 最近のドラマや映画、小説を例に挙げながら、韓国社会を分析した新書。

    KPOPにハマって少しでも韓国文化が知りたい!と思って読んだ。おそらく韓国人からすると、いやいや違うよ〜と思う部分もあるかもしれないけれど、文化的な背景がほぼ知らないわたしからすると、へー!と思うようなことがたくさんあった。
    財閥、意外と流行っていない愛の不時着、公平を重視した大学入試テストがより不公平な学歴社会を生み出す、医師でも騙される不動産、、、
    現代韓国社会をさらりと理解するのに良き新書でした、

  • なるほどなぁと思うことも多く、映画やドラマなどから日本から見た韓国とは少し違う韓国が紹介されている。
    読みやすく面白かった。

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著者プロフィール

編集・翻訳・執筆業。愛知県生まれ。1990年に訪韓。著書に『韓国 現地からの報告』(ちくま新書)、『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)等。『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)では解説を執筆。雑誌『中くらいの友だち』を主宰。

「2022年 『搾取都市、ソウル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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