インド残酷物語 世界一たくましい民 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087211917

作品紹介・あらすじ

格差上等、差別当然、腐敗横行のインド社会で、人々は誇り高きレジリエンス=たくましさとともに、驚くべき強さを身につけていた――。
過酷な“今"を生きぬくヒントがここに。

世界有数の大国として驀進するインド。
その13億人のなかにひそむ、声なき声。残酷なカースト制度や理不尽な変化にひるまず生きる民の強さに、現地で長年研究を続けた気鋭の社会人類学者が迫る!
日本にとって親しみやすい国になったとはいえ、インドに関する著作物は実はあまり多くない。
また、そのテーマは宗教や食文化、芸術などのエキゾチシズムに偏る傾向にあり、近年ではその経済成長にのみ焦点を当てたものが目立つ。
本書は、カーストがもたらす残酷性から目をそらさず、市井の人々の声をすくいあげ、知られざる営みを綴った貴重な記録である。
徹底したリアリティにこだわりつつ、学術的な解説も付した、インドの真の姿を伝える一冊といえる。
この未曾有のコロナ禍において、過酷な状況におけるレジリエンスの重要性があらためて見直されている。
超格差社会にあるインドの人々の生き様こそが、“新しい強さ"を持って生きぬかなければならない現代への示唆となるはず。

■目次■
はじめに
第一章 純愛とiピル
カウサリヤの恋/「名誉殺人」という名付け/「アイ・アム・カウサリヤ」/親の期待とiピル/「伝統」と家族の呪縛 【解説:カーストとダリト差別】
第二章 水の来ない団地で
極彩色の内装/文字のない世界/洗濯屋カーストのグル/カースト・アソシエーションとインフォーマルな社会保障 【解説:新しいインドを理解する三つのM】
第三章 月曜日のグル法廷
「俺、合法なんだってさ」/権力の結節点としてのグル/舗装道路と使われないトイレ/世捨て人のパラドックス 【解説:インドの「消えた女性たち」】
第四章 誰が水牛を殺すのか?
マーランマの怒り/社会的制裁と新しい抵抗/カラスのフンと呼ばれた少年/アディジャン・パンチャーヤトとダリト解放運動/数千年の傷を癒すこと/無縁者のカリスマ 【解説:インドの地方自治と農村パンチャーヤト】
第五章 ウーバーとOBC
スレーシュが刑務所に行くことになったわけ/コネと機転/「腐敗・汚職行為の必要性」/ウーバーとインドの情報革命/都市労働者とOBC/教育という投資/スレーシュの「チェンジ」 【解説:IT産業とカースト】
おわりに

■著者プロフィール■
池亀 彩(いけがめ あや)
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科准教授。
1969年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、ベルギー・ルーヴェン・カトリック大学、京都大学大学院人間・環境学研究科、インド国立言語研究所などで学び、英国エディンバラ大学にて博士号(社会人類学)取得。2015年から東京大学東洋文化研究所准教授を経て、2021年10月より現職。

感想・レビュー・書評

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  • 本当に「残酷」という言葉がピッタリ。

    名誉殺人によって低カーストの夫を奪われた女性、洗濯機を買うより低い価値で働かされる洗濯階級、時計の文字が読めず著者に時間を訪ねる非識字の女性たち、水牛の首を切り血を飲む儀式を強要させられるダリト(不可触民)、「見てはいけない者」でなく「見て愉しむ者」になってしまった上裸のシャーナール女性、大変な仕事をしているのに技術供与を恐れて後継者を育てられないダリト…。

    浄と不浄の考え方、子供の命より優先される家族の面子、女性の立場の圧倒的な低さ、苛烈なカースト差別など、まだまだ重すぎる問題がインドには蔓延っているのだと知った。ダリトの女の子とか、生まれた瞬間からハードモードすぎる。

  • 手に取れたことに、まず感謝。新進気鋭の文化人類学者とあるが、それをはるかに上回る素晴らしい執筆の力を感じさせる・・今後が楽しみ。

    近く、インドは人口数が中国を抜いて世界一位になるという。
    この本によるとインドは「男児の出生が絶対」で妊娠中に、女児と分かれば掻爬する様だ。そして一億人余の女の命が抹殺されたとある。
    生命の倫理を社会的掟により歪めての人工的社会は今後どうなって行くのだろうと感じる・・難病、発達障害でも性差による発現数が異なる。

    モディ首相が先進国と伍して歩む姿をよく見る・・彼はヒンドゥ―勢力の雄。彼の姿には国内指数に現れてこないインド社会の底辺の暮らしは見えてこないどころか、そのパワーのうねりが今後どうなるかも興味がある。

    筆者は5章に渡り、13億人の姿勢の生の姿をフィールドノートから纏め上げた。
    伝統と呪縛、地方分権と強い中央集権、カースト制(教科書で習ったそれではなく、職業毎のカースト、そしてサブカースト等)。。。
    社会保障以前のかの国は生きていくために、身内・家族の存在は必須。私達が当然と思ってきた発展の順序がないからと言って、この国を批判する権利は微塵もないとは言え。。

    筆者が呟く「合理性に基づいた知識のみに頼って行動してきた」これまでは私も同感・・感情の持って行き様に戸惑ってしまう。
    紹介されるラージという人物の生き方に圧倒される想い。そして運転手兼相棒❔であるスレーシュの逞しい人生の選択。

    フォーマルセクターーとインフォーマルセクターの存在・・グレー空間が圧倒的なインド社会においては極力 知識とコネが最重要。身体能力・知識・言語はやすやすとコンピューターのアルゴリズムのよって、無用の長物とされた下りには唸らされた。

    独特なグルの存在、サンニヤーシ、村落パンチャーヤト・・神々が約束した条件をカーストアソシエーションが守っている現実を見せつけられる思い。

    英国首相の座に就いたスナク氏、彼自身が上層身分であると同時に、妻もインドの豪商の娘という超大金持ち。祖先の国をどう思いつつ、英国の舵を取るのかが面白い。そして目下世界中が目を向けているインドのIT産業。数学に強い民族ガメリト産業によって成り立たせてきたといわれるがカーストで特権的に旨味を吸ってきた層がメリトクラシーとどう絡むかも面白い(選択して男児を選び続けている国だけに)

  • 「白人社会で人間として扱われない、認知されない、他の有色人種のように差別してはいけないという意識以下の透明人間なアジア人」という感覚を持っている私は、自ら欧米に進出する日本人(アジア人)を「すげえなぁ。でも俺はこの見た目ほとんど同じ、話し言葉同じの1億2千万ぬるま湯に浸かったままゆったり暮らしていくぜ。わざわざ差別されに外国で暮らすなんてまっぴらごめん。なんで自分の肌の色や出身国をバカにされながら暮らさにゃならんのよ。」と思っていますが、どこにも逃げ場がない人ってインドだけでも数億人、世界全体では数十億人いるんですよね。(世界中の女性を考えれば少なくとも40億人)

    さてこの本は私のような「インド?はて」という無知of無知が読むにはもってこい。
    データと問題提起が下世話(現実的ともいう)という濃い味付けになってる。

    全体は5章。

    第1章はカースト違いの男女に起きた名誉殺人とアフターピルについて。解説では日本の教科書で習う単純なカーストとそれ以外のカーストを簡潔に説明してくれている。本来の内容から離れてしまうが、バラモンについて「神聖なものというより、穢れがより少ないもの、脆弱である」とある。
    思い出したのは明治〜昭和初期皇室の「清」と「次」
    天皇皇后は神であり神聖な存在であったものの、「清」と「次」、つまり穢れに対する神経は過敏を超えて少し病的なほど。今まで「へー大変」と思ってたけどよく考えたら天皇が神聖なら見るもの触るもの全て神聖になりそうなもんだけど、ほんの少しの穢れや本人にコントロール出来ないもの(例えば生理)ですら穢れと忌み嫌うって神聖というよりは穢れが少ないだけ、脆弱な神聖ともいえるんかなぁと。天皇だけじゃなく日本の神もそうかな。古くはファラオとかもそうかな。欧州の王侯貴族はそういうのあんまなさそう。あるんかな。
    ありゃ全然関係ない話になったけど。
    名誉殺人およびアフターピルはシンプルに暗い気分になる。解説最後の各カースト人口割合が90年間公表されてないこと、90年前ダリトが16.6%(2億人)もいたことなどを読むと、インドが経済大国になることはあっても、貧富格差は中国以上なのかも。

    第2章はお手伝いさんの住む公営住宅から始まる。洗濯屋カースト、そのカーストを美化し由緒を創作し出す。様々な支援が出来てくると逆に後進であることを売り文句にするなど、どの時代どの地域でも人間は大体同じことをする。
    時計やスーパーの値段すら読めない文盲、「夕焼けという文字を習って初めてその美しさを知った」文字のある世界文字のない世界。

    第3章は地元の頭グルについて。
    グルが裁く事案のひとつとして重婚の例が挙げられている。出産のため実家に戻る、夫から連絡途絶える、グルに相談、2番目の妻を正式に(持参金付き)迎えた後、妻という身分のまま離婚なしに金銭解決を探る みたいな。
    常々「結婚とか土地とかマンションとか、自分でこれは俺のもんだーとか声を張り上げなきゃいけないようなもんは自分のものなんかじゃないよねぇ」とは思ってたけどさすがインド。皆結婚制度は重視するもののよりライトな運用。日本人の結婚感を壁とするなら、インド人はビニール紐とかだろうか。
    精力的に活動するグル、血縁関係利用や相互依存がなくてはたちまち露頭に迷うインド社会で世俗的な繋がりを断ち切ったグル、つまり社会的に死んでるからこそ平等も大多数への利益も考えうるのだと。まぁ分かる。でも人間だから。金か異性か、どっちかがそこに溜まってるはずではと読み進めると最後の最後にグルの大理石の豪邸や新型iPhoneに言及。しかし「1人が使う金額なんてしれてるだろ」と地元有力者。
    人間だからどこも同じはず。ただロシアやフィリピンはデフォルメして見えるだけならば、インドもそうかも。インドを「極めて人間的」とハマる人達は自身の「人間的部分」(言葉こそ人間というものの、ここでは生き物として動物としての自由奔放さ、ききすぎる融通)が増幅、もしくは拡大されたように展開する喜劇を楽しんでるのかな。
    程度の差こそあれ大映ドラマや韓流ドラマを楽しむのと一緒か。
    解説には「消えた女性」主に中国とインド。

    第4章はダリト(不可触民)の民間神話から始まる。触れてはいけない人達は見て触って愉しむ人達。数千年の虐げられた生活で精神は壊れてしまっている。既得権益への執着、仲間への嘲笑。
    ダリトを他の民族や特定地域出身者、性的マイノリティに置きかえても理解出来る。
    ここでもインドの人達の人間らしさ(些細なルールすら合致しない複雑な社会)が全ページから滴り落ちる。床にシミ。
    そう。この本は「残酷残忍なインドという国でレジリエンス(たくましさ)というか、インピューデンス(ふてぶてしさ)を持つ人達、それがどこからくるのかをインドの悪口にならないようにインド社会を説明解明していこうっていう本だから、これでいいのね。うん。
    でも僕の読書力レベルだと手段のために書かれたインド社会や登場人物が喉にひっかかりすぎて、もう水も飲めないほど腫れている。
    私は日本以外で生まれたなら成人前に道端で冷たくなって転がってるだろう。

    第5章は運転手を軸にインドの「裁判文化」や「コネ」「汚職」などを語る。
    中でも科学技術社会論研究者の「腐敗汚職の必要性」引用がおもろい。
    曰く、白黒ではなくグレーでしかない世界を渡り歩く知恵のようなもんだと。
    16個ほどの「インドの腐敗汚職を理解するためのポイント」も引用されてる。
    全ては交渉可能で障害は乗り越えるためにある(賄賂のチャンス)でYESともNOとも言ってはならず(その中間に好機があるため)透明性など幻想で個人財産への攻撃と腐敗の擁護があり延期は金を生み権力は必要なく(権力を持つ誰かを知っていればいい)大臣ができることは秘書でもできて(秘書の方が上手い)迷宮は天国であり賄賂は払わない(誰かを知っていればいい)腐敗は財産に関するルールではなく財産としてのルールだ と。

    読み終えて。

    私は日本で所謂奴隷身分(労働者身分、一般人、働くことが当たり前)なのだが、ここで言われるような「クリームレイヤー」だったのかも知れない。私のような何の取り柄もなく身体も精神も強くない人間がなんとか中年まで生きながらえたのはこのぬるま湯のよう誰でも平等、誰でも生きていける優しい優しいお母さんの胸元のような日本のおかげなのだなぁ。実際日本で生きていくのって簡単だものね。特に男は。
    インド、フィリピン、メキシコ、中国。。たとえアメリカであっても私は生きていけないだろう。
    私が一生手にすることのないレジリエンス。
    感じることが出来ました。

  • インドに関する知識は、新興国、にわか投資家には、その括り。
    そして、九九のように二桁掛け算ができるIT国家ということ、そしてカレーとヒンドゥーと、わずがな知識だけ。
    学生だった頃、インドについて学んだ頃よりは、きっとインドの一番嫌だなと思った部分、つまり身分差別とか、変わってるのかと思ったら、実はそんなに変わってなかったという話。
    どこの国も同じなのかと残念な気持ちになったけど、インドは日本と違って、一般庶民の分母が桁違いだから、日本と比べるとなぜかこの本読んでも期待してしまう。

  • 先日インド映画を鑑賞したので、その後味のまま読んでみた。家族、地域の繋がりの強さは、政府が色々と力不足だから。カースト同士の結びつき、関係性、宗教や食生活なども複雑で入り組んでいる。菜食主義は宗教的な意味合いが強いのかと思ったら、「上位カーストは不浄に対して脆弱なため、不浄を取り込まないように菜食をする」という理由からというのが意外だった。

  • 未だ存在するカースト制度の影響を受けて生活困窮する人たちの実像を追ったルポルタージュ。さまざまなカーストの位置にいる人の生の言葉は日本に暮らす我々には想像をできない。すでに格差がある中で生まれ、より一層広がる格差の中、何を希望に生きていくのかと思うと胸が苦しくなる。

  • 昨今のインドの発展は目覚ましく、アメリカなどの高度な教育機関においても教授たる層にはインド勢が増えていると聞きます。一方で、臭いものには蓋精神でもはや見ないものとされているような人々の姿を本書で知ることができました。差別意識を含んだ神話を祀るお祭りがいまだに続いていたり、このタイトルにおける「残酷さ」というのはインドにおける「格差社会」を指しているように思います。女性へのレイプが多い国だとは聞いていましたが、貧困を前にして重婚もok。ダリトへの差別・それを排除しようと立ち上がれないほどに怒りの心理を麻痺するまでに破壊された人々など。知らない側面も多くありました。恥や世間体を優先として罪が行われる心理や、勉強する時間もないほどに労働漬けだったり。生まれで幸せの度合いが決まってしまうことは酷く苦しいものですね。

  • ワイドショーばりの惹句「残酷物語」と銘打ってはいるものの、内容はカースト研究者による南部地方におけるフィールド・ノート(観察記録)であり、(著者言うところの)私的な考察をまとめたものである。インドの中では比較的温暖な天候に恵まれたカルナータカ州に限定した調査活動であるところがやや懸念されるものの、国外からは窺い知ることが到底できないダリト(最下層貧民)を取り巻く状況をいろいろな角度からルポすることで近年のインド社会の情勢の変遷を知らしめている。

  • 衝撃的な事件から始まり、惹きつけられました。
    旅行ではわからないインドについて、詳しく書かれてあり勉強になりました。
    ・カースト制度がきれいに分かれているわけではなく、入り組んでいて複雑なこと
    ・自分たちで今の地位を上げるため地位を作り上げてしまうこと
    ・ダリト同士もいりこ式で分かれており、劣悪な環境で心身ともに傷を負っていて、手を取り合って協力しようとはならないこと
    ・識字率の低さ、それは人としての尊厳も奪ってしまうこと
    ・親族の絆が生きていく術となっているインドで、カーストを簡単に排除できないこと

    ここから這い上がってくる人たちがいかに賢く勇敢であることか、日本で悩んでいることはちっぽけなことのように思えました。
    日本にいるIT企業で働くインドの人たちは、やはり上位カーストの人たちだったんだと分かりました。

  • インドに興味があり読んだ。
    カースト制から生まれる価値観の違いや思い込み、そこから自由になれない現実。たまにインドで起こる残酷なニュースに違和感を感じていたが、少し納得した。しかしこのことは、インドに限らず、日本をはじめどの国でもどの時代でも起こることだと思う。しかし、人間本来が持つ優しい部分があることを知ることは救いとなりました。

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