英米文学者と読む『約束のネバーランド』 (集英社新書)

  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087211313

作品紹介・あらすじ

あの鬼のモデルとなった人物は? 「約束」や「原初信仰」の謎を解く鍵は?
数々の名シーンを引用しつつ、文学研究者が徹底考察! ファン必読の一冊!!

累計発行部数2,100万部超を誇る大ヒット漫画『約束のネバーランド』。
その意表をつく展開や複雑な頭脳戦といった要素から、「少年ジャンプらしくない」と評されることもある同作ですが、その物語の背景には、多彩な文学作品や宗教に関する膨大な知識が踏まえられていることが窺えます。
本書は、そんな大人気作品「約束のネバーランド」を、気鋭の英米文学者が学術の立場から読み解こうと試みた考察本にして、英米文学・文化への最良の入門書です。
同作の名場面を豊富に引用しながら、数々の謎の核心に迫っていく、ファン必読の一冊と言えるでしょう。

なお、本書はあくまで「週刊少年ジャンプ」編集部から許可をいただいた上で、『約束のネバーランド』を作中の手がかりをもとに、英米文学者の視点から読んだ、いわば第三者目線での考察本です。
よって、原作者の白井カイウ先生や出水ぽすか先生の真意を紹介した「公式解説本」とは性格が異なります。
加えて、原作の終盤にかけての「読み解き」を含むゆえに、ネタバレを多く行っているので、あらかじめご注意ください。


【本書の主な内容】
・『約束のネバーランド』というタイトルの真の意味とは
・謎を解く手掛かりとなる、幾つかの英米文学作品
・レウウィス大公、バイヨン卿……あの鬼たちのモデルは?
・ソンジュ達の宗教「原初信仰」とユダヤ・キリスト教
・階級、女王、狩り……鬼の社会と似た特徴を持つ国は?
・鬼の言葉とヘブライ語
・レウウィスのペットはなぜ猿なのか
・ジェンダーから見た『約束のネバーランド』という物語の新しさ ほか


【著者略歴】
戸田 慧(とだ けい)
1985年奈良県生まれ。広島女学院大学人文学部国際英語学科准教授。
関西学院大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門はアメリカ文学。
共著書は『アメリカン・ロード 光と影のネットワーク』(英宝社)、『ヘミングウェイと老い』(松籟社)、『アーネスト・ヘミングウェイ 21世紀から読む作家の地平』(臨川書店)など。

感想・レビュー・書評

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  • 『約束のネバーランド』

    1巻が話題になり始めた頃から読み始め「これは面白いわ」と追いかけ続けて、次巻でいよいよ最終巻。

    序盤の閉じられた世界のサスペンス的展開から、開かれつつも閉じられた世界に対するアクションファンタジーとジャンルを横断する。

    そうした物語の展開はもちろん面白いのだけど、人間と異なる文化を持つ〈鬼〉を始めとした世界観の広がり。そしてエマを始めとした子どもたちの優しさと強さに、胸熱くしながら読み進めていきました。

    そんな『約束のネバーランド』(略すると『約ネバ』)の物語や設定、文化の考察本なのですが、がっつり展開を割りつつ、そして気づかなかった細かい場面にも注釈や解説が入れられていて面白かったです。

    著者の「仕事だから書いている」感じではなく「好きだから書いている」という感じが伝わってくるのが良い。

    大まかなテーマは三つ。作中の世界観と似ているイギリスの文化・文学との繋がり。作中の宗教観。そしてジェンダー的視点。

    イギリス文学との繋がりにおいては『ピーター・パン』との繋がりの話が面白かった。

    物語の展開から「ネバーランド」に込められた皮肉な意味は何となく気づくのだけど、鍵を握る登場人物たちの名前が『ピーター・パン』の登場人物の名前と繋がり、
    そこにまた隠された意味があると考察されていて、読んでいて「へー」と思わず声が漏れそうになりました。

    鬼の貴族たちの話も面白かった。作中に出てくる鬼の貴族バイヨン卿のモデルになったのではないか、ということでバイロン卿という実在の詩人が紹介されます。そのバイロン卿の友人の恋人が『フランケンシュタイン』の著者メアリー・シュリー。

    そうした詩人や作家が集まった貴族のパーティーと、鬼たちの狂気の宴が重ね合わされるのも面白い。

    宗教観では作中の〈鬼〉の宗教観とユダヤ・キリスト教の類似性について語られます。

    イエス・キリストとムジカの対比は、実際に読んでいる時も感じるところがあって、興味深かったのだけど、鬼たちの独特の髪型に関する考察、そして遺跡に描かれていた絵画に対する考察といった細かいところが特に面白かった。

    特に遺跡の絵画については、そんなところ気にしたこともなかったので、「ここも拾うのか」と著者の戸田慧さんの『約ネバ』に対する本気度がうかがい知れます。

    そして鬼たちの世界の神というべき存在は、なぜ発音できない言語で呼ばれているのか。このあたりの設定の考察も詳細で読んでいて、裏設定好きの自分はワクワクさせられます。

    そしてジェンダー観について。『約ネバ』は「少年ジャンプ」という言わずと知れた少年誌の金字塔とも言うべきマンガ週刊誌で連載されました。
    そこで少年でも、男性でもなく少女のエマを中心として物語が展開されていくのが新しくて、展開と合わせて良い意味で「ジャンプっぽさ」が抜けた作品だと思っていました。

    少女が少年誌で活躍する意味。それを物語の要請、そして時代の要請と戸田慧さんは考察します。

    アニメなどにおける女の子の活躍や描かれ方の変化というものは、少し前からサブカルの考察でも言われ始めていたと思うのだけど、
    その辺を抑えつつ、女性観・そして男性観の議論を『約ネバ』の物語展開、キャラクターたちの個性や性格に落とし込んでいて、これも面白かった。

    後、印象的だったのはコラムの『約ネバ』とカズオ・イシグロの作品『わたしを離さないで』との類似点の指摘。

    読んでいる時はこの二つを同時に思い浮かべることはなかったのだけど、こうして言われてみると確かに作品のモチーフとして、似ているいるところがあるかも。

    そして、似ているモチーフでも、二つの作品の登場人物たちの選択や行動というものはまったく違っていて、改めて物語の面白さというものを感じました。

    本の中で触れられている宗教観やジェンダー観は、そこまで目新しいものでもないと思うのだけど、それをストーリーと結びつけ『約ネバ』の物語論を作り上げていく過程は、本当に良くできていたと思います。
    物語分析とかに興味のある人なんかは、お手本としても使えそう。

    最終巻前に改めて『約ネバ』の世界観を堪能できました。改めてマンガを全巻読み返したくなるような、そんな『約ネバ』愛と知識に溢れた考察本でした。

  • 面白かった!約ネバ好きな人にはもれなくオススメ!

  • 【請求記号:726 ト】

  • 南山大学 所蔵なし
    愛知大学 豊橋図書館 所蔵あり

    週間少年ジャンプの人気漫画『約束のネバーランド』の数々の名シーンを引用しつつ、気鋭の英米文学者が学術の立場から読み解こうと試みた考察本にして、英米文学・文化への最良の入門書。

  • ー このように、貴族鬼達の倒錯した欲望の対象となる食用児達の状況は、まるで「母親」によって管」理され、不自由だが安全に守られた家庭で暮らしていた無垢な子供が、やがて大人へと成長するため「外」の世界へと飛び出し、その結果、「男」達による暴力や欲望の対象となり、翻弄されるという、子供から大人への成長の過程を象徴するかのようです。

    伝統的なジェンダーに沿った物語であれば、眠り姫は性との接触によって一時的な昏睡状態に陥り、やがて彼女をその眠りから覚ます王子と結婚し、女性 =母親という古典的な価値観に順応することで、大人へと成長します。
    もしも『約ネバ』が旧来のジェンダー観にもとづいて描かれていたならば、レウウィスによって傷つけられ意識を失ったエマは、男性キャラクターによって救われ、その男性と結ばれる、というお決まりの流れに落ち着いたかもしれません。

    しかし、エマは自らの力で意識を取り戻し、レウウィスを倒す決定打となる閃光弾を撃ちます。「女性=母親、弱者、守られるべき者」といった古典的なジェンダーをはねのけ、自らの力で男性の脅威に立ち向かい、仲間と共に打ち倒すエマの「強さ」は、その後の物語において、大きな意味を持ち始めます。 ー

    『約束のネバーランド』の真面目な考察本。
    ファンガイドではなく新書で出てるので購入。
    イギリス文学、宗教、ジェンダーの切り口で、まったく予想外の考察は無かったけれど、十分に必要な情報を与えてくれるので良かった。

    自分たちの閉ざされた“世界”の外にも『世界』があり、この『世界』は閉ざされた“世界”の価値観を否定する。外の世界にも、その世界なりの価値観があり、宗教があり、歴史がある。『鬼』という敵と『人間』という敵を前にして、テーマは必然的に差別と憎しみと争いになり、それは究極的にはホロコーストの問題に辿り着く。最後はどこに終着するのか、というのが究極的なテーマとなる。
    食用児は生まれた最初から”供物”となることが運命付けられており、彼らのその“犠牲”の上に“約束”が成り立っている。この“約束”を破る”代償”には新たな“犠牲”が必要となり、それは当然、敵側の”絶滅”に辿り着く。そうではない方法があるのか、またそうだとしたらその“代償”は何か。この辺の考え方で本作の評価が分かれるかと思われる。“甘い”と捉えるか、受け入れられるか…。また、鬼が人間の写し鏡のような存在、だとするならば、物語後の鬼側の世界が非常に心配だ…。

    恐怖から守られた壁の内と外の世界、鬼と巨人、歴史、本当の敵は人間、どちらかの世界が滅びるしかないという世界観、その先の希望と絶望、という点で、『進撃の巨人』と通ずるものがある。
    ”世界”を変えるためには、『世界』は犠牲を強いる。その犠牲の量的な多さと、質的な深さにおいて、両作は全く異なるが、最終的な希望と絶望においては、まったく同じものを描いているような気がする。
    この“犠牲”を考える時、“歴史”と“記憶”の重要性が鍵になる。あとは、“許し”と“癒し”なのだが、この最後の“歴史”、“記憶”、“許し”、“癒し”の解決策は、『約束のネバーランド』にも『進撃の巨人』にも記されてはいない気がする…。

  • 【約ネバ好きな高校生、大学生くらいにオススメ】

    英米文学と日本の漫画を比較分析するっていう視点がおもしろい。こういう視点から物事を捉えられる力って、今も昔もすごく貴重であることは間違いない。
    学生時代に、こういう視点に触れておくことはいい経験になるだろう。

  • めちゃくちゃ面白い「約束のネバーランド」という漫画を、英米文学者の視点から見ると、更に深く読めるよという本。

    ・イギリス児童文学の「ピーターパン」や「不思議の国のアリス」との類似点
    ・ユダヤ教やキリスト教との共通点
    ・ジェンダーの考え方
    等々、次「約束のネバーランド」を読む時に向けて、面白く読める視点を手に入れれた感覚。

    また、違う文脈になるけど、カズオ・イシグロさんの「わたしを離さないで」が「約束のネバーランド」のインスピレーションになっているかもとのこと。
    積読状態なのでタイミングを見て読んでみたい。

  • 一読しただけでは気づかないような視点が多くて、非常に面白かったです。
    深く読み解いていくとこんなにも興味深い世界が広がっているのですね。
    原作をもう一度1巻から読み直したくなりました。

  • 1イギリス文学・文化とのつながり
    ピーターパン
    アリス
    19Cロマン派作家。バイヨンバイロン
    指環物語 エルフ
    鬼社会とイギリス社会~階級、キツネ狩り、女王


    2原初信仰とユダヤ・キリスト教
    ユダヤ教~原初信仰とソンジュ
    キリストの奇跡~ムジカ
    モーセと約束の地 ~エマ


    3ジェンダー
    女らしさの神話と男の世界
    ジェンダーからの解放
    男らしさの神話

  • もう一度漫画全巻読みたくなった!

    特に首の数字、キャラクターの服装、それぞれの考え方について、もう一度深く読んでみたい

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