水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと (集英社新書)
- 集英社 (2020年3月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087211139
作品紹介・あらすじ
水道民営化とは、地域窮乏化政策だ!
欧州の水道再公営化運動が生んだ、新たな民主主義から学び、日本の水道を、グローバル資本から守る。
1980年代以降、民営化路線を歩んできた欧州の水道事業。
しかし杜撰な管理や財務の問題にスポットがあたり、再び、水道を公営化に戻そうという大きな流れが市民運動を起点に巻き起こっている。
昨今、注目されている欧州の左派ポピュリズムのうねりの中核は、実は「水道の再公営化」を求める権利運動だったのだ。
水は、人々の共有財・公共財である。
資本が利潤をあげるための対象として水を扱えば、たちまちその地域は窮乏化していく。
民営化で疲弊した欧州の人々の怒りが地方自治体を動かし、「ミュニシパリズム」や「フィアレス・シティ(恐れぬ自治体)」など、新しい民主主義の形を作り出しているのだ。
その成果である、水道事業の再公営化はなんと178件。
水を再び自分たちのものへと取り戻す欧州の運動から日本が学び、各自治体において民営化をストップさせるにはどうすればいいのか。
日本人でありながら、欧州・民主主義の最前線に立つ著者が、日本再生のためのカギを明かす。
【目次】
1章 水道民営化という日本の危機
2章 水メジャーの本拠地・パリの水道再公営化
3章 資本に対抗するための「公公連携」
4章 新自由主義国・イギリスの大転換
5章 再公営化の起爆剤は市民運動
6章 水から生まれた地域政党「バルセロナ・イン・コモン」
7章 ミュニシパリズムと「恐れぬ自治体」
8章 日本の地殻変動
【著者略歴】
岸本 聡子(きしもと さとこ)
1974年、東京都生まれ。シンクタンク研究員。アムステルダムを本拠地とする、政策シンクタンクNGO「トランスナショナル研究所」に二〇〇三年より所属。
新自由主義や市場原理主義に対抗する公共政策、水道政策のリサーチおよび世界中の市民運動と自治体をつなぐコーディネイトを行う。共著に『安易な民営化のつけはどこに』など。
感想・レビュー・書評
-
水道、再び公営化!
ヨーロッパでの動きをもとに、水道事業の民営化に対して一石を投じる本書。
フランス、イギリスが水道を民営化された状態からいかにして公営化に至ったかが記載されている。また、水や住居などの<コモン>を民間企業に任せることの危険性を論じている。論点としては、一つは水貧困の問題である。水貧困とは、家計支出のうちの水道料金の割合が一定以上の世帯を指すが、水道料金という固定費を民営化=企業の収益状況により値上げが起こるものとしてしまうと、貧困層の生活が苦しくなるというものである。実際に、民営化直後に水道料金を4倍に引き上げる企業も存在し、その結果、貧困層はトイレを毎回流さないなどの対応で水道料金の支出を減らすということを余儀なくされているが、そのような対応が人権を棄損するものではないかという論調のもと、市民団体が再公営化の運動を始めた経緯などが記載されている。また、単純に民営化の方が高くかかるということも述べられている。水メジャーは地方公共団体とコンセッション契約というものを結ぶ。このコンセッション契約は、地方公共団体がお金を民営業者に支払って水道事業を委託するものであるが、その委託料金には、水道事業を行うにあたり民営業者が資金調達する際の金利や民営業者の役員報酬などが過大に支払われていると糾弾されている。資金調達する際の金利は、市民の税金によって賄われており、全体として公営化した方が安い場合は、何のメリットもない。さらに、民営化によって危機対応時のリスク管理も切り詰められる傾向にあり、倒産リスクのある一民間企業が水道事業でリスク管理をおざなりにした場合、割を食うのは市民である。
上記の対応として、ヨーロッパではミュニシパリズムという新たなムーブメントが起きている。地方都市などと市民団体などが連携し、民営化されたコモンを再公営化することや、地産地消を標榜する動きである。規模の経済を理由に民営化された事業の収益は結局のところ国外の流出しており、現在、リスクだけが転嫁されている状況になっているコモンを扱う事業を、再び市民の手に取り戻すという考え方である。ミュニシパリズムは地域主義と混同されることがあるが、地方都市間での国際協調がある点で、地域主義とは異なる。ミュニシパリズムのベースとして、国家という枠組みを超えた多国籍企業による民営化に対抗するためには、地方都市や市民団体もまた、国家という枠組みを超えた連帯が必要であるという考え方がある。まさしく、マルクス・エンゲルスが共産党宣言で労働者の国際協調を訴えたように、地方もまた、国際協調を通じて多国籍企業に対抗すべきではないかというところがミュニシパリズムの現代性であろう。筆者は、国家が多国籍企業に対して利益誘導し、草の根の地方政治を蔑ろにしてきたツケを今払うことになっていると語る。実際、日本においてもトリクルダウン論法を下に、法人税減税や特区構想を行っているが、果たしてこの動きは富めるものがさらに富めるようになるわけではないのかという論点がある。そうした動きに対抗する手段として、ミュニシパリズムは新たなムーブメントとなっている。しかし、ここまでくるともはや国家という想像の共同体に何の意味があるのかとも思えてくる。現在、テロリズムやゲリラ戦によりWW2とは別の形で世界大戦が起こっていると話す政治学者もいる。これまでの政治の主役であった国民国家という概念の終わりの始まりを、そこに見ることができるかもしれない。 -
日本ではPFIの議論が盛んだが(実態はともかく)、本場欧州では、少なくとも上水道分野は再公営化の事例が増えてきている様子。民主主義の歴史を感じる。
-
新しい民主主義のお手本だ。そして杉並区でそれが始まった。ここから日本が変わっていく。期待をこめて。
-
齋藤幸平さんの「人新世の『資本論』」で紹介されていて、興味を持ち、読んでみた。まず、アムステルダムの「トランスナショナル研究所」なるシンクタンクの存在を知らなかった。エネルギー分野では、ドイツなどで、シュタットベルケの再公営化の動きがあることは知っていたが、水道などの分野でも同様のことが起こっているとは知らなかった。イギリスのバーニー・サンダース、米国のサンライズムーブメントなどは知っていたが、フランスやスペインなどでも同様の動きがあるとは。この辺りの情報が日本にいると伝わってこないので、しっかりとフォローしていく必要があると思った。
-
面白かった。希望はある。
コモンについてもっと学習したい。
ここから斎藤幸平の著作に入っていこう。 -
以前から「水道を民営化すると、サービスが低下し、料金が上がる」ということを言う人がいて、自分もなんとく「水道は民営化(コンセッション)しないほうがいい派だったのだが、一冊にまとまった本書を読んでその意を強くした。
本書に掲載されたパリほか、欧州の事例を読むと、一度民営化すると再公営化がいかに困難かもよくわかる。
契約上の違約金の問題もあるし、ノウハウの喪失という運営上のリスクが膨らむからだ。後者は、派遣社員任せにしたり、製造を海外に移管した普通の会社でも起こりがちな問題でもある。
空港施設のコンセッションは、どちらかというと肯定派だったのだが、関空の事故では民営化のリスクを露呈してしまった感もある。コロナ禍では、問題視され続けている公的病院が中心になって対応している。
それでも「公務員天国」は否定できない面もある。すべてを公務員の手にゆだねるのも、やはり問題だ。アイルランドのように一般財源化してしまうと、水道でモラルハザード(使いすぎ)が起きるだろう。
よく水道が、「公共料金の滞納で一番最後に止められる」と言われる(都市伝説?)。水が生きていくのに不可欠だからだろう。幸い日本は水資源が豊富だ。独自の優れた仕組みを構築できないだろうか? -
メモ
株主配当、役員報酬、そして納税。これだけでも株式会社による運営のコストが見える。また借り入れも公営だと低金利でできるものが高くつく。さらに企業は短期的な利益を上げ続けることを見据えるし契約期限もあるので、次世代・長期的な事業をしない傾向がある。
ミュニシパリズム……地域に根付いた自治的な合意形成を目指す地域主権的な立場、運動。地域主権主義に似るが、国際的な連携や協力を重視する国際主義に特徴がある。国を越えて連携する自治体運動やネットワークは「フェアレス・シティ」と呼ばれるようになった。
https://maga9.jp/190116-4/
https://maga9.jp/190116-4/