証言 沖縄スパイ戦史 (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (752ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087211115

感想・レビュー・書評

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  • 2018年、私は映画館で97作を鑑賞し、年末にベスト10を選んだ。その第一位に選んだのが、三上智恵・大矢英代共同監督ドキュメンタリー作品の『沖縄スパイ戦史』だった。陸軍中野学校出身の工作員が、沖縄北部で15-6才の少年を集めてゲリラ部隊をつくった。1人百人を殺した少年兵もいる。その他スパイリストが作られて、住民同士の監視が行われて殺し合いがなされたことも語られた。関係者が少なくなった現在になって、ようやく口を開き始めた人たちがいた。

    映画作品も大ショックだったが、本書もかなり貴重な証言があり、しかもいつでも参照できうるように記録されたことは重要である。日本人が日本人を殺す。この745頁にも渡る新書は、映画で語られた証言を補い、新たな証言者を加えている。ドキュメンタリーとこの新書、あい補い合うものだと思う。唯一の地上戦・沖縄で何が起きたのか、を知ることは、日本国民が「いまここにある危険」を知ることでもあるだろう。

    どう紹介していいのかわからない。要約などできない。沖縄南部まぶいの丘の沖縄戦争祈念館には、異例ともいえる「証言だけが展示された部屋」がある。戦後の国民は一家全滅や集団自決の証言を読んで「戦争がやってくると、こんなことになるのか」と知るはずだ。かつて私はそうだった。けれども、沖縄県民でさえ知らされていなかったもう一つの沖縄の悲劇が、ギリギリのところで、その証言が間に合った。

    三上智恵は「はじめに」で、「軍隊が来れば必ず情報機関が入り込み、住民を巻き込んだ「秘密戦」が始まる」と警笛を鳴らす。「2015年から与那国島・宮古島・石垣島などに新たな陸上自衛隊基地が作られる一連の流れの中で、あたかもこの黒いピースがあちこちでよみがえり、繋がりはじめているように感じている」とも書いた。なるほど!と思ったが、そのことを展開するのが、この本の仕事ではない。スパイ養成学校だった陸軍中野学校がつくった少年兵は、敗戦で中断されたけれども本土でも組織されていた。そのことの「意味」を、私たちは咀嚼しなくてはならない。圧倒的で膨大な事実の前に、私は消化不良を起こしながら、我慢して噛み締めた。

  • 生まれも育ちも沖縄県。戦争のことは幼い頃からTVや新聞、学校や図書館など、耳にし目にして来ました。当時の写真を見た時は子供ながらにショックが大きかった。夜になると当時の過酷な状況を想像し切なく悲しくなることも。

    内容に出てくる地域を知っている為 とても衝撃的でした。戦争体験者の方々の貴重な証言。辛い経験を話す事は大変だと思います。話すことによって影響を受ける人もいますし、小さな集落ではみんな知り合いなので本当に勇気のいる事だと思います。

    気丈な祖母から 一度だけ、少しですが戦争の話を聞いたことがあります。「捕虜になったら大変だと言われアメリカの兵隊が来たらみんな山に逃げた」と。

  • 島民の4人に1人が亡くなったと言う沖縄戦。その死者は全て米軍との戦いと、自発的な集団自決によるものだとばかり思ってた。

    しかしそうではなかった。それだけではなかった。沖縄戦の本当の闇はそこにある。苦しいけれど、知ることができて良かった。

  • 映画「沖縄スパイ戦史」は知らず、今さら沖縄戦でもと思いながら、新書としては異例の700ページを超す本書を手に取った。
    狭い島に日本軍、米軍、現地住人が入り交じったことで生まれた悲劇。日本軍による現地住民の虐殺は決して非情な一部の軍人の暴走によるものではなく、日本軍として方針・指導にもとずくものであったこと。いずれも驚きを持って読んだ。
    現地の人々の丹念な取材だけでも相当な労力だが、そこで終わらずに、なぜこのようなことがと問い続け、旧日本軍の資料まで渉猟したことで、立体的で深く考えさせられた。

  • 2020年4月読了。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/744466

  • ●は引用、その他は感想

    ●「今日只今の事に死力を尽くせ」これが隊員らが今日まで、すべて暗記するほどに徹底された村上隊長の訓示だった。死ぬ気でやれ、と言ってはいるが村上隊長は少年兵に繰り返し「絶対死ぬな」とも言っている。(中略)兵士の命など鴻毛より軽いと叩き込まれた当時の軍隊教育と、中野式の教育はこの点でかなり異なっていた。スパイも、生きて帰らなければ任務は達成できない。捕虜になっても敵情を視察して戻って来いというのが大前提であり、決して「死んで来い」という部隊ではなかった。しかし場面によっては戦車爆破隊など自爆も辞さないテロ作戦もあったのは事実である。
    ●辺野古問題。敵は陣地にしか撃たないから、僕は恩納岳にいたが、基地があるからアメリカがあっちこっちから攻撃した。その辺が一番頭にあるね。だから基地というものは作らせてはいけないなと。今でも(日本にある米軍施設の面積の)74%の基地が(沖縄に)あることわかってるわけだから。基地がある所のしか弾は来ないから。
    ●民間人が住む地域では住民を使っての遊撃戦をせよ、と中野学校のマニュアルは簡単にいうものの、作戦途上にある軍隊にとって敗残兵と住民は足かせでしかない。(中略)上陸地点にいる住民というのはこれを利用しなければ戦えないし、同時に邪魔されないように「始末のつく」状態にしなければならないという、全く矛盾した存在になってしまうことが理屈抜きで理解できるようになる。軍隊は住民を守らなかったという残酷な事実が沖縄戦最大の教訓であるが、住民を守るための作戦と、軍隊が勝つための作戦は全く一致しない。まずは勝たないことには住民を守れない、という大前提のもとに軍隊は動くものであるが、すでに戦場になった地域にいる住民は、これを守ることはほぼ不可能であり、作戦上にある兵士にそれを求めても殺生だ、ということでしかない。(中略)住民のいる地域で戦争をしたら住民は当然守れない。だから戦争をしていい場所は、少なくとも人が生活している土地のどこにもないということだ。→ロシア軍のウクライナ侵攻作戦
    ●もし半年でも終戦が遅れてこの教令のもとに「本土決戦」が始まっていたら、敵の攻撃による被害とは別に地域社会の中に不逞分子の処置が横行し、しかも軍人すら介入しない処刑も起きうる状況にあった。沖縄戦以上の悲劇が各地で起きていたことは明らかである。
    ●戦争になれば、兵隊と兵器をどう動かして勝つのかが優先であって、住民も労働力や兵器にしか見えたこないのが軍人だということ。玉砕する場所で住民を救うという発想は出てこないこと。戦争に勝つという大義の中で、個々の戦場に残された住民などは始末の対象でしかないこと。つまり、軍中枢部がその方針なのに、現場で「私たちを守ってくれないのですか?」と問われても現地部隊に何もできなかったのも道理だ。「国を守る」ことと「そこに住む人を守る」ことは決して同義語ではないということを私たちは肝に銘じておかなくてはならない。この軍隊の発想を私たちの側が理解しない限り、軍隊は私たちを守ってくれるという都合のいい解釈で軍事費増大を許し、軍事政権に力を吹き込んで、自らの手で悲劇を引き寄せていく愚かな民に逆戻りしてしまうからだ。
    ●つまり専守防衛の自衛隊はそもそも国土戦を想定せざるを得ず、その場合敵を内陸に引き込んで戦うわけだから国民の自発的な協力は不可欠であると捉えていて、沖縄戦のような状況が再び実現する纐纈さんは言っているのだ。自衛隊が国土戦に備えるなら、当然過去に国内で実践された遊撃戦とそんも時の住民の動向が最大の参考事例になる。ということであれば、なおさら私たちはこの本でつぶさに見てきたような沖縄戦の中のゲリラ戦と、その時に住民の置かれた状況をよく理解しておく必要がある。自衛隊が国民に自発的に協力してもらうためには、平時から構造的にも国民を統制しやすい体制を作っておくことが肝要である。そして軍事作戦に協力させる一方で、軍事機密を漏らされては困るので軍の機密を守る法整備を完了させておく必要がある。これは、まさに今、日本で進行中のことではないか。国民を「始末のつく」状態にしておくことこそ、戦争に勝てる国の必須条件だという考えが戦前から一貫して変わっていないことは、歴史的証拠を積み上げて論理的に理解しておくべきだろう。なんとなく戦前のような空気になってきた、という言葉をよく聞くようになったが、国の管理が進み、表現が不自由になり、軍機保護法の再来である特定秘密保護法が報道や市民活動を規制し、共謀罪(テロ等準備罪)が監視社会を作る。私たちは始末の悪い国民から、今まさに始末のつく状態に変えられつつある。もはや戦争をするまであと一歩なのだ

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/744466

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著者プロフィール

ジャーナリスト、映画監督。元琉球朝日放送(QAB)アナウンサー。毎日放送をへて95年のQAB開局からキャスターを務める。2012年の監督作品「標的の村」が反響を呼び、劇場映画として公開。キネマ旬報文化映画部門1位、高円寺ドキュメンタリーフェスティバル大賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞など17の賞を獲得。2014年にQABを退職、新作「戦場ぬ止み」を今年7月に公開予定。

「2015年 『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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