- Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087210729
作品紹介・あらすじ
大人気作品「ゴールデンカムイ」のアイヌ語監修者による、唯一の公式解説本が誕生!
野田サトル先生の描き下ろし漫画も収録!!
2018年に手塚治虫文化賞で大賞を受賞し、アニメ化も果たした「ゴールデンカムイ」。
同作をきっかけにアイヌ文化への興味を抱いたという方も少なくないはずだ。
本書はそんな人気作品のアイヌ語監修者が、漫画の名場面をふんだんに引用しながら解説を行った、アイヌ文化への最高の入門書である。
「アシリパたちの名前はどのように決まったのか」「話題の『オソマ』と『チタタプ』にまつわる裏話とは?」
「ヒンナの正確な意味と、本来の使い方」など、原作ファンならば漫画が100倍面白くなる知識満載!
もちろん、「ゴールデンカムイ」を知らない方にも楽しめるように書かれた新書となっている。
原作者・野田サトル先生によるオリジナル描き下ろし漫画も掲載!
【本書の主な内容】
・「カムイ」とはそもそも何なのか?
・世にも恐ろしい魔物たちの伝説
・家庭で作れるアイヌ料理
・アイヌは子どもの名前をどのように決めるのか
・『ドラゴンボール』そっくり!? アイヌの英雄物語「ユカラ」徹底解説
・超特急! アイヌ語入門
・「ゴールデンカムイ」 あの名シーンの背景
・アイヌ語監修の仕事と創作の裏話 ほか
【目次】
序章 アイヌ文化に人々を惹きつける「ゴールデンカムイ」の魅力
第一章 カムイとアイヌ
第二章 アイヌの先祖はどこから来たか?
第三章 言葉は力
コラム1 小樽から見た「ゴールデンカムイ」 (寄稿:石川直章・小樽市総合博物館館長)
第四章 物語は知恵と歴史の宝箱
第五章 信仰と伝説の世界
野田サトル先生描き下ろし オリジナル漫画
第六章 「ゴールデンカムイ」のグルメワールド
コラム2 黄金の民・アイヌ (寄稿:瀬川拓郎・札幌大学教授)
第七章 「ゴールデンカムイ」名シーンの背景
第八章 アシリパたちの言葉 アイヌ語とは
終章 アイヌ語監修というのは何をやっているのか?
「ゴールデンカムイ」をより楽しむためのブックガイド
【著者略歴】
中川裕(なかがわひろし)
1955年神奈川県生まれ。千葉大学文学部教授。東京大学大学院人文科学研究科言語学修士課程修了。
1995年、『アイヌ語千歳方言辞典』(草風館)を中心としたアイヌ語・アイヌ文化の研究により金田一京助博士記念賞を受賞。
野田サトル氏による漫画「ゴールデンカムイ」では連載開始時からアイヌ語監修を務める。
著書は『アイヌの物語世界』(平凡社ライブラリー)、『語り合うことばの力』(岩波書店)など多数。
感想・レビュー・書評
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パラパラとめくると、人気漫画「ゴールデンカムイ」のカットが豊富に採用されているので、簡単に読み終えることができるだろう、と軽く考えて買うと、何の、なんと2カ月もかかってしまった。予想以上に、アイヌの世界を本格的に論じた入門書だったからである。更に言えば、アイヌを縄文人と同等視するのは厳に戒めねばならないとしても、古代史に興味ある者としては、アイヌの世界観に古代の世界観が生き生きと息づいていることを認めざるを得ないからである。そこがとても驚きで、読むのに時間がかかった。また、「ゴールデンカムイ」が思った以上に、厳密に学問的根拠を元に作画・構想されていたことにも驚いた。
以下興味深かった所。
・この世の中で、何らかの活動をしていると考えられ、人間に出来ないようなことをするもの、人間のために何らかの役に立ってくれているものを、特にカムイと認めている。人間とカムイ(=環境、自然ではない)は、お互いがお互いを必要とするパートナー。だから、カムイが悪いことをしたら、人間がバチをあてることもできる。
・力の強いウエンカムイ(悪いカムイ)を退治するため、肉を細かく刻んで撒き散らし、その肉がじわじわ寄り集まって元のクマの形に戻らないように、火のカムイの垢とされる霊力のある囲炉裏の灰をかけたり、ゴミと一緒に燃やしたりする。更に「地下の冥府」に落とすために「普通の男」がカムイたちに祈る。誰でもできるのは、言葉というのは、それだけの重みを持つから。
・アイヌの男に求められる資質は3つ。「雄弁」「度胸」「美貌」。
・アイヌは人間が自分の意志だけで行動しているのではないことをよく知っている。言うつもりでないことをつい言ってしまったり。現代で言えば、「意識下」があるわけだが、アイヌは「憑神」がついていると説明する。
・普通のカムイは目に見えないが、夢の中でカムイたちは人間の姿で出てくる。普段聞く鳥や獣の鳴き声や木々のざわめきは、理解できないが、夢の中では、ちゃんと理解できる言葉で話しかけてくる。
・アイヌ文化と縄文文化は繋がりはある(7世紀まで続縄文文化)。しかし、その間に擦文時代があり、オホーツク文化もある。アイヌは土器の製作をやめている。アイヌの世界観は、カムイとの物々交換、つまり交易という考えを前提としている。これは、和人や近隣諸民族との交易が盛んになって完成されていった考えだろうと思われる。縄文人の世界観とはかなり違うはずだ。
・アシリパ(リは小文字)は、「新年」という意味だが「未来」とも解釈できる。
・争いは言葉で解決する。体力が尽きてもう弁論することができなくなったら負け。決着がつかなくなれば、ストゥ(制裁棒)を使ってお互い殴り参ったというまでやる。物語には、それでもトパットゥミ(忍び+戦争)という、一切言葉を交わさない恐ろしく悲惨な戦いが描かれる。これを起こさないために、争いを解決する方法が作られてきたのだろう。
・ウエペケレ(昔話)とカムイユカラ(歌話)がある。様々な教訓や学びがある。
・「ドラゴンボール」とユカラ(英雄詞曲・英雄叙事詩)は似ている。例えば、みんな空を飛べる。
・カムイは自分の力ではカムイの世界に戻れない。人間の手で解放する。それが狩猟。あの世の入り口は、人の住んでいる所の案外近くにあり、基本的に洞窟になっていて、死者の魂はそこを通って向こう側に出て、そこでこの世と同じように、狩をしたり山菜を採ったりしていると考えられている(この辺りは映画「洗骨」の世界観と同じだ)。道具も傷をつけて、あの世に返す。
・祖先供養では、供物を捧げる時に割ったり切ったり、火をつけたりして、肉体から解放して捧げる。そのあとに肉体を人間が食べる。これは神と人間の「共食」である。酒とかの供物を捧げる時には、必ず捧げる相手の名前と自分の名前を言う。宅配便みたいなもの。あの世は、遠くにあるのではなく、ちょっと離れた実家ぐらいの感覚ではなかったか(この辺りは柳田民俗学と類似している)。
・アイヌの弓は、弓ほどにはしなりを作らず、イチイ(アイヌ語でクネニ)の枝をサクラの樹皮を巻きつけて強化して、グッと曲げただけ。矢じりに刻んだ溝にトリカブトなどの毒を塗りこんで強化する。「クマなら10歩歩けるが、お前なら一歩も歩けずに死ぬ」。毒は各自秘密の成分を加えて、毒の調合を図る。もちろん、至近戦用。
・日露戦争前後のアイヌの人口は、約1万8000人。ほとんどのアイヌはアイヌ語を話せた。現在は、「北海道アイヌ生活実態調査(2017)」によると、1万3000人。しかし、日常的に自由にアイヌ語で会話できる人はいない。しかし、学ぼうと言う力が働けば、消滅危機の言語でも取り戻すことができる。ハワイ語がそのとても良い例。
2019年5月18日読了詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
映画を観て、アイヌ文化を知りたくなったので手に取りました。漫画の簡単な解説本かと思ったら、思った以上に本格的な内容で、アイヌ文化の学術的入門書でした。
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ゴールデンカムイの映画を観て、アイヌ文化に興味を持ち読んでみた本。
表紙に惹かれた〜笑
内容もすごく読みやすく、アイヌ文化の基本を理解することができた。
漫画やアニメなどをきっかけに、知らなかったことを学ぶのも一つの手段だなと感じた。 -
本書は2019年に登場している。「好評連載中」であった漫画『ゴールデンカムイ』を踏まえ、アイヌ文化に纏わる話題を提起し、作中の関係の描写等を少し出して少し踏み込んで話題を展開する訳である。その手法が面白い。
正直、自身は漫画『ゴールデンカムイ』を読んではいない。最近公開の実写映画を大変に愉しく観た。そこで作中の時代や、出て来る様々な文物に興味が湧いて、新たに『ゴールデンカムイ』に題材を求めたアイヌ文化等の話題の本が出ると知った時、「同じ著者による“前著”」を押さえようとした訳だ。そういう思い付きで、こちらも読んでみて正解であったと思う。漫画に通暁していなくても十二分に愉しい。
本書は、アイヌの言う「カムイ」という概念に関して詳しく、非常に勉強になった。
アイヌは自然と共生することを意図していたとされるが、必ずしもそれに留まらないということが本書で説かれている。アイヌは身近な様々なモノに魂のようなモノが在って、それらと共に在ることを意図していたようだ。偉大な自然に留まらず、家屋や、家の中等で使う様々な道具や、その他様々なモノに魂が在って、その存在を時に意図する訳である。
そしてアイヌは、自給自足ということに留まらず、酔いすることが可能なモノを多く用意して、それを利用した交易を行うことを旨とするような生き方をしようとしていたという。
或いは厳しい自然の中で生きることを代々受け継いだアイヌは、「自ずと合理的な考え方を持ち、それを実践しようとしていた」というようにも見える。
なかなかに興味深いので御薦めしたい一冊だ。 -
この本読みたさに「ゴールデンカムイ」も読みましたよ。
「ゴールデンカムイ」は、アイヌやアイヌ文化にしっかり敬意を払い、できるだけ考証的事実に則して冒険活劇を作り上げている。多くの人が、アイヌ文化に目を向ける機会にもなっていて評価が高いマンガ作品である。
この本の著者・中川裕氏はその作品でアイヌ語監修を務める。もともとアイヌ学の泰斗だが、豊富な場面例とともに、その意図や背景を順に解題する。
お話にない部分も含めて、アイヌの歴史や習俗、方言の取り扱い(著者が習ったフチのエピソードとか)などへ話題が拡がって大変面白い。
マンガ(電子書籍)を読んでいても気がつかなかったアシ(リ)パの服とか、なにげに身につけているキロランケの耳輪の話など、作中で特に説明されていないものもいかに深くうまく描かれているかがわかる。今後マンガを読み返した時に、かなりニヤニヤできそうである。
一方で、お話が独り歩きを始める面も指摘する。「ヒンナ」という言葉の意味とか、杖で滑雪するなどマンガならではのシーンなどについては、やや心配されている。
いかに事実を誠実に汲みとっているとはいえ、基本は物語。この作品ですべての知識を得る人もいるだろうし、かと言って厳密過ぎてはお話にならない。影響が大きくなっているだけに、そのへんのさじ加減は難しいだろう。「監修」のご苦労が偲ばれる部分である。
ところで、手塚治虫の「シュマリ」という作品の話も出て来る。あれが描かれた当時は「いろいろ複雑な問題をはらんでいるから」として、主人公を和人にせざるを得ないなど思うようには描けなかったと手塚氏が語っていたけれども、今はこうして大らかな作品が世に出るようになった。隔世の感を新たにした。
野田サトル氏(「ゴールデンカムイ」の著者)書き下ろしの挿話、石川直章氏(小樽総合博物館長)による、お話の舞台が小樽であることや、瀬川拓郎氏(「アイヌ学入門」の著者)による、アイヌと砂金についてなどの寄稿も素晴らしい。 -
10年以上前にシャーマンキングにハマり、アイヌのことはその時知った。
なんとなくもっと知りたいなあと感じてはいたけど改めて文献を読んだりする機会はなかったのでそのままにしていたが、ゴールデンカムイにハマりアイヌの文化や食や言葉など昔よりたくさん知ることができた。
だがこれは漫画なので、実際はどうなんだろう?と気になる部分もあり、ゴールデンカムイも好きだし、タイトルに惹かれて買ってみた。
章ごとにテーマが分かれており端的に書かれており、漫画から入った者としてもとっつきやすく「あ!この場面わかるわかる」というところもあり、読んでて楽しかった。
10年以上前よりは理解も深まったかなという気持ち。 -
ゴールデンカムイとアイヌ文化について、非常にわかりやすくとても面白い本だった。著者のほかの本もぜひ読みたい。
巻末のブックガイドも参考になる。
なお、野田先生の書き下ろしまんがは6ページ。
「ヒンナ」は(おいしいの意味ではなく)感謝の言葉(ありがとう)。
そういえばアシリパさんは最初にそう説明していたが、作品中はおいしくたべているときにしか使っていないのでつい勘違いしてしまう。
(おいしい)は「ケラアン」。
(ああ、おいしいー!)と気持ちをこめたいときは「ケラアン フミー!」
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物語のエピソードと絡めて、様々なアイヌの風習や文化について解り易く書かれていた。
特に印象的だったのは、「カムイ」の考え方。全てのモノに魂が存在し、敬意を持って付き合う。今までは他の生命体、動物や植物等の自然界に存在するイキモノが対象であると漠然と考えていたけど、道具等にも魂の存在を認めるというのは、新鮮だった。
原作「ゴールデンカムイ」にも期待大です。 -
『ゴールデンカムイ』はアニメしか視ていないが、アイヌ文化に関心があるので読む。アイヌの自然信仰は神道の古層に通じるし、イヌイットやネイティヴアメリカンとも重なる部分が多い。例えば、子どもに「同じ名前をつけてはいけない」というタブーは、イヌイットにもあるはずだ。
アイヌは「自然との共生」を目指してきた人たち、という狭い捉え方には収まらず、広く「人間とカムイとの共存」を目指している、という指摘に蒙を啓かれた。思えば、昔のオカルト映画『マニトウ』でも、現代の電化製品にマニトウ(精霊)がいる、という解釈があった。 -
ゴールデンカムイ が好きすぎて購入。
アイヌ文化を分かりやすく、今以上に理解が深まる本でした。
ますますアイヌ文化に興味を持てます!