名門校「武蔵」で教える東大合格より大事なこと (集英社新書)

  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087208979

作品紹介・あらすじ

校内をやぎが歩き、英語の授業で図画工作。きのこを見つけると成績が上がる──? 時代に流されないことで評判の御三家「武蔵」では、驚愕の授業が繰り広げられていた! 衝撃の学校ルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • 息子が「武蔵」に通っている。何だか変わった学校だな、と思っていた。高校なのに授業が休講になることも結構あるし、選択科目がやたらと多いし、休みも長い。ある意味でコスパが悪い学校だな、と思っていたけれど、でも何となくよさそうだな、とも感じていた。

    この本には自分もそう感じていた武蔵の「変わった」ところが色々と書かれている。息子はもう高校三年生だけれど、もっと早くこの本を読んでいたらその意味ももっとよくわかってよかったのになあと思う。知らないこともたくさんあった(息子はあまり学校のことを話さない)。わざわざKindleではなく、紙の本を買って息子も読めるようにと思ったんだけれど、読んでいるだろうか。

    そういう武蔵の変わっているところを具体的にいくつか挙げるとこんな感じ。そういう意味があったんだ、と思うこと多数。
    ・学校の中に山羊がいて、山羊当番がいる
    ・川が流れていてきのこが取れる
    ・中学入試に実物が出てきてお持ち帰りできる「おみやげ」問題が出る(息子のときはストローだったらしい)
    ・修学旅行がない (意味がないからといってなくした)
    ・校外学習がすべて現地集合現地解散
    ・山上学校や海浜学校で結構な登山や遠泳をやらせる
    ・第二外国語があって、優秀者は海外研修に行ける
    ・文化祭も体育祭も全部生徒がやる
    ・太陽観測部という変わった部がある
    ・英語劇をかなり真剣にやる


    武蔵には武蔵の三理想というものがある。大上段に構えているが、先生方はかなり真剣にこの理想について考えているようだ。
    1. 東西文化融合のわが民族理想を遂行し得べき人物
    2. 世界に雄飛するにたえる人物
    3. 自ら調べ自ら考える力のある人物

    特に最後のものは「自調自考」と呼ばれ、数度行った保護者説明会のときにも校長先生から何度も出てきた言葉だ。放置していることと自調自考させていることを混同しないようにしてほしいとのメッセージでもあった。親は教えるなとも言われた。

    そう、武蔵の先生は、正解を教えないようにとても努力をしているらしい。正解を知ることが重要なのではなく、正解に至る道筋を自らたどることが重要なのだという。正解があって、いかに早く正確にそこにたどり着けるのかを競う受験とは主旨を異にするものだ。使われている教科書もそのために手書きのものも多いらしい。だからなのか、最近は東大進学率がどんどん落ちているそうだ。

    共通一次以降にさらに受験による画一化が始まったと言われる。いかに名門大学への進学率を上げるのかの競争になっている。自分も思うが、進学率を上げるような勉強をさせるのはたやすい。正解があるクイズにいかに早く正確に答えるのかという技術の問題なので、訓練によってあるレベルまでなら上げることができる。武蔵はその道を取らない。東大合格を目標にすることと、結果として東大に合格することは大きな違いがあるという。実際にしてその通りなのだと思う。

    現東大総長の五野神さんや、自分が在学していたときの東大総長だった有馬さんも武蔵高校出身だった。高等教育ということに関しては何か率先する人を育む素地がある学校であることを結果としても示しているのかもしれない。有馬さんは「ゆとり教育」を推進したという話もあるけれども、実施されたゆとり教育と武蔵の教育は違う気がすると思うけどね。

    それにしても、全文掲載された卒業生答辞が素晴らしい。こういうことを言えるようになったら、もうこの学校に入れた価値があると思える。とにかく全文掲載したくなる文章で、「今のうちに極端な思想を持て」と在校生に対して語りかけるこの答辞だけでもこの本を読む価値があるのではないかと思う。

    息子に武蔵の考えがどこまで身に付いたのかはわからない。でも、中高の6年間を大学受験を目的として使うべきではない、という思想を教員の中で共有されて、実践されていることはきっとこの後の人生にも影響をするのだろうと思う。
    自分の息子はどう感じているのだろうか。もっと大事なこととして、将来どう感じてくれるのだろうか。じわじわと効いてくるようなもののような気がする。

    そして、息子のことが少しうらやましい気がする。

  • 2024年3月23日読了。「御三家」と言われる難関の中高一貫校・武蔵の校風、教育方針について、教員・OBや在校生へのインタビューなどから迫る本。雑木林や川が流れヤギや野生のタヌキが闊歩する校内、のユニークさは承知していたが、「武蔵らしさとは何か?」という点、答えのない問いに対し考え続けるということを何十年もやり続けてきたという校風は非常にユニークに感じる。まあ時代錯誤と紙一重と言う気もするが、全部の学校がこうなる必要もないし、こういう学校があってもいいんじゃない?と思う。まあ入ろうと思っても問題の難しさ・偏差値や倍率が高すぎて誰でも入れる学校ではないのだが…。第二外国語コースに教員も参加して一緒に学ぶ、という点に非常に武蔵のすごみを感じた。答えのない問いを、教員もまた探し続けるという覚悟があるのだな。

  • こんなマイウェイな学校があるなんて。
    自分も通ってみたかった。

  • 非常に良く書けている❗️

  • 武蔵の理科の実験で花崗岩?を延々と削るというネットの記事を読んでから興味が出てきたので購入。
    正解を教えずに自分で考えることに重きを置くという教育スタンス。
    自分の母校は武蔵とは真逆タイプの進学校で、正解をどんどん教えて合格実績を伸ばしたいという教育方針だったので、なかなか新鮮な内容だった。

  • そもそもこういう高校があることを知らなかったし、その学びの環境の素晴らしさを知ることが出来て勉強になった。

    息子に行ってほしい、楽しそうな学校!

  • 2017.09.16 東洋経済オンラインより
    2017.11.12 シミルボンより

  • いやー、武蔵、いい学校ですねぇ。憧れました。自分で考えられるように、こんな若いうちから、とは、羨ましい話です。P175の通り、「会社や社会のそのときの流行を追うのではなく、目先の成果を焦るのではなく、20~30年の計で、自己実現を目指してほしい、ということ」それができることが、若さのアドバンテージ、とのこと。と、JAXAの「はやぶさ2」プロジェクトマネージャーである武蔵OBの國中さんを始め、魅力的な卒業生からの武蔵愛が溢れていました。

  • 「自調自考」を掲げている学校は結構あるが、本当の意味でこれを実践している学校はほとんどない。
    武蔵はその数少ない学校の一つ。
    高校生の卒業生の答辞。本当に高校生が考えたものなのかと思うくらい素晴らしいものでした。
    今のテレビに出ているコメンテーターやネット民に是非読んでほしい答辞です。そこで何を感じるのか、何も感じないのか。
    羨ましい学校だ。自分が子供の頃に出合いたかった。

  • 数学の教員によるやぎの研究や震災対策、社会の教員によるきのこの話やお菓子づくり、英語が要らない英語劇、国語の教員による対馬研究や打楽器の授業、英語の教員による稲作実習...カオスとしか言いようのない正規の授業がある武蔵

    社会活動家の湯浅誠(東大法学部)、JAXAの國中均(京大工学部)らを輩出する名門校の独自の教育を深堀りする

    「東大目指して一直線、“勝ち組”になるための効率的な最短ルートを歩みたい」と言うのなら、武蔵には来ないほうがいい。武蔵に来るべき人はほかにいる。──「おわりに」

    男子御三家の一角を占める「私立武蔵高等学校中学校」を克明に記したルポ
    著者は斬新な視点による評論で知られる気鋭の教育ジャーナリスト

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著者プロフィール

おおたとしまさ:教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。リクルートで雑誌編集に携わり、2005年に独立後、数々の育児・教育誌のデスク・監修・企画・編集を務め、現在は教育に関する書籍執筆および新聞・雑誌・webメディアへの寄稿を行う。テレビ・ラジオなどへの出演や講演も多数。心理カウンセラーとしての活動経験、中高の教員免許、私立小学校での教員経験もある。著書は『ルポ名門校』(ちくま新書)、『勇者たちの中学受験』(大和書房)、『不登校でも学べる』(集英社新書)など80冊以上。オフィシャルサイト:http://toshimasaota.jp


「2024年 『学校に染まるな!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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