閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087208832

作品紹介・あらすじ

資本主義の終焉で、世界経済の常識が大逆転。成長を追求すれば企業は打撃を受け、国家は秩序を失うのだ。生き残るのは「閉じた経済圏」を確立した帝国だけ。歴史の大転換期に日本の行くべき道を描く!

感想・レビュー・書評

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  • 次々に著書を著していく水野和夫の近著。「より遠く、より速く、より合理的に」という近代の理念と「より多く」という資本主義の時代は終わったという前著に続いて、「より近く、よりゆっくり、より寛容に」というスローガンを掲げてポスト近代を手探りでも俯瞰しようとする意欲作。

  • 凄い本であると絶賛するしかない。かつて著者の「100年デフレ」や「君はグローバリーゼーションの真実を見たか」「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」を読んだ時にはあまりの壮大な視座に頭が追いつかなかった。
    しかし本書でやっと著者の言いたいことが理解できた。背筋に戦慄が走る思いを持ったが、しかし「そうなのだろうか?」。
    ここまで本書に引き込まれる理由ははっきりしている。リアルな世界では物価が上がらない、実質賃金も上がらない、潜在成長率も上がらない、どうやらアベノミクスは失敗に終わりそう。しかし経済学者やエコノミストの主張はバラバラである。
    その点本書の主張は明快である「資本主義は終わった」のだと。確かに著者の主張を受け入れれば現状を矛盾なく説明できる。しかし証明できるのは相当未来になりそうである。
    折しも今朝トランプ大統領がパリ協定離脱を表明した。「閉じてゆく帝国」である。やはり本書の視座は正しいのか!

    2017年6月読了。

  • 幾人かの学者らが、資本主義、近代が終焉に向かっている事を指摘するが、本書の著者・水野和夫氏もそうである。

    水野和夫氏は、マクロな視点で歴史に注目し、超低金利が、『長い16世紀』が利子率革命により、中世を終わらせ、近代システムが開始したように、現在の低金利が、資本主義と近代システムを終わらせるという。

    その先の未来は、『世界は複数の『閉じた帝国』が分立し、その帝国の中で幾つかの『定常経済圏』が成立する。』状態がしばらく続くという。
    その閉じた帝国の分立状態を、彼は、『長い21世紀』と呼ぶ。
    『長い21世紀』とは、『長い16世紀』が国民国家が分立していたように、新たな中世のような状態『新中世』を意味する。
    『長い21世紀』の始まりは、1973年のオイルショックであった。
    『長い21世紀』は、今から2100年頃に完成するというポスト近代のシステム完成迄の過渡期である。
    この時代のモットーは、『より近く、よりゆっくり、より寛容に。』だ。
    つまり、近代システムの真逆だ。

    『長い16世紀』の時代に、誰も次の時代がどんな時代になるか予想できなかったと同様、近代システム終焉後の新たなシステムは、誰も予想出来ないという。

    ホイジンガが中世から近代への移行が、小さなさざなみが、やがて大きな波に変わっていったと表すように、ポスト近代のシステムもそのように完成して行くだろうという。
    そして、縁故資本主義など、『悪しき中世』的な現象は、既に見られている。
    これは、富める者の資産の三分の一は相続によるものなどを指す。
    つまり、中世の王侯貴族のように、エリートら富める者が固定され、世界を支配しているということだ。
    これらは、先日読んだ『ポスト・デモクラシー』のエリート企業が、ロビー活動で政治を支配し、民主主義の状態は、中世に逆戻りだという主張に通づる。

    世界は閉じていくであろうというのは、経済的には僕にはわからないが、政治的にはそうであろうと思う。
    何故なら、一国では対応するには難しい問題が幾つも存在し、各国が緊密に連携する必要があるからだ。
    水野和夫氏も紹介するように、国民国家というシステムは、過渡期的存在であるというが、なるほど、国民国家の上位に位置する存在が無ければ、世界で何かを決定したり、アクションを起こすには、非常に難義である。

    また、水野和夫氏は、『長い16世紀』において、『陸』の中世封建システムから『海』の近代世界システムへの大転換が起きたと述べる。
    シュミットの言うように、世界史は、陸の国と海の国の戦いであるという。
    『海の国』アメリカの時代は、終わりつつあり、『陸の時代』への移行期に現代はあるという。

    近代システムの一つである『より遠く』のフロンティアが、最早存在しない。

    金融の話で解り難い部分があったが、後半は読みやすく、よく理解できた。
    また、水野和夫氏は、一見マイナーでありながら興味深い著作を読んでおり、読書家の一人としても参考になる。
    本書は、ウォーラーステインの世界システム論に開かれており、必然的に、『近代とは?』や今後の資本主義に考えねばならず、読み応えがあるのは確かだ。

    他に、本格的に資本主義とは異なるシステムに持っていくには、現在の株式会社と投資家の関係を変えて行く必要があるように思えた。

  • 著者は、これからの社会システムのあり方として、「新中世」に向かって歩みを進めるべき、すなわち「世界が有限であるという条件のもとで、「閉じた帝国」をつくり、そのなかで定常状態の経済を目指していく」べきと言っている。ここで、経済的な定常状態とは、資本蓄積をしないこと、新中世の理念は「より近く、よりゆっくり、より寛容に」ということになるという。そして、「閉じた帝国」がどのようなものとなるか、未来を予測することは不可能、とした上で、選択肢が生まれるときに備え、環境を整えろ、と。そして、半ば冗談めかして、日本に今できることは、「EUに毎年加盟申請をする」こと、とも。

    本書で面白かったのは、日本のゼロ金利状態は特筆すべき異様な出来事=「例外状態」であるとし、過去には「長い一六世紀」のイタリア・ジェノバで起こった超低金利しか同様の例が無いとしていること。そして、「長い一六世紀」にジェノバで一一年続いた超低金利は、ローマ・キリスト教が支配する中世のシステムが解体され、「近代主権国家システムを準備するほどの大きな革命的な変化をもたらし」た「利子率革命」だったこと。この事から著者は、「現在進行中の日本の超低金利は、「長い一六世紀」の「利子率革命」と同様、システムそのものの変更を予告する「二一世紀の利子率革命」」と位置付けられる、と断じていること。

    また、現代社会の基本構成である主権国家システムが、「長い一六世紀」の危機、すなわち宗教戦争や三〇年戦争の混乱をおさめるための「応急措置」としてウェストファリア条約の下で生まれたものであり、応急措置であったがゆえに欠陥を有しており、その最大のものは「世界的公共性の担い手を欠いていること」である、ということ。

    「主権国家」システムを所与のものとして疑いもしなかったが、応急措置、欠陥品と言われてびっしり。改めて考えてみるに、民族自決といったスローガンも果たして正しいのだろうか。よくわからなくなった。

    そして、ローマ法王及びスペイン世界皇帝が閉じた「地中海世界」の秩序を維持していた中世から近代への転換は、有限の世界から無限の世界への価値観の変更を伴ったこと、オランダやイギリス等の「海の国」が「陸の国」に勝利したものと捉えられること。

    更には、一九五〇年代から一九七〇年代前半のおよそ二〇年間が中産階級を生んだ「黄金時代」足り得たのは、富裕層のもつ生産設備が戦争で破壊されたこと、及び冷戦時代に国家総動員をスローガンにして富裕層への課税強化が図られたことが要因であり、資本主義自体ははひたすら資本家=富裕層を富ませる仕組みであること。

    そうすると、富裕層を優遇し更に富ませることによって全体を牽引させようというトリクルダウン理論は全くのウソっぱちということになる。

    本書を読んで、人間(ないし法人)の欲望をひたすら掻き立てる資本主義の宿命が分かってきた気がする。ただ、著者のいう、地域に閉じた帝国が割拠するブロック経済が、今後のあるべき国際秩序の姿なのかどうかはよくわからなかった。

  • もう、この手の本を読みすぎて、一体何が正しいのかわからなくなっているが、前作同様どうもスッキリしない読後感だったので、自分としては珍しくメモを取りながら2回読んだ。それでも違和感が残り、全面的に『閉じた地域帝国』なる提案を素直に信じきることができない。
    全体的に根拠の提示がない断定、無批判な引用、自説に都合の良いコジツケ、論理の飛躍が散見される。これ程の頭の良い人が考えたことなのだから何か裏付けがあるのだろうとは思うが、丁寧な説明を大胆に省いて勢いだけで論を展開する姿勢は、ある意味読者を説得する意思を放棄しているように見える。これでは科学でなく宗教だ。

    幾つか感じた違和感の例。
    1)著者が論じる社会構造の転換は、数百年単位のスパンなのに、高々直近十数年の利子率トレンドで議論するのは乱暴ではないか?
    2)海の国と陸の国の定義が曖昧。コロンブスやバスコ・ダ・ガマを擁し、その後のイギリス同様新世界から略奪しまくった地中海諸国が陸の国で、大して植民地も持たなかったオランダが海の国? 金融立国が海の国的なら海のないスイスやルクセンブルクも海の国なの?
    3)日銀はマイナス金利で無限の徴税権を手に入れたと言うが、マイナス金利の下限は-0.5%とも言っていて、大した権利ではない。自説に都合の良い主張の典型。
    4)ヤマト運輸の例も一企業の戦略ミスを以て、資本主義終焉の根拠とするのは乱暴。ヤマトはAmazonにしてやられて独占的地位を上手に活用できなかっただけでは?
    5)実物投資空間と言う概念の説明も不親切で、一体何を指しているのか解らない。仮にそんな空間があったとして、本当にそれが消滅したのか根拠が示されない。利子率の低下が実物投資空間の限界の根拠とされているが、実物投資空間の消滅が利子率低下の原因とも言っていて、これでは因果関係の説明になっていない。
    6)近代資本主義の原理が『速く、遠く、合理的』だと言うが、それは信頼できる学説なのか?仮にそれが正しいとして、現状の原理が行き詰まったからと言って正反対の方向に進めば成功する根拠は何か? 別のベクトル軸を設定する考えはあり得ないのか?

    部分的には説得力のある説もあって、全面的に否定する気にもならないが、とにかく議論が荒くて納得感が得られなかった。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685667

  • 2021/08/26

  • 蔵書整理で手放すので、再び出会い読む日もあるか

  • ● 13世紀初頭に始まった資本主義が最終局面を迎えていることと無縁ではありません。投資をしても利潤を得ることが極めて困難な「資本主義の終焉」と言う「歴史の危機」において、利潤獲得が難しいが故に、資本の側が、わずかでも利潤が得られるのであればとあらゆる国境の壁を越え、なりふり構わぬ「蒐集」を行うようになってきたのです。これこそが、グローバリゼーションの正体。
    ●生き残るのは閉じた帝国。
    ●世界経済は3つのいずれかの道しか選べない。①新自由主義②世界政府③国民主権国家システム
    しかしこの3つの選択肢では、資本主義の終焉と言う危機に対処することができない。
    ●中国経済の根本的な問題は「過剰」生産力であって、株式バブル崩壊ではありません。
    ●近代生主義のメカニズムの限界が先に見えてくる事は、人類にとって大変ありがたいことだ。
    ●ポスト近代システムとして「閉じた帝国」と「定常経済圏」の2つを上げた。

  • 水野は「海の国」である英米が海洋から「金融・電子空間」にシフトしたものの、ゼロ金利時代を迎えた今、資本主義が滅びることは避けられないと説く。資本主義後を提示するのは困難極まりないが、「閉じた帝国」になると予測している。
    https://sessendo.blogspot.com/2019/10/21.html

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著者プロフィール

1953年愛媛県生まれ。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。博士(経済学)。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)を歴任。現在、法政大学法学部教授。専門は、現代日本経済論。著書に『正義の政治経済学』古川元久との共著(朝日新書 2021)、『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(集英社新書 2017)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書 2014)他

「2021年 『談 no.121』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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