たとえ世界が終わっても その先の日本を生きる君たちへ (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087208702

作品紹介・あらすじ

“英国のEU離脱決定"と“トランプ当選"から「成功と成長を志向する資本主義経済の終焉」を考える橋本氏。“心のない論理"が蔓延する日本への処方箋は何か。問答形式で綴られる次世代へのメッセージ。

感想・レビュー・書評

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  • 再読。

    橋本治が亡くなって、もう、3年近くなるのだなあ。
    訃報をネットで見た時は、すごく頼りになる親戚のおじさんが亡くなったような、随分と心細い気持ちになった。

    この人の言っていることは一貫していて、「ちゃんと自分で悩んで、考えなくちゃいけないんだよ」てことに尽きる。

    自分で考える、っていうのは自分のことを考えるのではなくて、自分と社会のあり方を考えるということで、でもそれってなかなか難しいんだ。


  • 口述という体裁もあってか今回もあっちこっちに話が飛ぶのに、最後に必ず元に戻ってきて、きちんと筋が通っているところが相変わらず凄い。またこの人の言葉の使い方、特に喩えが超絶に上手い。昭和=「復興経済」との表現もすごく腑に落ちる。
    英EU離脱は成長、拡大を追求した経済飽和の象徴であり、もうこれ以上の拡大路線は無理でしょ?というのが骨子。
    カワキタ氏やホヅミ君だけでなく、自分も含めてこう言う言い方をされると「じゃあどんどん縮小していく世の中が幸せなのかよ」という発想になりがちだが、著者はこのような0-1の二元論に陥るのを止めて、その中間の心地良い所を探しませんか、と言っている。まあそう言われればそうかも知れない。
    経済に飽和点があるのか?という問いは宇宙の膨張に終わりはあるのか?に等しい難しい命題だ。かつて某経済学者はモノが行き渡って需要が飽和するとの論を一刀両断にしていた。「あなたにはもう欲しいものが何もないのか?」と。しかしこれに関しては橋本氏の「どうしてもなければ困るモノはもう持ってるでしょ?」との問いかけの方がしっくりくる。確かに昔は借金してでも買いたいものが確実に存在したが、住宅を除いてもうそんなものはなくなった。どちらが正しいのかはわからないが、宇宙の果て論争と同じで誰も正解は持っていないのだろう。

  • 聞き書きの本。
    50代と30代のライターを相手に、話ながら進めていく。
    橋本治さんが育った時代の、目に見える世界の変わりよう、
    生活や人が変わっていくのを肌で実感し、
    そこから大事なことを抽出すると
    ちゃんと世界を見るものさしができあがる。
    橋本さんの中で、イギリスのEU離脱のお題は、
    遠くローマ帝国の時代にまでさかのぼりながら、
    ロシア崩壊や日本のバブル期、今の世の中にあふれる物言いにまで
    経済というキーワードですべてつなげていく。
    決してアクロバティックな論理ではなく、ごく普通にたどっていくだけで
    物事がシンプルに見えてくる。
    今のビッグデータなんてものに振り回されなくても、
    橋本治という一人の頭の中で、
    長く広い膨大な全体を網羅的にとらえ、
    ひとの、普遍的な本質を取りだすことができる。
    今ある、欲望を満たすだけのための「心のない論理」と
    上っ面だけを装う、一見なんの問題もないきれいごとの「心の論理」ではなく
    必要なのは、時間をかけて絡まったものをほどきながら考えていく「心のある論理」
    でもそんな悠長ですぐに結論に達しない(結論もないかもしれない)ものに
    辛抱強く付き合えるだけの力はどんどん奪われていって
    1,2,3で分かるようなものにだけ反応し、決めつけ、排除してオシマイ。
    橋本治のいなくなった世界で、誰が今を見直すヒントを出すことができるんだろう。
    ネットやらAIやらと、取り巻く環境がこの先どんどん変わっていくとしても、
    きっと橋本治の本の中に、そのヒントは書かれてある。
    ほんとにね、橋本治の本はもっと読まれないといけないと思う。
    説明するというのは時間がかかるもので、
    でも橋本治さんだからこそ、
    新書なんていうボリュームの中に収まるくらいにまで
    すっきりさせることができるのだ。
    難しい言い方で置いてきぼりをくらうこともなく、
    平易な言葉と、身近な例で、
    分からないことを丁寧に考えていくと、
    いつのまにか、言われれば分かりきったこと、にまでたどり着く。

    「金融経済」は殺しても死なないゾンビ。
    オリンピック参勤交代方式。(金を使わせて余計なことをする体力を奪う)
    「社会建設」がなくなって、欲望がすぐ充足されると、ヒトは人間じゃないものになる。
    「大きくなる」はもう限界。お客のいない産業ってどういうこと?
    「損得で物事を判断しない」ことを「正義」という。
    もうね、橋本ワールドのまっとうさって凄いです。

  • 自分の生きてきた時代ってこういうことだったのか
    なんとなく変な感じがあったのにはこんな背景があったのか
    橋本さんの書かれたものはベタベタしていなくて冷たくなくて読んでホッとできるから好き

  • 橋本治の評論文の中で最も読みやすい一冊。
    それは語りおろし(著者はじめての試みだそう)であるということと、語りおろしであるが故に聞き手(編集者とライターの2名)がツッコミの役割を演じているからでもあるだろう。

    自分が社会の中の小さなひとコマで、社会の上に乗っかって生きているんだという「地動説」ではなくて、自分の頭の中で社会が回っている「天動説」の中で生きていて社会と切り離された「根拠のない自我」だけが勝手に膨らんでしまった人たちのことを、私は「バカじゃないの?」と思うわけです。
    人が地動説から天動説に変わって、社会建設という意識が消えて、社会と切り離された「「心のない論理」と、綺麗事でしかない「心のない論理」に埋め尽くされちゃった。
    その両者の間に、議論すら成り立たなくて、すれ違いが延々と続いている今の状況を、私は「人がバカになっている」って言っているの。(P.215)

    上記は本書の中でも一番重要な箇所であるかと思うが、通例通りに橋本治が肉筆で(たしか未だワープロソフトは使用していなかったはず)綴ったとしたら、もっと情報量が多く、論旨が多岐に渡る橋本治調の文章になっていたはずである。

    イギリスのEU離脱が本書のそもそものテーマだった。が、構想中にトランプ政権が誕生し現状はますます混迷を極めている。
    そういう時節時流に即したものを速度を持って上梓せんがために語りおろしという手法が選ばれた。

    それによって分かりやすく平易になったことは前述のとおりであるが、テーマが現在進行系であるがために結論は出ない。未知の未来へ不安を感じたのであれば過去を参照するというのが定石であるが、平成が終わろうとしているいま昭和の終わりを振り返り「日本経済は昭和で終焉した」と断言する著者の経験と洞察は一読の価値があるだろう。

  • 序章,第一章まで読んだ.面白い!(2007年)再度読み始める.第6章にまとめの部分があり、全体の把握に最適だ.この先、どうしたらいいのか? の解答として、"まずは日本人が天動説から地動説に戻って、「自分たちが社会の上に乗っかって動いている」という謙虚な意識を取り戻さないと「心のある論理」は生まれてこない.(p217)" がエッセンスだと感じた.ここでいう天動説は、80年代以降の現象を要約した概念だ."もう豊かな社会が出来上がってしまっている.それが当然の環境で育った若い人は、自分たちが汗水垂らして社会を作ろうなんて意識はなくなる.自分の幸せのために社会があるっていう、自己中心の「天動説」になったんです.(p137)" 橋本節が満喫できました.

  • 俺なんかもバブルの時になんか変だな、嫌な感じと思ってたから、そうだったんだぁ~!て膝を打てるけど、その頃ちっちゃかったり、まだ生まれてない人も今や大勢いるから、実感湧かない人もさらにもっといるんだろうな。
    人ってやってる最中は何やってんのかよくわからないことのほうが多い。特に状況がそうなっててその状況に対応する時なんてそうだと思う。だから、後になって、あれはそういうことだったのか!となる。でも、必ずそうなるわけじゃなくて「あれは一体何だったのだろう?」と自分で問いを立てないとおそらく永遠になんだかわからないまま終わるでしょう。それで、無事に人生終えるならそれはそれでおめでたいことではある。
    でも、なんだか気になる人は、橋本さんの本を読んでみたらいいと思う。
    もう、ほとんどエマニュエル・トッドさんとおっしゃることが一緒なので人間の知性は普遍的だなぁ~と感じた。

  • ご隠居の床屋談義のようです。経済が終わったと世界史的なアプローチから始まったと思ったら、昭和の世相史を批判的に語り出したりして、タイトルに比べて矮小感が拭えません。軽いんですね。ヴィジョンが示されると思っていたら肩透かしでした。むしろ、このタイトルに相応しいヴィジョンなら「サピエンス全史」の方が提示していましたね。

  • 心のない論理や心の論理で生きる人たちは、自分が絶対に正しいと思っている。でも、心のある論理の人は、自分の正しさを相手に認めさせたい訳でもない。

  • 2017/07/07:読了

        橋本さん         岡潔
    心のない論理(金融経済、ニューアカ):内容のない観念
    心のある論理(秩序ある管理)    :内容のある観念
    心の論理  (心が論理、講談、スポ根):-

     小林秀雄・岡潔の対談「人間の建設」

     「心のない論理」、「心の論理」と違って、
     「心のある論理」は、欲望が論理に入り込むことを
     認めない。それをやると論理がゆがむ。

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著者プロフィール

1948年東京生まれ。東京大学文学部国文科卒。小説、戯曲、舞台演出、評論、古典の現代語訳ほか、ジャンルを越えて活躍。著書に『桃尻娘』(小説現代新人賞佳作)、『宗教なんかこわくない!』(新潮学芸賞)、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(小林秀雄賞)、『蝶のゆくえ』(柴田錬三郎賞)、『双調平家物語』(毎日出版文化賞)、『窯変源氏物語』、『巡礼』、『リア家の人々』、『BAcBAHその他』『あなたの苦手な彼女について』『人はなぜ「美しい」がわかるのか』『ちゃんと話すための敬語の本』他多数。

「2019年 『思いつきで世界は進む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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