イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北 (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087207705

作品紹介・あらすじ

混迷を極める中東に現れたイスラム国。捕虜の殺害をはじめ、過激な行動の裏にある歴史と論理とは? 集団的自衛権容認で自衛隊中東派遣の可能性が高まる中、日本とイスラム世界の共存の指針を示す。

感想・レビュー・書評

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  • イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北
    著:内藤 正典
    集英社新書

    中東におけるイスラム教徒の紛争とはいくつか軸があるように思えます。
    本書は残念ながら総花的うまく軸を捉えて切れていないように感じました。

    基本:イスラム教とは何か
    軸1:アフガニスタンのタリバンから、イスラム国、ボコハラムに至る過激派の系譜
    軸2:シーア派とスンニ派との対立
    軸3:パレスチナをめぐる、イスラエルとアラブ諸国との闘い
    軸4:トルコの対ロシア戦略
    軸5:クルド人の情勢
    軸6:湾岸諸国の産油国の動向
    軸7:親米イスラム諸国の動向

    ・イスラムを創始したムハマンド自身商人でしたので、その教えには、都市に暮らす商人の宗教としての性格が色濃く映し出されています

    ・イスラムとその信徒をターゲットにしているわけではない、と欧米はうそぶきつつ、テロとは無関係のしみんを犠牲にしてきました。
    ・CIAが凄惨な拷問を繰り返してきたという事実まで明らかにされるなど、そうしたことの積み重ねの結果、解決の糸口すらないような状況を作りだしました

    ・トルコは、シリアからの100万をこえる難民を受け入れました。難民の大半はイスラム国の攻撃によって逃れたわけではありません。
    ・それ以前に、シリアのアサド政権によって迫害され、アサド政権軍と戦う自由シリア軍(FSA)や、ヌスラ戦線というアルカイダ系のイスラム主義の武装組織などが入り乱れて衝突するために、住んでいられなくなって、トルコ側に逃れたのです。

    ・2014年7月、日本は憲政史上大きな転換を迎えました。安倍政権が集団的自衛権の行使容認を閣議決定したからです。

    ・パキスタンの軍統合情報部が協力して、アフガニスタンの反抗勢力やイスラム神学校の若者をムジャーヒディーンとして育てました。
    ・パキスタン軍は、隣国のアフガニスタンに親パキスタンの勢力を育てたかったのです
    ・ムジャーヒディーンとはジハードの戦死のことです
    ・抵抗勢力がムジャーヒディーンを名乗ったのは、ソ連軍という共産主義者の無神論者と戦うことで自分たちの信仰、すなわちイスラムを守ろうという意識が底流にあったからです。

    ・ソ連軍撤退後のアフガニスタンの秩序を回復しようと勢力を増したのが、タリバンです。
    ・豪族をバックにもたない学生集団から出発したタリバンは、部族集団の支配を崩しました。
    ・タリバンは、1996年にイスラムによる統治を掲げるアフガニスタン・イスラム首長国を誕生させたのです

    ・最終的にフセインは処刑されますが、アルカイダと無関係だったことが判明します。
    ・そして、フセインがいなくなったイラクは、政治的利権をめぐって、シーア派、スンナ派が争い、国が事実上分裂してしまいます。

    ・現在、世界中には、15億から16億のムスリムがいます
    ・新疆ウイグル自治区から西へトルコまで、基本的にイスラム圏です。こうしたイスラム世界の規模を日本人は理解できていません。

    ・中東におけるアメリカの最大の同盟国はどこでしょうか。イスラエルではありません。答えはトルコです
    ・トルコは強大な軍事力を有し、NATOの加盟国でもあります。もともと対ソ連の橋頭保でした。

    ・ムスリムに原理主義といっても何のことは理解できません。なぜなら、イスラム原理主義とはアメリガ作った造語だからです

    ・1991年に湾岸戦争が起きると、サウジアラビアなどペルシャ湾岸の諸国がアメリカ軍の保護をうけるようになります。
    ・つまり石油を守るため、アメリカ軍の駐留を認めたわけです。

    ・現在、読み書きができない成人の人口は世界で7億7400万と推定されていますが、そのうち、女性は3分の2を占めると指摘されています 等

    目次
    はじめに 日本は決してこの戦争に参加してはならない
    序章 中東で起きていること
    第1章 一六億人のムスリムを味方にするか、敵に回すか
    第2章 まちがいだらけのイスラム報道
    第3章 イスラム世界の堕落とイスラム国の衝撃
    第4章 日本人にとってのイスラム
    おわりに 戦争は人の心の中で生まれる
    あとがき

    ISBN:9784087207705
    出版社:集英社
    判型:新書
    ページ数:256ページ
    定価:760円(本体)
    発売日:2015年01月21日第1刷
    発売日:2015年02月18日第4刷

  • イスラム過激派が世界各地で引き起こしている暴力行為を含む諸問題について、分かりやすく解説している。
    本書が出版されたのは今年の初めだが、その後に起こった日本人殺害事件やパリ同時多発テロについて考えるとき、大いに参考になる。

    これらの問題の根っこには、無知と価値観の相違、そしてそれらに端を発する差別意識がある。
    私たち日本人は、欧米的価値観に染まり切ってしまっているが、世界の約四分の一は、私たちと全く別の価値観(イスラーム)を共有していることを忘れてはならない。どちらが「進歩的」とか「遅れている」とかではなく、単に異なるだけなのだ。所謂「先進国」にも完璧な国など存在せず、問題が山積していることからも分かるだろう。

    また、多くの日本人が得られる情報は主に欧米経由であり、多分にバイアスがかかってしまっている。
    そもそも中東混乱の直接の原因は、近代以降の列強の暴挙であり、領域国民国家という普遍性に欠く体制の押しつけである。
    ISなどの過激派組織が生まれたのは、中東混乱の原因ではなく結果であることを、改めて認識した。

    憲法九条を擁する日本の役割を、Doshisha Processの例を挙げつつ説く件は、日本の安全保障政策を考える上で示唆に富んでいる。

    新書一冊で、自分の視野の狭さというか偏りに気付いた。
    イスラームの考えも、聞いてみればとても人間らしくて興味深いし、共感する部分もある。
    そして、彼らは何よりも知識、イスラーム法学を貴ぶ。過激派のせいで粗暴な面が目立ってしまっているが、とても精神的な部分を大切にする人々なのだ。
    増え続けるムスリムを理解するためにも、「イスラム・リテラシー」を身につけようと思った。

  • いまいち。

    最終章の記載は、著者の専門領域での蓄積をいかんなく発揮できているものの、専門外の分野では明らかな誤り(存在しない「イラン民族」や、イランは「シーア派イスラーム主義」との記載)が散見され、本全体の信頼性を失わらせている。また中東各国の現代史をこの厚さの本で説明するのはいささか無理があり、背景知識を持っていなければ理解はできない、もしくは誤解してしまう。

    思い切って、著者自身の憲法9条に対する考えと、最終章の記載のみを1冊の本にしたほうがまだよかったかもしれない。

  • ヨーロッパにおけるムスリム移民やトルコ等を研究対象にしている
    著者による、第1次世界大戦以降から現在までのムスリムと欧米
    による中東政策を解説した作品である。

    「はじめに」で「日本は決してこの戦争に参加してはならない」とされ
    ているのだが、残念ながら著者の思いは実らなかった。日本政府は
    言い逃れをしているけれど、ISが拘束している邦人2人の殺害に
    至ったのは、やはり安倍信三の演説が引き金だもの。

    状況を公平に見ようと思っても、どうしてもバイアスがかかるんだよな。
    特に日本の報道は欧米メディアの視点でしか中東関係を報道しない。
    以前は衛星放送でアルジャジーラの放送が見られたけど、今じゃ
    報道番組でもアルジャジーラの報道内容を引用するところがない
    ものな。

    それが無理解だったり、差別に繋がるのではないかと思った。例えば
    フランスの「ブルカ着用禁止法」。政教分離を厳格にしているフランス
    だから仕方ないのかもしれなけどね。確か公共の場に十字架を掲げる
    のも禁止だったはずだから。

    それでもヨーロッパに渡ったムスリムたちが差別を受けていることに
    変わりはない。差別に耐えて耐えて、それが爆発したらどうなるか?

    ヨーロッパからシリアに入りISへ入ろうとする若者が多いと報道され
    たように、自分たちの信仰を基礎にした国を作ろうとすることにな
    るんだろうな。

    かといって、私もISを支持する訳じゃない。本書でも触れられているが
    以前、日本の私学がアフガニスタンがカルザイ政権の時、大臣や
    元タリバンの指導者を招いたことがある。敵対していたはずの人々が
    日本の居酒屋で鍋を囲んでいるっていいじゃないか。

    多分、出来ることがある。武器で制圧するのではく、対話の糸口を
    見つけることだろう。本書ではトルコを例に取って解説されているが、
    実際、ISに対して窓口を持っている唯一の国だろう。ロシアから「IS
    から石油買ってるだろう」と言われているけれど。

    著者のように日本はトルコを手本にしてアメリカの要求を突っぱねろ
    とは思わない。トルコにもそれなりの思惑はありそうだから。ただ、
    アメリカの尻馬に乗るのではなく、軍事力を使わずに仲介役になる
    ことも考えないといけないんじゃないだろうか。

    ムスリム視点で現在の中東の混乱を理解するにはいいのだけれど、
    前半部分でしつこいほどに集団的自衛権絡みに話になっているのが
    残念。

    「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心緒中に平和
    のとりでを築かなければならない。
    相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人
    民の間に疑惑と不信をおこした共通の原因であり、この疑惑と不信の
    ために、諸人民の不一致があまりにもしばしな戦争となった。」

    ユネスコ憲章の前文なんだが、結局は理想論なんだよな。相手を
    知ろうとしないから今でも妙なことが起こっている。「コーラン」を
    読まなきゃならないかな。

  • イスラム国を始めとする、アラブ世界の紛争やテロについて、その原因が欧米の身勝手で利己的、人種差別的な振る舞いにある、との立場から中東情勢を解説した書。
    イスラム世界の文化や考え方を理解しないままに、イスラム圏の人々をテロリストのごとく色眼鏡で見てしまうことの危険性を痛感した。それにしても、トランプ大統領の就任後の一連の振る舞いは、イスラム社会の憎悪を煽るだけで最悪だなぁ。

  • 一般向けに書かれたイスラム文化書では、内藤先生の解説がとてもわかりやすいと思う。
    一番わかりやすい本は『となりのイスラム』だが、本書も難しい内容ではない。
    なるほどとうなった部分を挙げる。

    <人頭税について>
    テロ組織が異教徒を人質にして身代金を要求することは、人頭税の一種ということ。
    欧米はテロ資金の源になると批判するが、イスラムにはイスラムの考え方があり、相手の文化を知らなければ、相互理解(=平和)には結びつかない。
    地獄の沙汰も金次第という言葉が頭をよぎった。

    <人材不足>
    中東のエキスパートが不足しているということ。
    そもそも中東に興味を持つ人が今後増えるのかどうか怪しい。
    ニュースでよく見るイスラムとは何か、と一歩踏み出して(少し大げさだが)、本を読む人間が増えれば良いと思う。私もその中のひとりである。

    <ドイツでの事件>
    とても痛ましく涙が出てしまった。日本でこれほどの差別を見たことがないので、想像するのが難しいが、本当にこれほどの差別がヨーロッパでは起こっているのだと信じられない思いだ。

  • レビュー省略

  • 中田さんの論理を通訳してくれてるようだなと思ったらやはり親交があるようで、同志社でカルザイ政権とタリバンの有力者を集めての話とかが読めてよかった。
    一章目がアメリカの中東における有力な同盟国ながら思い通りには動かないトルコから日本も学べるってところで、集団的自衛権と中東情勢についておれには新しい視点だった。
    他にも疑ってかかるべき中東、イスラーム関連の報道とか。

  • この1年、内藤先生のツイッターを通じて、中東、イスラム世界のことを知ろうとしてきた。
    学生時代からずっと、中東問題について、もっと知りたいと思っていたのだが、イランとイラク、スンニ派たシーア派が、どっちがどっちかすぐわからなくなるくらいの全くいい加減なものだった。1年前(多分、日本人人質殺害事件をきっかけに)内藤先生と(勝手に、一方的に)出会い、この先生を通して学ぼうとおもった。

    情けないことに本を読むのは初めてだった。
    「生」内藤先生を拝見する機会を控え、大あわてで読んだ。大変わかりやすく書かれていて、もっと早く読むべきであった。
    私のような、中東問題、イスラム社会について知りたい気持ちは強いのだが、難しく、複雑で、なかなか理解しにくい、頭に入りにくいと思っている人に、是非オススメしたい。

  • イスラム地域研究の専門家が、イスラム国の台頭に至る中東地域の混迷について、歴史、宗教、政治権力、世界のパワーバランス等様々な角度から分析、解説し、今後の日本の取るべきスタンスを提言している。
    本書で著者は、
    ◆1979年のイラン・イスラム革命以降の米国の中東政策は失敗の連続であり、その原因は、イスラムに関する無知、先入観、偏見に根差した「イスラム・フォビア(イスラム嫌悪)」にある。
    ◆ムスリムには、同じ唯一絶対神から啓示を受けた「啓典の民」であるキリスト教徒やユダヤ教徒に対する憎しみはなく、彼らの敵意は、歴史的に自分たちを力で支配してきた英仏などの欧州列強諸国、シオニズムに基づく領域民族国家イスラエル、対テロ戦争と称して多くの市民を犠牲にした米国という国家に向いたものである。
    ◆イスラム国が目指す国とは、イスラム主義に基づき、主権が国民ではなく神にあり、カリフにバイア(臣従の誓い)を立てれば世界中のどこにいても国民となれる国である。即ち、西欧発祥の主権が国民にある民族国家とは全く異質であり、共約不可能な存在である。
    ◆一方、中東のイスラム国家の多くは世俗主義的ムスリム政権であり、こうしたムスリム政権やサウジアラビアの王族は、西洋諸国と持ちつ持たれつで国家・政権を維持してきた経緯があり、イスラム主義を掲げるイスラム国のような存在は、彼らにとって最大の脅威と言える。
    ◆日本は無批判に米国に追随し、世界中のムスリムを敵に回すのではなく、中東で米国の最大の同盟国トルコが、長年の米国からの参戦要請を拒否している姿勢に学ぶべきである。
    と述べている。
    イスラム国は「国の体裁を整えた初めてのテロ組織」などと言われるが、イスラム国台頭の最大の意味は、本書でも語られているように、主権が国民になく、領土すらも必要としない、新たな国家形態が提示されたことはなのではないかと思う。産業革命時の英国に始まり、21世紀初頭において国家形態の普遍的なスタンダードとなりつつあるnation state(=民族国家)と共約不可能な国家形態の登場は、もしかすると、数百年というスパンでの歴史の転換の契機になるのかも知れない。
    短期的に日本が中東地域の混乱に対してどのようなスタンスを取るべきかという問題はもとより、更に深いテーマを提示する一冊である。
    (2015年1月了)

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著者プロフィール

1956年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科科学史・科学哲学文科卒業。社会学博士。専門は多文化共生論、現代イスラム地域研究。一橋大学教授を経て、同支社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。著書に『イスラームから世界を見る』(ちくまプリマー新書)『となりのイスラム』(ミシマ社)『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』(集英社)ほか多数。

「2022年 『トルコから世界を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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