超マクロ展望 世界経済の真実 (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087205688

作品紹介・あらすじ

現在の世界経済危機を単なる景気循環の問題としてとらえるならば、この先を読むことはできない。むしろ、資本主義そのものの大転換、四百年に一度の歴史の峠に我々が立っていることを認識してこそ、経済の大潮流が見えてくる。資本主義の歴史的な構造変化を大胆に描いてきた異色のエコノミストと国家への深い洞察にもとづいて理論的考察をくりひろげる哲学者が、経済学者には見えない世界経済の本質を描く意欲的な対論。

感想・レビュー・書評

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  • 資本主義の変遷と金利•利子の歴史、ここからモデル化された枠組みを超えた現代経済を分析されています。
    特に、経済の本でありながら資本主義が終焉を迎えることに言及される点は見ものです。

  • 対談形式で読み口は軽いが内容は重い。
    ちょっと陰謀論っぽいところがあるのは置いといて、大筋真実を突いているのではないか。
    再読する価値あり。

  • 先に「資本主義の謎」を読みましたが、こちらの方が、スッキリと理解できました。萱野さんが上手く論点を整理しながら前に進めていますね。元が自由化すると円預金が向かうという話は例え話としても、金利選好でうずうずしている国債ホルダーがリアルに想像でき、背筋が寒くなります。貴重な消費税UP分は公共投資に使われるようですし、オリンピックの借金もセットされたところで、ドラマチックに財政破綻するのでしょうか?

  • 今後の世界経済の展望についての経済評論家と政治哲学者の対談をまとめた本。
    歴史的な背景や変化を踏まえた大きな視点で、現在の世界経済危機を捉えて論じている。
    現在の世界経済状況は、単なる景気循環の一時的な停滞ではなく、資本主義そのものの大転換によるものだと言う。


    ====================
    【第1章】 先進国の越えられない壁
     ■市場経済だけでは資本主義を語れない
      ○昨今の経済問題をめぐる議論には、「国家」というファクターが非常に希薄。今回の金融危機でも、アメリカの多くの金融機関に公的資金が注入された。いざというときには国家に頼らざるを得ない。
     ■資源価格の高騰による先進国の交易条件の悪化
      ○オイルショックを契機として、新興国・資源国の交易条件が改善した一方、先進国の交易条件は悪化し、先進国の企業が儲からなくなった。
      ○日本では、02年~07年に長期の景気拡大が実現したが、国民の所得は増えるどころか下落した。それは、交易条件が悪化したことで原材料が高くなり、売り上げが伸びても人件費にまわせなくなったため。
       →景気回復と所得回復が切り離されてしまった。
     ■実物経済から金融経済への方向転換
      ○先進国は交易条件の悪化で実物経済では稼げなくなったため、金融に儲け口を見い出していくようになった。
      ○アメリカは、オイルショック以降、OPECに渡った石油の価格決定権を取り戻すために、石油の金融商品化を行った。
      ○ニューヨークやロンドンの先物市場で取引される石油生産量は、世界全体の生産量の1.5%程度。ところが先物取引は相対取引で何度もやりとりするため、取引量でみると世界全体の生産量を超えている。つまり、価格の決定という点からみると、石油は完全に領地主権のもとから離れ、市場メカニズムのもとに置かれるようになった。
      ○軍事力行使の目的が、陸地の獲得やコントロールから、経済システムの管理へと変わってきた。


    【第2章】 資本主義の歴史とヘゲモニーのゆくえ
     ■ヘゲモニー移転としての資本主義の歴史
      ○過去の歴史のヘゲモニー(覇権・主導権)のサイクル
       -実物経済での利潤率の上昇⇒利潤率の低下⇒金融化⇒バブル⇒経済主導権の移動
      ○つまり、金融化に向かうということは、その時点でその国のヘゲモニーのもとで生産の拡大ができなくなってしまったということ。
     ■ヘゲモニーと空間革命との結びつき
      ○かつてイギリスは海という新しい空間に新しいルールを設定することでヘゲモニーを確立した。
      ○アメリカのヘゲモニーは、空の支配とドル基軸通貨体制が結びつくことで成り立っている。
      ○空間支配が陸から海、そして空へと移ってきたように、今後もし空から宇宙へと移ったとしても、これまでとは違って有利な交易条件をもたらしてはくれないかもしれない。
     ■今後のヘゲモニー移転
      ○これまでは国家単位でヘゲモニーが移動してきたが、生産による資本蓄積の場所と、軍事的・金融的に世界経済がコントロールされる場所が分裂するかもしれない。
      ○資本主義は基本的に安く仕入れて高く売ることで利潤率を高めていくものだが、全員がグローバル化すると安く仕入れる先がなくなり、資本主義の競争はプラスサムからゼロサムゲームになっていくのではないか。


    【第3章】 資本主義の根源へ
     ■資本主義は市場経済とイコールではない
      ○国民国家を単位にした国際秩序ではなくなる流れは、決して国家そのものがなくなるということではない。
      ○現在のグローバル化においては、EUのように国民国家もより大きな政治単位にまとまっていくのではないか。
      ○国民国家の枠組みでは、もはや世界資本主義を担うような主体にはなれなくなった。


    【第4章】 バブルのしくみと日本の先行性
     ■日本の先行性
      ○G7の国々は73年~75年に、人口維持に欠かせない出生率2.1を一斉に下回った。その時点で先進国全体では市場が拡大する前提が崩れた。
      ○日本は短期間で高い資本蓄積を成し遂げたがゆえに、利回りが下がるのも早かった。利回りが下がれば、金融経済化が始まり、資産バブルが起こる。日本は世界に先駆けて低成長社会の課題に直面した。


    【第5章】 日本はいかに生き抜くべきか
     ■経済成長モデルの限界 
      ○低成長時代に入ったにもかかわらず経済成長を前提とした税収・歳出構造のままであることが大きな問題。
      ○ギリシャ財政危機は、無限の経済成長を前提としてきたことの必然的な帰結。
      ○交易条件が変わり、市場が飽和化し、市場経済があらゆる領域へと拡大し、もはや市場が新しい需要を喚起できなくなったため、経済成長の前提が崩れた。
      ○「国家なんて必要ない」と思われてきた金融資本主義が、国家なしでは成立しえないということが浮き彫りになった。
      ○社会の中で国家だけが税金という形で、所有権のもとで成り立っている市場の論理を超えてお金を調達することができる。そのため、市場の矛盾は国家によって肩代わりされることができた。
     ■インフレ時代の終焉
      ○グローバル化により国際資本が自由化し、金融経済が全面化すると、量的緩和をしたところで円は国内にとどまらないため、国内の物価上昇にはつながらなくなってしまった。
      ○新興国の台頭は先進国の労働市場をグローバル化するため、先進国と新興国の間の賃金レベルは平準化していく。つまり日本国内の賃金水準は下がっていかざるを得ない。
     ■円高にメリット
      ○人民元が自由化されると、円預金が金利の高い中国へと流れて行ってしまうので、銀行は国債を消化するための預金を持てなくなってしまう。
      ○円高になれば、資源が高騰しても相殺できる。円高は交易条件を改善させる。
      ○輸出のメリットを受ける産業の経済規模と、資源を輸入する素材産業の経済規模を比較すると、後者の方が大きいため。
      ○円安だと、人民元が自由化されたときに円資産の流出を止められなくなってしまう。
     ■規制により新しいマーケットを創出する
      ○環境規制によって技術の市場価値を高め、脱化石燃料の市場分野を作り出すことは必須の課題。
      ○これまで公共投資によって需要を喚起することが資本主義における国家の役割だったが、これからは規制によって市場を新たに創出するという役割が求められていく。

  • 「交易条件」「利子率革命」「経済の金融化は終焉を意味する」など、各国の経済の成熟化への流れ、世界経済の潮流がかなり分かりやすく解説されている。

    水野和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」と併読するとかなりよし。

  • ・オイル・ショックによって先進国の交易条件が悪化した。産油国への所得移転
    ・原油の価格決定権を取り戻すために出来たのがWTI先物市場。石油の金融商品化
    ・イラク戦争の原因。フセインが原油の支払いをユーロで行おうとした。ドル機軸体制への反発(石油はドルでしか売買できない)
    ・資本蓄積が進む→投下資本利益率の低下→バブル発生
    ・現在先進国で生じている低成長・低金利が長引くは過去にも観察された現象。その後、世の中の枠組みが大きく切り替わった(今回も?)
    ・サムスンの利益のうち半分は欧米に吸い取られているとも言われる。実物経済のもとで利潤がもたらされる場所とその利潤が集約されコントロールされる場所が異なる
    ・中国、インドが成長を終えたら高い利潤率のもとでリターン提供してくれる場所なくなる
    ・日本はアメリカの財政赤字を肩代わりしている。過去のスペイン・イタリアの関係
    ・日本のバブルは、低成長下にも関わらずアメリカに内需拡大を迫られて生じた
    ・今後の展望:環境規制が新しい市場を作り、成長をもたらす可能性

  • 資本主義経済について、経済学者と国際関係学者との対談をまとめたもの。現在の資本主義体制は、マクロ的に転換点にあり、金融緩和(ゼロ金利政策)を継続してもデフレ脱却はできないことを中心に、説得力ある発言が多かった。わかりやすい。
    「新興国の台頭によって、エネルギーをタダ同然で手に入れることを前提になりたっていた近代社会の根底が揺さぶられている」p18
    「基軸通貨だからこそ、アメリカの財政赤字や経常収支赤字がいくら膨らんでも、各国はドルを買い支えてくれる」p52
    「どのヘゲモニーの段階においても、実物経済がうまくいかなくなると金融化が起こる。そしてその金融化が進むと、同時に、(バブル経済が起き)その国のヘゲモニーも終わりに向かう」p69
    「中国やインドが成長してしまうと、もう世界には経済成長を牽引できるような地域がなくなってしまう。それこそ資本主義の根本的な危機が訪れる」p112
    「資本主義は民主主義と一体化するといわれていますけど、一体化するのは市民革命以降(以前は国王=資本家)」p124
    「先進国はこれ以上市場が拡大しないところに直面しており、世界資本主義は大きな転換点を迎えつつある」p175
    「(財政赤字削減について)公共投資は削れるところまで削っています。これ以上削ったら、そもそも雇用も維持できないし、国土の維持もできなくなります。公務員の人件費だって、日本はすでにOECD加盟国のなかでもっとも「小さな政府」のひとつになっています。そうなると、ありうるオプションは増税と社会保障費の削減ぐらいしかないでしょう」p212

  • 現在の日本の経済状況(主にデフレ)を考えるときに、今までのパターンのひとつと考える流れと、まったくあたらしいパターンと考える流れがあるが、この本は後者。資本主義の形がかなり変わってきていているので、この100年単位の考え方では通用しないというもの。

  • 【由来】
    ・・「プーチン最後の聖戦」からの「グリーンスパン」からのイギリス関連本からの「グローバリズム掲載」からの水野和夫検索@amazon。

    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】

  • 歴史的な観点から資本主義の終焉を語るエコノミストの水野和夫と、気鋭の政治哲学者である萱野稔人の対談が収録されています。

    水野の本では、彼の資本主義の見方が簡潔に説明されている『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)だけしか読んでいなかったのですが、本書でもそれとおなじ見解が語られています。ただし、萱野が国家と資本主義の関係という問題設定を持ち込むことで、上の本では抽象的にしか語られていなかった、ポスト資本主義に向けた日本の課題が、現代の日本が国家として直面している課題にいっそう具体的に結び付けられるかたちで説明されており、水野の立場についてもうすこしくわしく知ることができたように感じています。

    ただ、日本のバブルにかんしてアメリカがすでにその見通しをもっていたという主張については、かなりできすぎた話のように感じてしまいますが。

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著者プロフィール

1953年愛媛県生まれ。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。博士(経済学)。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)を歴任。現在、法政大学法学部教授。専門は、現代日本経済論。著書に『正義の政治経済学』古川元久との共著(朝日新書 2021)、『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(集英社新書 2017)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書 2014)他

「2021年 『談 no.121』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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