沖縄の旅・アブチラガマと轟の壕 ―国内が戦場になったとき (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
3.82
  • (6)
  • (11)
  • (11)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 85
感想 : 14
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087200362

作品紹介・あらすじ

沖縄県本島南部にはガマとよばれる自然洞窟がいくつもある。半世紀前の戦争中にこのガマは避難壕として軍・民双方に使用されていた。本書に登場する「アブチラガマ」も「轟の壕」もそうした避難所のひとつだった。ガマでなにが起こっていたのか。人びとの忘却の彼方にあったこれらガマの記憶をたどる石原教授たちの調査行は、取材開始から25年の歳月を要することになる。半世紀をへて、よみがえる真実とはなんだったのか?裁かれざる「犯罪」は放置されたまま、闇のなかに眠るのか。「洞窟の惨劇」はいま姿を現そうとしている。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ガマ。沖縄本島南部に点在する自然洞窟だ。沖縄は太平洋戦争で
    日本国内唯一の地上戦が行われた場所となった。その際にガマは
    日本軍及び民間人の避難壕として使用された。

    本書はアブチラガマと轟の壕、ふたつのガマで何が起きていたのか
    を体験者の聞き取りと調査により詳らかにしている。

    沖縄戦の凄惨さは他の作品でも読んでいる。ガマで何があったのか
    も知っているつもりでいた。だが、本書は日本が犯した大きな過ち
    を改めて真正面から突き付けている。

    負傷兵は放っておかれ、脳症患者となった兵士は密かに殺された。
    ガマのなかでも乾いた居心地のいい場所は日本軍が占領し、避難
    して来た住民は湿った場所へ追いやられる。

    食糧が乏しくなっていると民間人が所持していた僅かな食べ物を
    日本兵が取り上げる。ひもじさに子供が泣くと「殺すぞ」と脅され
    る。実際に殺されたとの証言も残っている。

    壕から外に出ることは許されず、出て行こうとする者や外から
    呼びかける者にはなんの根拠もなく「スパイ」呼ばわりする。

    「日本軍は自分たちをアメリカから守ってくれる」。そう思って
    協力した沖縄の人々だったのに、壕を支配する日本軍は人々を
    虐げ、裏切りを重ねた。

    「日本ノ兵隊 生カシマスカ 殺シマスカ?」

    轟の壕で住民の救出にあたっていたアメリカ軍将校の片言の問いかけ
    に、住民たちはいっせいに答えた。「殺せ!殺せ!」と。

    申し訳ないと思う。いや、それだけでは言い足りない。なんてことを
    してくれたのかと気持ちでいっぱいなのである。

    もし、ガマを支配していた日本軍が早期の住民の脱出を認めていたら
    もっと多くの人が命を落とさずに済んだのかもしれない。

    沖縄だけはない。「一億玉砕」などというスローガンなんか掲げて
    いなければサイパンの「バンザイ・クリフ」もなかっただろうにと
    思うのだ。

    沖縄戦の前から当時の日本政府は沖縄を捨て石として考えていたこと
    を裏付ける資料を見たという人も証言も収録されている。

    沖縄に、行かねばなるまい。そこで何が起きていたかを知った上で、
    沖縄に行かねばと感じた。

  • 4-08-720036-1 C0221¥700E

    沖縄の旅 アブチラガマと轟の壕

    集英社新書0036.D.

    2000年6月21日 第1刷発行
    2005年1月25日 第5刷発行

    著者:石原昌家(いしはら まさいえ)
    発行所:株式会社集英社

  • 沖縄の本土復帰から50年、沖縄戦終戦から77年が経過した2022年において、「沖縄戦」ではいったいどのようなことが起こっていたのか、生の証言をしてくれる人はすでにほとんどが鬼籍に入られています。

    米軍と日本軍による戦闘、ではなく、第三の集団として「沖縄県民」が巻き込まれ、参加させられていた、アジア太平洋戦争における(日本国内での)唯一の地上戦であった沖縄戦。
    そこでは日本軍に協力してきたにもかかわらず、スパイとして扱われ、無残な死をもたらされた沖縄県民の多数の犠牲がありました。

    いま、また戦争がおこっており、日本も他人事ではない世の中だからこそ、「戦争」がもたらす被害について、あらためて知っておくことが必要だと思います。

    タイトルにもある通り、アブチラガマと轟の壕という二つのガマで起こった日本軍による住民虐待(住民虐殺)について、その体験談から実像を炙り出した作品です。
    読んでいて、辛くなることも少なくありませんが、決して忘れてはいけない歴史の一つです。

  • 3.81/68
    内容(「BOOK」データベースより)
    『沖縄県本島南部にはガマとよばれる自然洞窟がいくつもある。半世紀前の戦争中にこのガマは避難壕として軍・民双方に使用されていた。本書に登場する「アブチラガマ」も「轟の壕」もそうした避難所のひとつだった。ガマでなにが起こっていたのか。人びとの忘却の彼方にあったこれらガマの記憶をたどる石原教授たちの調査行は、取材開始から25年の歳月を要することになる。半世紀をへて、よみがえる真実とはなんだったのか?裁かれざる「犯罪」は放置されたまま、闇のなかに眠るのか。「洞窟の惨劇」はいま姿を現そうとしている。』

    『沖縄の旅・アブチラガマと轟の壕 ―国内が戦場になったとき』
    著者:石原 昌家
    出版社 ‏: ‎集英社
    新書 ‏: ‎232ページ
    発売日 ‏: ‎2000/6/16

  • 内容:沖縄戦は日本国内で唯一の地上戦というだけでなく、日本軍が住民をも虐殺したということも含めて大学の先生と学生が実地、聞き取り調査した記録

    感想:壕の中での筆舌に尽くしがたい惨状・・・それが私が生まれるたった10年前のことだという改めての驚き。生き残った人が後世に伝えていかねば、と証言したことを大学の先生と教授が聞き取り、入念に調べ上げた書を読んで、知った以上は私も次世代に少しでも伝えたいし、70年後であれ「壕を見ること」がまず大切だと思った。

  • アブチラガマに入る前に読もうと思って読み始めたけれど、何度も挫折しそうになった。それくらい、生々しい記述が多かった。精神的にきつかったけれど、読んでよかった。

    資料としては、時系列ごとの図解があるので分りやすかった。
    アブチラガマに実際に入った時も、あの話はここか、とすぐに見当がついた。

  • 目次

    第1部 アブチラガマ(糸数壕)―陣地・病院・軍民同居の洞窟(洞窟陣地壕―1945年2月~4月30日
    南風原陸軍病院糸数分室―1945年5月1日~6月2日
    軍民一体化―1945年6月3日~8月22日)
    第2部 轟の壕―日本兵が支配した洞窟(沖縄県庁職員
    女子防空監視隊員
    避難民)
    補遺編 沖縄戦の経過

  • [ 内容 ]
    沖縄県本島南部にはガマとよばれる自然洞窟がいくつもある。
    半世紀前の戦争中にこのガマは避難壕として軍・民双方に使用されていた。
    本書に登場する「アブチラガマ」も「轟の壕」もそうした避難所のひとつだった。
    ガマでなにが起こっていたのか。
    人びとの忘却の彼方にあったこれらガマの記憶をたどる石原教授たちの調査行は、取材開始から25年の歳月を要することになる。
    半世紀をへて、よみがえる真実とはなんだったのか?
    裁かれざる「犯罪」は放置されたまま、闇のなかに眠るのか。
    「洞窟の惨劇」はいま姿を現そうとしている。

    [ 目次 ]
    第1部 アブチラガマ(糸数壕)―陣地・病院・軍民同居の洞窟(洞窟陣地壕―1945年2月~4月30日 南風原陸軍病院糸数分室―1945年5月1日~6月2日 軍民一体化―1945年6月3日~8月22日)
    第2部 轟の壕―日本兵が支配した洞窟(沖縄県庁職員 女子防空監視隊員 避難民)
    補遺編 沖縄戦の経過

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 図解がいい。一級の資料だ。そして中身に関しては、現地のガマに入る前に読むか、入ってから読むか。それが問題だ。

  • 「沖縄の旅」と題名が頭についているので、一瞬、観光案内かと思ったが、そんな生易しいものではなく、沖縄戦のアブチラガマと轟の壕での様子が克明に記されている。

    悲惨を通り越して、もはや地獄の阿鼻叫喚の図だ。戦争だからと言って許されるはずのない日本兵の沖縄人に対する蛮行の数々。沖縄の人々を盾にしながら、ゲリラ戦を行っていたのだ。

    こんな事態になったのは、終戦工作をすべきだと進言した近衛文麿に対して「モウ一度戦果ヲ挙ゲテカラデナイト中々話ハ難シイト思フ」と述べた天皇の言葉があったからだと書かれている。

    25年もかけて取材活動をされた作者に敬意を表したい。

全14件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

(いしはら・まさいえ)
1941年、台湾宜蘭市生まれ、沖縄県那覇市首里出身。沖縄国際大学名誉教授。沖縄の生活史、戦争体験などの研究。主著は『虐殺の島――皇軍と臣民の末路』(晩聲社、1978)。『大密貿易の時代――占領初期沖縄の民衆生活』(晩聲社、1982)(2000年に『空白の沖縄社会史――戦果と密貿易の時代』に改題して出版)、『郷友会社会――都市の中のムラ』(ひるぎ社、1986)、『沖縄の旅・アブチラガマと轟の壕――国内が戦場になったとき』(集英社新書、2000)、『国家に捏造される沖縄戦体験――準軍属扱いされた0歳児・靖国神社へ合祀』(インパクト出版会、2022)等多数。1970年から沖縄県史、各市町村史字誌などの編纂執筆にかかわる。沖縄の各平和資料館企画に参加。第三次家永教科書訴訟(沖縄戦部分)や沖縄靖国神社合祀取消裁判等の専門家証人として証言。全戦没者刻銘碑「平和の礎(いしじ)」の刻銘検討委員会元座長等歴任。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

「2023年 『沖縄の生活史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石原昌家の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×