疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065343852

作品紹介・あらすじ

疲労することが恥とされてきた欧米では、疲労の研究はタブーとされ、結果として、日本が世界の疲労研究をリードしてきた。しかしいま、うつ病や新型コロナ後遺症によって、疲労は世界共通の大問題となってきた! どうすれば科学的なアプローチができるのかもわからなかった疲労研究において、疲労の度合いを正確に測定する方法などを開発して世界のトップランナーとなっている著者が、そもそも疲労とはなにか、ヒトはなぜ疲労するのか、疲労を起こすメカニズムはどのようなものかを説く、かつてなかった疲労を科学する本!

感想・レビュー・書評

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  • ヘルペスウイルスを研究していた著者が、「疲れるとヘルペスが出る」という現象を利用して行った疲労に関する研究とそこから発展していった研究、それらの研究から考察されることをまとめた一冊。
    疲労の種類や、うつ病の危険因子であると考えられる遺伝子「SITH-1」、新型コロナウイルス後遺症など、様々な観点で疲労について述べている。

    聞いたことのない用語が多く、自分には本の内容の5,6割しか理解はできなかったかもしれない。
    しかし要点は繰り返し解説されていて巻末には用語の索引もあり、読者が分かりやすいように工夫されているのが感じられた。
    疲労への対処に関する情報は多くなかったけれど、疲労回復力を高めるために必要なこと等、参考になる部分があって良かった。
    また、ヘルペスのウイルス研究がうつ病の研究へと繋がっていったことをはじめ、様々な研究が繋がりながら進展していくのがとても興味深い。
    今後研究が進み、うつ病の治療法や予防法が確立されることを期待したいと思えた。
    疲労の研究に限らず様々な分野の研究が大切に扱われ、より大きく発展していくと良いなと感じた。

  • 疲労って、身体や精神に負荷を与えると感じるもので、それは人の感受性でレベルは変わるし、例えばきつい仕事でも、自分のためになると言うポジティブな気持ちでいたら、疲労なんて感じないでしょ、と思っていたが、どうやらそんな単純なものではないようだ。
    疲労には、①生理的疲労 ②病的疲労 があり、生理的疲労の疲労感は、末梢組織の炎症性サイトカインが脳に入ることで生じるとのこと。
    「疲労は精神の持ちよう」と言う考えは「疲労感がマスクされる」と言い、これも心身疲労を気付かずに無理をし、心筋梗塞や脳卒中等で急死する原因となるようだ。

    専門的な単語が多く、説明もついていけないところは多かったが、それは著者がSITH-6と言う疲労やうつ病の原因となる遺伝子を発見したと言うことで、それなりの説明を要したのだろう。
    一般の人は、あまり専門的なことより、題名「疲労とはなにか」にある通り、そのメカニズムがイメージ出来るだけで充分。なので、詳しく述べているところは飛びし読み。

    学べたこと
    うつ病の定義で、次のどちらかがあることは必須。
    ・殆ど一日中、抑うつ気分を感じる
    ・殆ど一日中、すべての活動に興味や喜びを感じない

    うつ病は病的疲労であり、主な症状の一つは疲労感。それは脳内炎症によって生じる。
    そしてS1TH-1と言う遺伝子は、うつ病を引き起こす原因とみられる。

    うつ病になりやすい性格の特徴は、真面目、仕事熱心、秩序やルールに忠実、献身的、責任感が強い、頼まれると嫌とは言えない、といったものが挙げられ、ストレス耐性が低い性格ともいえるが、ストレス耐性の高い人の性格を見ると、対人関係に極めて鈍感で戦力にならないという結果が出るようだ。

    脳の抗炎症機構が正常に働いていれば、労働や運動による疲労で炎症性サイトカインが大量に産生されても、脳内炎症は起こらず、病的疲労にまでは至らない。

    疲労感は組織に危機が近づいていることを知らせる「生体アラーム」なので、疲労感を弱めてしまってはいけない一方、身の危険から逃げる時は疲労感による行動抑制は、死に直結する。そこで役に立つのが、ストレス応答によって疲労感を抑制するシステム。
    しかしこの状態は、副腎皮質ホルモンとアドレナリンやノルアドレナリンによって「疲労感」が抑制されているだけなので、「疲労」即ちeIF2αのリン酸化による細胞の障害は、どんどん蓄積され過労死に至る。

    怖いエナジードリンク
    酸化ストレスは、生理的疲労の原因であるeIF2αのリン酸化を誘導する因子の一つ。
    エナジードリンクに入っている抗酸化成分は、このeIF2αリン酸化を抑制する可能性がある。ところが実験の結果、疲労感のもととなる炎症性サイトカインが最も強く起こる肝臓ではeIF2αリン酸化は抑制されたが、他の組織では全く抑制されていなかった。
    恐ろしいのは、抗酸化剤によって疲労感のもとになる肝臓で産生される炎症性サイトカインが減少するため、脳は「疲れていない」と解釈し、体を休ませるシグナルを出さないことだ。このため、他の組織を使って過剰なeIF2αリン酸化を生じさせてしまい、組織の障害や、ひいては突然死を招いてしまう可能性があるのだ。

  • 疲労と疲労感の違いさえ、よく分かっていなかったのでとても勉強になった。
    コロナの後遺症やウツなど、身近な例が挙げられていて分かりやすかった。疲労とは脳の炎症だった。
    真面目な部分も良かったけれど、SF的な見解と前置きして語られていた箇所が特に面白かった。ロマンがあふれていた。この部分だけで本を出して欲しいと思った。

  • 疲労と、ヘルペスウイルスの再活性化と、コロナ後遺症と、うつ病と。
    これらの病態やメカニズムが繋がった!という話。疾患概念の歴史的背景や、著者の発見に至るまでの道筋も含めて、とても面白く読んだ。
    ここに書かれていることの真価や妥当性は、周辺知識を勉強したり歴史の評価を待ったりする必要があるとは思うので、うつ病やコロナ後遺症の原因が分かった!とまで言っていいかは割り引いて捉える必要があるとは思う。とはいえ、この発見にまつわるストーリーには興奮させられた。コラム的な脱線話を適度に織り交ぜつつも、全体的に非常にコンパクトにまとめられており、サクッと読めてしまうのも良かった。
    図解も含みながらとてもわかりやすく書かれているので、基礎知識ゼロでも十分楽しめると思う。分子生物学的な知識(遺伝子の転写とか翻訳とか)があると、よりスムーズに理解できそう。

    疲労に関する科学・医学があまり進んでいないというのは、意外な感じもしつつ、なんとなく納得もした。疲労と疲労感は別物だという話もあったが、私たちが日常で疲労と呼んでいるものにも、実際はいろんな種類があるのだと思う。疲労の科学が進んで、より色々なことが統合的に理解されると良いと思う。

  • 疲労と疲労感の違い、疲労にも生理的疲労と病的疲労がある。
    ストレス応答で疲労感は抑制されるというのは意外だが、読んでてなるほどと思えた。
    病的疲労の一つ、うつ病は脳内炎症で、SITH-1遺伝子が原因。
    新型コロナ後遺症は慢性疲労症候群に似ているため、その治療薬は抗うつ薬となる可能性がある。
    ウィスル増殖や脳外から加わる炎症性サイトカインは炎症を増加させるアクセルではなくブレーキの故障。
    疲労は脳の炎症でなくすことはできず、うつをなくすことも得策ではない。
    で?となったが、万能薬はないので日々体調を確認しながら共存していくしかないのね。
    33冊目読了。

  • 難しくて面白くないと感じたが、「疲労とは何か」を解明しようとする試みには腑に落ちた。疲労のメカニズムに光を当て、日々の生活での戦いに勇気を与える内容だった。

  • 生理的疲労と病的疲労という2種類の疲労があり、後者は脳内炎症を伴うことが特徴とのことです。病的疲労の代表がうつ病であり、そのメカニズムは新型コロナウイルス後遺症と深い関連があることが述べられています。
    結論から言えば、うつ病の原因とされるウイルス由来の遺伝子SITH-1が発現して作られるタンパク質と、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に含まれるS1が、似たような経路で脳内炎症を起こすとのこと。

    かなり分かりやすく解説されていますが、専門用語も多く、ある程度背景を知っていないとなかなか読むのに苦労しそうです。
    エナジードリンク(というか抗酸化物質?)に頼って無理をすることが危険な理由や、軽い運動が本当に疲労を軽減させるメカニズムが書かれており、普段の生活の参考にしようと思いました。



    まず生理的疲労の「疲労感」とは体の各所で起こる炎症によって産生された炎症性サイトカインが(血液脳関門を通って)脳に届くことによって生じます。特に肝臓で産生される炎症性サイトカインが疲労感に影響しているとのことです。
    一方で、疲労感の原因、すなわち「疲労」は、eIF2αというタンパク質がリン酸化されることが発端です。労働・訓練などの負荷やストレスによってリン酸化酵素が誘導されると、結果的に炎症性サイトカイン産生やアポトーシスにつながっていきます。

    ところで、我々の体にはHHV-6というヘルペスウイルスが潜んでおり、これもeIF2αのリン酸化によって再活性化し、唾液中に増加します。
    このHHV-6が嗅球のアストロサイトに感染し、それが持つ遺伝子SITH-1(シスワン)が発現すると、細胞内のカルシウム濃度を増加させます。すると嗅球のアポトーシスが起こり、脳内でアセチルコリン産生が低下します。アセチルコリンが減ると抗炎症経路が効かなくなってしまいます。いわばブレーキを失った状態です。さらに、疲労によって産生された炎症性サイトカインが脳内に到達すると、炎症のブレーキが効かずに脳内炎症が発生します。

    新型コロナウイルスのS1も同じで、嗅球のアポトーシスを引き起こしてアセチルコリン産生を低下させ、抗炎症経路が効かなくなったところに、コロナウイルス感染によって起きた肺での炎症に由来する炎症性サイトカインが供給され、脳内炎症が起こります。
    コロナウイルスにかかると前述のHHV-6も再活性化するので、コロナウイルスがなくなった後も、HHV-6のSITH-1のせいで先ほどと同じメカニズムで後遺症として症状が長引くとされています。
    いわばS1とSITH-1による脳内炎症のリレーです。

    現在、新型コロナウイルス後遺症の治療薬として治験中のドネペジルが、抗うつ薬としても使えるのではないかと期待されています。

  • 定量的な疲労の研究は非常に興味深い。

  • ウイルスが知ってるっつうから、疲労はウイルスが引き起こすのかと思ってたら、疲労によりウイルスが活発に活動するようになるので、それを調べれば疲労の程度が測れるということかと思ってたら、究極の疲労、うつ病の原因がウイルスであるという大転換。

    そもそも、疲労と疲労感は違う。
    疲労感を抑えることで疲労が進行し、下手すりゃ過労死する。

    生理的疲労と、病的疲労も違う。

    疲労に関わる炎症性サイトカインという物質が疲労感の原因であるが、これがまた、口唇ヘルペスのウイルスを活性化して、そいつがうつ病の因子となる。
    うつ病発症して、仕事辞めるより自死を選んだりすることも、脳の炎症を抑える機能がまず低下した後で、疲労により脳が炎症を起こすのでもう、正常な判断が出来ない。

    武漢肺炎による倦怠感、後遺症も、実は仕組みがそっくりなんだそうだ。

    言葉濁しているが、悪名高いコロナワクチンもこれを引き起こす原因になると、言っちゃってますよね?

    実に興味深い内容だった。当たりのブルーバックス。

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著者プロフィール

近藤 一博(東京慈恵会医科大学教授)
1958年三重県生まれ。愛知県と大阪府で育つ。
大阪大学医学部卒業後、大阪大学附属病院研修医、
大阪大学微生物病研究所助手、
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー、
大阪大学医学部微生物学講座准教授を経て、
東京慈恵会医科大学ウイルス学講座教授。
同・疲労医科学研究センター センター長を兼任。
日本ウイルス学会評議員、日本疲労学会理事。
著書に『疲労ちゃんとストレスさん』
『うつ病は心の弱さが原因ではない』(河出書房新社)がある。

「2021年 『うつ病の原因はウイルスだった! 心の病の最新知見Q&A』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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