猫弁と狼少女

著者 :
  • 講談社
4.25
  • (40)
  • (46)
  • (13)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 267
感想 : 39
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065328200

作品紹介・あらすじ

累計40万部突破、大人気「猫弁」シリーズ最新作!冴えない容貌、天才的な頭脳……自分のことは後回しで人の幸せを第一に考える稀代のお人好し弁護士、百瀬太郎。婚約者である大福亜子と同居中で、幸せをかみしめている。猫がらみの脅迫事件の依頼を受けて調査中、未成年者略取の疑いをかけられて留置場に!当番弁護士の、「透明人間」こと沢村透明以外との面会を断り、事件については黙秘を貫く百瀬。警察から連絡ももらえず蚊帳の外に置かれた亜子は、百瀬を信じ切れるのか。振り切った亜子がとった行動とは。沢村透明のもとに武者修行に出ていた縁から一緒に百瀬のために奔走する直は、そのなかで自らの進む道を見つける。七重と野呂は相変わらずの賑やかさで百瀬を信じ、支え、事務所を守っている。百瀬は留置場でも法律相談会を開いている。そして自らの過去を振り返る。【百瀬太郎】という人間は、どうやって形成されたのかーー「猫弁エピソード0」とも言える作品です。今まで「猫弁」を読んだことがない人でも大丈夫!今作からでもお楽しみいただける、そんな優しくあたたかい作品です。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  異次元の頭脳のキレを見せる人権派天才弁護士・百瀬太郎の活躍を描く。

     東京大学在学中に司法試験に合格し、首席で卒業した百瀬の選んだ職種は弁護士。
     だが、たまたま扱った世田谷猫事件を円満解決に導いたことで、世間から「猫弁」と認識されてしまった百瀬。持ち込まれる依頼の多くは当然ペット(特に猫)に絡む問題だった。はっきり言えば儲からない。

     けれど、それがどんな依頼であろうと誠実に取り組む百瀬は、今日もペット絡みの案件解決に奔走する。シリーズ9作目 ( 第2部4作目 )
             ◇
     靴を脱ぎ捨てようとしても足が思うように動かない。息を大きく吸い込んだところで百瀬は目が覚めた。
     ふと目をやると足の上でテヌーが寝そべっている。脱げない靴の正体に思い至った百瀬は、先ほどまで見ていた夢を思い出した。

     小学生時代に出会った1人の少女。その娘は掌の中の青い石を百瀬に見せ、裸足で走り去って行く。そして百瀬が「待って」と叫んだところでいつも目が覚めるのだ。時々夢に見る、百瀬にとって忘れられない想い出だった。
      ( 第1章「しゃれこうべ」) 全5章。

         * * * * *

     「狼少女」というから、狼に育てられた少女かと思ったら、嘘つき少女のほうでした。

     虚言癖のある人は精神的な問題を抱えている場合が多いと聞いたことがあります。
     例えば、よく叱られる子どもが叱責を免れるために頻繁に嘘をついたり、好きな人の気を引くためについ作り話をしたりするのも、心の中に空虚や飢餓を抱えているからだそうで、そんな人は虚言癖が高じてパーソナリティ障害を誘発することもあるといいま す。

     物語に出てくる狼少女・るりも家庭環境から考えてそのタイプかと思いましたが、双子の妹で全盲のあかねを喜ばせるところに、彼女の嘘は起因していたのでした。
     人を幸せにするための嘘。この設定はとてもよかったと思います。


     それから、これまでの作品と違ったパターンで物語が展開したことが新鮮でした。

     まずペットが絡むのはほんの少しで、その代わりに、るりの「狼」少女ぶりが主であるところ。この変化球は楽しめました。

     次に、逮捕されて留置所暮らしとなった百瀬がいつものように奔走できなくなったため、留置所内から指示を飛ばすという安楽椅子探偵ぶりを見せてくれたところ。事件を見通す神がかり的な推理力は見どころでした。

     最後に、百瀬の指示を受けて奔走するのが、引きこもり弁護士・沢村透明と百瀬事務所バイト職員の正水直だったところ。このコンビ設定は秀逸だと思いました。

     さすが大山さん。まったく退屈させない作りに感心するばかりです。ついでに言えば、留置所内で百瀬が無料法律相談を行ったシーンも笑えました。
     百瀬はこんなところでも法の下の平等に則り、人々の幸せのために法律を行使しようとするのですね。


     そしてレギュラー陣の人間関係の変化も盛り込まれていました。

     まず、直が百瀬の下を離れて、沢村専属の助手( 秘書?)になったこと。直が瞬く間に沢村の母親と仲よくなってしまったのも予想外でおもしろかった。実に恐るべし、直のコミュ力。

     そして何より大きいのが、百瀬と亜子が入籍に踏み切ったこと。これで2人は法律上も夫婦になりました。亜子の両親の後押しも大きい。
     「お嫁さん」を夢見る乙女チックな女性だった亜子が、妻としての責任と権利に目覚めていく描写には心温まるものがありました。 ( ただ、料理下手が改善されないところと、百瀬から罰金を取りまくるところはどうかと思いますが……。)

     野呂法男と仁科七重の登場シーンが少なめなのは淋しかったですが、今回も八方丸く収まって楽しく読了できました。

  • 〈猫弁〉シリーズ第2シーズン第4作(長い)。

    今回は百瀬が未成年者略取及び誘拐未遂で逮捕されるという大ピンチ。
    弁護士が逮捕されるという大スキャンダルの筈なのだが、事務所は至って通常営業。いや、むしろ忙しいくらい。
    百瀬は至って冷静、だが警察や検察の取り調べに対しては一貫して黙秘。これもきっと考えあってのことだろうと黙って見守ることにする。
    すると拘置所の中ですら百瀬は百瀬だった。即席に法律相談が始まる。

    これまでシリーズに登場してきた人々が百瀬のサポートに集まる。野呂はいじけつつも事務処理に猛進、七重はわあわあ言いつつも事務所内を整える。
    書き忘れたが、事務所は入っていたビルの建て替えのために移転。その移転先もまたこれまでのシリーズ作品と縁のある場所だ。
    そしてこれまたシリーズ作品に登場した人物が新たなメンバーとして加わる。

    忘れてはいけない亜子はもちろん不安もありつつも前を向く。何しろこれまでも紆余曲折のあり過ぎた二人なのだ。こんなことで揺らぎはしない。また亜子の両親の反応も意外で嬉しかった。

    今回も様々な事件が見事に収束する。
    百瀬が巻き込まれた誘拐未遂事件、百瀬が依頼を受けた脅迫事件、依頼人の近所で起こる化け猫事件、そして百瀬が小学生時代に短い期間交流した少女との思い出。
    プライベートでは亜子とのその後。
    また事務所ではこれまで七重により黄色く彩られていたドアが移転後はどうなるのか。
    沢村と共に、時に彼以上に百瀬のために奔走した正水直のその後。
    長くシリーズを追いかけていると、様々なその後が読めて楽しい。

    ここは本当に優しい世界。辛いことがあっても苦しいことがあっても理不尽なことがあっても、ここに来れば癒され力が湧いてくる。前を向いて頑張ろうという気持ちになれる。直のように最初に思っていたのと違う道になっても良い、ちょっと寄り道したり休んだり、そういうことがあっても良い。きちんと受け止め向き合ってくれる人たちや猫たちがいてくれる。

    〈シリーズ作品〉
    第1シーズン
    ①猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち
    ②猫弁と透明人間
    ③猫弁と指輪物語
    ④猫弁と少女探偵
    ⑤猫弁と魔女裁判
    第2シーズン
    ①猫弁と星の王子
    ②猫弁と鉄の女
    ③猫弁と幽霊屋敷
    ④猫弁と狼少女 本作

  • 涙と笑いが込み上げる一冊。

    今回も非の打ち所がないほっかほかの出来栄え。

    初っ端から百瀬&亜子の生活に笑いが止まらない。が、そこから一転、百瀬に災難がふりかかる。

    いつなんどきでも冷静沈着、周りに尽くす百瀬のブレない姿勢、温かさにはじんわり。
    この彼の人としての根っこは小さなトゲのような少女との思い出と共にあったことに涙した。

    メンバーの輝きと優しさもたまらない。

    特に亜子の、家庭という器に徹した強さが眩しかった。

    周囲の支え、見守る優しさが至るところで不意打ちの涙として待ちかまえている。
    この罠のような瞬間が一番好き。

  • 今のところ、猫弁シリーズの最新刊。
    まだまだ続いてくれたらありがたいけれど、百瀬と亜子も正式に夫婦になった訳だし、そろそろ打ち切りだろうか。いや、まだこれから2人の挙式もあるし、百瀬ジュニアの誕生も見てみたい!大山先生、よろしくお願いします♪

  • 大山淳子の猫弁と狼少女を読みました。
    猫弁シリーズです。
    狼少女とは何かなと思ったら嘘つきのことでした。
    主人公の相変わらずの、マイペースの変わったところは面白かったです。
    これもドラマになって欲しいですね。

  • 笑えて泣けて優しくて温かい。
    いつも通りの百瀬に周りで、みんなが圧倒的な成長を見せる最高会心のストーリー!

    みんな良いけど、地味ながら説得力と破壊力に満ちた年長者(野呂さん、七重さん、亜子さんご両親)の言動が特に印象に残っています。

  • 猫弁シリーズのシーズン2、第4弾。
    キーワードがたくさんある。
    ・迷い猫
    ・化け猫
    ・座敷童
    ・塀の上の少女
    ・ピンクの靴の落とし物
    ・双子
    今回の依頼人は、船乗りの夫を亡くしたばかりの還暦過ぎの女性、左野麦子(ひだりの むぎこ)
    迷い猫を保護してから、おかしなことに巻き込まれる。

    猫弁こと百瀬太郎(ももせ たろう)は、猫や動物に関わる事件ばかりを扱う、と言われているが、子供が関わる事件も多い。
    幸せとは言えない状態にある子供や若者に寄り添うことで、寂しかった子供の頃の自分を救っているようにも見える。
    弁護士資格を持った大人である今では分かる。
    仕方なかったよ、間違っていなかったよ、頑張ったよ。
    そんなふうに、過去の自分に言ってあげられるのだ。

    今回も幸せなラストで良かった。
    百瀬と亜子の関係もゆっくりながら進んでいるし、割と収まるところに収まった感の若者たち。
    シリーズ、終わったりしませんよね?

    第一章 しゃれこうべ
    第二章 スキャンダル
    第三章 嘘
    第四章 風の少女
    第五章 ひまわり

  • 猫弁新作。心がぽかぽかする小説群は最近多くなったが、心の疲弊のリセットとして個人的に猫弁シリーズさえあれば、後は特に読まなくていいと思ってる。本作は、猫弁の百瀬弁護士がが少女誘拐?嫌疑で逮捕拘留され不起訴釈放になるまで、物語の約4分の3が留置場にいる関係で、いつも以上にサブキャラが大活躍する回となった。もちろん本筋ストーリーの解決の切れ味は良く、小エピソードも全て回収するので、読後の幸福感はハンパない。すっかりサブエピソードの同居中の百瀬と亜子もやっと入籍となるけど、なぜ婚姻届にサインを要求するのかの下りはとても感動的で素敵なシーンだった。激押し。

  • 笑って泣ける。

  • ハラハラと感動ものでいつもながらの百瀬さん。
    彼の人柄のおかげで周りの人は何かしら幸せな気持ちを味わえる。
    今回もお人好しの為に降り掛かる災難。
    そして涙の結末。亜子さんだけでなく私も百瀬さんが大好きです。

全39件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

東京都出身。2006年、『三日月夜話』で城戸賞入選。2008年、『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。2011年、『猫弁~死体の身代金~』にて第三回TBS・講談社ドラマ原作大賞を受賞しデビュー、TBSでドラマ化もされた。著書に『赤い靴』、『通夜女』などがあり、「猫弁」「あずかりやさん」など発行部数が数十万部を超える人気シリーズを持つ。

「2022年 『犬小屋アットホーム!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大山淳子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×