世界インフレの謎 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065294383

作品紹介・あらすじ

なぜ世界は突如として物価高の波に飲み込まれたのか?

ウクライナの戦争はその原因ではないことは、データがはっきりと示している。
では"真犯人"は……?
元日銀マンの物価理論トップランナー、異例のヒット『物価とは何か』の著者が、問題の核心を徹底考察する緊急出版!

なぜ急にインフレがはじまったのか?
だれも予想できなかったのか?
――経済学者も中央銀行も読み間違えた!

ウクライナ戦争は原因ではない?
――データが語る「意外な事実」

米欧のインフレ対策は成功する?
――物価制御「伝家の宝刀」が無効になった!

慢性デフレの日本はどうなる?
――「2つの病」に苦しむ日本には、特別な処方箋が必要だ!

本書の「謎解き」は、世界経済が大きく動くダイナミズムを描くのみならず、
日本がきわめて重大な岐路に立たされていることをも明らかにし、私たちに大きな問いかけを突きつける――
前著よりさらにわかりやすくなった、第一人者による待望の最新論考!

【本書の内容】
第1章 なぜ世界はインフレになったのか――大きな誤解と2つの謎
世界インフレの逆襲/インフレの原因は戦争ではない/真犯人はパンデミック?/より大きな、深刻な謎/変化しつつある経済のメカニズム
第2章 ウイルスはいかにして世界経済と経済学者を翻弄したか
人災と天災/何が経済被害を生み出すのか――経済学者が読み違えたもの/情報と恐怖――世界に伝播したもの/そしてインフレがやってきた
第3章 「後遺症」としての世界インフレ
世界は変わりつつある/中央銀行はいかにしてインフレを制御できるようになったか/見落とされていたファクター/「サービス経済化」トレンドの反転――消費者の行動変容/もう職場へは戻らない――労働者の行動変容/脱グローバル化――企業の行動変容/「3つの後遺症」がもたらす「新たな価格体系」への移行
第4章 日本だけが苦しむ「2つの病」――デフレという慢性病と急性インフレ
取り残された日本/デフレという「慢性病」/なぜデフレは日本に根づいてしまったのか/変化の兆しと2つのシナリオ/コラム:「安いニッポン」現象
第5章 世界はインフレとどう闘うのか
米欧の中央銀行が直面する矛盾と限界/賃金・物価スパイラルへの懸念と「賃金凍結」/日本版賃金・物価スパイラル 116
参考文献
図表出典一覧

感想・レビュー・書評

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  • 『物価とは何か』の著者による。二冊読めば更に理解が深まる。タイミング的にコロナ禍の終盤の出版であり、コロナ禍の経済影響についての考察はリアリティがあって分かりやすい反面、若干の古さが惜しい。それがあっても尚、有益な本だ。

    アメリカではパンデミック初期の景気悪化によりレイオフが急増したが、経済再開が進むうちに次第に求人は回復していた。それにもかかわらず労働者が現場に戻ってこなかった。理由は、母国に帰った移民や退職を早めた老人など。こうした自発的離職の増大は人手不足を齎した。これがパンデミック2年目にアメリカにインフレを引き起こした原因だと著者は解説する。

    インフレ率と失業率の相関を示すフィリップス曲線。因果、相関の様々な因子は複合的に存在するが、原則はフィリップス曲線に基づく論理展開だ。つまり、簡単に言うと、人が足りないという事は、産業が元気。人が足りないから賃金を上げて募集しないと。人が足りない、物を作れないほど需要が旺盛。人手不足を示す失業率とインフレは、こんな感じで結びついている。

    日本だけがインフレ率が低いという状態だった。インフレ率が低いということ自体は大きな問題ではないが、率の差は、内外価格差を生む。本来、日本だけが価格不変、他国がインフレならば、「円高」になるはずであり、円高になれば、内外価格差は起こらなかったはず。サービスや賃金は国内取引が基本であり、この内外価格差は、為替レートに影響しない。パンデミックに対する各国の対応にも差が生じた。

    今、気になるのは漸くインフレに向かう日本の今後の動向だ。スタグフレーションにならぬためには、同時に賃上げも必要。政府主導でなければ賃上げにも動けない日本は、最早、資本主義より社会主義に近いのかも知れない。そして、心のどこかで、それで良いと思う面もある。それでも良いから、人手不足感を保ったまま、スタグネーションにならぬよう賃上げの成功を仕上げて欲しいものだ。

    • Tomoyukiさん
      法整備や社会的圧力によって、大企業の内部留保を吐き出させ、労働者の賃金上昇に向かわせることは可能かもしれませんが、日本の大多数を占める中小企...
      法整備や社会的圧力によって、大企業の内部留保を吐き出させ、労働者の賃金上昇に向かわせることは可能かもしれませんが、日本の大多数を占める中小企業にそれができるかどうか難しいところだと考えています。
      2024/03/04
    • rafmonさん
      Tomoyukiさん
      コメント有難うございます。私もそう思います。
      商品やサービスに価格転嫁ができなければ、賃上げ原資を得られないため、労務...
      Tomoyukiさん
      コメント有難うございます。私もそう思います。
      商品やサービスに価格転嫁ができなければ、賃上げ原資を得られないため、労務費負担を先に負う経営側の判断は難しく、仰る通り、ベアとなると継続的な負担にもなりますので。この成否が一つの試金石かな、と思います。
      2024/03/04
  • 前作の「物価とはなにか」も大変面白くタメになった本であったが、こちらは今世界で起こっているインフレの解説と、本作発売時(昨年秋)の日本のデフレ状態から、どのように脱却するかの処方箋がより分かりやすく解説されている。

    本作では、今回の世界的インフレが需要過多でなく供給不足にある新しい形である事が、その対策を難しくさせている事を指摘している。このくだりは中々説得力があり、これゆえに米欧のインフレは収束に手間取る可能性が高いのかもしれない。

    今現在TMFを多少買っている私は損切りも検討しないといけないかもしれない。昨年秋発売時にすぐ読んでいればよかった・・泣き

    日本だけインフレがおきない状態からの脱却として、「物価賃金スパイラル」のモデルを通してその脱却法を本書では示している。上手くいくかどうかは私には判断できない。

    ただ、この本が発売されてからほぼ一年。日本もすでにインフレ状態になっているのは間違いないように感じている。日銀は頑なにまだ2%のインフレが定着してないように言っているが、生活者の実感としては少なくとも1割は上がっているように感じる。

    異次元緩和の副作用で、インフレになった時には金利の調整でインフレを抑えられない日本はどうするのでしょう。

  • なぜ今政府主体で賃上げを企業に要請するのか?まるで社会主義国のようだな。

    企業は利益が出ない限り、賃上げなんて要請に答えられないのが当然で、要請に答えられる会社は儲かっている会社だけだ。って自分なりに考えていたけど、
    この本を読んで考えがゴロッと変わった。

    低金利政策が効果がなく、次にトリクルダウン政策が効果がなく、
    その結果、次は賃上げ政策だというのが経済学者の考えだったのだ。
    やはり官僚の考えることは偉い。

  • 面白かった。
    安倍政権の頃
    民間人の給料を上げるように働きかける。。。と
    繰り返しニュースで流れていた。
    そうは言っても会社も大変でしょうに、などと
    のんきに思っていた。が、しかしそれは日本だけの異質な社会状況だったわけだ。
    賃金も商品価格も日本では
    ゆるゆるとぬるま湯のように
    諦め半分、慰め半分固定されていたが
    それではダメらしい。
    思えば、40年前の新卒の頃のお給料と、今のお給料もさほど変わらないというのは、、いささかおかしいといえばおかしい。
    色々わかりやすく解説されているのでおすすめです。

  •  今のインフレは、サプライチェーンが寸断された脱グローバル化の影響として供給過小がより進行しており、需要過剰ではなく供給不足によるインフレとの見方や、サービス産業が製造業と比べて衰退するが日本は衰退産業から成長産業への人材移動がうまくいかないという現象などについて、肌感覚として分かっていることが、言葉としてうまく説明されており分かりやすかった。
     本書で全体的に書かれていることは、巷に経済理論一般としていわれていることの焼き直し感が拭えなかったが、全体として難しくとっつき辛いテーマを、割と平易な分かりやすい言葉で説明されていた。

  • 世界インフレはコロナウイルスによって行動を変化させたことによって起こった。日本のデフレを当然のものとして捉えていたけど、世界的に見たら特異な例で、賃金、物価とも緩やかに安定的に上昇していくのが望ましいことなのだと思う。

  •  ベストセラーとなった「物価とは何か」の続編。前作ではフィリップス曲線の式中にインフレ予想の項を導入する「自然失業率仮説」を議論の中心に置き、長期においてはインフレ予想を市場が織り込んでしまうことによる金融政策の不奏効とそこから生じる先進国のフィリップス曲線の「平坦化」、さらに日本独特の要素として価格据え置き慣行長期化により醸成された物価予想の「ノルム」が紹介されていた。本作では、前作では想定されていなかったコスト-プッシュインフレの様相が強まったことを受け、コロナ災禍で労働供給サイドの行動様式が変化したことで供給ショックが生じフィリップス曲線が「断絶化」したことが議論の端緒となっている。

     中銀のインフレターゲット政策がノミナルアンカーとして機能しているにも関わらず、フィリップス曲線が安定した従来の緩やかな傾きを逸脱し、急激なシフトを生じたことの背後には、著者によれば「現代の物価理論が想定していないような事態」があるという。この点をモデルに組み込むため、著者はフィリップス曲線の式に新たな項を導入する。それがインフレの供給要因を表す「X」であり、「コロナ後の各種行動様式変化(サービス消費↓、モノ消費↑、労働供給↓、脱グローバリゼーション)によりこのXが急激に切り上がったことでフィリップス曲線の上方シフトが生じ、均衡点が高インフレ側に移動した」というのが著者の仮説だが、基本的に議論は前作のほぼ延長線上にあると言ってよい。

     前作と異なるのは、バブル崩壊以降日本に根付く「ソーシャルノルム」、つまり価格据え置き慣行の堅固さを改めて示しながらも、コロナ災禍移行の日本の消費者アンケートに見られるインフレ予想上昇と値上げ受容姿勢から、賃金改定も視野に入れたノルム更新のチャンスが到来している、と指摘している点だろう。しかし同時に、前作で言及のあった人々のインフレ予想の自己実現化と同じように、賃金上昇期待も「自己実現化」していくとすれば、そこに安定を逸脱する力学が働きインフレを亢進させてしまう危険性がある、と注意喚起もしている。情報経済学、特にゲーム理論に基づく「不信の連鎖」による均衡不成立を説く点は前作同様である。

     全般的に、金融政策は需要インフレには対処できるが供給面ではほぼ無力であるため奏効しない、というケインジアン的主張を維持している。また2013以降の日銀の大規模金融緩和が為替レートを本来あるべき方向とは逆方向に動かしたため、日米の実質賃金格差が拡大したことを指摘しているが、個人的には大いに賛同できる主張だと思う。なお本書出版後、日本の名目賃金解凍のために欠かせないと著者が主張するコストの価格への転嫁の動きが、一部大企業で見られる点も興味深い。これは終章後半で著者がいう政府主導を企業が先取りした形であり、私的セクターに「公共の視点」が根付いた(本書の「行動様式の変容」)ことの兆候であれば好ましい事態と言えると思う。

  • マクロ経済のお話は、どこに「真理」があるのか、わからない。大まかな「ことわざ」のような定石の考え方はあったとしても、それが全ての局面を説明できるわけでもなく、結局、論者ごとの立ち位置によって、さまざまに色彩の異なる、それらしいことを言っているようにも思う。数理的に扱う場合も、おそらく計測の限界があり、基本恒等式を検証することはできても、動的なシステムの真の挙動を十分な精度で説明することも難しいし、振動周期やオーバーシュートの予測を実現させることはできていないのだと思う。帰納的な見解の集合でしかないのかもしれない。

  • 日本のデフレがどうして起きたのか、そしてどうするのがいいのか、わかりやすく説明されていた。

  • インフレはロシアのウクライナ侵攻前から。コロナによるパンデミックによる。
    しかもこれまでのインフレと異なる。だから中央銀行が機能しない。

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著者プロフィール

東京大学大学院経済学研究科教授

「2023年 『日本の物価・資産価格』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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