漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972-2022 (講談社現代新書)
- 講談社 (2022年7月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065290125
作品紹介・あらすじ
労働運動の攻防、社会党の衰退、国鉄解体の衝撃。
左翼はもう存在感を取り戻せないのか?
左派の未来の可能性を問う、「左翼史」第三弾!
【本書の目次】
序章 左翼「漂流」のはじまり
第1章 「あさま山荘」以後(1972-)
第2章 「労働運動」の時代(1970年代1)
第3章 労働運動の退潮と社会党の凋落(1970年代2)
第4章 「国鉄解体」とソ連崩壊(1979-1992年)
終章 ポスト冷戦時代の左翼(1990年代-2022年)
【本書の内容】
・共産党で起きた「新日和見主義事件」
・内ゲバ「川口大三郎事件」の衝撃
・東アジア反日武装戦線と「三菱重工爆破事件」
・「日雇い労働者」をオルグする方法
・労働運動で「布団屋」が繁盛した?
・吉本隆明が左翼に与えた影響
・「郵便番号を書かない」反合理化闘争
・「革新自治体」「革新首長」のムーブメント
・上尾事件と首都圏国電暴動
・社会党の弱体化と「江田三郎の追放」
・「国鉄民営化」と中曽根康弘の戦略
・土井たか子という尊皇家
・衰退した社会党、生き残った共産党
・メディアが「エリート化」した弊害
・新しい左翼と「ヴィーガニズム」「アニマルライツ」
・「ウクライナ侵攻以後」の左翼とは ……ほか
感想・レビュー・書評
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全体的に悲壮感溢れる3巻目。それこそ、現在の左翼が存在感を示せないことの表れであろう。左翼の衰退の様がよくわかる本だ。
資本主義社会に疲れてくると、やはり共産主義に希望を抱きたくなる。
しかし、現在の左翼政党や団体にその希望を預けられるかと言うと否である。
歴史は繰り返すものであるなら、左翼の暴走もまた起こるだろう。その時、過去より少し正しい選択ができると良い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
第三弾にして最後。
難しくて、十分に理解できていないと思います。
あさま山荘事件を契機に新左翼が失墜した後、
現代に至るまでの左派の流れです。
一言でいうと、左派が弱体化し漂流する歴史。
学生運動を中心に存在感を見せた新左翼が凋落の一途を辿り
労働運動へ焦点が移り
社会党や共産党という既成左翼が再び主導権を握る。
しかし冷戦以降社会党は生き残れず、
共産党は別の生態系として生き残る。
ウクライナ戦争の進行とともに左翼的価値がもう一度
見直される可能性があると佐藤さんは考えているそうです。
個人的には、労働運動の頃、郵便番号制度が始まり、
手作業が減ったことでそれに反発する運動(郵便番号を書くのをやめましょうと呼びかけ)がおこったとか、
昔日本でもストライキがあって例えば国鉄のほぼすべての列車が休止になったことで、それならトラックで輸送してもらおうという風潮が広まりクロネコヤマトのような会社が宅配便サービスを開始、国鉄の貨物輸送に比重が下がり赤字増大→国鉄分割民営化に繋がる
のようなエピソードが面白かったです。
まあ、よく頑張って読んだなという感想です。 -
シリーズ最終巻。
この辺りから、だんだん知っている名前も増えてきて面白い。
本作では革マル派、中核派、民青などに加え、労働組合の物語が強くなってくる。
中でも国鉄時代の労働運動は大変に興味深い。
ただし、上尾事件や首都圏国電暴動などは1973年の事件ということで全く知らず。
こんな恐ろしい事件があったのかということにひどく驚いた。
スト権スト、だとか、半合理化闘争だとか、ちょっと私の世代では考えられないほどの無駄で生産性のない動き。
本当に時代というものは変わっていく。
また、メディアの考え方もこんなに今とは違うのか、と驚く。
左翼とはなんなのか。
今や「パヨク」などとあげつらわれ、一方でいまだに暴力革命を信じ、しかしながら存在感は逆張りでしか示せない。
人々は、労働組合を忌避し(労働法でいう労働者の権利保護につながらないから?)、環境問題やジェンダー問題を提起すると「ヒダリ」と馬鹿の一つ覚えが如く叩きまくる。
繰り返し問う。
左翼とは、なんだったのか? -
20世紀末頃、自分が少しの間通っていた都内の大学では革労協が自治会を牛耳っていた。あさま山荘事件で学生運動がその支持を失い、低迷が決定的になっていた時代だったが、校門の前には角ばった文字で政治的主張をする立て看板が置かれていたものだ。(遠い目)
当時革労協は狭間派と木元派に分裂、木元派が自治会を掌握していた。そんな中、学内から閉め出された狭間派がキャンパスに侵入し、旗竿持ってシュプレヒコールを上げたりしていた。安保闘争の頃ほどじゃないが、かなり不穏な時代だった。
当時は学園祭も自治会が管理していて、まあおそらく学生から集めた学園祭の費用は革労協にも流れていたのだろう、それを快く思わない大学当局は「資金を学園祭の開催前に半分、終了後に残り半分出す」と学園祭の実行委員会に通達してきた。期間中何か問題が起こればその残り半分はやりませんよと。
前年泥酔した学生が校舎から転落した事故を受けての通達ではあったが、お金が足りなくなったら君たちでなんとかしなさいとのたまう。
実行委員会には所謂「ノンポリ」の学生も混ざっていたが、かかる「姑息な不正義」に怒り、当局に対しデモを敢行、100名規模の学生が集った。
過激派の居る自治会など学生が支持するはずがないと高を括っていた当局は慌てて前言を翻し、全額が無事交付された。
それはそれで良かったのだが、その学園祭で弁論部が元国連事務次官の明石康氏を招き講演を依頼したことに対し自治会は難色を示した。理由はよくわからない。結局隣の寺院を会場に借り講演は行われることになったものの、学内に貼られた講演のポスターは自治会によって全て剥がされた。ここでも「不正義」が行われていた。
「…共産党は、…前衛思想と民主集中制の剄木から逃れられずに行き詰まっているというのが本書の分析だ」(p184)というのは、左翼全般に当てはまる気がする。
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左翼の中の人ではなく、外から見た視点(正確には元中の人)。左翼活動への諦めからくる乾いた論調。
成田、テルアビブ、三菱重工など歴史の1ページから現在までを書いている。環境破壊、性的多様性、原発反対、九条だけでは政権取るの難しいと思う。 -
3部作シリーズ。全作品読んだ。ソ連崩壊後に生まれた世代としてはそれ以後の共産党、左翼についての知識を得る機会がなかったのでお勧め。
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ほとんどの国民が労働者であり、労働者の権利を守るためには労働組合やストが重要なはずなのに、その労働組合の意義が理解されていないの何故なのか、ずっと分からなかったが、この本で分かった気がした
また、ソ連崩壊の歴史的な意義についてはいろんな読み物を読んだつもりだったが、その影響の広さを理解できていなかったことも分かった気がする
著者らが共産党を嫌いなのは前々書、前書で分かっていたので、共産党の評価に関する記述は少し引いて読む。 -
シリーズの3冊目。
このお二人の本の中で最も価値のある本だと個人的には思いました。特に最近の左派、共産党、学生運動的なものについての考察は今までになく感銘を受けました。
いわゆる革命に対する成就への時間的感覚の差については指摘をされる機会が少ないように思いますが、様々なところで当てはまる根本的な背景であると感じる。
左派的な活動に親和性があったからこそ内部の実情というか、見えるものがあるのだろうと率直に。
詳細の名前や出来事は覚えてないし覚えようとも思わなかったですが、家にこのシリーズは置いておこうと思えます。 -
ものすごく入ってくる内容
自発的な最大結社 日本共産党 -
池上彰、佐藤優著『漂流日本左翼史 : 理想なき左派の混迷1972-2022 (講談社現代新書 ; 2667)』(講談社)
2022.7発行
2023.12.21読了
日本社会党は1986年に党の綱領を変更し、革命政党の旗を下ろした。その後は社会民主主義の路線に切り替え、1996年には社民党に党名を変更するなどイメージの刷新を図るが、党勢は振るわず、衰微の一途を辿っている。
一方、日本共産党は、日本社会党が失ったマーケットを一部引き継ぐ形で、冷戦後も生き残ることに成功したが、反戦の旗を下ろしてナショナリズムに傾倒してしまった結果、別の生態系になってしまったという。
本書では、左翼的価値観を見直す必要性を訴えているが、日本共産党以外に影響力のある左翼政党はなく、依然として厳しい状態が続いている。
URL:https://id.ndl.go.jp/bib/032243272