遠い指先が触れて

著者 :
  • 講談社
3.25
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本棚登録 : 245
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065288436

作品紹介・あらすじ

「一緒に、失くした記憶を探しに行こう」。彼女の言葉で、僕らの旅は始まった。
過去を奪うものたちに抗い、ままならない現在を越えていく、〈愛と記憶〉をめぐる冒険。
デビュー作『鳥がぼくらは祈り、』、芥川賞候補作『オン・ザ・プラネット』を超える、鮮烈な飛躍作!

「ねえ、覚えてる?」--両親を知らずに育ち、就職した僕〈一志〉のもとに、見知らぬ女性が訪れる。
〈杏〉と名乗る彼女は忘れていた過去を呼び起こし、僕の凡庸で退屈な日常が変化していく。
不可視のシステムに抵抗し、時間の境界を越える恋人たちの行方は――?

「文体が映像として浮かび上がる二人の視点の入れ替わりは、痛みを等価交換するように再生する、発明だ。」
映画監督・内山拓也(「佐々木、イン、マイマイン」)推薦!

感想・レビュー・書評

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  • ⚫︎感想
    ストーリーでは二人の記憶が一つに収束していき、描き方では「僕」と「私」の視点が混ざり合い一つに見えるようにも仕掛けてあって、文章でこういう試みができるんだなぁと思った。

    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)

    「一緒に、失くした記憶を探しに行こう」。彼女の言葉で、僕らの旅は始まった。
    過去を奪うものたちに抗い、ままならない現在を越えていく、〈愛と記憶〉をめぐる冒険。
    デビュー作『鳥がぼくらは祈り、』、芥川賞候補作『オン・ザ・プラネット』を超える、鮮烈な飛躍作!

    「ねえ、覚えてる?」--両親を知らずに育ち、就職した僕〈一志〉のもとに、見知らぬ女性が訪れる。
    〈杏〉と名乗る彼女は忘れていた過去を呼び起こし、僕の凡庸で退屈な日常が変化していく。
    不可視のシステムに抵抗し、時間の境界を越える恋人たちの行方は――?

  • 僕と私の輪郭が交わりほどけて溶け合う。
    触れているのは僕なのか私なのか。私の知覚が僕に流れ込み、僕の触覚が私をとらえる。
    あるはずのない指先のその先にあるのは誰の感覚なのか。

    同じ施設で過ごしたらしい僕と私。
    覚えていない幼いころのこと。重ならない二人の記憶。
    記憶…そう、自分という存在を形作っていくその源である「記憶」。
    その記憶の揺らぎ。
    人の記憶というものの存在。あるかなきか。本当にあったことと記憶の祖語。
    薄れていく記憶のカケラ。失われた記憶の行き先。形のないものの輪郭をなぞっていく。
    僕の、あるいは私のその輪郭。
    そこにあるべき何か。それをたどる今はない指先。
    島口大樹が紡ぐその縁取り。
    圧倒的な描写で目の前に浮かぶ文字の景色。
    目の前にあるのは文字の列。でも見えるのだ、そこに映像が。
    今まで経験したことのないような浮遊感。足元が揺れる。私の一部もそこに溶け出す。この小説の中で他我のにじみに身体をゆだねる。こんな体験は初めてかもしれない。

  • 遠い指先が触れてというタイトルがとても難解な気がしてましたが、冒頭の電車内での一志の世界の認知の仕方に思いを馳せていく中で、
    「彼の毛髪に触れた感覚はなかったが、左手の、ないはずの指先に、触れた感覚はある」「いつからか事実になり、そして誰がいったかの記憶は欠落していた」
    特にこの二文は我々読者にも想像がし易いしく何かがあったが無いように感じたり、自己認知から別の人から言われた事実が呑み込めなてないことは日常生活でもたまに起こり、あるべきであるとう事象において変更を余儀なくされるとこのように心と体が乖離するような経験はよくあります。

    一志のように身体の損傷、怪我や恋人との急な別れ、職場でも移動などect..

    その中でもふわふわ生活していた一志に杏という女性との接触により自分の中で欠落していた記憶に対して動き出していくというのがストーリーです。
    一志は受け身で自身に記憶が欠落しているかもしれないという以前から他人軸のような発言が多く、反対に杏は自分軸で好奇心から大山へたどり着く道を探し行動する果敢さがストリート通して一貫しているから最後の結末へたどり着いたのだともいます。

    私自身自己認知と他者の評価が一致しなく生きているのだけどふわふわしてるように感じることは多々あります、それでも世界は回りますしきっと今自分が見えている世界で創造を膨らます以上の世界があると思います。
    両親に守られていた幼少期のように、自分の器以上の事を理解しようとして杏のように再度記憶を消してある種壊れてしまうようなら、一志のようによくわからない事はそっといていくというこは一つの選択肢なのかもしません 指は最初からなかったですが遠くの何かに触れるという表現が考え深く読了後もふわふわした感じがした好きな小説でした。

  • 主人公の元へ、児童養護施設で一緒だった「杏」と名乗る女性が訪ねてくる。
    杏が語る2人が幼少時にされた事とは─。

    タイトルと装丁で読んだんですが、すごく内容にマッチしてると思う。
    意識があっちへ行きこっちへ行きする、「僕」と「私」が混じりあっていく、のを文章に起こしたような文体。
    (文学的なんだけど、この本の後は理路整然としたミステリーを読みたくなった)
    「失った記憶も私の人生の一部だから」~ってテレビドラマのテンプレみたいな台詞を読みながら、児童養護施設ってことは十中八九ろくでもない児童虐待の記憶では…?と思ってたけど。知らない方が幸せなこともあるよね。
    芥川賞系統だな~って、後味。

  • 難しい…!僕と私と、一つの文章の中で主体が変わっていく。記憶とは。

  • 文字のボリュームと文章の雰囲気から「わりとサクッと読めるかな。」という最初の印象は早々に外れる。
    僕の視点と彼女の視点が1ページの中で何度も入れ替わり、じっくりたどるようにしか読み進められない。
    二人の関係性を表しているのだろう。
    次回の芥川賞候補になりそうな作品。

  • 金原ひとみさんの書評にひかれて読んだのだが,やはり芥川賞は苦手。話としては良い話だと思った。

  • お気に入りの作家以外は新刊を買う事はほぼ無いのにタイトルと帯に惹かれて書店で購入。文章の途中で主な登場人物である一志と杏の主観が入れ替わる文体が新鮮で軽やかな印象だが、反して嵐の前の静けさなのだなと予感させられるようでもある。設定が2人とも児童養護施設にいた事、杏の職業が新宿のキャバ嬢で、裏の世界の噂話から繋がる大山という怪しい男が登場する事などから中村文則著作が過り、とある韓国映画も思い出しつつ読み終えた。大人が消したほうがいいと判断するくらいの記憶なら私なら追及しないと思うけど、それでも自分のものだから返して欲しいと挑む思いが無垢ではなく切実な空虚である登場人物たち。この境界は物語の結果以上にやるせない。

  • 久しぶりにこんなに良い本が読めた、凄かった
    素敵な言い回し(何回読んでも理解できない表現もあったけど)がたくさんあって全体的にお洒落だったし、
    一文のうちに語り手が代わるのも、読んでいて心地よかった。
    記憶を見てからの鬱展開に自分もかなりショック受けてしまった、、
    一志のそれからを、ふとした時に度々考えてしまうと思う
    心に残る作品だった。

  • ここで展開される視点の切り替え方は斬新だ。
    章ごとに語り手が切り替わるのはよくある手法だけど、この作品では同一の文章内でも切り替わる。
    これにより自我と自我を認識する自分、自分の自我に気づいているであろう相手の意識が溶け合っていく。
    新しい才能だ。

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著者プロフィール

しまぐち・だいき
1998年、埼玉県上尾市生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。現在、会社員。「鳥がぼくらは祈り、」で第64回群像新人文学賞を受賞。

「2023年 『鳥がぼくらは祈り、』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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