- Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065288436
作品紹介・あらすじ
「一緒に、失くした記憶を探しに行こう」。彼女の言葉で、僕らの旅は始まった。
過去を奪うものたちに抗い、ままならない現在を越えていく、〈愛と記憶〉をめぐる冒険。
デビュー作『鳥がぼくらは祈り、』、芥川賞候補作『オン・ザ・プラネット』を超える、鮮烈な飛躍作!
「ねえ、覚えてる?」--両親を知らずに育ち、就職した僕〈一志〉のもとに、見知らぬ女性が訪れる。
〈杏〉と名乗る彼女は忘れていた過去を呼び起こし、僕の凡庸で退屈な日常が変化していく。
不可視のシステムに抵抗し、時間の境界を越える恋人たちの行方は――?
「文体が映像として浮かび上がる二人の視点の入れ替わりは、痛みを等価交換するように再生する、発明だ。」
映画監督・内山拓也(「佐々木、イン、マイマイン」)推薦!
感想・レビュー・書評
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遠い指先が触れてというタイトルがとても難解な気がしてましたが、冒頭の電車内での一志の世界の認知の仕方に思いを馳せていく中で、
「彼の毛髪に触れた感覚はなかったが、左手の、ないはずの指先に、触れた感覚はある」「いつからか事実になり、そして誰がいったかの記憶は欠落していた」
特にこの二文は我々読者にも想像がし易いしく何かがあったが無いように感じたり、自己認知から別の人から言われた事実が呑み込めなてないことは日常生活でもたまに起こり、あるべきであるとう事象において変更を余儀なくされるとこのように心と体が乖離するような経験はよくあります。
一志のように身体の損傷、怪我や恋人との急な別れ、職場でも移動などect..
その中でもふわふわ生活していた一志に杏という女性との接触により自分の中で欠落していた記憶に対して動き出していくというのがストーリーです。
一志は受け身で自身に記憶が欠落しているかもしれないという以前から他人軸のような発言が多く、反対に杏は自分軸で好奇心から大山へたどり着く道を探し行動する果敢さがストリート通して一貫しているから最後の結末へたどり着いたのだともいます。
私自身自己認知と他者の評価が一致しなく生きているのだけどふわふわしてるように感じることは多々あります、それでも世界は回りますしきっと今自分が見えている世界で創造を膨らます以上の世界があると思います。
両親に守られていた幼少期のように、自分の器以上の事を理解しようとして杏のように再度記憶を消してある種壊れてしまうようなら、一志のようによくわからない事はそっといていくというこは一つの選択肢なのかもしません 指は最初からなかったですが遠くの何かに触れるという表現が考え深く読了後もふわふわした感じがした好きな小説でした。 -
難しい…!僕と私と、一つの文章の中で主体が変わっていく。記憶とは。
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文字のボリュームと文章の雰囲気から「わりとサクッと読めるかな。」という最初の印象は早々に外れる。
僕の視点と彼女の視点が1ページの中で何度も入れ替わり、じっくりたどるようにしか読み進められない。
二人の関係性を表しているのだろう。
次回の芥川賞候補になりそうな作品。 -
ここで展開される視点の切り替え方は斬新だ。
章ごとに語り手が切り替わるのはよくある手法だけど、この作品では同一の文章内でも切り替わる。
これにより自我と自我を認識する自分、自分の自我に気づいているであろう相手の意識が溶け合っていく。
新しい才能だ。