最終列車

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065263525

作品紹介・あらすじ

 いま、新型コロナウィルスが猖獗をきわめていますが、これもいつかは終息することでしょう。しかし、コロナは日本人の生活の形式(エートスといっていいかもしれません)を確実に変えました。
 コロナ禍が終息し、国内外の観光客が戻ってきても、日本の鉄道はかつての姿を取り戻すことはないでしょう。通勤客が以前と同じ程度にまで戻ることはなく、出張のための移動も減るに違いありません。ある調査では、3割程度の会社員が感染終息後もリモートワークを続けるという見通しが出されています。
 正確にいえば、すでにコロナ禍の前から、少子高齢化による通勤客の減少や、それにともなうラッシュ時の混雑率の低下が都市部の多くの鉄道で少しずつ起こっていました。これは「小林一三モデル」の崩壊といえるでしょう。
 阪急の創業者、小林一三は、1910(明治43)年に箕面有馬電気軌道(現・阪急宝塚線および箕面線)を開業させたのと同時に、沿線の池田に分譲住宅地を開発し、梅田までの通勤客をつくり出すことで、私鉄会社の経営を軌道に乗せました。この手法は後に、東急など多くの私鉄が模倣するようになり、世界でも珍しい私鉄経営のビジネスモデルとして称揚されました。ところがコロナ禍によって、一世紀以上にわたって続いてきたこのモデルが通用しなくなる時代が本格的に到来したのです。
 戦争も自然災害も鉄道に甚大な被害をもたらしたが、復旧すれば客が戻ってきました。一方、コロナ禍は利用客の完全な回復を困難にした点で、戦争や自然災害を上回る危機を鉄道業界にもたらしたことになります。
 では、コロナ禍という未曽有の危機から脱却し、鉄道業がふたたび脚光を浴びる可能性はあるのでしょうか。ポストコロナの時代にふさわしい新たな価値を、鉄道は創り出すことができるのでしょうか。
 著者の原氏は2019年まで講談社のPR誌『本』(2020年休刊)「鉄道ひとつばなし」を長期連載し、多くの読者を楽しませてくれました。本書は同連載のうち単行本化されていないものを収録し、あらたに「ポストコロナ時代の鉄道」についての考察を加えたものです。鉄学者原氏にとって本書は、文字どおり「最終列車」であると同時に、氏の思索の「ダイヤ改正」と「始発列車」の予告となるものです。

感想・レビュー・書評

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  • 鉄道を軸にしながら、天皇、政治、文学の領域を行き来する原武史先生。この本もいつもの感じでテンポよく話は読んでいくことができる。

    ただ最終列車というタイトルが意味するところを考えると寂しくもなり、次の旅があすから始まるのだと前向きにもなれたりもして、不思議な感覚になった。

  • <目次>
    第1章  菊と鉄道
    第2章  駅と西武と
    第3章  鉄路の空間政治学
    第4章  年々歳々
    第5章  列車はなにを運ぶのか?
    第6章  鉄道と私
    第7章  コロナと鉄道

    <内容>
    近現代の政治思想史の原さん、鉄道関係の本。講談社のPR誌「本」に連載していた最後の部分と「群像」に2021年に書いた記事を編集、加筆したもの。「本」の連載は『鉄道ひとつばなし1~3』『思索の源泉としての鉄道』となっている(『鉄道ひとつばなし』は現在電子書籍のみ…)。朝日新聞土曜別冊beにも「歴史のダイヤグラム」を連載しており、鉄道と政治思想を絡めた内容は、他の追随がないのではないか?自身の経験も加味され、今縮小しか考えていない、各鉄道会社への厳しい指摘が多い。

  • JR批判、公共(平等な)交通機関としての鉄道。

  • 政治思想の専門を軸に鉄道に着いて縦横無尽に考察する雑誌『本』『群像』に連載されたエッセイ。

    筆者の本は単に鉄道マニア向きというにはハイレベル。鉄道の知識よりも政治思想の成分が非常に濃い。その割に売れるのは、鉄道マニアの裾野が広いのか、それとも別の筆者のファンが多いのか。

    あえて分類すれば歴史テツに近いといえようか。

    どんな読者が多いのか気になる。

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著者プロフィール

1962年生まれ。早稻田大学政治経済学部卒業,東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授,明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。98年『「民都」大阪対「帝都」東京──思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『皇后考』(講談社学術文庫)、『平成の終焉』(岩波新書)などがある。

「2023年 『地形の思想史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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