生涯弁護人 事件ファイル2 安部英(薬害エイズ) カルロス・ゴーン 野村沙知代・・・・・・

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (466ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065261101

作品紹介・あらすじ

安部英(薬害エイズ事件)、カルロス・ゴーン、野村沙知代・・・マスコミを騒がせた問題人物は本当に罪を犯したのか。「悪人」に仕立てられた人たちの知られざる素顔と事件の真相。絶対的に不利な状況から数々の無罪判決を勝ち取り、「無罪請負人」と呼ばれる弘中淳一郎弁護士が初めて公開する全事件簿。マスコミと刑事司法が作り出した虚構のストーリーの裏に隠された、知られざる物語に、あなたはきっと驚愕する。

村木厚子事件(厚労省郵便不正事件)、小澤一郎事件(陸山会政治資金規正法違反事件)、鈴木宗男事件、マクリーン事件、クロマイ・クロロキン薬害訴訟、医療過誤訴訟、三浦和義事件(ロス疑惑)などを扱った「事件ファイル1」も同時刊行。

感想・レビュー・書評

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  • 2分冊になっている、弘中弁護士の「生涯弁護人」の2巻目。1巻目、2巻目ともにボリュームがあり、本書は460ページを超える。2冊で、1,000ページ近くなるが、とても面白く短期間で読むことが出来た。
    1巻目も興味深い事件が取り上げられていたが、この2巻目も面白い事件が取り上げられている。安倍英医師の薬害エイズ事件。野村沙知代事件。そして、カルロス・ゴーン事件。その他にも興味深い事件が多く取り上げられている。安倍医師の事件、カルロス・ゴーン氏の事件は、これまで新聞やテレビの報道などで知っていた内容、感じていた印象が大きく変わった。安倍医師、ゴーン氏に対しての検察起訴・逮捕は、全くの冤罪だという考えに変わった。弘中弁護士は、本書の中で、実際の事件での弁護団の弁護方針・戦略、更には、証拠等の具体的な内容についても触れており、本書に描かれているストーリーは信ぴょう性が高い(実際に安倍医師は無罪になっている)。また、ゴーン氏の逮捕・起訴・裁判の進行に関しては、「日本の司法制度は前近代的である」との批判が外国から多く寄せられていたことも、あらためて思い出したし、本書を読めば全くその通りだと思う。
    ひとつひとつの事件に真摯に取り組む誠実さ。事件の核心を理解し、それを弁護方針・戦略に生かす弁護士としての腕の良さ。実際の弁護の場面での労力のかけ方や実務的な能力など、実際に事件に巻き込まれて弁護士が必要になった場合には、是非とも弘中弁護士にお願いしたいと感じた。
    本書のあとがきに、ご本人が書いている自分に関しての描写は下記の通り。1,000ページ近い本の中で読者が感じるであろうイメージと全く異なるが、こういったつもりで「生涯弁護人」を務めておられたのであろう。
    【引用】
    私は、そんな考え方なので、とりたてての主義主張もなく、誇るべき専門領域も著書もなく、地位名誉にも縁遠く、財をなすこともなかったが、半世紀の間、そのときどきの事件に首を突っ込んで、私なりに好奇心を満足させてきた。そのうえ、このような形で、それらをひとまとめにできて、一人悦に入っている次第である。
    【引用おわり】
    とても格好良い。

  • 弘中弁護士が携わってこられた印象的な事件や社会的影響の大きい事件を中心に、事件概要や弁護士としてどう関わってきたか、裏話などを含めて語られている。
    難しい法律用語も多い中で、素人にもわかりやすいように解説されているので読みやすい。
    なにより担当されている事件が興味深いものが多く、面白く読めた。
    日本の司法の問題点も理解できる。

  • 検察の調べ方に問題があるのはわかったが、
    被告人の罪については、素直に弁護士の主張通りなのか疑問に思った。

  • 自身の弁護経験に基づく「司法の現状」を紹介。
    これは同時に「日本社会の現状」とも言えるし、
    「日本人の無関心・無責任さ」への指摘ともいえる。
    そういう意味で、なかなか読んでいてツライ。

    私は図書館予約の都合上②を先に読んだが、
    文中には①からの流れを含む表現も時々出てくるため、
    事件ファイル①から順に読むことをお勧めする。

  • 日本の司法制度の問題点を炙り出す小説はかなり読んできたつもりだが、当事者の経験と視点によるノンフィクションの前には沈黙してしまう。たとえ弁護人という一方からの独善的な偏りがある立場だとしても。それほど重く深い作品だ。国策捜査の闇を暴いた佐藤優氏の「国家の罠」と共に多くの日本人に読んでもらいたい作品。図書館で借りている都合で事件ファイル1は未読なので、早く読みたいと思っている。特に村木厚子事件は丹念に読みたい。

  • 1、2巻合わせて1,000ページを越す大著だが、事案一つ一つがスリリングであっという間に読んでしまった。
    本書の数々の事案の中には村木さん事件のように検察の証拠ねつ造の暴露で詳しく知っていたものもあったが、相当の誤解をしたり、メディアの虚構に惑わされたケースがたくさんあることを知り驚いた。その最たる例が薬害エイズ事件だ。20年以上も前のことなのに、この方は悪人ではなかったの?と思いがするほど、すり込まれていた。メディア・司法・受け身で情報を理解する我が身の問題が凝縮されている。そんな中で著者のように正義感を持って行動する専門家がどれだけ有り難く心強いことか。
    本書の中にえん罪がなくならないのは、国民の間に悪いやつを捕まえて、早くよそへやって欲しいという願望があるのではないか、それが1つのえん罪を生むことがあっても犯人を逃さないで欲しい、という思いにつながっているのではないかとの趣旨の記述がある。問われてハッとしたが、一方的な検察批判、裁判所批判だけでは収まらない恐ろしさ、根の深さを感じた。

  • 生涯弁護人
    事件ファイル2
    安部英 カルロス・ゴーン 野村沙知代・・・・・・

    著者:弘中惇一郞
    発行:2121年11月30日
    講談社

    日本における最強弁護士のひとり、弘中惇一郞氏による記録。ファイル1では、厚労省の村木厚子氏、政治家の小澤一郎氏、鈴木宗男氏、ロス疑惑の三浦和義氏を弁護した時のことを書いていた。村木、小澤はまったくの冤罪を見事に晴らし、ロス疑惑も銃撃事件は無罪、殴打事件を有罪としている。鈴木は有罪で実刑判決。

    この本を読む前まで、高い弁護料を払えば無罪を勝ち取れるんだなあと思っていたけど、ファイル1、ファイル2を読んで、それは誤解であり、弘中弁護士は高額な報償をもらって動く「無罪請負人」ではないことが分かった。

    ファイル1では、上記の他、薬害のクロマイ事件やクロロキン事件、医療過誤事件も。その中で、検察による実にえぐい「人質司法」を訴え、マスメディアによる不公正な報道批判を展開した。ファイル2でも、安部やゴーン、野村など副題にある有名人のほか、下館タイ女性殺人事件や小学生交通事故事件など、弱者とともに裁判を闘った記録も紹介している。また、誰もが巻き込まれる可能性がある痴漢冤罪事件などもあり、周防監督にも協力してもらった事案も出てくる。それが、映画「それでも僕はやってない」にもつながっていく。

    無罪を勝ち取ったものだけでなく、取れなかった案件も結構出てくる。また、まるで手弁当、弁護士報酬なし、交通費だけ出してもらったという案件も。支援者の一人がパチンコの名手で、交通費が必要になると勝負を賭けて必ず勝ってきたそうだ。著者も感心しきりだった。

    著者は浩瀚な2冊の書を通し、終始、検察批判をしている。およそ先進国とは思えないような「人質司法」により、長期の拘束と脅しなどを交えた厳しい取り調べで精神的に追い詰め、用意された検察のストーリーへと無理矢理持っていく。国際的には常識である取り調べにおける弁護士立ち会いも認められず、押収した資料は独り占めし、弁護側から公開請求があっても都合のいい資料しか出さない。日産の事件では、契約した業者にコピーさせているから1年かかると、信じられないような口実で資料を出しを渋ったことも書かれている。

    最も勉強になったのは、刑事弁護において決して「ヤメ検」弁護士を雇ってはいけないという点だ。ヤメ検は検事の気持ちがよく分かるだけに、どうしても検事側にあわせてしまう部分があるそうだ。完全無罪が勝ち取れる案件も、執行猶予付きでまとめてしまう、なんてこともあるのではないか。

    検事の〝天下り〟も著者は厳しく批判している。社会のいわゆる上流階級で「優秀な刑事弁護人を教えてほしい」と声がけをすると、紹介されるのはたいていヤメ検だそうである。その理由について推測を交えながら書いているが、東京では4大とか5大とか言われる大手法律事務所が上場会社の顧問の大半を引き受けている。検察官を退職して弁護士登録すると、そのような事務所が受け入れてくれる。そうした「ヤメ検ネットワーク」で仕事が回り、大企業の顧問弁護士や監査役として安定収入を得る。「検察には私の後輩がいるから心配いらない」と。これは警察OBがパチンコ店や風俗店に入るのと同じだと指摘する。政治家や大企業のトップが関わる有名刑事事件には、最初はたいていヤメ検がつくのも、こうした理由からだそうだ。

    2冊の本を読んでいると、あんな事件までテクニックで無罪にしやがって、不公平だ、と思っていたものについて、やっぱり無罪だな、これは、と思えてくる。もちろん、弁護側の一方的な主張だからという頭はあるが、それでも読者を味方につけてしまう。さすがは最強弁護士である。カルロス・ゴーンの件も、裁判をしていれば無罪に近い判決が出たのではないかと思えてきた。

    そんな中、ただ一つ、これだけは無罪だと思えないものがあった。薬害エイズ事件だ。一審無罪は許せないと、この本を読んでも思う。

    ●薬害エイズ事件

    1980年代~90年代初頭、血友病患者に投与された非加熱血液製剤によりHIV(エイズウイルス)に感染し、エイズを発症して死亡する事例が発生した。帝京大学附属病院で内科長を務め、帝京大学の副学長でもあった安部英は、適切な治療方針を樹立しなかったとして業務上過失致死罪に問われた。治療に当たっていたわけではないので、あくまで内科長としての治療方針を問われたのである。

    彼は1996年8月に業務上過失致死容疑で逮捕され、9月に起訴された。また、それに先立つ7月には衆議院での証人喚問も行われている。
    著者は公判での弁護人や証人喚問での補佐人を務めた。その結果、2001年3月に一審で無罪判決が出た。

    無罪判決が出たとき、僕は激しい憤りを覚えた。90年代、仕事でエイズに関して随分勉強し、横浜での国際エイズ会議の取材もした。安部英の傲慢な人間性や昔ながらの考え方(権威主義、俺が絶対)によって引き起こされたようなものだと思っていた。彼が製薬会社から資金援助をしてもらっていたという報道もあった。しかし、本書を読むと最初から著者は彼の無罪を信じていたようだ。そして、ジャーナリスト櫻井よし子(右翼思想の持ち主でジャーナリストと言えるかどうか疑問)、毎日新聞、新潮社などのマスメディアのあり方を厳しく批判し、いかにも安部を悪人に仕立て上げようとしていると指摘している。

    それはそうかもしれない。マスメディアはそういう面が今回に限らずある。しかし、著者が批判するマスメディア的な印象操作は、この本で著者自身も行っていることがわかる。
    ・厚生省が設置したエイズ研究班会議において、安部が東大第一病院時代に出会った血友病患者Aの症例について検討が行われていた。帝京大附属病院に下痢、発熱、発疹などの症状で入院していたが、アメリカの文献を読むうちにエイズかもしれないと考えた安部は、研究班会議で「エイズの疑いが強い」と何度も強く主張して認定を求めた。しかし、塩川優一医師ら田のメンバーから強硬に反対され、認定されなかった。
    ・後にその患者Aはエイズ感染していたことが判明したが、もし認定されていたら日本におけるエイズ認定患者第一号になっていた。
    ・塩川医師は安部と東大医学部で友に学んだ同窓生。結局、その後、日本におけるエイズ認定患者第一号に認定されたのは塩川が教授を務める順天堂大学の患者だった。
    ・エイズ研究班の解散後に新たに設置された「AIDS調査検討委員会」の委員長に塩川がなり、安部には声がかからなかった。

    こんな風に著者は書いている。P49-50。これを読むと、塩川は認定患者第一号に関して自分の名前を残したいがために安部の患者について否定したといわんばかり。厚生省もグルだった。そんな印象操作を著者自身が本書しているのではないか。僕はそう感じた。

    また、「血友病の場合は内臓や脳で出血したらすぐに止血しないと命にかかわるため、多少の不安があっても(HIV感染が疑われている)非加熱製剤を簡単にやめるわけにはいけなかった」と書いているが、僕が当時取材した中では、そうであっても非加熱製剤を使わないでくれと頼み込んでいた患者も大勢いたのである。著者は本書でそういうことには触れていない。当時の医学でいえば、血友病も命にかかわるが、HIV感染も命にかかわる大病発生の可能性が高かったのである。だから、著者のこういう書き方は極めて偏った言い分なのである。まあ、弁護士だから当然だが。

    他にも薬害エイズに関することは、ツッコミどころが多かった。

  • 前著が面白かったので、本著も読んでみた。
    カルロス・ゴーン事件が気になったので、メディアが報道しない裏側が書かれていて面白かった。

  • ファイル①②と、2冊構成になっており、ページ数もそれなりあるが、平易な文章で読み易かった。
    内容も素人の私には、新鮮だった。
    大津事件の伝統もあり、漠然と日本の司法に対して、ある程度の信頼感を抱いていたが、全くの幻影だと悟った。
    有罪率を上げる為、証拠の捏造、改竄を厭わない検察。検察や、マスコミの印象操作に踊らされ、公正な判断が出来ない裁判官。著しく冤罪のリスクが大きい日本の司法制度。
    徴用工を巡る、政治や世論に阿る韓国の裁判所の判決を見て、何て遅れてるんだと感じていたが、日本の司法制度も同様で、明治以来全く進歩していない。
    カルロス・ゴーンの事件、ロス疑惑についても、マスコミの報道をそのまま信じてはいけないと思った。鈴木宗男や小沢一郎に対するイメージも変わった。

  • 一巻に続き、読み始めたら最後。ずっと読んでいたくなる。読者に「真実を知りたい」と思わせる一冊。

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著者プロフィール

弁護士、法律事務所ヒロナカ代表。一九四五年、山口県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。七〇年に弁護士登録。クロマイ・クロロキン事件などの薬害訴訟、医療過誤事件、痴漢冤罪事件など弱者に寄り添う弁護活動を続けてきた。三浦和義事件(ロス疑惑)、薬害エイズ事件、村木厚子(郵便不正事件)、小澤一郎事件(「陸山会」政治資金規正法違反事件)など、戦後の日本の刑事訴訟史に残る数々の著名事件では無罪を勝ち取った。

「2021年 『生涯弁護人  事件ファイル2 安部英(薬害エイズ) カルロス・ゴーン 野村沙知代・・・・・・』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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