天使のナイフ 新装版 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 911
感想 : 64
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065237663

作品紹介・あらすじ

犯人は、13歳の少年だった。

娘の目の前で、桧山貴志の妻は殺された。犯人が13歳の少年3人だったため、罪に問われることはなかった。4年後、犯人の1人が殺され、桧山が疑われる。「殺してやりたかった。でも俺は殺していない」。法とは、正義とは。デビュー作にして、少年犯罪小説・唯一無二の金字塔。

感想・レビュー・書評

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  •  読後、さまざまな事件の被害者家族の報道が、頭の中に浮かんできた。実名をさらされ、プライバシーに踏み込まれた被害者家族は、裁判で戦うことで、なんとか悲しみの中で生きていこうとしているのだと思えた。
     主人公桧山の妻は13歳の少年たちによって殺害される。遊ぶ金欲しさの強盗殺人だ。加害少年たちが見つかるものの逮捕されるのではなく補導だという。少年法によって守られる加害者たち。マスコミに追われ、好奇の目にさらされる被害者。更生とは何か。贖罪とは何か。
     児童自立支援施設を訪ねた桧山は、同じように何らかの事件を起こしたのであろう少年たちが、野球に興じる様子に怒りを募らせる。当然の感情だ。自分の大切な人がそのようなめにあったら、絶対に許すことはできない。では、加害者がどんな姿であることを望むのか。

     被害者と加害者が複雑に絡み合う怒涛の展開で、ドキドキしながら一気読みした。立場が変わったり、相手のことを知ることで、考えも少しずつ変わってくる。
     被害者が本当に赦してくれるまで償い続けるのが本当の更生なんだ、という桧山の言葉が作者の考える結論なのかなと思った。そして被害者側が置き去りにされている制度を改め、せめて被害者の心に寄り添い、被害者の心のケアを行うものであってほしいと思った。

     

  • ミステリーというエンタメとしても、社会問題と向き合う機会としても満足度が高く、つまり総合的に最高。
    切なくもあり感動するなんて、読む前は想像もつかなかった。

  • なかなか重いテーマで、読後スッキリとはいかないが色々考えさせられる小説だった。

    二重三重に重なり合う事件に意表をつかれっぱなしだったが、最初に感じた違和感も見事に回収される。
    スキのない物語作りなのだが、一点だけ納得できないのは相沢弁護士と祥子の因縁のくだりは果たして必要だっただろうか。あまりの都合のいい偶然に少し興醒めした。

    あの挿話はない方が物語の真実味がより増すやような気がする。

  • 少年犯罪、罪と罰、贖罪と更生。テーマとしてとても重い内容なのだが、徐々に加速していくストーリーにミステリーの断片がチラチラと見え始め、第四章からの急展開によってグッと引き込まれてしまった。
    社会派ミステリーでありながら、見事なエンターテインメント作品でした。

  • 最後に全てがつながったところは一気読みしてしまった。
    重いテーマだが、続きが気になり止まらなかった。

    ■少年犯罪
    凶悪な少年犯罪のニュースを見ると、全く関わりは無いが激しく怒りを感じる。
    この感情は正常だとは思うが、ニュースで伝えられた数分の内容だけを聞いて、不足の情報は殆ど自分の想像になってしまう。
    後々加害者の生い立ちなどが分かると少し見え方が変わっていくこともある。
    祥子や少年達、歩美も話が進むにつれて印象が変わっていった。

    少年法があるため被害者の情報は度々取り上げられるが加害者の情報は報道されない。
    最近ではネットで犯人と思われる人の顔写真や情報が勝手に晒されている。
    結果的に関係の無い人が誤ってバッシングされても、晒した人間は罪にも問われない。
    結局は被害者の気持ちは、当事者になってみないと絶対に分からないし、他人が加害者を責める権利も無いと思う。
    ニュースを見ただけで気持ちが昂って、そうならないように気をつけなければいけない。

    ■更正とは
    とはいえ反省の気持ちが明らかに見られない加害者を見ると、被害者と同じ目にあわせたいとまで感じてしまう。
    そもそも一方的に被害を与えているのだから+αの罰がないと納得がいかない。
    加害者の将来を考えて社会復帰させることは必要なのかも知れないが、まず一番最初にやるべきことは自分が何をしてしまい、結果的にどれだけの人の人生に影響を与えてしまったのか分からせることだと思う。
    遺族に会いに行くのはまともな神経があればとても怖いし難しいことだと思う。
    でもそれ自体を罰と感じて会うことは絶対に間違っている。
    本心から行ったことを悔いて会いに行きたいと思う必要がある。



    少年の凶悪犯罪ニュースが起こるたびに心がモヤモヤしたりぐちゃぐちゃになってしまうので思うことがありすぎて感想がまとまらなくなってしまった(-_-;)
    他人としてできることは、匿名で加害者を責めることではなく、被害者の心のケアやサポートをしていくことだと感じた。

  • 初めての薬丸さんでした。
    面白かったです!
    最後の最後まで、めくるめく展開で読む手が止まりませんでした。


  • 天使のナイフ/薬丸岳

    本棚に同じタイトルの本があるよ、と言われて
    見るとハードカバーがしっかりと並んでいました。
    まさかの2度読み。

    記録をつけていなかった頃に読んでいたようです。
    自分の記憶はアテにならないと改めて痛感し、
    記録に残すことの大事さを再認識、これからは
    ブクログのお世話になります。

    二度目とはいっても、ところどころ記憶にある
    場面がある程度で最後までたっぷりと楽しめました。

    複雑に絡む事件とその関係者たち。
    忘れた頃に又読んで、あっと驚きたいです。


    〜〜〜
    カフェ店長の桧山は、四年前に妻を殺された。
    当時、娘は生後4ヶ月。
    加害者は中学一年生の男子三名。

    少年法で守られた加害少年達は、触法少年として
    罰の対象とならず、名前や素性も明かされなかった。
    法に守られる少年達には更生の時間が与えられる。
    一方、被害者家族の桧山にもたらされる情報はなく、
    怒り、憎しみ、憤りを向ける先はない。

    大事な人を失ったのに、現実は理不尽で
    桧山が言った、
    『犯人が少年か成人かで、失われた命の価値が
    下げられたように感じる』
    やるせない。

    少年法では可塑性が重んじられ、成長の過程にある
    未熟な精神を持つ少年少女が犯した罪については、
    更生のために、その後の時間が費やされる。

    何をもって更生と言うのか。
    加害者にとって贖罪とはなにか。
    被害者の憎しみや怒りを救済するものはなにか。

    深く考えさせられる物語。

  • めちゃくちゃ面白かった。
    テーマがテーマなだけにかなり重いが、しっかりミステリで全く想像のできない展開と結末に度肝を抜かれた。
    過剰な保護主義と人権意識によって少年を守る少年法。それは被害者やその家族の犠牲の上に成り立つ法律。

    これがデビュー作ってすごい。

  • 結末が気になって半日で読み終えました。

    何をもって更生というのか、それにはかなりの時間を要すること、第三者が判断できることではないということ を学べたような気がします。

    でもどの角度からみても難しい話だなと思いました。難しすぎて考えることを放棄したいくらいでした。

    いくら幼いからとは言え、何の罪やお咎めもなく済ませてしまうのは明らかにおかしいと感じますが、まだ幼い頃から何をしても救いがない世界になってはそれこそ更生できるような感情の余裕もないだろうし…。
    一番の心のケアが必要なのは被害者側であるということにもっとフォーカスしないといけないし、憎しみの連鎖を断ち切ることについて答えが出ないです。

  • 少年犯罪がある意味1番重い罪なんではないかと思う作品だった。前科ではなく前歴で済まされる…本当の更生はなんだろう…本当の贖罪はなんだろう。
    深い。

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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