- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065230626
作品紹介・あらすじ
トップレベルの私立大学に通う百瀬陽二の就職戦線は冴えなかった。名の知れた大企業への就職に囚われていた陽二は、再チェレンジする為に就職留年を決める。留年のあいだ派遣会社を通じて世界最大のネット通販会社《スロット》の物流センターでアルバイトをすることに。そこで見たのは、派遣労働の過酷な職場環境、さらに膨大な商品の運送業務に忙殺される大手総合物流企業の厳しい現場だった。
東京から各地方に向かう東北・東名・中央・常磐など主要高速道路で、ほぼ同時に宅配便を配送するトラックが走行中に荷台から出火し交通麻痺となる。格差社会への不満を抱えた集団「バルス」により犯行声明がマスコミに届き、次なる犯行予告が伝えられた。宅配会社は荷物の受け付けを中止、それに伴いネット通販会社の出荷も停止、あらゆる産業で事業が滞りはじめた。追い打ちをかけるように、バルスは予想を超えた要求をつきつけてきた!
感想・レビュー・書評
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『バルス』楡 周平著
働く世界の厳しさ ☆☆☆☆☆
将来の不安との闘い☆☆☆☆☆
資本主義とは? ☆☆☆☆☆
主人公/大学生が派遣アルバイトを始めます。理由は、就職浪人をしたため、学費を稼ぐためです。派遣先は、グローバル通販企業の物流センターです。
彼の派遣アルバイトという世界を通じて、読者は下記のテーマを考察する機会に出会います。
・厳しい就職活動。
・正社員と派遣社員の環境の違いと格差。
・資本主義とはなにか?
【厳しい労働環境。その背景は?】
派遣先のグローバル通販の物流センターでは、徹底したコスト管理が実行されていました。たとえば、作業員1名あたりのピッキングする点数は、1分あたりのノルマが定められています。それが常時計測され、下回ればワーニングが出る仕組みです。
なぜ、そこまでコスト管理をするのか? それは、部流センターに発注をする個人客からの請負単価自体が安いからです。たとえば「配送料無料」というサービスを実行しても利益を出すには、徹底したコスト管理が必要となるからです。
【同窓との再会。つかのまの安らぎ】
厳しい労働で体力ならびに精神ともに消耗する毎日。そんな中で、彼は高校の同窓と会います。ミュージシャン志望だった同窓は、結局その道を断念し、彼と同様に派遣で働く生活でした。
彼と同窓は、同じ派遣の現場を体験した仲間として食事をともにすることになります。
その席で、彼は同窓にある考えを伝えたのでした。
「もしも、グローバル通販に一矢を報いたいならば、いい考えがある。」
【事件?事故?爆発が・・・。】
その食事会からしばらくの期間が過ぎたあと、事件が起こったのでした。
その事件がグローバル物流センターから出荷された荷物の「爆発」です。
爆破した犯人の名前は「バルス」。
アニメ「天空の城ラピュタ」で描かれた破壊の呪文の名前です。
「バルス」の犯行声明に記載された要求事項はお金¥ではありません。
派遣労働に関する法律の是正と、派遣労働者に対する権利の是正です。
【読み終えて】
読者側で、爆破事件/テロの動機、そしてその犯人を推察することは容易です。したがって、ミステリー小説としては、多少の消化不良を起こすかもしれません。
この小説は、ミステリーというよりも、資本主義、正社員・派遣社員の構造、そして就職氷河期世代の迫りくる未来を考えては・・・?という示唆を与える小説となっています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
バルスといえば「天空の城ラピュタ」の滅びの呪文!
本書では現代社会に警告を鳴らすテロリストとして、登場します
本書で語られるテロはいつ起こってもおかしくないと思いました。
ストーリとしては、
収入格差が広がる社会に対して、物流の盲点を突くようなテロが発生。そのテロの犯人はバルスと名乗ります。
このテロにより、日本中の物流が大混乱へ、そして、経済全体にまで影響が。
現代社会で、この本で語られる手口でテロが起きてもおかしくないですし、もし起きたら、まさに本書で語られる事態に陥るのでは?と思います。
とても、怖い
そして、その背景にあるのが、派遣制度、非正規労働者、収入格差、二極化、効率性の追求、大手のコストダウンといった現代社会の問題点です。
本書を読むことで、こうした現代社会の問題点を理解することができます。
そして、それに引き込まれてしまいます。
なので、なおさら、このテロの怖さを感じます。
「ドッグファイト」ではネット通販Vs宅配大手の戦いでした。今回はそのネット通販・宅配を下地とした現代社会への警告です。
次の世代の人たちの社会ってどうなるんだろうと暗い気持ちになります。
就職を控えた大学生、現代社会の問題を理解したい人、お勧めです -
日本の今の状況がわかり、いつか本当になりそうで
とても怖い -
タイトルのバルスってのが何なのかも、
どんな小説なのかもよく分からず、
ただただ楡さんの小説ってだけで読んでみました。
ちょっと疲れ気味の自分にはライトでリラックスして読めるちょうどよい本でした。
読んでみて初めて気が付いたのは、
楡さんいつものお得意のビジネス小説かと思いきや、
得意の物流ビジネスの要素も少しあるものの、
派遣社員問題に切り込みながら、テロとの組み合わせたストーリーでした。
こんなテロ事件、起こるのか?と言いたくなりますが、
そこは楡さんらしくリアリティーを出来るだけ持たせた構成になっています。
同時に、「ハケン」という社会問題にメスを入れたり、
自分の選挙のことしか考えていない政治家を若干軽蔑したり、
ラストの終わり方など、、
楡さんらしさがふんだんに込められています。
本家本元の楡さんの骨太ビジネスストーリーや
諜報小説が好きな人には若干物足りないかもしれませんが、
こうやって作家は自分のテリトリーを広げていっているんでしょう。
最高の★5つとまではいきませんが、楡さん好きなら楽しめる小説です。 -
現在、30歳代後半から40歳代前半までの就職氷河期が溶けないまま、非正規雇用・派遣制度・学歴で分断される収入格差の2極化は始まった。
合理性効率性の極度な希求傾向は拍車がかかり、アマゾンを思わせる物流産業の底流をなしている人件エネルギー等の非情なコストダウンの現場をえぐる野心作・・だった。
評価が低いのは令和に入って 地獄へまっしぐらのような現状に視点を据え、組合を持たない非正規労働者がSNSで繋がることに拠って、与党の、野党の力を借りずしてスクラムを組み立ち上がった「テロ」の前夜とでもいう状況を描こうとしているのは理解できた。が群集劇としてのパワーが尻すぼみ、軟化巧い事丸まっていく非現実なラストに終わったから。
非正規の声を代弁させるには正体が掴めない彼ら・・余りにも多種多様。高架から見下ろした時に視界に入る多々の廃車のようにも感じられる。
百瀬・・一応 准名門?大学出身、就職モラトリアムでスロットに入り、リストラで派遣できた渡部と知り合ったり、同じ現場(肉体地獄関係)の井村と知り合ったり、週刊誌記者健太郎と繋がったりと人々が登場するが、いま一つ没個性・・最も、それが非正規的という気がしなくもないが。
問題の提起で社会への啓発になればよいが、余り読書をしないと思うのが彼ら(ここまで悪く書くのも我が家の次男が、まっしぐらに、いまも歩いているから)
ワンオペをはじめ、労働環境の悪さで日常に疲弊している彼らが立ち上がる勇気以前に精神力が持てるかはかなり疑問・・それより就職氷河期の人々が今後やってくるであろう「とてつもない低年金、無年金」の時間に対面したとき、政治は行政は無能としか考えられない。 -
2024.03.05〜03.10
この人の作品って、緻密に書かれていて、毎回、感心する。今回も、凄いな、と感心。
非正規労働者の苦悩はわかる。が、共感はしない。
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・ビジネスの描写が綿密
・思考実験としても色々考えさせられる
・1年経ったら正社員、というのは打開策になり得ないのでは?世界の富の総量そのままに弁当箱の仕切りを動かすに過ぎない策かと
・ところで、株主配当VS内部留保VS労働者報酬 ってどんな力学で決まるの? -
★★★★
今月5冊目
楡周平、ほんとよく思いつくよね。
この手のテロ実際起こってもおかしくない。
現代は物流が止まると経済が止まる時代。Amazonと思われる倉庫に派遣で働いていて腰痛となったら即首を切られる。
テロが起きて非正規の現状を訴え世の中を変えていく。非常に面白かった。 -
宅配便や非正規労働者など過剰依存のリスクを描く経済小説の雄によるクライシスノベル。
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面白くない。課題を繰り返ししている