- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065220979
作品紹介・あらすじ
薄紫の香腺液の結晶を、澄んだ水に落とす。甘酸っぱく、すがすがしい香りがひろがり、それを一口ふくむと、口の中で冷たい玉がはじけるような……。アルコールにとりつかれた男・小島容(いるる)が往き来する、幻覚の世界と妙に覚めた日常そして周囲の個性的な人々を描いた傑作長篇小説。吉川英治文学新人賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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中島らも文学忌 1952.4.3〜2004.7.26
せんべろ忌 せんべろは、千円も出せば、べろべろになるほど酒が飲める。転じて、料金が安い酒場。
小説家、劇作家 灘中高の秀才だったんだけど、途中で道が外れ気味
中島さん何冊か読んでいるけど、吉川英二文学賞受賞の本作は初読。2020年新装版が出るほど根強いファンがいらっしゃる。
アルコール中毒で緊急入院した男と 医者や入院患者達との死をも含んだ軽快な騒動。実体験ベースとのことなので、禁断症状の様子とかわかる方にはより一層楽しめるのでは。
遺体安置所のエチルアルコールにまで手を出してしまう患者。病院を抜け出し、酒場に向かう悲哀。
ベースは実体験といえど、やはり小説で、少年の死やアル中の親を持った家族の崩壊とか、挿入されており、気持ちの何処かでは、やめたかったのかなと思ったり、その後の行動をみれば、違うかなと思ったり。
最期は、飲んだ後、飲食店の階段から落ちて52歳で亡くなる。アルコールで生きてこれたのか、なんともすごい飲みっぷり。 -
中島らも『今夜、すベてのバーで』講談社文庫。
このほど新装版が出たので27年ぶりに再読。第13回吉川英治文学新人賞受賞作にして、中島らもの代表作である。
中島らもの実体験に基づいて書かれたこの作品はリアリティがあり、アル中の恐ろしい現実を思い知らされながらも、何故か羨望の思いを感じる。何もかも忘れて、酩酊という天国にどっぷりと漬かる日々。なぜ人間は酒を飲み、アル中は踏み入れてはいけない領域まで飲み続けるのか……
主人公の中島はアル中に関する知識も豊富で、自らがアル中であることを自覚しながら、刹那的にアル中であり続ける点が凄い。18歳から17年間にも亘り殆んど食事も取らずに酒を飲み続け、緊急入院することになった小島容は病院の赤河医師や様々な患者たちと関わりながら過去と現実とに向き合う。小島が何故ここまで酒浸りになったのか、酒浸りになりながらも生活出来た理由や、古今東西のドラッグ中毒者の逸話などが描かれる。そして、結末は……
刺激の無い平坦な嫌な毎日。アル中は、そんな毎日から逃避するかのように酒を飲み、うさを晴らすうちに知らず知らずに深みにはまっていくのだろう。
近年、喫煙者ばかりが差別され、飲酒者は然程大きな批難を浴びないという不可思議。自販機で購入するのにタバコは許可証が必要で、酒は何の規制もないという不可思議。アルコールのCMは盛大にテレビ放送しているのにタバコのCMはいかんという不可思議。喫煙が原因の殺人傷害事件は耳にしたことはないが、酒を巡る殺人傷害事件は飲酒運転事故を含めて、よく耳にするのだが。
本体価格740円
★★★★★ -
以前読んだ童貞アンソロジーのエッセイがすっかり私のお気に入りになった中島らもさん。
どんな本を書いている作家なんだろう?と調べてみたらまずすぐ目についたのがこちらで、曰く「すべての酒飲みに捧ぐアル中小説」。
20年近く前に出版されているんだけど、ちょうど昨年の12月に文庫が新装版になっていて、このタイミングと言いどこか私を呼んでいるかのようだった。というかきっとこの小説読んだすべての酒飲みがそう思ったことでしょう。
冒頭でいきなり緊急入院宣告を突きつけられているのは、とっくに肝臓が悪くなっていることを知りつつも酒断ちできなかった主人公の小島容。なんと飲酒量は毎日ウィスキーを一本(ひぇーっ!)。
同室の愉快な患者たちとの交流、横暴な医者による健康管理、シラフで現実と向き合う憂鬱、アルコールに恋い焦がれる底なしの欲求が、ユニークかつ軽妙な文章をもって綴られていく。
小島容が読んだという設定で「アルコール依存症」について書かれた様々な資料からの引用もたくさんあり、医学的知識や精神病理学的知識が深まってまるでアル中治療のための贅沢な副読本のような仕上がりになっていた。おかげで少し知識が増えました。アル中は慢性的自殺。
生きるか死ぬかの瀬戸際にいる小島容くんには悪いけれど、とにかく至るところで共感しすぎて面白かったのでいくつかご紹介。
・おれがアル中の資料をむさぼるように読んだのは結局のところ、「まだ飲める」ことを確認するためだった。
・これらの人々を眺める安心感と、こういう「ひとでなしのアル中」どもが、河ひとつ隔てた向こう側にいて、おれはまだこっち側にいるその楽観とを得るために、おれは次から次へとアルコール中毒に関する資料を集めた。ついには「アル中の本」を肴にしてウィスキーをあおる、というのがおれの日課にさえなった。
・アル中になるのは、酒を「道具」として考える人間だ。この世からどこか別の場所へ運ばれていくためのツール、薬理としてのアルコールを選んだ人間がアル中になる。
・酒の好きな奴がよく冗談で、“いや、私はもうアル中ですから”なんてことを言うだろう。本人は自分がアル中ではないと信じてるからそういう冗談も言えるんだ。ところが、冗談じゃないわけだな、これが
・バナナの皮ですべって転んでいる男と、それを見て笑っている男が、同時におれの中にいるのだ。苦痛に対する耐性を得るために、無意識のうちに自分をふたつに裂いたのかもしれない。このふたつの存在は互いを毛嫌いしているが、唯一、泥水の中にあってだけ重なり合ってひとつのものになった。このふたつが溶解し合ったときにだけ、そこからほんものの怒りや悲しみがたちのぼってくるのだった。泥酔していないときのおれは、苦笑いだけが得意な、いわば感情喪失症者だった。
・「飲む人間は、どっちかが欠けてるんですよ。自分か、自分が向かい合ってる世界か。そのどちらかか両方かに大きく欠落してるものがあるんだ。それを埋めるパテを選びまちがったのがアル中なんですよ」
・酔うというのは、体が夢を見ることだ。
いちばん最後の、天童寺さやかとバーを訪れるシーンもすごくよかった。
私もお酒はほどほどに!……とは思ってるけどね。酒飲みの友達と乾杯してこの本の感想を交換し合えたら楽しいだろうなぁ。はやくコロナ終息して欲しいと、こんなに強く思ったの初めてかもしれない。 -
限界アル中小説
お酒は適度に楽しむものが一番だけど、その「適度」が難しいもの。
「今夜、すべてのバーで」は、限界まで飲み続けるとこんな人生が待っているという小説仕立ての教則本。
この作品を読むとお酒に対する考え方が変わるかも。「飲むなら、このくらいの覚悟を持って飲め」という強いメッセージが感じられる。また、半自伝的な要素が含まれていて、作者である中島らも氏の壮絶な人生と、彼が持つロックな魂が強く反映されている作品。
エンタメ小説としても面白く、人生の様々な教訓が散りばめられているため、お酒を飲まない人も楽しめるはず。 -
タイトルが洒落ているので、夜な夜なバーで繰り広げられる男女の話かと思いきや、筆者体験を元にしたアル中治療小説!
お酒を飲む習慣がある私には勉強になった
小説の中に、酒を道具として考える人間がアル中に陥りやすいと書いてあった
精神の安定を求めて、薬理的な飲み方を続けてしまう
人は誰しも何かしらに依存して生きている
それが酒だったら。。。
主人公はアル中文献を肴に酒を飲み、誰よりも詳しくなったのにアル中になり、肝硬変寸前で入院
目は黄色く濁り、肌は浅黒くなり、尿はコーラ色だった
病院での様々な検査、
入院患者や個性的な担当医とのやり取りで小説は展開していく
そして酒から切り離された有り余る時間の中で自分の人生と死、そして依存について考える
この小説を読んで、人はどうして飲むのか、そして飲む事によって身体に受ける影響を考える事が機会が出来た
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他の方のレビューで気になっていたただの酒飲みです。
らもさんの自伝的なアルコール依存に関するお話。
ライターの小島容がアルコール性の肝障害で入院する。ユニークな入院患者と医師に囲まれながらアルコールと自分との関わりについて振り返っていく。親友で早逝した天童寺とその妹のさやかとの関係。
お酒とは、良好な関係を築いていきたいものです。 -
中嶋らもはYouTubeのタモリ倶楽部で人間が好きになり、そこからYouTubeに転がっているらもさんが出てきるものはだいたい見た。そして今回、この本を文庫で購入して、読んだがあまりハマらなかった。人が好きでも本はそんなにということをあるんだなぁ。
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タイトルに引かれてあらすじを読まず借りた本。
バーで繰り広げられるお話かと思ったが全然違った!!
アル中患者の回復までの道のりを描く作品だったので、スタートも病院から始まり「え?」ってなった。
症状の描写がリアルで辛くなり読むのが億劫だったが、徐々にお酒との向き合い方や抗う姿にエールを送りたくなった。
主人公が飄々としている点もこの小説の魅力かな。
地下のあの部屋でアルコールをキメてるシーンは、もうほんとどうしようもなくて笑ってしまった。 -
アルコール中毒の主人公と、主人公を取り巻く人たちとのお話。妙に理屈っぽくて博識な主人公だけど、アルコールの前だと「酒を呑まない」っていう1つの自制が効かない。厄介で口上がうまくたって、「呑んでも大丈夫。」「一杯だけ。」って口にしてしまうのは中毒者の思考なのかもなあなんて。
個性豊かな登場人物たちとの邂逅と別離があった上で、最後には未来への希望も見えたのかな?みたいな、思ってたよりも爽やか?なオチだった。 -
酒に依存する人間の弱さや愚かさを、個性豊かな患者たちや医者とともにユーモアや皮肉をこめて描いた物語、と読み始めたときは思いました。しかし読めば読むほどそう単純に割り切れないこの小説の世界に、はまり込んでしまいました。
人はなぜ酒を飲むのかという単純かつ根源的な問いを、様々な面から時に深く掘り下げ、そしてばかばかしい話かと思ったら、突然オシャレだったり、どこか高尚にすら思える文章にハッとさせられたり。
ストーリーもアルコール中毒患者である小島の日常と、周りの人々のやりとりをおかしく描いたと思ったら、小島の個性豊かな友人との強烈なエピソードの回想があり、夢や幻想の世界に入ったと思ったら、精神医学の話もあったりとまったくつかみどころがない。
病院の日常のリアルさが妙に印象に残っています。尿検査で自分の尿に水道水を足してばれたら仕方ないと開き直ったり、三人のおばあさんに絡まれたりと、それぞれのエピソードが妙にリアルで人間臭い。
さらには主人公の友人だったり、主治医だったりなかなかパンクな登場人物たちもいるのだけど、彼らもどこか人間臭さを感じさせて、登場人物それぞれに不思議な親近感を覚えました。
中島らもさん自身が相当にパンクな人だというのは、ネットを見れば一目瞭然なのだけど、そのパンクな人生と自身のアルコール中毒の体験が、作品に見事に表れていたと思います、
自分は生前の中島らもさんを拝見する機会はなかったのだけど、相当に面白い人だったのだろうな、と感じます。(友達になりたいかはまた別)
そうしたつかみどころのなさやメチャクチャさ、ユーモアも楽しいのだけど、終盤の生と死であったり家族や人間関係を考えさせる展開はシリアスだったり、心が少し暖かくなったりと、本当に最後の最後まで読み心地がころころ変わる話でした。それでいて面白さはどんな展開でも落ちない。
思い出すのは同じ中島らも作品の『ガダラの豚』。全三巻の作品ですが一巻ごとにジャンルが変わるハチャメチャさ。それでいて各巻ごとの物語のエンジンが力強く、無茶苦茶になっても最後まで力強く走り抜ける、パワーにあふれる一作だったと思います。
この『今夜、すべてのバーで』も、ジャンルは大きく違えど似たものを感じました。いろいろな要素を含んだハチャメチャさがありつつも、人間というものに焦点をあてた素敵な一作だったなあ、と読み終えて思いました。
第13回吉川英治文学新人賞
しかも家系的に飲めるタイプなのに飲まないから、肝臓は死...
しかも家系的に飲めるタイプなのに飲まないから、肝臓は死んだら是非誰かに移植して使って欲しい。他の部品は、大したことないけど。