隣人X

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065197646

作品紹介・あらすじ

第14回小説現代長編新人賞受賞作。

20xx年、惑星難民xの受け入れが世界的に認められつつあるなか、日本においても「惑星難民受け入れ法案」が可決された。惑星xの内紛により宇宙を漂っていた「惑星生物x」は、対象物の見た目から考え方、言語まで、スキャンするように取り込むことが可能な無色透明の単細胞生物。アメリカでは、スキャン後に人型となった惑星生物xのことを「惑星難民x」という名称に統一し、受け入れることを宣言する。日本政府も同様に、日本人型となった「惑星難民x」を受け入れ、マイナンバーを授与し、日本国籍を持つ日本人として社会に溶け込ませることを発表した。郊外に住む、新卒派遣として大手企業に勤務する土留紗央、就職氷河期世代でコンビニと宝くじ売り場のかけもちバイトで暮らす柏木良子、来日二年目で大学進学を目指すベトナム人留学生グエン・チ―・リエン。境遇の異なる3人は、難民受け入れが発表される社会で、ゆるやかに交差していく。

 ある日、ハリウッド映画でなじみのある超人気俳優が「惑星難民x」であると告白し全世界が揺れる。日本では「惑星難民x」探しの報道が過熱し、平凡に暮らしていた良子の父、紀彦が「惑星難民x」だと疑われ、週刊誌で書き立てられる。紀彦は生中継で噂を否定し、狂乱を静める。そして秘密裏に週刊誌記者である笹の家に赴き「惑星難民x」の真実を伝える。その真実とは・・・。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカが『惑星生物X』 を『惑星難民X』として受け入れることを発表した。『惑星生物X』の原型は無色透明で、対象物の見た目から考え方、言語までスキャンするように取り込むことが可能である。友好的な彼らを日本も受け入れすることになった。
    紗央は新卒で派遣社員となって1年半。正社員との差を感じつつ大手企業で働いている。ある日、飲み会の帰りに本の趣味が合う男に出会い、カラオケボックスへ行く。ビー玉のような不思議な目の彼。しかし彼の様子がおかしくなり…。

    派遣社員で働き方に疑問をもつ紗央。男の「一度だけ」の言葉に弱く傷ついた過去を持つ良子。良子と同じコンビニで働くベトナム人留学生リエン。
    疎外感や差別感を感じて生きる女性3人が、惑星難民のニュースと身の回りにいる人-隣人X—を通して生き方を変えていく物語。SF要素が入った人間ドラマです。全体的に共感するところが多くて、3時間で一気読みしました。

    リエンがライブでギターを弾く恋人を見て『すごい』から『あいしてる』まで、勉強中の日本語でありったけの言葉を並べるところにキュンとなりました。

    途中まではよくある人間ドラマなのかな、と思っていたところ、後半ぐんぐん面白くなっていきました。この人が惑星難民Xだったとは、と、びっくり。
    私ももしかして惑星難民Xかもしれません。

  • 映画が気になったので原作本を。
    なかなかXが出てこなくて、普通の日々を過ごす女性たちの小説かと思いきや、そー絡ませてきたかという感じ。
    異星人をどう受け入れるかという問題もそうだけど、ジェンダーとか異国の人に対する態度とかいろんな社会問題も折り込まれてて面白かった。
    リエンのXに対するずるいという気持ちが、一番しっくりした。

  • もし宇宙人が難民認定されたらあなたは受け入れることができますか???


    本書の主な登場人物はみんな女性です。
    派遣社員やフリーター、語学留学生…。
    三人とも普段から疎外感を感じながら生きるキャラとして登場します。その姿はどこか惑星難民Xに重なります。
    「むしろ自分たち外国人は惑星人と共に排除されてしまうのではないか」
    「惑星難民Xは、二十六歳の平凡な自分と何が違うというのだろう」


    こういう状況をなかなか想像できませんが、たとえば自分が海外に留学生として住むことを想像するとわかりやすいのでしょうか??

    「──私も惑星隣人Xだ」p111
    確かにそう思うかも。

    今日の教訓:隣人には優しくしよう

  • 異星人が人間社会に分からないように溶け込んでいて、それを概ね人類も受け入れている世界。完全に人間をコピーしているので誰にも分からない。そして異星人は人間を傷つけるつもりも支配するつもりもない。
    さて、自分の世界に異星人が紛れ込んでいるとしたら。もはや自分だって異星人の末裔かも。
    とても興味ぶかい本でした。

  • 映画館で予告を見た。宇宙人がわらわら登場するのだろうと期待しながら、原作を手に取った。

    「惑星難民受け入れ法案がアメリカで可決、日本でも」という、かなりセンセーショナルな舞台設定。
    その派手な背景とは裏腹に、物語には不思議な静けさが漂う。

    一流企業の若い女性派遣社員、
    過去のある40代独身女性、
    ベトナムからの留学生の女の子。

    今いる場所に存在することに自問自答を続ける登場人物たち。彼女たちに共通するのは、世間からの疎外感、消えない不安、孤独。
    (え、惑星難民出てこないじゃん、と、戸惑いながら読み進める。)


    「透明になることが社会に適合することだと思っていた」p123
    「(辞めたら意味がない、の)意味とはなんだったのか」p21
    「ここにいていいのだろうか」p200

    頑張っても頑張っても、目指すものの手前に引かれる見えない境界線。「暗黙の了解」の中で、自然に成立する「棲み分け」。p15
    ああそうだった、と自分のこれまでの人生を痛みと共に思い出す。彼女たちの痛みがそのまま重なる。

    「人間を傷つけるのはいつの世も人間」p213
     
    透明な姿を、スキャンした対象に変えて、ただ平和を望みながらその一生を終えるX。
    地球という星では、誰もが在るがままに生きるのは難しい、ということを改めて気づかされる。せめて自分の隣の人の痛みくらい、想像できる人間でありたいと思う。


    捕捉
    本当によくできた小説だと思うけれど、紗央と良子、二人ともが父親に関する物語のため、少し混乱する。(映画ではその辺りが整理された形になっているのかも?)

  • 対象物の姿形どころか、考え方、言語など、相手そのものを完全にスキャンできる惑星生物X。難民として地球にやってきた彼らを、アメリカを筆頭に、受け入れ体制になりつつある世界。
    そんな世界を舞台に、大学院卒の派遣社員、就職氷河期世代のダブルワーカー、ベトナムからの留学生の、3人の女性を主軸とした連作短編集。
    惑星生物Xという、地球人から見てはっきりとした「よそもの」が出てくる一方で、この女性達自身が、それぞれの生きる場所で社会的な「よそもの」として描かれているように感じました。
    その息苦しさ、生きづらさ、憤りややるせなさに生生しく共感しながらも、淡々とした文章とSFというフィクションのおかげでするすると読み進められ、最後には彼女達のしなやかさに心が少し軽くなるような、良い読み心地の作品でした。

  • 人種や性別、ステータスや血縁より大切にしたいのは誰と一緒にいる事が幸福なのか。
    SNSやマスゴミに翻弄される人間の狂気さ、そして優しさと強さ。それらが日常感溢れる文章にバランスよく配置されていて読み易くドライブ感がある。ただ惑星難民Xという強烈な具材をクライマックスでしか活かせてない感じには勿体無さを感じてしまう。

  • なんじゃこら、という話ではあったけど、
    おもしろく読めました。
    惑星X人を難民として受け入れようと世界が動き出している中での、三人の女性の日常を描いています。
    それぞれ、大学院まで出たけど派遣だったり、男運のないバイトかけもち店員だったり、外国人留学生だったりと、社会の敷くレールからはずれそうになって生きづらそうにしている女性たち。彼女たちは男性からの理不尽な言葉や暴力にも苦しんでいます。
    ドカチンが日本をつくっている、というセリフなど、社会の構造をこれでもかというくらい突き詰めた上での、惑星難民Xという異質な存在の登場。

    作者さんは脚本家らしいですが、それもあってか、小説というよりはストーリーの企画書を読んでいる感覚になりました。おもしろいけど、情緒的な深みには欠けているような。

    あと、惑星難民と三人の女性とのつながりがあるようで、そこまで劇的なSF展開にもならないので、主張したいことはわかるけどもうちょいひねってほしかったなと思いました。

    次々にページをめくってしまう勢いはありました。

  • 身内が映画制作に関わったとのことで読んでみた。
    はあ、そうですか、という読後感。
    SFのようで何気ない小説のようでミステリーのようで、それらが混ざり合ったような、もやっとした感覚。
    外国人の存在も含めて、純粋な何かなんてない、意味もない。そんな風に思った。
    くじ、当たってるといいな。

  • (多分)初めてSF小説を読んだ。宇宙から謎の知的生命体がやって来て、彼らを「難民として受け入れるか」が問題となる。とはいえメインは人々の日常生活を中心に描写され、宇宙からの難民Xとリンクしながら話が展開されていく。
    それとなく社会問題としての「難民問題」も暗に示していて考えさせられるところが満載。内容は違うが、SFがらみもあってか『アバター』を観た時に近い心境になった。

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著者プロフィール

パリュスあや子
神奈川県生まれ、フランス在住。広告代理店勤務を経て、東京藝術大学大学院映像研究科・映画専攻脚本領域に進学。「山口文子」名義で歌集『その言葉は減価償却されました』(二〇一五年)上梓、映画『ずぶぬれて犬ころ』(二〇一九年、本田孝義監督)脚本を担当。二〇一九年『隣人X』で第十四回小説現代長編新人賞を受賞し、二〇二三年「隣人X 疑惑の彼女」のタイトルで映画化。他の著作に『燃える息』(講談社)。

「2023年 『パリと本屋さん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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