生命はデジタルでできている 情報から見た新しい生命像 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
4.00
  • (10)
  • (15)
  • (8)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 172
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065195970

作品紹介・あらすじ

科学出版賞受賞作家の書き下ろし最新作
「全生物に読んでほしい!」人気YouTuber・ヨビノリたくみ氏絶賛

 いま、生物学の分野で静かな革命が進行しつつある、と言ったら読者の皆さんは驚くだろうか? その生物学の分野とは、ゲノム科学である。ゲノム科学に関する新しい知見がネットに流れない日の方が珍しい。
「寿命を伸ばす遺伝子発見!」
「『がんゲノム医療』検査に保険適用」
 なんだがすごいことがこの分野で起きているっぽい。だが、なぜ、「突然」こんなことになっているのか? その疑問に答えてくれる報道は少ない気がする。本書の目的はそれを少しでもわかりやすく説明することにある。
 そのために、本書ではDIGIOMEという造語を導入した。DIGIOMEとは何か? それは、デジタル信号処理系としてゲノムを捉える考え方だ。ゲノムを構成するDNAが、ゲノム情報という意味で、われわれ生命の設計図たる情報を担っていることは、ワトソン=クリックによるDNAの二重螺旋構造の発見の頃から知られていた。だが、本書ではそこを一歩踏み込んで、ゲノム自体をデジタル情報処理装置として捉える見方を提案したい。
 我々人類が、デジタル情報処理装置の恩恵を日常的に享受できるなったのは、わずかにここ数十年のことに過ぎない。だが、生命体はそのそもそもの誕生時からこの高度なディジタル情報処理系の恩恵を享受してきた。周知の様に、我々人類がデジタル情報処理装置の恩恵を享受するには、高性能ながら安価な情報処理装置(例えば、スマホ)の発明が必須だった。生命体はそのような精密な情報処理装置を持っていないにも関わらず、ゲノムをデジタル情報処理装置として機能させることに成功してきた。本書で語りたいのは、なぜ、そんな奇跡のようなことが可能だったのか、ということだ。
 実際、デジタル信号処理系たるゲノムは、われわれ人類が作り上げた精緻で緻密なそれとは、にて非なる側面をもっている。ある面では我々のそれより優れているし、ある意味では劣っている。そして、いま、このタイミングでその詳細が詳らかになったのは、デジタル信号処理系としてゲノムの動作を克明に観測して記録できるだけの技術と知識を我々が手にしたことによる。いままで秘密のベールの奥に隠されていたその機構の謎が日々、その観測技術によって続々と白日のもとにさらされている。前述のゲノム科学における新発見の連鎖はその帰結に過ぎない。そして、その技術の一端にはいま流行っているAI=機械学習の進歩も大きく関わっている。この本はそんな存在、DIGIOMEを巡る冒険譚を、極力最先端の知見を用いて語ることを目的とする。この本を読み終えた時、きっとあなたは、いままで見ていた「生命」をそれまでとは随分と違う目で見ることができるに違いない、と信じる。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • DNAから連なるRNA、タンパクの生成をデジタル情報というアプローチから扱った書籍。
    デジタルとDANの類似性というのは言われてみればその通りなのだが、この書籍のタイトルを見かけるまでは発想がなかった。
    DNAの構造は二重らせんと言われるが、言ってみれば長い紐であり、そこから生成されるタンパクも紐から形成される。この紐からタンパクの立体構造が生成されるわけだが、これを3Dプリンタに例えているのが分かりやすかった。少し前に、NHKのサイエンスゼロでDNA折り紙の話が取り上げられていた、この話も関連するだろう。
    デジタル情報としDNAを見た時のロバスト性という視点も面白かった。ロバストに対比される言葉がフラジャイルである。人間がコーディングするプログラムの多くはフラジャイルである。つまり、一箇所でも不具合があるとシステム全体が機能しなくなる恐れがある。
    一方で、 DNAの情報はロバストであり、一部に誤りがあってもシステムとしては機能する様な冗長性がある。このことも他書で知ってはいたが、この様なシステム面からの視点でまた違って見えるというのは面白い。
    過去には意味がないとされていたDNAやRNAにも意味が見出されてきているということも、紹介されておりこの分野は進展している様でまだまだわからないことも多いと感じた。

  • 遺伝情報の保存庫DNAから特定のRNAが読みだされる。RNAの核酸3文字からなるコードをアミノ酸に読み替えそのアミノ酸を順番につなぐことでプロテインができる。つながれたアミノ酸がもつ電荷などのため、できあがったプロテインは特定の3次元構造をとり立体的な構造物として生体分子として働く・・・いわゆるセントラル・ドグマ。

    たとえば音楽CDにおいて、デジタル化して保存された情報を読み出し出力変換して最終的に人間が聴くことのできる音として出力しているメカニズムのアナロジーとしてとらえてみれば、セントラル・ドグマはまさにデジタル―アナログ変換に他ならない。

    そういうデジタルな処理系として分子生物学を眺めてみると・・というのが本書。言われてみれば確かにそうだと思うことばかり。さらに、少しでもプログラムをバグると動かなくなるコンピューターの繊細さ(Fragile)に比べて、少々の読み間違いやバグ(SNP:1塩基が入れ替わった状態)があってもなんとか動かす頑強さ(Robust)、そればかりか、バグもまた進化のタネになったりする。

    ゴミみたいなものと思っていたmiRNA(マイクロRNA)がまさにデジタル信号としてDNA→RNA、RNA→プロテインの制御にさまざまにかかわっている。さらにlncRNAや環状RNA、そこからプロテインの3次元構造(ここらが最先端でなかなか解明されなさそう)と読み進めば、なるほど生体とは複雑すぎて人間の理解を凌駕したデジタル構築物なのだ。

    読み終わると、赤血球や細胞や細菌のイメージからくる生もの感から離れて、何とも自分の中に広がるデジタル世界を感じて不思議。

  • 議論が細かくて、ちょっとずつ読んだ。こういう読書もいいな。
    本書はDNAとRNA、そしてアミノ酸、タンパク質、その他代謝物と複雑に構成されていく、生命にとって不可欠な要素を、徹底的にデジタルとして解釈しなおそうという試み。その意味で、人体がAIとのアナロジーによって語られる。

    知れば知るほど、生命システムがうまくできていることに驚かされる。がんという病気はそれを逆手にとった病であるらしい。これは厄介な病であるはずだ。

    ひとつハッとさせられたのは、フラジャイルの意味。この言葉には、「精緻にできすぎていて」壊れやすいという含みがあるらしい。ちょうどプログラミングのように。
    それに対して生命体は多少のミスは許容しうるロバストなシステムだ。このように完全に自己(プログラム)と他者(バグ)を分けないことが生命の戦略。

    鍵はタンパク質にありそうだ。デジタルとアナログをつなぐ関節のようなはたらきをしている。フラジャイルなデジタルシステムとロバストなアナログシステムを共存させているこの生命という存在、ただただ舌を巻くばかり。

    このような視点から見ると、死が別様に見えてくる。死はロバストな存在にしか到来しない。死は「消滅」とは本質的に異なる、なにか独自な現象なのだなと改めて感じた。

  • 生命はデジタルでできている、って最初見たときタンパク質のアミノ酸配列は、4種類の塩基の3つの並びでコードされている→デジタルなの言うまでもないじゃんと思っていた。あと転写や複製を行うための特殊な塩基の並びもコードだよねと。

    しかしほとんどのDNAのデジタルデータはランダム或いは再初期化されていないノンコーディングなジャンクだとされていたのが、実はDNAからノンコーディングなRNAへの転写が次々に行われ、様々な制御を行っているなど、脇役どころかRNAたちの世界、トランススクリトームは細胞システムの主役のひとりであった、というのは大きな驚きだった。
    RNA ワールドは、現在の生物の中にしっかりあるんだという衝撃。

    ただ、分子内・分子間結合をクーロン力でひとからげに説明しているのは、ピュア物理学でいえばそうなのだろうけれど、言葉足らず的でわかりにくい。共有結合、水素結合、ファンデルワールス力による結合といった結合力の階層が、生命・デジタルの関係においても重要であるのに。

    あとタンパク質を本書では、一貫して「タンパク」と記していたけど、呼び方が変わったのかな?あと調べてみよう。

  • 「砂時計の七不思議」がとても読みやすくておもしろかった。それで、著者自身による本書の紹介をツイッターで見て、アマゾンで予約して、読んでみた。うーん、残念ながら今回の本は僕には苦しかった。書店で手に取っていたら、たぶん「深海底」の方を買ってただろうなあ。物理寄りと思ってたけど、ほぼ生物だった。そもそも、高校生物の知識がまったくない。基本的な語句が全くイメージできないから、全般的に霞がかかっている。それでも、デジタルとアナログだったり、ロバストとフラジャイルだったり、そのあたりは興味深く読めたし、さらに、創薬の話とか、がん治療の話などは、今後に期待できそうで、少しわくわくした。帯にある「情報生物学」というのは本当におもしろそうなんだけどなあ。金子先生の「普遍生物学」も頓挫しているから、ダメやなあ。ところで、惑星同士の引力の話と、電子同士のクーロン力の話、確かにそうなんだろうけれど、量子力学的に何らか解決していることではなかったのか? なんかもう、物理自体もなんの勉強をしていたんだろうかと思ってしまう。大学まで行って、いったい何をしていたんだろう。というか、当時は一応理解していたのだろうか??? よく卒業できたなあ。卒論もなんもなかったしなあ。

  • 姫路大学附属図書館の蔵書を確認する→https://library.koutoku.ac.jp/opac/opac_link/bibid/BB00003621

  • 電子ブックへのリンク:https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000090559
    ※学外から利用する場合、リンク先にて「学認アカウントをお持ちの方はこちら」からログイン

  • ncRNAとかメタボロームとか分かってなかったので読めて良かった。

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1961年、東京生まれ。中央大学理工学部教授。1995年に執筆した『砂時計の七不思議―粉粒体の動力学』 (中公新書)で第12回(1996年) 講談社科学出版賞受賞。その後、機械学習などを応用したバイオインフォマティクスの研究を行い、最近はテンソル分解というもので変数選択する(!)という研究に嵌まっており、その成果を2019年9月にシュプリンガー社から英語の専門書(単著)として出版した。最新作は『生命はデジタルでできている』(講談社ブルーバックス)

「2021年 『はじめての機械学習 中学数学でわかるAIのエッセンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

田口善弘の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×