進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065187210

作品紹介・あらすじ

「歌うカタツムリ」(岩波科学ライブラリー)で第71回毎日出版文化賞 自然科学部門受賞を受賞し、新聞や雑誌の書評で、「稀代の書き手」として絶賛された千葉聡氏(東北大学理学部教授)。本作は受賞後の最新作になる。自身の小笠原のカタツムリ研究のフィールドワークや内外の若手研究者の最新の研究成果を紹介しながら、「進化生物学」の醍醐味を描いたエッセイ的な作品。練り込まれた構成と流れるような巧みな文章で、ダーウィンに始まる進化研究の「バトン」がいまも途切れることなく受け継がれており、我が国の研究者もこれにおおいに貢献していることが分かる。読み始めたらページをめくる手がとまらない、痺れるほど面白い傑作


千葉/聡
東北大学東北アジア研究センター教授、東北大学大学院生命科学研究科教授(兼任)。1960年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。静岡大学助手、東北大学准教授などを経て現職。専門は進化生物学と生態学。著書『歌うカタツムリ』(岩波科学ライブラリー、2017年)で第71回毎日出版文化賞・自然科学部門を受賞。ほかに『生物多様性と生態学ー遺伝子・種・生態系』 (朝倉書店、2011年、共著)などの著作がある。

目次

第1章 不毛な島でモッキンバードの歌を聞く
第2章 聖なる皇帝
第3章 ひとりぼっちのジェレミー
第4章 進化学者のやる気は謎の多さに比例する
第5章 進化学者のやる気は好奇心の多さに比例する
第6章 恋愛なんて無駄とか言わないで
第7章 ギレスピー教授の講義
第8章 ギレスピー教授の贈り物
第9章 ロストワールド
第10章 深い河
第11章 エンドレスサマー
第12章 過去には敬意を、未来には希望を

感想・レビュー・書評

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  • 『歌うカタツムリ』がとても素敵だった千葉聡の作品。雑誌『本』へのエッセイ「進化学者のワンダーランド」を加筆・修正したとのことで、エッセイ特有のぶつぎり感も心配されたが、そんな心配は不要で、進化への畏敬と研究者として生きることの意義をやや抑えた筆致ながら、センスのよい構成にその思いを乗せていて、とても「上手い」なと感心しながら読んだ。

    「本書は「進化とは?」という疑問に駆られた読者の好奇心をよりいっそう高めることを目論んでいる」と書く。

    内臓逆位の話に北斗の拳の皇帝サウザーの話を絡めたりして少ししゃれっ気を絡めたサービス精神が加えられた、専門の貝の左巻き・右巻きの話は知的好奇心の観点からもとても興味深い。日本のカワニナや小笠原のカタマイマイといった何でもないような日本の生物が進化の研究においてちょっとした重要な発見に絡んでいるのも新鮮だ。また、リアルな研究室の実態が軽快な語り口でユーモアを交えて描かれていて面白い。こう書いても伝わらないこも多いと思うので、ぜひ実際に本を読んでみてほしい。そうすれば、著者が思う本書の目論見が達せられていることに気がつくのではないか。

    また、もう一つこの本を流れるのは、多くの研究が「役に立たない」ものであることを認識ながらも、「役に立たない」かもしれない研究を続けるのが大事だというメッセージだ。

    カワニナの研究を続ける三浦博士に、進化の研究に駆り立てているものは何かと問うたとき、三浦さんは次のように答えたという。
    「自分は何者なのかを知りたい、という好奇心です。それも人間としての自分ではなく、一つの生命体としての自分です。究極的には、生命とは何か、という問いに対する何らかの答えを得たいと思い、研究を続けているのです」

    その昔、著者が小笠原諸島の父島で地元のカタマイマイの研究成果の発表をしたとき、「何の役にも立たない研究をしやがって」と言われたという。父島での飛行場建設の面倒事に巻き込まれて、反対派のオヤジにすごまれた形なのだが、最後には著者の研究が、「植物とカタツムリにおいて、進化の基調な証拠が残されていることを高く評価する」とされ、小笠原諸島の世界遺産指定に貢献した。

    この本のひとつの章のタイトルにもあるように「役に立つかどうかはときの運」なのだ。過去の色々な研究、量子力学も、相対性理論も、二重らせん構造も、素粒子理論や宇宙物理学も、この不思議な世界の一部の成り立ちを知りたいという強い好奇心によって推進力を得てきたのだ。たぶん。

    「何はともあれ、読者諸氏には本書を楽しんでいただきたいと思う。役には立たないけれど」―― 確かにカワニナの話も、カタマイマイの話も、何かの「役に立つ」わけではないのだけれど、それはこちらもわかっている。好奇心が刺激されて、少しそれが満たされれば満足すべきなのだ。そして、何より読んでいて楽しい本なのである。その楽しさは、読んでもらうしかない。お奨め。役に立たないかもしれないけれど。

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    『歌うカタツムリ――進化とらせんの物語』(千葉聡)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4000296620

  • 何の役にも立たないかもしれないけど、他の人がやらないことをやっているんだ、という言葉が印象に残った。
    研究者の熱意が伝わってきて面白かった!
    誰も目を向けようとしないところに、着眼して面白さを見つけて研究している人たち。
    海外の大学院生は給料を得ているというのも知らなかったし、日本の大学院生はお金を払って通っているのに先生の研究を手伝わされ、自分の好きなことを研究させてもらえないというのは、改善していって欲しいと思った。

  • 進化のからくり 千葉聡著 | レビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/624066

    『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』(千葉 聡):ブルーバックス|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000337887

  • 【中身より語りがいい】
    進化についてはほとんど頭に入ってきませんでした(笑)
    が、例えがうまく表現がおもしろく、熱量が伝わりました。

    人に伝える文章という意味で勉強になりました。

  • 理系の本てたまに読むと、とても面白い。今回も当たりだった。
    陸貝について地味な(失礼)話だけど、イギリスのレフティの話とか知らない事ばかりで新鮮。時々クスッとさせられて、研究の楽しさも感じられた。

  • 「進化のからくり」というタイトルだが進化学について読者に知見を与えることが本書のテーマではない。
    むしろ副書名にもある「現代のダーウィンたち」について語ることを通じて読者に進化学という学問の面白さを届けることがテーマである。
    したがって、生物学とか進化学の知識を求めている人が読むと肩すかしをくうと思われる。
    私もその知識を求めて読んだ人間の1人で物足りない気持ちを抱いていたが、途中から「ダーウィン以来繋がれてきた進化学者たちのバトンリレーの美しさの物語」であると気づくとエッセイとして楽しめた。
    著者の千葉博士の体験や周りの進化学者たちの研究発表に至るまでの戦いは、普段知ることのないものであり、むしろ単なる解説書より真新しく感じた。
    NHKでやっていたプロジェクトXみたいな面白さがある。
    なにより千葉博士の語り口がよい。
    学者によくある形式ばった表現はなく、自らの失敗や誤りも率直に語るため小気味よい。
    急に話が変わったと思ったら「こう繋がるのか」と思わせるような伏線の張り方も見事で小説のようなカタルシスさえあった。
    スラスラ読めて進化学そのものに興味はなくともエッセイとして楽しめる一冊。
    これから読む方は、ぜひ進化学の知識そのものよりも、登場する科学者の名前を頭に入れるようにして読むことをお勧めする。

  • 現代のダーウィンである進化生物学者たちの最新研究成果と人間ドラマをユニークに紹介したエッセイ。

    自分自身は実験室内で行う研究だったので、本書で紹介されているようなフィールドワーク主体の研究に憧れを感じながら読みました。

    著者の専門である巻貝研究の紹介が中心で、特にカワニナの仲間は染色体数が種や集団ごとに大きく違っているにも関わらず、交雑して雑種が誕生するという生物学の常識から逸脱した現象があることに驚きました。

    生物は謎に満ちた部分が多く、学者たちは好奇心に満ちていることが実感できる一冊でした。

  • 平易な表現、学術的な細部を専門用語で語るだけではなく、わかりやすく有難い。試料の採集における裏話や余談が楽しい。試料はカタマイマイやホソウミニナ、カワニナだったりと、所謂、カタツムリや貝類。グッピーの恋愛やダーウィンフィンチのくちばしに比べると、地味にも感じるが、ハードボイルドな採集ドラマを含めて、目が離せない。あれ、カタツムリの殻、右巻きか左巻き??という話でも面白い。

    で、成果が実り小笠原村は世界遺産へ。生態系、生物進化の過程を示す顕著な見本として認められた。そのロゴマークには、堂々、カタマイマイ。これがまた、かわいい。

    著者は恐らくアニメ好き。本著には、ピッコロ大魔王の例え話と共に北斗の拳の皇帝サウザーが登場。サウザー誰それ、ではあったが、実在する一万人に一人と言われる内臓逆位。臓器の位置が、左右逆。だからケンシロウも秘孔がつけない。巻貝も捕食されぬよう、右に左に。あー巻き方にそういう意味があったのかと。

    考察。しかし、こうした適応は進化なのだろうか。順応、適地生存というだけの気もする。つまり、肉体的優劣が明確ならば、より優れた形質に偏っていく事を進化と捉えるが、優劣の価値観は、文化による。頭が良くて合理性から行動を起こさない形質は絶滅。逆に頭が悪くて動き回る形質が生き残るなら、それは、進化と言えるだろうか。右巻き、左巻きに捕食を逃れる利点はあれど、優劣は無い気がした。楽しみながら、考えさせられる一冊。

  • 「誰もが知っているダーウィンの名言は、進化論の誤解から生じた!」との著者の記事(講談社HP)に興味を持って本書を手に取ってみた。この名言に関するエピソードにフォーカスした内容ではなかったが、進化学者のエッセイとして面白かった。

    ちなみに、HPの記事の方によれば、「この世に生き残る生物は、激しい変化にいち早く対応できたもの」との言葉はダーウィンの言葉ではなく、彼の考えとも異なっており、これは1960年代に米国の経営学者レオン・メギンソンがダーウィンの考えを独自に解釈して論文中に記した言葉であったとのこと。

    むしろ最近のゲノム科学や理論研究が示した答えによれば、常に変化する環境に速やかに適応できる生物の性質があるとすれば、集団レベルであれば、多様でかつ現在の環境下では生存率の向上にあまり貢献していない“今は役に立たない”遺伝的変異を多くもつことであり、個体レベルなら、ゲノム中に同じ遺伝子が重複してできた重複遺伝子を数多く含むこと、複雑で余剰の多い遺伝子制御ネットワークをもつことであるとのことだった。

  • 前著の『歌うカタツムリ』(2017年)が毎日出版文化賞を受賞したことで、著者は一般教養書の優れた書き手として世に知られることになった。現在は東北大学の生態学、進化学の教授である。学者の業績は、一般的に査読付きの論文や著書によって問われるものだが、本書はそういった成果物の背後に、どの職業世界にも見られるような生々しくも人間臭いドラマが存在していることを、まるでノンフィクション作品の内幕物のように描いたエッセイである。医者や弁護士など特殊な職業の実態を覗き見るのは、野次馬根性を刺激してなかなか痛快である。といっても、別に足の引っ張り合いを見せるわけではなく、業績を上げるのに我慢を重ねたり、互いに助け合ったり、またSNSを使って世に訴えたりと様々な活動をしていることが分かる。

    本書は、講談社の月間『本』(2019年1月~12月)に連載されたエッセイに加筆・修正をしたもの。全13章からなるが、内容は著者の学者人生のスタートから始まり、国内外の進化学者との交流や幾多の後進を育成してきた歴史とエピソードを紐解いていく。最終的な狙いは、いかに進化学が面白い研究分野かを訴えることにある。「進化の不思議を追求する人たちはみな、現代のダーウィンなんだ」がキメ台詞だ。あなたもやってみない?とのお誘いでもある。

    具体的には、現代のダーウィンたる、アンガス・デビソン、ミウラ君、ヒラノ君などの個性的な研究者の活躍譚がメインで、彼ら3人があちこちの章に顔を出す。彼らの名前がヒラガナや漢字、また渾名で表記されたりしてあたかも推理小説のような仕立てになっている。ストーリーが時間順で書かれていないので常に年代を意識しながら読む必要があるなど、慣れないとやや混乱を来す可能性がある。しかしそれは難解なものではなく、ちょっとした著者の遊び心である。それはさておき、彼らの研究成果の面白味が十分に伝わるように、学術的な解説も随所にちりばめられており、また彼らの個性がにじみ出ていて群像劇のような展開が面白い。研究に対する執着心なども桁外れであり驚かされる。

    そしてもう一方の主人公はカタツムリ。陸に住む巻貝である。この知ってるようで、その生態や特徴になじみのない生き物が、実は進化学において重要な研究対象であることが徐々に明かされていく。なので伏線というか、底流に流れる進化の学説を、ある程度予習してから読むのが良いだろう。現在は進化の総合説が主流であるが、それに反旗を翻す学説も存在する。通説への反論に効果的なのは、その反例を示すことだ。それは物理のように実験だったり、自然の観察によって得たものでもよい。ある事実が理論体系をひっくり返せるか、もしくは補助仮説によって既存の理論体系に取り込まれてしまうか、それは分からない。しかし反例と思しき事例の発見は関係者を慌てさせ、攻撃側と防御側は論争し、思考を促す刺激になるのは間違いない。

    そしてカタツムリにこそ、そのような時限爆弾のような威力があるかも知れないと話が展開していくのだが、それほどの貴重な素材であり、物語のドライバーであるのに、本書では、その生態や特徴などにほとんど触れていないのが誠に残念である。1章を割いてでも詳しい説明が欲しかった。その助けがあれば、もっと前のめりになって読めるのではないか。著者にとっては、それらの事実はあまりに当然のことかも知れない。しかし著者は進化学のファンを増やすのを目的とするとわざわざ書いているぐらいだ。つまり読者層を生物学の素人の水準と想定しているのだから、それぐらいのサービスがあってもよかろう。文中にさりげなく、「カタツムリは雌雄同体」との記載があるが、ならば自家受精も可能ということを知り、私はそれだけで、「ええーー、知らんかったあ」と痺れまくった。さらに交尾の際に「恋矢(Love dart)」という剣のようなものを相手に打ち込むのだが、「それって意味あんの~?」と、はてなマークが消えなかったり。「めっちゃおもろい生き物やんけーー」と一目惚れした。けど触りたくはないし、飼うつもりもないのだが。

    ところで『進化のからくり』というタイトル。大袈裟というか、変な期待を抱かせる点がやや問題である。進化学説は一般読者にはなじみが薄く、また日本でのその受容と発展が、著者が指摘するように歪んだものであったため、専門家でない限り、現時点でどのような学説があるかなど正確な知識を持ち合わせていない者が大半であろう。なので、『進化のからくり』と銘打たれると、「お!この一冊を読破すれば、進化学はマスターできそうだ」と誤解してしまう。かくいう私もそうであった。タイトルだけ見て図書館で借りてしまったのだ。しかし、この本の副題である『現代のダーウィンたちの物語』こそが本書の内容を表すのに適切なものといえる。

    話は変わるが、エッセイの読書記録を残すのは、なかなか難しいなと感じる。その内容について自分の賛否をとやかく言うものでもなく、かといって知識の仕入れが目的でもない。何を書き残すべきか。エッセイの読み方として、著者の人間性の面白みから「へーそんな出来事があったんだー」とか、「そんな風に感じたり、考えたんだー」という類の感想をもつのが主なものだろう。もちろん、場合によっては新たな知識や認識を得るきっかけとなる文章もあるが、著者はそれを発表せんがために、それを記したのではなく、あくまでエピソードを分かりやすくするための補助線として書き入れたまでのことだ。そういった知識を本気で得たいのなら、まさに学者の成果物や学術書を熟読すれば良いのだから。
    エッセイも人それぞれに読み方、楽しみ方はあるが、知識を得る、認識を深めるという知的な側面だけではなく、むしろ驚き、笑い、泣くといった情動を激しく揺さぶられ自分もそれをぜひ体感してみたいというような欲望を掻き立てること、意欲や情動の刺激剤として読むのが、やはり自分には合ってるかなと思う。なので、素直にそういった情動の変化を記録していけばいいかと考えた。自分の生物学、進化学の理解がさらに向上したとき、またもう一度、読みたいと思わせる快著であった。

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著者プロフィール

1968年、神奈川県生まれ。高校教諭。
1998年、第41回短歌研究新人賞受賞。歌集に『飛び跳ねる教室』『今日の放課後、短歌部へ!』『短歌は最強アイテム』『グラウンドを駆けるモーツァルト』、小説に『90秒の別世界』、共編著に『短歌タイムカプセル』、編著に『短歌研究ジュニア はじめて出会う短歌100』などがある。歌人集団「かばん」会員。國學院大學、日本女子大学の兼任講師。

「2021年 『微熱体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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