刑事の怒り (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065184035

作品紹介・あらすじ

心をえぐられたとしても、彼だけはあきらめない。

刑事・夏目信人シリーズ第四弾。
涙が溢れるだけでは終わらない。

年金不正受給、性犯罪、外国人労働、介護。
社会の歪みが生み出す不平等に、虚しさを抱えつつも懸命に前を向く人々。
非力な彼らを餌食にする犯人を前に、刑事のまなざしが怒りに燃える。
私たちが願うのは、被害者の幸せだけでいいのだろうか。

現代の闇に根差す凄惨な事件。
薬丸岳が「現代」を描くミステリー!

感想・レビュー・書評

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  • 「刑事のまなざし」「その鏡は嘘をつく」「刑事の約束」に続く夏目シリーズ第四段。
    4編からなる短編集です。
    これまた、重いストーリばかり。しかし、この手の話は大好きです。

    ■黄昏
    第70回日本推理作家協会賞受賞作品。
    母親の死体をスーツケースに隠してもっていた娘。
    母親の死を届けなかった理由とは?
    年金詐欺 ?

    ■生贄
    これは辛い物語。
    公園のトイレで起きた殺人事件。
    レイプから身を守ったと主張する女性。
    しかし、その女性の過去、そして、その真相とは..
    最後、もうひとひねりあったところがすごい。

    ■異邦人
    ベトナム人による強盗致傷事件発生。
    しかし、その事件の真相とは?
    外国人労働者に対する社会の「目」がポイント

    ■刑事の怒り
    「生きる」ということを思い直させる物語。
    眼しか動かすことができない状態で、誰かの介護なしに生きることしかできな状態で、「生きること」とは?
    そのような状態に置かれた家族の想いとは?

    「ドクターデスの遺産」を思い出しました、
    しかし、事件の真相は別なところにありました。

    ということで、とってもお勧め。

    過去の事件、登場人物が出てくるので、過去作品と時間を離れず読むことをお勧めします。
    ほとんど忘れてた(笑)

  • 夏目刑事シリーズ第四作。これまでのシリーズ作品の中で最も重かった。

    「黄昏」
    年老いた母親の死体をスーツケースに詰めたまま三年も暮らしていた娘。今さら何故出頭してきたのか。
    よくある親の年金詐取事件なのかと思いきや、母娘がかつて住んでいた街での捜査で新たな一面を見せる。
    親子関係、長寿社会、生きがい…様々なことを考えさせられた末に夏目は被害者の真の思いまで突き止めてくれた。
    この事件後、夏目は墨田区錦糸署へ異動する。

    「生贄」
    性犯罪は体と心を傷付けるだけではない。その人の尊厳を踏みにじり粉々にしてしまう。登場人物の言うように死んだことと同じなのだ。それなのにその刑罰はあまりに軽い。この話では女性だけがターゲットになっているが、最近では男性が被害者になるケースも聞く。性別関係なく許されない犯罪だ。
    この一話だけでこれほど沢山の性犯罪被害者が出てくるなんて、深刻なことだと認識しなくては。
    錦糸署の女性刑事・本上の厄介なキャラクターは今後どう展開するのか。

    「異邦人」
    『警察通訳人』の話はたまに読むが、ベトナム人目線のこの話もまた考えさせられる。
    最近よくニュースで耳にする外国人犯罪。それに伴い外国人に対する日本人の目も厳しくなる。一方で「技能実習生」という名の労働力で日本人が嫌う仕事を補い、「語学留学生」たちのアルバイト労働者たちが安いサービス料金を成り立たせていることを忘れてはいけない。彼らもまた搾取され切羽詰まっている。勿論どんな理由があろうと犯罪はダメだが。
    日本人だろうが外国人だろうが、その地で真面目に取り組んでいる人はいる。彼らに少しでも救いがあれば良いが。

    「刑事の怒り」
    自らの体を動かせない、誰かの力を借りなければ一秒も生きられない者は生きる意味がないのか?
    夏目の娘は目覚めこそしたが、相変わらず自らの体を動かすことは出来ない。そのことを娘自身はどう感じているのか? 夏目夫婦が娘を看護しリハビリをさせているのは夏目夫婦のエゴなのか? 自らの力で生きられない者は周囲のお荷物でしかないのか。
    難しい問題。個人的には自分が経済的にも身体的にも精神的にも家族を追い詰めるくらいなら…と考えてしまうが。
    生きるとは何かを改めて考える話だった。

    前作で見守りを約束した少年はまだ闇を抱えたまま。今後人間らしさを取り戻せるだろうか。

    ※シリーズ作品レビュー
    第一作「刑事のまなざし」
    https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/406277299X#comment
    第二作「その鏡は嘘をつく」
    https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/4062185202#comment
    第三作「刑事の約束」
    https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/4062188783#comment

  • 夏目シリーズ第4弾!
    相変わらず、洞察力抜群で事件を解決していく短編集4編。
    娘さんも植物状態から復帰して、何かええ感じ。
    とは言え、事件の方は変わらず悲惨です(T . T)

    普通なら、当然、この人が犯人、もしくは、こういう犯行でしょ!と皆んなが思ってるのに疑問を感じる。疑問を感じると納得できるまで捜査する。独りになっても。
    鋭い洞察力もそうやけど、相手の行動を、相手になりきって行動を考えるんかな?
    今回の4事件もその洞察力を発揮する。
    でも、娘さんと同じような状況の人たちが殺されるのには、怒りが!

    このシリーズは、いつも一気読み!
    ええ感じにできてます。
    夏目さん!これからも、頑張ってや!

  • 薬丸岳『刑事の怒り』講談社文庫。

    刑事・夏目信人シリーズの短編集。人間の犯した罪の背後にあるものを夏目の鋭い目が暴き、事件の真相を明らかにする。時に暖かく、時に残酷な夏目の目。『黄昏』『生贄』『異邦人』『刑事の怒り』の4編を収録。

    『黄昏』。娘が高齢の母親の腐乱遺体を隠し続けていた理由とは……人びとが隠していたい人生の影の部分をも暴き出す夏目の鋭い目。ちょっと残酷のように思う。日本推理作家協会賞短編部門受賞作。

    『生贄』。極悪非道なレイプ犯罪。公園のトイレでレイプ被害にあった女性が加害者を刺し殺し、警察に自首する。事件に違和感を覚えた夏目は……夏目の正義感は十分理解出来るが、暴かなくとも良い事実もあるのではなかろうか。

    『異邦人』。近年増えている海外からの留学生。中には留学という名目で日本に金を稼ぎに来ているという。東京のコンビニ店員などは殆どが外国人留学生のアルバイトだ。そんな状況で起きたベトナム人女性留学生による強盗傷害事件。夏目の鋭い観察力が事件の真相を暴く。

    『刑事の怒り』。表題作。寝た切りとなった我が子を死に至らしめたのは実の母親なのか、バイク事故で意識不明となった若者の突然死は医療過誤によるものなのか、この世の不条理と罪深い人間に夏目の怒りは爆発する。

    本体価格760円
    ★★★★

  • 現代の犯罪と社会問題、その裏に隠された人の想いを描いてきた夏目シリーズもこれで4作目。前作『刑事の約束』で起こった夏目の身辺の大きな変化。それを通じて夏目シリーズの物語の芯はさらに太く、強くなっているような気がします。


    収録作品は4編。表層的な事件の捜査にとどまらず、事件の容疑者や被害者を愚直に見つめ、犯罪に向き合う夏目の姿勢は今回も変わらず。しかし、収録作品に関してはますます円熟味を増しているように思います。

    母の死体をスーツケースに入れて、死を隠蔽し続けた娘の本当の目的を探る「黄昏」
    明らかになる娘の思いと、決して消えない後悔。事件の構図が見えてくるとともに、それが切々と迫ってくるのですが、単に後悔だけで終わらせず、全ての情報から死者の思いすら読み解き、事件を真の解決に導く夏目の見事な推理! 

    動機の意外性、その意外性まで無理なく導く構成。完成度の高さはもちろん、切なくも優しい人の情を浮き彫りにする真相に心打たれます。

    外国人留学生の窃盗事件を描いた「異邦人」は、留学生の厳しい現状を描きます。彼らの孤独や苦悩は平易な文体ながらも、真を持って読者に迫ってきます。

    そして彼らの孤独を生むのが、自分たちが暮らす社会の、そして自分たちの心理の問題だということにも気づかされます。話の展開の巧さはもちろんなのですが、そこから浮き彫りになる問題は、あくまで現実と、そして自分たちと地続きなのです。社会派ミステリとはかくあるべし、と感じてしまいます。

    「生贄」は性犯罪を扱った重厚な短編。
    レンタルビデオで夏目が覚えた違和感は、情を持って事件に挑む、夏目にだからこそ気付けたもののように思います。そして明らかになる真相は、あまりにも哀しい……

    理不尽な暴力で壊れてしまった人の心、そして生まれた悲劇。どうすれば人の心は救えるのか、この悲劇は避けられたのか、悶々と考え込んでしまいます。

    そして表題作の「刑事の怒り」
    植物状態となった患者の不審な死。それは夏目自身にも大きな問いかけを発します。
    かつて犯罪に巻き込まれ10年近く昏睡状態となった夏目の娘。それでも夏目は希望を捨てず、妻と二人三脚で娘の回復を信じ、ようやく希望が見出せる状況になってきました。

    犯人の非道かつ身勝手な動機と言い分に対し、夏目が見せた“刑事の怒り”。それは自分にも突き刺さってくるものでした。

    この話を読んで思い出したのが、数年前に起こった障害者施設での殺人事件。この事件は社会の様々な意見を発現させ、自分も少なからず、生きるとは何か、命の価値とは何か、幸せとは何かを考えました。

    そんなもやもやとした感情を思い起こしつつも読み進め、そしてクライマックスの夏目の言葉を読んだ時、頬を打たれるような思いがしたのです。

    今まで夏目夫妻の娘への思いや、献身的な行動を読んできたにも関わらず、結局自分の勝手な思い込みや狭い視点から、何も抜け出せていなかったのだと。

    薬丸さんは現代社会の犯罪と問題に対し、本当に真摯に誠実に、そして作中の夏目よろしく、どこか優しさを持ち、時に苦悩しながらも向き合っていらっしゃると思います。そして、そんな薬丸さんの芯がますます濃縮されつつあるのが、このシリーズのようにも思います。

    この巻で夏目自身がこれまでの警察署から異動となり、新たに本上という女性刑事とコンビを組むようになります。彼女も過去に何らかの犯罪に巻き込まれた節があり、それもまた、このシリーズの根底に関わってくるような気もします。そして夏目の娘である絵美の今後も、きっと夏目自身に大きな影響を与えることと思います。

    ミステリとしての完成度もさることながら、シリーズとして夏目の視点が現代社会の何をとらえるのか、今後とも期待していきたい作品でした。

    第70回日本推理作家協会賞〈短編部門〉「黄昏」

  • 夏目信人シリーズの第4弾! 今回も4つの社会問題・テーマに全力で向き合う良作が並ぶ。仕事上で出会うことが多かったパラサイト問題を扱った“黄昏”、職場にいる技能実習生のことを考えさせられた“異邦人”が特に引き付けられた。このシリーズは引き続き追いかけていきたい。ただ、著者の不勉強な面が出てしまうのが玉に瑕。ケアマネジャーは直接口腔ケアはしませんよ~。編集、校閲さんもチェックしましょうね!

  • 夏目刑事シリーズ第4弾。
    2話目からは、東池袋署から錦糸署へ異動。初日から遭遇した事件でコンビを組むのは、女性刑事本上。何やらいわくありげな相棒で、今後のコンビぶりに興味あり。
    短編4編はそれぞれ、年金やレイプ、外国人労働者と、現代日本の社会問題を取り上げながら、ミステリーとしての面白さも満たしてくれる。
    表題作では、夏目の娘絵美とシンクロする、身体活動や知的活動ができない患者への対応の問題を扱う。医療過誤か自死か、あるいは事件か、夏目の怒りは著者の怒りでもある。
    ただ、娘絵美が作品ごとに回復しているのを見るのは、次回作への楽しみとなる。

  • 『刑事のまなざし』から始まる刑事・夏目信人シリーズ、第4弾。

    社会的弱者の苦悩や問題を、丹念に掘り起こし、一つ一つ丁寧に浮かび上がらせる薬丸作品。

    今回は、『黄昏』、『生贄』、『異邦人』、『刑事の怒り』の4作品。それぞれ、年金不正受給、性犯罪、外国人留学生、介護の問題。

    それぞれ味のある作品ですが、特に、『刑事の怒り』は、被害者が自身の娘・絵美の姿とも重なり、犯人の理不尽な理由に怒りが...
    ぜひ一度、読んでみてください。

  • 薬丸さんも好きな作家さんのひとり。
    薬丸さんのミステリーは、胸が締め付けられるテーマも多いけど…
    とても興味深く、惹きつけられます。

    この本は、夏目刑事シリーズ。

    ・刑事のまなざし
    ・その鏡は嘘をつく
    ・刑事の約束

    に続くシリーズ第3弾。

    夏目信人。
    一人娘の絵美が通り魔事件の被害者となり、意識不明となる。
    当時、法務技官だった夏目は、犯人を捕まえたいとの思いから、警察官となった。

    警察小説はちょっと苦手なのですが、このシリーズは別。
    夏目の人間的魅力に惹きつけられる。

    【刑事の怒り】は4編の連作短編集。

    ・黄昏
    ・生贄
    ・異邦人
    ・刑事の怒り

    どの作品も社会問題をテーマにしている。
    表題作である「刑事の怒り」を読みながら、津久井やまゆり園の事件を思い出していた。

    夏目の一人娘、絵美も10年もの間、意識不明の状態だった。
    表題作はこの重いテーマを描いている。

    この作品が描かれたのは、事件のあと。
    薬丸さんはこの重いテーマに挑んだことになる。
    とても考えさせられた。

    刑事・夏目信人シリーズ。
    今後も期待!

  • 薬丸岳さんの夏目信人シリーズで今回は黄昏、生贄、異邦人、刑事の怒りの4つの物語で構成されており、どの物語も夏目刑事の慧眼と行動力に感心させられますが、やっぱり彼の人柄ですかね~。犯人を追い詰めないというか、自省の機会を与えるというか。。。ただ、最後の物語である「刑事の怒り」については、彼自身が背負うものと、、、これ以上言わない方が良いですね。兎に角、読んでみて下さい♪

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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