銀河鉄道の父 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065183816

作品紹介・あらすじ

第158回直木賞受賞作、待望の文庫化!

『銀河鉄道の夜』『注文の多い料理店』など数多くの傑作を残してきた宮沢賢治。
清貧なイメージで知られる彼だが、その父・政次郎の目を通して語られる彼はひと味違う。
家業の質屋は継ぎたがらず、「本を買いたい」「製飴工場をつくってみたい」など理由をつけては、政次郎に金を無心する始末。

普通の父親なら、愛想を尽かしてしまうところ。
しかし、そんなドラ息子の賢治でも、政次郎は愛想を尽かさずに、ただ見守り続ける。
その裏には、厳しくも優しい“父の愛”があった。やがて、賢治は作家としての活動を始めていくことになるが――。

天才・宮沢賢治を、父の目線から描いた究極の一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 祝映画化ですね。宮沢賢治が菅田将暉さんのイメージになってしまう前に。
    現在では、国民的作家となっている宮沢賢治。その父政次郎の視点と気持ちで描かれた彼の一生涯と家族の物語。国語便覧では、隠された部分の賢治の足跡も詳らかにされています。
    祖父と父がその才覚で質屋として財をなし、裕福さと父親の深くも甘い愛情が、作品の基礎となっていたのかなと思います。生活力が乏しい息子を厳しく諭しきれず、見放す事など到底できず。息子愛を、明治時代の父権としての形状を保ちながら、影で存分に発揮する。時々、漏れる心の声が微笑ましい。ハッカ飴を忍ばせる場面が好きです。
    岩手だからか、なんとなく石川啄木と混同しているエピソードがあったかもしれない。じっと手を見ながら“雨にも負けず”を書いたようなイメージになってしまっていた。
    あの自由な言葉遣いは、豊かな自然、裕な家族、思った以上に奔放な性格からの創作でしょうか。
    ゴッホの弟、一葉の妹、賢治の弟と弟妹達の支えあっての天才達ですね。

  • 門井氏の本は「家康、江戸を建てる」に続き2作目。歴史小説という事で実在の人物を元に小説を書いているのだが、何故だか前作も含めて人物像の表現にハマらない。
    宮沢賢治の駄目っぷりに対して父親の愛情が強すぎて一寸引いてしまう。昔の頑固親父でありながら、賢治が病気すると一人で看病し過ぎて、自分が一生治らない病気になってしまう。質屋の後継の件もそうだし、莫大な花巻市の講習会への援助とか、どうこの父親を表現したら良いのか悩む。

  • 門井慶喜『銀河鉄道の父』講談社文庫。

    第158回直木賞受賞作の文庫化。大傑作。岩手県民が敬愛する岩手の偉人・宮沢賢治。岩手県民はもとより日本国民の殆どが彼の遺した数々の傑作を知っていると思う。しかし、賢治を育てた父親がどんな人物だったかを知る人は岩手県民でさえ少ないだろう。宮沢家の厳格で時に親馬鹿な父親・政次郎が見つめてきた宮沢賢治とは……そして、賢治の実像は……如何にして傑作童話を書くに至ったのか……

    本作では宮沢賢治という人物は父親を始めとする家族の愛情を受けながらも、家業の質屋を継ぐには頼りない浪費家の秀才として描かれている。賢治も所詮、花巻の片田舎に住む市井のひとりに過ぎず、完璧な人間ではないのだ。あの手この手で何度も父親に金子を無尽する辺りの描写が面白い。人生をさ迷ううちに詩人・童話作家としての道を見出だした賢治は……

    やがて賢治に訪れる僅か37年余りの人生の終焉。その時、父親の政次郎は……

    雨ニモマケズ
    風ニモマケズ
    ……

    松尾芭蕉の辿った奥の細道や弁慶が座った岩とか持ち上げた石とか、日本全国の至る所に彼らの足跡があるように岩手県内の至る所に宮沢賢治の足跡がある。花巻近辺は言わずもなが、一関市の東山にある石砕工場、紫波に現存する親友の生家など、様々な場所に賢治の足跡があり、こんな所にも賢治は足を運んだのかと驚かされる。

    本体価格920円
    ★★★★★

  • 「グスコーブドリの伝記」を始めとする珠玉の童話や心揺さぶる詩の数々を生み出した宮沢賢治、実は金持ちボンボンの甘えん坊だった? 親に無心を繰り返し、生活力がなく自立出来ないコミュ障気味の軟弱者。絵空事を夢想し、思い通りにならないと宗教に走る未成熟な半端者。え~、そうなの? それもこれも、商売に厳しくも長男にベタ甘の父親に育てられせい?

    本書は、質屋兼古着屋を営む宮沢政次郎が、長男の賢治をどう育て、どう見守っていたのか、父親の視点で宮沢賢治を描いた作品。

    「(逃げている)質屋という職業から。長男という境涯から。いっそう本質的なところでは、食うために稼ぐという人間行為の真の価値から」、「宮沢家という経済力のある家庭にめぐまれ、小学校のころは神童とまで呼ばれるほどの秀才でありながら、気がつけば凡人ができることもできない。単なる無職の男」、甘えん坊の意地っ張りで、病気もちの引っ込み思案なお人好し。そして深すぎる兄妹愛。童話は大人の世界からの逃避? 家庭を持てず子供を作れない代わりに童話を生み出した? 「雨ニモマケズ」、自分に無いもの、すなわち健康な身体と自立した逞しい精神を切に求めた(無い物ねだりの)詩だったんだな。

    賢治作品に通低する純真さや自己犠牲精神は、賢治の心の脆さ・世俗を生き抜く逞しさの欠如と裏腹の関係にあるんだな? 宮沢賢治作品について深く考えさせられた作品だった。(作品自体の魅力は色褪せないにしても)これから賢治作品の読み方変わってしまうかも。

    賢治が病床の愛妹トシに童話を語り聞かせるシーンにはジーンときた。

    「成長とは、打たれると知りつつ出る杭になることなのかもしれない」っていい表現だな。

  • 以前、岩手県へ旅行した際、宮沢賢治記念館を訪れたことがあります。
    賢治直筆の資料等が展示してあったり、童話の朗読が流れているスペースがあったりして、まさに宮沢賢治の世界観にどっぷり浸れる素敵な記念館でした。
    そういえば、石ころ?鉱石?のようなものもいくつか展示してあったような…
    本作を読んで、宮沢賢治が"石っこ賢さん"と呼ばれていたことを知りました。

    本作は宮沢賢治の生涯についての物語ですが、ほぼ全編、宮沢賢治の父・政次郎の視点から描かれています。
    成長する息子を見守り、誇らしく思う父。
    病気にかかった息子を熱心に看病する余り、自らも病気に感染してしまう父。
    息子の希望どおりの進学を許そうと決意する父。
    将来の道を決めかねる息子にやきもきし、ついつい口を挟んでしまう父。
    弱気な息子を叱責し、前に踏み出すよう導く父。
    それら全てが、賢治への大きすぎる愛で溢れています。

    宮沢賢治は、有名な詩や童話をいくつも生み出した偉大な作家ですが、
    その偉大な作家の父親は、こんなにも深い愛情を抱く人だったということが伝わりました。
    東北の方言だらけの会話も面白かったです。
    "へば"とか"まんつ"って何だか可愛いですね(笑)

  • 良いなー。
    こんなお父さんいたらと羨ましくなりましたが1番の感想です。
    大好きなんですよね息子さん、宮沢賢治の事を。
    抱きしめたい位に愛おしいと思っても自分は父親なのだからと威厳を保とうとするこの本の主人公宮沢政次郎。
    宮沢賢治は誰もが知る人ですが、そのお父さんである宮沢政次郎が息子を信じる気持ちがなければ世に知れる事は無かったかもしれないです。
    読んだらきっと、お父さんである宮沢政次郎を好きになってしまいます。

  • 私がいた大学に深澤教授という学生闘争以前の大先生がいた。西洋哲学のゼミを物色していた私が『宮沢賢治研究』という見出しを見た際、「気持ち悪っ」と思って他ゼミに流れたことがある。

    卒業後その記憶も薄れて、緒方直人主演の『宮沢賢治物語』をたまたま見た。最愛の妹トシの死、そして賢治の死を画面で見てしまい一人アパートで号泣。
    雨ニモマケズをすぐ印刷して壁に貼り付けた。そのA4用紙も転勤で何処かへ消え失せた。

    どうも縁がない。
    宮沢賢治は私の元から逃げていく。それが復縁できそうな予感。ほぉー、賢治はイタズラっ子だったのか。私の子どもと同じじゃないか。そりゃ逃げるわな。
    ここにきて賢治を全て受け止めた父・政二郎の生き方が、心の内側にズシンと響いてくる。


    ── 仕事があると云う事の最大の利点は、月給ではない。所謂、生きがいの獲得でもない。仕事以外の誘惑に人生を費消せずに済むという、この一事に他ならないのである─

    定職につかない賢治が教師になった時の、政二郎の心境が綴られている。作文に生きることが良かったのか。教師や、あるいは田畑の研究に勤しむ道が良かったのか。その答えは後世の私たちですら分からない。

    この作品に描かれる賢治はどうしようもなくリアルだ。生きている。それが気持ち悪いほど伝わってくる。しばらく宮沢賢治の詩作に耽ろう。深澤先生のゼミを受けておけば良かったのだ。もっともっと深く賢治を知れただろうに。

    悔いられる。
    珠玉の名作。

  • 「歴史的価値や意義というより、二十一世紀の我々にとって心に残る父親像がある。厳しさと過保護の間で揺れ動く現代のお父さん」(解説より抜粋)この言葉以上に今作の主人公_銀河鉄道の父宮沢政次郎を表すものはないと思います。
    父親の視点から、宮沢賢治の一生を追った今作。読み応えばっちりだし、小学生の頃伝記漫画でしか触れていなかった賢治の一生をより深く理解出来る1冊でもあります。
    時は明治。喜助のような威厳溢れる父親像が主であったであろう時代において、政次郎はことある事に長男賢治についつい手を差し伸べてしまう。金の無心をされれば応じてしまい、応じてしまっては反省する、そんな人間味に溢れる父親です。賢治も賢治でなかなかびっくり。飴工場をつくるだの、人工鉱石をやるだの。読んでいるだけの身からしても、おいおいちょっと待ってくれよ賢さん!とツッコミたくなるようななかなかのボンクラ息子ぶり。
    でも、自由に泳がせてもらえたからこそ、少年の心でいられたからこそ、最後童話という1番夢中になれるものを見つけられたのかもしれません。
    父の深い愛情、賢治の一生に触れられる1冊としておすすめです。

  • 宮沢賢治と父親の関係については、“賢治と父親は信仰の違いで喧嘩をした”くらいの知識しかなかったから、今回読んでみてすごく新鮮で楽しかった。

    宮沢賢治の時代の父親像は、家を守る立場である家長としての厳格な姿。しかも、前述の通り賢治とは宗教の違いで喧嘩したという情報しかなかったからこそ、息子のために奔走する政次郎に驚いた。愛が大きい。

    あたたかくて優しい、けれど切ない読後感。


    「肉や骨はほろびるが、言葉は滅亡しないのである。トシという愛児の生きたあかしを世にとどめるには、政次郎には、この方法しか思いつかなかった。そのためには、誰かが憎まれ役にならねばならない」

  • 最初は、お父さん甘すぎ!賢治、つけ込むな!
    とわあわあ思いながら読んでいて、気付けば最後まで持って行かれてしまっていた……。

    途中まで、この作品の宮沢賢治を好きにはなれそうにないと思っていた。
    それは、生活や仕事の俗な部分に関わろうとせず、そう在らねばならない時には顔を引きつらせているような、そんな態度が気に入らなかったからかもしれない。

    けれど、どんどん超越していくことを止められない、そんな賢治の切実さに触れていると、見放せなくなっていくのだった。ああ、もう。

    そして、そんな賢治に翻弄されながら、父として何度も葛藤を繰り返すお父さんが愛おしい。
    自分が継いできた質屋という家業を、息子に拒絶され、閉めることを決意できるというのが、なかなかすごい。
    器の大きさと、家長としての役割と、なのに賢治には甘ちゃんな部分を併せ持つ父親像を、こんなにありありと描いている小説って、ぱっと他には浮かばない。

    恐らく、この父親の視点だから、読者はどこかでホッと出来るんだと思う。
    これが賢治視点から描かれていたら、きっともっと息詰まった作品になっていたような気がする。

    そんな大黒柱としてデーンと座っている父親像なんて古い!なんて言わずに、賢治の父親の音読にぜひ耳を貸して欲しい。

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著者プロフィール

1971年群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2003年、第42回オール讀物推理小説新人賞を「キッドナッパーズ」で受賞しデビュー。15年に『東京帝大叡古教授』が第153回直木賞候補、16年に『家康、江戸を建てる』が第155回直木賞候補となる。16年に『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、同年に咲くやこの花賞(文芸その他部門)を受賞。18年に『銀河鉄道の父』で第158回直木賞を受賞。近著に『ロミオとジュリエットと三人の魔女』『信長、鉄砲で君臨する』『江戸一新』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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