地球をめぐる不都合な物質 拡散する化学物質がもたらすもの (ブルーバックス)
- 講談社 (2019年6月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065163931
作品紹介・あらすじ
かつて社会問題にも発展したダイオキシンに代表される化学物質による環境汚染だが、国を挙げた排出規制や環境技術の革新によって排出量は減り、問題は解決したように思われていた。しかし、近年、工業化の進展が著しい中国などの新興国や先進国の環境中に蓄積された化学物質が、大気や降雨、海流などを通じて、世界各地に拡散していることがわかってきた。
汚染はダイオキシン類にとどまらず、水銀やヒ素などの重金属、様々なプラスチック製品が微細に分解されたマイクロプラスチック、直径2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質PM2.5など多種多様に及ぶ。こうした化学物質は、排出源からはるか遠方の北極や南極などにも広がり、海洋生物や極地に住む原住民の体内には無視できない量の化学物質が蓄積されていることが明らかになってきた。
環境中に放出された残留性有機汚染物質は、ひとたび生体内に入り込むと、そこに長期間とどまる。厄介なことに、環境中では低濃度であっても、食物連鎖を通じて生態系の上位に向けて生物濃縮が進み、アザラシ、アシカ、セイウチ、イルカなどの鰭脚類や鯨類では、驚くほどの高濃度になることが知られている。たとえば、西部西太平洋に棲むスジイルカが、海水中の1000万倍もの高濃度でポリ塩化ビフェニルを蓄積しているという報告もある。また、ヒトについても、成人には影響を与えることのない微量な化学物質であっても、化学物質に感受性の高い幼児期に化学物質に触れると、その後の成長や免疫機構に無視できない影響を与えることなどが危惧されている。
第一線の環境化学の専門家たちが、様々な視点から「地球規模の化学物質汚染」についての深刻な状況を報告する。
プロローグ 地球をめぐる不都合な物質とは
第1部 人類が作り出した化学物質が地球を覆う
第1章 世界に広がるPOPs汚染
ー海生哺乳動物の化学物質汚染と途上国のダイオキシン汚染
第2章 マイクロプラスチック「不都合な運び屋」
第3章 水俣病だけではない「世界をめぐる水銀」
第4章 古くて新しい不都合な物質「重金属」
ー四大公害病から越境汚染まで
第5章 知られざるPM2.5
-何が原因? どこからやってくる?
第2部 不都合な化学物質は、私たちにどのような影響をもたらすのか?
第6章 メチル水銀が子どもの発達に与える影響を探る
第7章 化学物質が免疫機構に異常を引き起こす
-免疫かく乱とアレルギー疾患
第8章 毒に強い動物と弱い動物
ー解毒酵素を介した化学物質との攻防
エピローグ 化学物質をめぐる対立
感想・レビュー・書評
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読んで損はない一冊。
有毒、汚染を齎す物質の実態や影響を分かりやすく解説してくれる。身につく知識が多く、読後、少し賢くなった気がする。
イヌイットの血液中PCB濃度が著しく高い。何でイヌイット?と思う。高緯度地域は,水温が低く、揮発性より沈着量が勝るため、化学物質は徐々に北極へ集まるからだ。これをグラスホッパー効果という。
世界の石油年間産出量の8%がプラスチックへ。プラスチック原材料への使用が半分、作る際のエネルギーとしての使用が半分。プラスチック製品には、プラスチックを適度に柔らかくする可塑剤、太陽光による劣化を防ぐ紫外線吸収剤、難燃剤が含まれる。
ポリ塩化ビニルを使用する多量のゴミが燃焼によりダイオキシンを発生させ土壌汚染。そこで育った牛から牛乳へ、更にはそれを飲んだ人体へ。
マイクロプラスチックがPCBを吸着させ体内へ。トロイの木馬のように、運び屋になる。ポリエステルやナイロンの衣服の洗濯クズ、ポリウレタンやメラミンフォームのスポンジくずもマイクロプラスチックとなる。
血液ー脳関門が有害な成分を脳に取り込まないようにしている。しかし、メチル水銀がシステイン結合体になれば、関門を突破してしまう。重要な栄養素である必須アミノ酸のメチオニンに化学構造が似ているため。胎盤もバリアとして機能しない。 -
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内容(「BOOK」データベースより)
『かつて社会問題にも発展した化学物質による環境汚染だが、排出規制や環境技術の革新によって問題は解決したように思われていた…。しかし、実際は、ダイオキシンなどの環境ホルモンやマイクロプラスチック、PM2.5、メチル水銀などによる汚染は全世界に広がり、生態系に回復不能なダメージを与えつつある。地球規模で進行する深刻な汚染の実態。』
『私たち人類は、これまで数多くの化学物質を作り出してきました。そして2015年、アメリカ化学会が構築しているCAS(Chemical Abstracts Service)データベースに登録されている化学物質の数が「1億個」を超えました。…本書では、これまであまり知られてこなかった「地球をめぐる不都合な物質」について、第一線で活躍する環境化学者たちが解説します。取り上げた物質は、POPs(残留性有機汚染物質)、マイクロプラスチック、PM2・5や水銀など、多岐にわたります。こうした物質がどのように地球をめぐるのか、ヒトや野生生物にどのような影響を与えるのか、またそれぞれについて何がどこまでわかり、何がまだわかっていないのか、どう判断し行動することが大切なのかなど、最新の情報を詳しく説明していきます。(「まえがき」より)』
『地球をめぐる不都合な物質』
編著:日本環境化学会
出版社 : 講談社
新書 : 272ページ
発売日 : 2019/6/20 -
温室効果ガスが注目されがちだが、化学物質による汚染も世界的に広がっており、どの海域の魚からもプラスチックが見つかるとは…人為的な環境汚染の課題の大きさに気が滅入ってしまう。プラスチック・石油への依存が改めて認識される。ポリエステルやプリプロピレンやエラストマーや…代替材料の研究についても気になったが、やはりコストがネックの模様。汚染状態の研究方法の紹介も面白かった。
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一つ一つのトピックスが簡潔で、手を出しやすい。
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現在問題になっている主要な化学物質について、最近の知見がかなり詳細に盛り込まれています。POPs、マイクロプラスチック、水銀、重金属、PM2.5などが主な対象物質です。
これらの人への短期毒性としての影響だけでなく、動物、子供の発達、免疫機構への影響など、多岐にわたって化学物質の負の作用が丁寧に説明されています。
単に、化学物質を怖がるだけでなく、リスクとベネフィットを考えて付き合うことが大事だとしておりますが、その評価がいかに困難かがよく理解できます。
一般の人も化学物質に関する正確な知識が必要で、学問に関わる側も伝える努力を怠らない、という筆者の主張は、私も同じ業界人として意識を新たにさせられました。
「化学物質」と耳にしただけで嫌悪感を示し、思考停止に陥らないためには、地道な知識の刷新の継続が必要なのだと実感しました。 -
全体的にぼんやり危機感を煽っている感じで内容として不足感を感じるが、問題になりうる化学物質について理解は深まった。
特に気にした方がいいなと思ったのは胎児と乳児が関わる状況の食事、メチル水銀など、胎児の体からは排出されにくい物質が魚を食べることで摂取されてしまうため、注意が必要だと思った。
◯POP
・環境残留性、生物濃縮性、毒性が危険性を指摘される物質。
・高温では揮発しやすいため、低温地特に北極圏は化学物質が最終的に集まる
・汚染源から遠いが、海生哺乳類のシャチやスギイルカといった高等動物に陸上動物以上に蓄積している。脂溶性が高く脂皮が多い生物に蓄積しやすい。加えて授乳により世代間でも移行してしまう。
・特に毒性が高いのがダイオキシン、どう悪いのかは書いてない。
◯マイクロプラスチック
・海洋生物や海鳥が食べて体内で分解されずに残る
・物理的ダメージや添加剤の毒性が問題
◯水銀
・唯一の液体金属、鉄ですら浮かせられるほど重い
・健康被害は深刻で、液体ならば少々誤飲しても胃腸から吸収されにくいが、気体は肺から吸収されてしまう。
・1850年以降氷床コアの水銀濃度が急上昇、これはゴールドラッシュ時に金の精錬で水銀を気化させていたからと考えられる。
・1900年以降は石炭、1kgに水銀0.05〜0.2mg含まれる。
・メチル水銀は魚に多く含まれるが、胎児には排出機構がなく、蓄積しやすいので注意が必要。しかし食べないとオメガ3脂肪酸も摂取できないのでバランスが大事
◯健康有害物質
・低濃度で生体恒常性の撹乱作用があり、一般毒性試験では検出や評価が難しく、個人ごとに影響度が著しく異なり、複合影響がある。アレルギーなど。
◯リスク評価における課題
1. 目に見えない(物質そのものも影響も)
2. 環境中に薄く広く広がり、影響を捉えにくい
3. 環境評価が人々の価値観によって大きく変動する