地獄めぐり (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065161470

作品紹介・あらすじ

これでいつ堕ちても安心!?

「地獄の沙汰も金次第」というのは本当!?

よくわかる【地獄の歩き方】!

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著者によると、大学で美術史の講義をしていると、
風景画についてよりも、肖像画についてよりも、地獄絵をテーマにしたとき、
学生たちはなによりまじめに耳を傾けてくれるといい、
これは市民講座等でも同様のことがいえるという。

なぜ、人は地獄に惹かれるのか。

死の山、三途の川、賽の河原、閻魔王との対面、
善悪所行の記録文書、判決、数々の責め苦、……。

地下8階建てビルのような構造の地獄を訪ね歩き、
厳格な文書行政組織・閻魔王庁の実像に迫り、
「怖いもの見たさ」の正体を探ってみると、
じつは、地獄は「暴力」と「エロス」の欲動に満ちた世界だった!

はたして、もともと除病延命をかなえてくれる柔和な「閻魔天」は、
いったいいつ、地獄を統括する威嚇的な「閻魔王」へと変貌したのか。

なぜ慈悲深いはずの仏たちが、地獄を征服するべく攻撃を開始したのか。

敗戦国・地獄が、戦勝国・浄土から求められた多額の戦争賠償金を
まかなうためにとられた、涙ぐましいまでの緊縮財政策とは!?

そもそも、地獄はどこにあり、閻魔とはいったい誰なのか――。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

えっ、まさか自分が地獄に堕ちる? そんなことはないハズ。

いや待てよ。ウソ、不倫、暴飲……もしかしたら……。

そんな「心当たり」のあるあなたに贈る、
いざという時に役立つ(かもしれない)「地獄のガイドブック」。

地獄から生還した人たちの“証言”も収録!

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【本書のおもな内容】

第1章 地獄の誘惑
「暴力」と「エロス」の世界/私たちは地獄に堕ちる ほか
第2章 地獄へ旅立つ
生から死へ/死の山/三途の川/賽の河原 ほか
第3章 地獄をめぐる
地獄の場所と構造/互いに敵対心を抱く亡者 ほか
第4章 閻魔王の裁き
閻魔とは誰か/閻魔天から閻魔王へ ほか
第5章 地獄絵を観た人たち
菅原道真/清少納言/西行/後白河法皇 ほか
第6章 地獄からの生還者たち
臨死体験と社寺縁起/狛行光/白杖童子 ほか
第7章 地獄の衰退と復興
地獄を征服する仏たち/地獄の沙汰も金次第 ほか

感想・レビュー・書評

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  • ぱっと開くとまず目に飛び込んでくるのが、河鍋暁斎の「地獄太夫と一休」の絵である。
    怪しげな魅力はその顔貌だけではなく、着物もそうなのだが…
    10頁、「聞きしより見ておそろしき地獄かな」という句に対し、「いきくる人もおちざらめやは」と返す。
    さすが太夫だけあって、理知的で、機智にとんだ女性のようだ。
    そんな彼女は、自らの死体を打ち捨てさせ、どんな美女でも死ねばこうなると、「無常」を男たちに見せることによって、性的欲望を収めようとした、と語り継がれるが、はて。
    それはどうかな、と女の私は思うのだ。
    そんな菩薩のような思いではなく、哀れみとも、嘲りとも言える思いがあったのではないか。

    地獄には暴力とエロスに対する憧れの視点もある、と筆者は繰り返し言う。
    確かに、誰しもが暴力を隠し持っているはずだ。
    エロスについては、様々に言われているように(ない人もいるかもしれないが)ここでは、あるもの、として語りたい。
    71頁にあるように、描かれる地獄では、男性鑑賞者の視点をとり、自らを獄卒、つまり暴力を振るう側としてサディスティックな嗜好を現示する。
    逆に傷つけられる側にも、マゾヒスティックな昏い思いをきづかせる。
    押し込められた思いだからこそ、目が離せない。
    心に残る。
    自分は、善人ではないと知る。

    一方、脱衣婆が、奪うものだけではなく、与えるものでもあったという指摘には驚いた。(40~43頁)
    悪が福の神となるのは、日本の昔話で時折見られるが、その転換点がなぜ起きるのか、それを研究してみるのも面白そうだ。
    絶対行きたくないのになぜか引きつけられる地獄。
    悪に対する憧れ、恐れ、性的情動の発現と隠蔽。
    二面性があるからこそ、私たちは自らのうちに同じものを見、故に引きつけられるのだろう。

  • この本、面白いなぁ。しかし、地獄は嫌や。痛いことばっかりやん。ここによく出てくる「往生要集」めちゃ、怖いやん。

  • 『地獄めぐり』
    2023年4月14日読了

    地獄めぐりというタイトルどおり、本作は地獄の様子が事細かに記される。
    釜茹でにされたり、鉄線の上を渡ったり。わたしたちも知っている地獄の情景がありありと浮かび上がるようだ。そこまで詳細に描かれた作品の数々からは、まさしく「怖いもの見たさ」というのだろうか、人々の熱狂的ともいえる地獄への好奇心を感じてしまう。

    本作においては地獄の詳しい紹介や情景描写はもちろんだが、わたしには後半部分が特におもしろかった。
    加須屋氏は他の著作でも「まなざし」を軸に論じているが、本作では「自身へのまなざし」を扱っている。
    目を覆いたくなるような苦痛を前に、なぜだが少し見てみたくなってしまう…地獄にはそんな悪魔的な魅力がある。そのような心の動きに対し、加須屋氏は「自分自身の心の内に地獄の本質があらかじめ組み込まれているからにほかならない」とする。

    「地獄」を通し自身の中にひそむ暴力性や欲求を顧みること。そして、我々は常にさまざまな欲求を抱えつつ、しかし日々の安寧のためそれらを上手くコントロールしているのだということ。

    戦争の勃発やテロともいうべき襲撃事件の発生など、まさしく末法の世の真っ只中に生きる我々にとって、自身の本性と対峙し上手に付き合うことは、とても大切なのではないだろうか。


    心の中に暴力とエロスの欲動を秘めた私たちは、皆平等に生まれながらにして、地獄に堕ちる素質を与えられている。(本書226ページより)


    この言葉の意味を反芻し、日々努力して生きていきたい。

  • 図がカラーで非常に贅沢な新書。「地獄とはどこか遠くにある縁もゆかりもない異界だからではなく、自分自身の心のうちに地獄の本質があらかじめ組み込まれているからにほかならない」というおわりにの指摘が本書の背骨になっている。これを読むと日本人が地獄をどう捉え、恐れ、克服してきたのかが辿れる仕組みになっている。
    読み終わってつくづく思うのは、地獄行きは免れないなぁということである。

  • taknalで出会った本。かつての人たちが地獄に対して持っていたイメージの変遷や、地獄絵の読み解き方など、興味深かった。本書のタイトル通り、地獄を順番に回る「地獄めぐり」が中盤にあり、その絵もカラーで紹介されているため、途中で体力が尽きてちょっと読書休憩したりして。
    地獄絵は「悪い人たちが行くところ」という戒めのために描かれたのではなく、私たちの内なる暴力とエロスへの衝動を投影しているという解釈、なるほどと思った。

  • 生理きても地獄、子供産んでも地獄、産まなくても地獄って、誰でも産まれた途端地獄行き確定じゃねーかー!って泣きそうになったけど
    人は産まれながらに罪を背負っているから
    気楽に生きろよ、ってことなのかな?!
    って解釈に勝手に辿り着きました
    あんな残酷なこと考えつく昔の人々面白いです。
    ていうかあんな昔の人々が思い付いた残酷なことが、現代の私たちにとっても依然残酷であり続けているというのは当たり前のようで不思議ですね。

  • 本書は地獄絵図をもとに昔の人々がどのような気持ちで地獄をイメージし、またそのイメージを鑑賞してきたのか、を楽しく解説。筆者いわく、地獄とは、

    このいわば「内なる異国」とは、暴力やエロスといった原初的な欲動であり、それらは、同じく私たちの心のうちに宿るところの自尊心とか正義感とか道徳性とかといった、いわば自己規制によって抑圧されている。

    ところだそうだ。そんなふうに考えてみると、地獄も一気に身近に感じる。
    また天保年間の水野忠邦による緊縮財政時代には、天国から仏たちが地獄に攻めてきて、地獄を征服し、地獄運営の事業仕分けを行なって仏世界に資金を調達したお話もできたとか。その時々の時勢を反映した地獄世界。現代人が地獄を描いたらどんな感じになるだろうか?と考えてみるのも面白いかもしれない。

    一方で、筆者は少し現代の読者や心理学者を意識し過ぎて、若干無理な解釈を並べていることもあるが、楽しく読める一冊であった。

  • 怖がりながらも、何故こんなにも地獄に惹かれてしまうのか。
    その答えは地獄が語られ絵姿として残されるようになった昔から映像化できるようになった今になっても、本質的には変わっていない。
    暴力とエロス、それは誰もが心の内に持っているものだから。
    無意識に暴力を振るう側に感情移入し、振るわれる側にも感情移入してしまう。
    いや、興奮してしまうと言っていいか。
    表裏一体、切り離すことが難しいのだろう。
    地獄からまさか自身の内面を見つめ直すことになろうとは、予想してなかった。
    地獄にまつわるあれこれが詰まった一冊、侮ることなかれ。
    それだけ地獄は奥深く、それでいて近い場所にあるのだから。

  • 地獄絵図は西洋キリスト教の宗教画に匹敵する文化遺産だと感じた。ただ挿絵図が小さいのが多いのが少し残念だった。

  • なぜ、人は地獄に惹かれるのか。

    死の山、三途の川、賽の河原、閻魔王との対面、
    善悪所行の記録文書、判決、数々の責め苦……。

    地獄を訪ね歩き、厳格な文書行政組織・閻魔王庁の実像に迫り、「怖いもの見たさ」の正体を探ってみると、じつは、地獄は「暴力」と「エロス」の欲動に満ちた世界だった。
    もともと除病延命をかなえてくれる柔和な「閻魔天」は、いったいいつ、地獄を統括する威嚇的な「閻魔王」へと変貌したのか。
    なぜ慈悲深いはずの仏たちが、地獄を征服するべく攻撃を開始したのか。

    そもそも、地獄はどこにあり、閻魔とはいったい誰なのか――。

    第1章 地獄の誘惑
         「暴力」と「エロス」の世界/私たちは地獄に堕ちる ほか
    第2章 地獄へ旅立つ
         生から死へ/死の山/三途の川/賽の河原 ほか
    第3章 地獄をめぐる
         地獄の場所と構造/互いに敵対心を抱く亡者 ほか
    第4章 閻魔王の裁き
         閻魔とは誰か/閻魔天から閻魔王へ ほか
    第5章 地獄絵を観た人たち
         菅原道真/清少納言/西行/後白河法皇 ほか
    第6章 地獄からの生還者たち
         臨死体験と社寺縁起/狛行光/白杖童子 ほか
    第7章 地獄の衰退と復興
         地獄を征服する仏たち/地獄の沙汰も金次第 ほか

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、帝塚山学院大学文学部専任講師、奈良女子大学文学部教授を経て、現在、京都市立芸術大学客員研究員。1991年国華賞受賞。著書に「仏教説話画の構造と機能ー此岸と彼岸のイコロジーー」(中央公論美術出版、2003年)、「国宝 六道絵」(共編著、中央公論美術出版、2007年)、「地獄めぐり」(講談社、2019年)ほか。

「2021年 『仏教説話画論集 下巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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