偶然の聖地

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 279
感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065153345

作品紹介・あらすじ

小説という、旅に出る。

国、ジェンダー、SNS――ボーダーなき時代に、鬼才・宮内悠介が届ける世界地図。本文に300を超える「註」がついた、最新長編小説。

秋のあとに訪れる短い春、旅春。それは、時空がかかる病である――。人間ではなく世界の不具合を治す“世界医”。密室で発見されたミイラ化遺体。カトマンズの日本食店のカツ丼の味。宇宙エレベーターを奏でる巨人。世界一つまらない街はどこか・・・・・・。オーディオ・コメンタリーのように親密な325個の注釈にガイドされながら楽しく巡る、宮内版“すばらしい世界旅行”。“偶然の旅行者”たちはイシュクト山を目指す。合い言葉は、「迷ったら右」!――大森望(書評家)

この小説を体感していると、混沌と秩序って、向こう岸にあるのではなく、隣にあるのではないかと思えてくる。生きる上で生じたバグに体を浸し、誰かと誰かのハブになる。バグとハブもまた、隣にあるのではないか。1ページごとに困惑がやってくる。困惑がやがて快楽に変わる。困惑と快楽、これもまた隣にある。一体どういうことだろう。――武田砂鉄(ライター)

感想・レビュー・書評

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  • SF。世界医と呼ばれる人たちがいる。時空がかかる病、それは秋の後に春がくるという。世界医はありとあらゆる世の中の歪み(バグ)を治してゆく。失踪した祖父、手がかりは滅多にたどり着けない神秘の山・イシュクト。孫が、世界医が刑事が、それぞれの目的を持ってイシュクトを目指す。註盛りだくさんのSF+紀行文。
    註もやたら多いし、読めないかもしれないと思ったけれど、世界観に魅了されてか、読めた。宮内さんの面白さにぴったり合う人やプログラミングに詳しい人は、より楽しめるのではないでしょうか。世界の不具合を治す世界医、面白い考え方だし、この世界の困ったことも世界医に治してってもらいたいものだなあ。面白おかしい世界を上手く描いておりました。

  • プロ野球2023年のシーズン中、ソフトバンクホークスがまさかの12連敗を喫したのだが、これはまさに"旅春"だと思えてならなかった。

    最終的にソフトバンクは2位でクライマックスシリーズ進出を決めたので、"旅春"は無事に世界医によってデバッグされたようである。

  • 世界はプログラムミスでできている。そのプログラムミスを修復しようとする世界医(SE、デパッカーっていうの?集団)という職業人の物語。

    単行本化される際に追加された300に及ぶ注釈で散漫な印象になるのだが、それがメタフィクション的な効果を生んでいることもあって面白い演出になっている。本文が専門用語が多く、プログラミングを全くわからない俺にはチンプンカンプンだったぶん、注釈に救われたとこもある。

    後半になって分かってきたが、この作品で夢枕獏リスペクトやったんやねぇ。スケベシーンと格闘シーンがない獏小説リスペクトをやるってのもすごいことだ。

  •  「世界医」と呼ばれる世界各地に散らばっている「バグ」をデバックによって修正するプログラマー。難攻不落で登山者の多くを迷わせてきた「偶然の聖地」として知られる「イシュクト山」も世界に存在する大きなバグの一つだった。そのバグを修正するために山に向かう世界医、そして事情を抱えて山を目指す3つのグループの視点から物語は進んでいく。冒頭は、家族の謎を解明するためにイシュクト山を目指す青年の話を中心に進んでいく。しかし、「密室で見つかったミイラ化遺体」「北緯三十五度問題」「旅春」「世界が患った精神疾患」「宇宙エレベーターを奏でる巨人」「迷ったら右」、これらの奇怪なキーワードにより徐々に本書の世界線が明確になっていく。
     一見SF幻想小説のようだが、300以上付されている筆者の注釈からは現実世界の空気が感じられる。筆者は元々バックパッカーの経験があり、注釈ではその経験を基にした多くの旅行あるある、裏技が記載されており一気にこの世界に引き戻されるのだ。また、山を目指す旅行者が立ち寄った国々、話す言語、そこから見える景色は現実世界と全く同じものだった。「スペイン」や「モロッコ」、きっと知っているだろう。世界医たちが行うバグ修正のデバックの説明やバグにより起こる影響も、私はその知識がないためへ―という程度にしか思えなかったが実際のプログラミング専門用語により正確な説明がなされている。
     本書ではフィクションとノンフィクションが入り混じっているため、私たちの住む現実世界に置き換えると物語との境界線が歪みこの世界線への疑問、バグの有無を考えさせられてしまう。SF小説なのか旅行記なのか、どちらにしても特殊な作品で、読んですぐこの世界観に引き込まれてしまった。特に終盤にかけてイシュクト山が引き寄せたのか偶然の出会いにより旅行者たちの物語が混線し始め、どんどん頭の中はぐちゃぐちゃになっていくが読み進めることは止められなかった。読み終えてからも「この世界にもバグが存在するのかも」と考え、形容しがたい不思議で少しわくわくしてしまう様な感覚に陥るだろう。私も世界医になり、手始めにこの世界の大きな問題をデバックして30秒くらいで直してみたい。

  • 初めて宮内悠介作品。パラパラっとめくってみた時に目に飛び込んできたのは「膨大な注釈(というスタイル)」「バックパッカー的な地面を這うように低い視線と、逆に世界医が世界のバグを直すという、神のような高い視線が交差する枠組み」。うわなにこれおもしろそうと手にとって読み始めたら、確かに面白かった。他で味わえない読書感。脳みそに手を突っ込まれてぐちゃぐちゃ搔きまわされるような違和感と、脳みそに手を突っ込まれて愛撫されるような快感が交互に押し寄せてくる。ナンジャコレ。
    「私」の書いている小説の主人公の「私」が書いている小説の主人公の「私」が書いている小説に最初の「私」が登場するとか、北緯35度上の地点が繋がっていてワープしちゃうとか、著者に仕掛けられた迷路で何度も迷子になって、正直に言ってストーリーの半分くらいしか理解できた気がしない。が、それでも楽しめてしまうエンターテイメント感と、登場人物が語る箴言や希望を叶えられる代わりに大切なものを失うことになっているイシュクト山といった純文学感とのごちゃまぜも楽しい。

  • バグでできた世界を旅する私たち。「世界医」の存在が新鮮。そして物語に入り込みつつ読み手を現実に引き戻す不思議な存在の注釈も独特。
    読み終わったあと、仕様かバグか分からないすべての事柄に囲まれていると感じながら過ごしてみると、感じ方が変わります。面白かったです!

  • 頭を抱えるくらい面白かった!!!!!!!

    世界をデバッグする旅小説及びエッセイです 最高です 註がついてるのも面白いのにその註が真面目で奔放 最高です
    学校や仕事で本のちょびっとでもプログラミングに触れたことのある人、旅が好きな人 特に突き刺さると思います 
    秩序って何だろう、混乱って何だろう、バグって何だろう…… 思考を振り回されながら完走しました いやほんとメチャメチャ面白かったです

  • 第2部に進むと、登場人物が一つの場所を目指して集まって来て、交わっていくのでストーリーがより面白くなってくる。
    この現実世界もバグまみれなのかも知れない。

  • いちど途中で断念したのを再読して読了。

    世界のバグという発想が愉快

  • 雑誌連載でだいたい読んでたけど
    なんか視点がコロコロ変わる不思議な話で
    しかも完結してなかったので(雑誌休刊のせい)
    まとめてちゃんと読んでみることにした。

    わけあって幻の山イシュクトをめざす人たちを
    それぞれの視点から書いていって
    最後に一堂に会するクライマックス。
    通しで読んだら、なんとなくスッキリしたわ。

    地球上で起きる不具合はブログラムのバグで
    それを直してまわる「世界医」がいるという設定。
    でも、良かれと思って一箇所修正すると
    他のどこかがバグるってのが
    すべての人を幸福にすることの難しさのようね。

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著者プロフィール

1979年生まれ。小説家。著書に『盤上の夜』『ヨハネルブルグの天使たち』など多数。

「2020年 『最初のテロリスト カラコーゾフ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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