ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065151105

作品紹介・あらすじ

日本はすでに「移民国家」だ。この30年間で在日外国人の数は94万人から263万人へと約3倍に増加し、永住権を持つ外国人も100万人を突破した。2019年春からは外国人労働者の受け入れがさらに拡大されることも決まっている。私たちは「平成」の時代に起きたこの地殻変動を正しく認識できているだろうか? いま必要なのは、この「遅れてきた移民国家」の簡単な見取り図だ。「日本」はどこから来てどこに向かうのか?

感想・レビュー・書評

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  • 望月優大(1985年~)氏は、東大大学院総合文化研究科修士課程修了後、経済産業省、Google、スマートニュースなどを経て、現在(株)コモンセンス代表取締役。日本の移民文化や移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。
    本書は、2019年に出版され、現在の日本における「移民」の状況について、これまでの統計上の数値、法律的な扱い・位置付けの変遷等を踏まえて、考察したものである。
    著者は、本書を著した理由を次のように語っている。「日本では長らく「移民」という言葉自体がタブー視されてきた。日本は同じ言葉と文化、歴史を共有する「日本人」だけの国であることが当然とされてきた。今でもなお政府は「移民」という言葉を意図的に避け、まるで日本が一つの巨大な人材会社でもあるかのように、労働者たちを「外国人材」と呼んでいる。日本にはいまだに移民や外国人の支援や社会統合を専門とする省庁も存在しない。・・・この国にも「移民」が存在し、取り組むべき「移民問題」が存在する。日本は「遅れてきた移民国家」である。建前と現実の乖離を、そろそろ終わりにするべきではないだろうか。」
    政府がどう定義するかは別としても、日本には2018年6月末時点で、永住許可取得者(永住者と特別永住者)109万人、短期滞在許可取得者(日本人及び永住者の配偶者等、就労資格保有者、留学生、技能実習生など)155万人の、計約260万人の移民が存在し、これはなんと大阪市(270万人)とほぼ同じ規模である。それでも、私が1990年代に駐在していたドイツや英国と比べると、はるかに少なく感じるのは、人口比で見た場合に、ドイツが10.1%、英国が8.6%であるのに対し、日本は2.1%とかなり低く、また、外見上明らかに外国人と分かる白人、黒人の数が少ないからに過ぎないと思われる。
    しかし、今や外国人労働者なしに日本の経済活動が回っていかないことは自明であるし、その外国人労働者に関して(様々な背景・要因はあるにしても)、技能実習生の失踪、留学生による(法令で認められた)週28時間の超過労働、非正規滞在者の入管施設への長期収容等、数多くの問題が存在しているのは、本書で詳細に書かれている通りである。そして、忘れてはいけないのが、そうした外国人一人ひとり(及び家族)に、日本人と変わらない日々の生活があるということである。(彼らの生活については、室橋裕和氏が在日外国人の日常をルポルタージュした近著『日本の異国』に詳しい)
    「社会が関与せず、関心を持たず、足場を与えずに放置し、その生から撤退する対象としての人間をどんどん輸入していく-こうした移民政策から、移民を同じ人間として受け入れ、それぞれに必要な支えを提供し、誰もができるだけ「安定した生」を生きられるように努める移民政策へと転換することができるか。安価でフレキシブルな労働力という幻想を捨て、一人ひとりが経験する当たり前の現実へと目を向けることができるか。」 著者が最後に提起するこの問題を、「彼らの」話ではなく、「私たちの」問題として取り組めるか、それが今問われているのだと思う。
    (2020年4月了)

  • コンビニや飲食店の店員さんだけじゃなく、農業とか弁当工場とか、見えないところで技能実習生や留学生が日本を支えている/支えさせている。

    「店員さん外国人やな」から、彼ら彼女らの生活にも思いを馳せたい。

    技能実習生、留学生を都合のいい労働力として一時的に使っている現状を豊富なデータで分かりやすく示した入門書。

  • 近所のコンビニで、日本語が良くできてとても愛想が良いベトナム人の若い男性従業員を見かけるようになった。対応はいつも笑顔でテキパキとしていて、日本人流(?)の丁寧さもある方だ。彼のレジに当たると、(片側にいる別の日本人店員と違って)対応が細やかで気が利くから、仕事帰りでボロボロに疲れている時にはすごく有り難いし、頑張る気力をもらえる。
    コンビニから出る度、彼はなぜこんなところで働いてるのか?どういう経歴を持っているのか?今後何がしたいのか?などとぼんやりと考えるようになってたのだが、ちょうどその時に、著者と仕事をしている知人から本書を薦められた。
    そこまで馴染みのない分野だったからか、何故か読みづらく(文章は簡潔なのだが…)、なかなか集中して読み通せなかったが、諸相や問題を構造的に提示してくれたように思える。課題図書としては読まなかったので文章内容の要約等はしなかったが、再読した際には「移民」の行政区分を整理しながら読むと良さそうだ。

  • 発売当初から読みたいと思いつついつの間にか時間が経ってしまった本。やっと読めた。そして読んで良かった。

    「移民」この言葉にはさまざまな定義があり得るがどんな定義をとるにしてもすでに日本には「移民」は多数存在する。

    そのこと自体は知っていた。それこそ色々な意味合いで。私の育った地元は工業地帯があるためかそこで日系のブラジル・ペルー人が多く、小学校の同級生の5〜10%はにそうした日系移民の子どもたちだった。そして、都市部で居住する多くの人と同じように私も日々多くの外国人留学生バイトの方が支える店のサービスを受けて生活してもいる。

    そして直接触れ合うことはないけれど「技能実習生」という制度が過酷なものになり得ることもニュースレベルでは知っていた。

    とはいえ、そうしていくつも知っていても全体として「日本における移民とは?」と聞かれてもなんとも答えようがないというか、何をどう捉えて議論すれば良いのか分からなかった。

    それが本書を読んでイシュー全体の構造を大まかに掴むことができた。

    ・移民や外国にルーツを持つ人たちには様々なレベルがあり、労働や生活面で様々な制約の違いもあること

    ・移民政策は採らないという自民党の保守政党としての建前と経済界からの労働力確保ニーズの狭間で本音と建前が分かれ、不合理や不条理が罷り通っていること

    今後どうしていくか、という議論をする際にすでにある現状に向き合った上で考えていくべき問題であることを知れたことがとても良かった。

  • 日本が「移民を受け入れない」という体裁を保ちながらも、外国人労働者をいかに受け入れてきたかが分かる。日本の移民政策の矛盾は、2019年4月の特定技能制度導入に伴い、解消の方向に向かっているといえる。しかし、「外国人の権利を見直そう」という人道的な見地から見直したというよりは、深刻な労働力人口の減少を背景に、単純労働を正面から受け入れざるをえなかくなったように感じる。ブローカーの監視体制など、課題も多い。また、制度導入後、外国人労働者に関する議論が非活発化したようにも感じる。この本が指摘する移民政策の問題・課題をより多くの人が認識し、建設的な議論がなされるべきだ。

  • 前々から尊敬する望月さんの本をようやく一読。

    多様性で溢れた世の中にしたい、とほざいてた自分を殴りたいほどに、自分自身の勉強不足さを目の当たりにし、我が国における外国人の方の現実を構造的に知ることが出来た。

    特に第5章の強制送還者が収容される収容所の話などは、アウシュヴィッツの繰り返しではないかと疑うほどだった。

    また国籍を持たない者に対する対応には政府や裁判所はあまり関与せず、法務省や入管という行政機関が大きな裁量を持ち意思決定を行っている所にも国家の役割や国民と市民の関係性などを考え直す必要があると感じた。

  • 冒頭に引用された文章はちょうど平成になった頃に書かれたものだが、きのう発表された文章だと言われても違和感がない。それぐらい普通の日本人の意識は30年変わっていないのだけれど、それとは裏腹に、この30年間で外国人労働者に門戸を開き国内の労働力となってもらうための仕組みは次々と追加され、在留外国人は数倍にも増えている。日本は日本人だけの国とナイーブに信じ、外国人を敬遠する雰囲気の建て前のままで、日本で働き暮らす外国人は急増して、しかも適切な社会保障や支援を受けられずにいる現実。それは終身(正規)雇用の会社員(+専業主婦のいる核家庭)という「ふつう」をナイーブに信じたまま、身分的に極めて不安定で長期的展望を描きにくい非正規雇用者が急増して閉塞している日本社会の現実とも二重写しにみえる。
    「移民(外国人労働者)」の問題は決して他人事ではなくそのままわがことであるのだという結びまで、ぜひ多くの人に読んで理解してもらいたい…移民には興味がない人のほうが多いかもしれないけれどせめて終章だけでも目を通すべきだと思える一冊だった。

  • 取材の成果があまり感じられない公式統計や使い古されたコンセプトによる解説。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/729331

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著者プロフィール

1985年生まれ。日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了後、経済産業省、グーグル、スマートニュースなどを経て2017年冬に独立。国内外で移民・難民問題を中心に様々な社会問題を取材し「現代ビジネス」や「Newsweek」などの雑誌やウェブ媒体に寄稿。代表を務める株式会社コモンセンスでは非営利団体等への支援にも携わっている。

「2019年 『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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