虚構推理 (講談社タイガ)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065145302

作品紹介・あらすじ

<アニメ化決定!>
<本格ミステリ大賞受賞作!>
<シリーズ累計200万部突破!>

巨大な鉄骨を手に街を徘徊するアイドルの都市伝説、鋼人七瀬。
人の身ながら、妖怪からもめ事の仲裁や解決を頼まれる『知恵の神』となった岩永琴子と、とある妖怪の肉を食べたことにより、異能の力を手に入れた大学院生の九郎が、この怪異に立ち向かう。その方法とは、合理的な虚構の推理で都市伝説を滅する荒技で!?
驚きたければこれを読め――本格ミステリ大賞受賞の傑作推理!


終始ゾクゾクしっぱなし……息もつかせぬ物語とはまさにこのことだと思います。意外な展開、予想外な事実、桁外れな人物、奇妙な現実、異様な虚構、奇想天外な“戦い”――。絶妙に狙い澄まして放たれる数々の“驚き”の奔流に溺れそうになりましたが、エラ呼吸を会得することでどうにか事なきを得ました。
のちの半魚人である(←新しい都市伝説)。
――『僕は友達が少ない』の平坂読氏推薦!!

「本格」の今後が有する可能性を大きく押しひろげた一作(作家・氷川透)
ただただ作者の才能に嫉妬するばかり(作家・黒田研二)
おおおお前を倒すのはこの俺だ!(作家・汀こるもの)
内奥に錨を下ろした論理、奇矯でありながらつらぬかれたロジック。破格のミステリ(作家・辻真先)
辻褄の合った論理こそ、時には真実から最も遠ざかるものではないか――(書評家・千街晶之)
驚きを通り越して爽やかな敗北感さえ抱かされた(作家・太田忠司)
「真相」の意味について刺激的な考察を展開(作家・大山誠一郎)
「本格ミステリのロジック」の持つ魅力と危うさを純粋培養したような小説(作家・光原百合)

感想・レビュー・書評

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  • 一つの事件に対し、複数の解決への仮説が示される、ミステリのジャンルの一つ「多重解決」もの。しかし、この『虚構推理』はその「多重解決」ものを一段階超えていくものかもしれません。
    ミステリの限界をメタ的に捉えつつも、それを奇想天外な設定と、緻密な展開で本格ミステリに転換してしまう。「多重解決」ならぬ「多重解決創作」ミステリともいうべき、新しい本格ミステリの匂いがしてきます。

    ベレー帽をかぶり、つねにステッキをつく小柄な少女の岩永琴子。いつも通院している病院で、桜川九郎という大学生に惹かれた岩永は、九郎が最近彼女と別れたと聞き、早速アプローチをかける。そして徐々に二人の規格外の能力が明らかになっていく。

    それから数年後、ある地方都市で亡くなった女性アイドルが深夜、鉄骨を振るい人を襲うという〈鋼人七瀬〉の都市伝説が囁かれ、実際にその目撃者が現れ始める。そしてその鋼人七瀬は、女性警官の弓原紗季の前にも姿を現す。七瀬に襲われそうになった紗季を救ったのは、岩永琴子だった。

    妖怪や亡霊、怪異や怪奇が普通に現れます。鋼人七瀬も、人間が化けている、真犯人がいるというものでもなく、本物の亡霊の一種。そしてその亡霊は、琴子曰く人間の想像力が生んだとのこと。ネットなどで、鋼人七瀬の都市伝説が拡散し、それに興味や、好奇心を持った人が増えるほど、亡霊はますます力を強めていく。

    鋼人七瀬を倒すために必要なのは、人々の興味や好奇心を満足させつつも破綻のない、都市伝説を完結させる解決を与えること。事件は亡霊が起こした、なんて身も蓋もない解決は、世間には受け入れられない。だからこそ辻褄があった、合理的で現実と矛盾しない、なおかつ面白くて世間が満足する真相を作らなければならない。

    実際の事件に対して、犯人や証拠だけでなく、動機や設定に至るまで、琴子は現実と照らし合わせながら、一から十まで「虚構」を作りこんでいく。

    本来ミステリは一つの真実を解き明かすものなのに、この『虚構推理』は真実を作ることをミステリとしてしまう。まさに離れ業というべきか、その逆転の奇想がとても面白かった。

    推理シーンもかなり読み応えがあります。普通のミステリなら関係者全員集めて、探偵が推理を披露するところですが、『虚構推理』の場合は、関係者とはネット上の鋼人七瀬に興味を持ち、情報を拡散する人々すべて。

    琴子はネット上に4つの推理をあげ、疑り深いネット民たちにそれぞれの真相を提示しますが、その真相もバリエーション豊か。大がかりな物理トリックから、逆に亡霊の存在を認めるものまで多種多様。そんなばらばらの推理にもある理由があり、それが最後に語られる4つ目の真実へ紡がれる。

    4つ目の真実とその目的が明らかになったとき、詰め将棋を連想しました。すべて琴子の狙い通りに物事が進行し、そして最後の怒涛の展開に至る。4つの真実の論理、それも本格ミステリ的ですが、それぞれの推理が伏線となり、最後につながっていくのもまさに本格ミステリ的です。

    そして推理の勢いの凄まじさは、ネット上の推理ならではかもしれない。4つの推理はそれぞれに、荒唐無稽なところは含んでいるのですが、ネットの世界は時折、細かい点よりも面白さが先に立ち、狂乱のお祭り状態になる。
    多少のツッコミどころよりも、面白さやインパクトが優先される。そうしたネットの雰囲気も取り込んだ、このミステリならではの推理劇だったように思います。これも独特で面白かった。

    キャラクターや登場人物の掛け合いは、コミカルでマンガ・ラノベ的でそれも良かったのだけど、琴子の内面は意外と熱い。現実と異界、その狭間に立つものとしての矜持を持ち、それぞれの壁を守るものとして、現実と非現実の壁を壊そうとする〈鋼人七瀬〉に頭脳と論理で戦いを挑む。全体的にはサバサバした印象の強い彼女ですが、一方でその矜持の熱さもより魅力的に映る。

    本格ミステリ界に現れた多重解決もののニュータイプと、そしてニューヒロイン。本格ミステリの可能性を改めて感じさせる作品でした。

    第12回本格ミステリ大賞

  •  私はこれを読んで、『毒入りチョコレート事件』(アントニー・バークリー)を思い出した。といっても私が読んだのは一九八六年ポプラ社の子ども向け抄訳版だが。『毒入り〜』は、迷宮入りした事件の推理をミステリー愛好家たち六人が行い、六通りのそれらしい真実(案)が披露されては否定され…という構成の話で、ミステリー小説では必ず「ひとつの正しい事実」と「ひとつの正しい推理」がセットで存在することになっているけれど、それってどうなの?という問題を投げかけていた(と思う)。ゲームとしてそういう約束事が必要なのはわかるけど、所詮約束事に過ぎないよね?と。ミステリーなのだけど「アンチミステリー」だ、という感想を抱いた。
     『虚構推理』は、妖怪などの登場するファンタジー要素、個性的なキャラクターたち、ライトなセリフの応酬、主役二人の恋愛模様など本当にいろんな楽しみ方ができるのだが、その大胆な「アンチミステリー」ぶりを堪能するのも主要な味わい方のひとつだといっていいだろう。なんせ、「犯人は怪物」というのが真実で、アリバイとかトリックとかそういった都合は無視して犯罪は可能。そして探偵役がどのようにその真実に辿り着けたかというと、「現場にいた地縛霊に聞いたから」。ぶっ飛んでいる。
     普通のミステリーでは、真実を突き止め、その真実が揺るぎない唯一の真実であることを人々に対して証明し認めさせることがゴールとなる。詳しい説明は省くがこの小説の場合、「犯人は人間ではなくて怪物に違いない」と信じている(または面白がってそう望んでいる)ネット民から、その真実を覆い隠し、信じるのをやめさせることがゴールなのである。そのためには、みんなが怪物説を捨てて代わりに支持したくなるような、よりあり得そうでより魅力的な虚構を成立させなければならない。リアリティや道義的な問題はおいておいて、そういうルールを小説上設定したうえで推理披露が始まり、山場へと盛り上がっていく。
     真実もぶっ飛んでいるし、推理の目的もぶっ飛んでいる(推理というより「とんち」だとの言葉も作中にある)。正義や真実よりも「ネット民が支持したくなるような面白さ」を求めなければいけないところもぶっ飛んでいる。それでいて論理ゲームであることには変わりない。また、ネット上の世論を扇動する怪しい輩のように見える行動をしているけれど、主人公たちは、怪物による被害の拡大を防ぎ世の秩序を守るためにこれをしているのであり、「正義の味方」ではある。
     ミステリー小説の面白さ、危うさを逆手に取った倒錯の世界。この切り口で他にどんな展開を見せてくれるの?!と、続きのシリーズも読みたくなる。
     (マリモさんのレビューがきっかけで読みました。ありがとうございます!)

    • マリモさん
      akikobbさん
      早速レビューを書いてくださってありがとうございます!
      うんうん、そうそう!と思いながら読みました。まさに倒錯の世界で...
      akikobbさん
      早速レビューを書いてくださってありがとうございます!
      うんうん、そうそう!と思いながら読みました。まさに倒錯の世界ですよね。
      鋼人七瀬の存在基盤(人々の信じる気持ち)を危うくさせる現実的な説明でありつつ、鋼人七瀬を上回る面白ネタであるという条件をクリアさせていく推理構築がすごいです。
      その間、九郎何回死んでいるんやと心配にもなりますが。。^^;
      2023/07/26
    • akikobbさん
      マリモさん、コメントありがとうございます。
      面白かったです〜♪アニメより説明が丁寧だし、なんといっても理解につまづいたら自分のペースで読み直...
      マリモさん、コメントありがとうございます。
      面白かったです〜♪アニメより説明が丁寧だし、なんといっても理解につまづいたら自分のペースで読み直せるので良かったです笑
      でも、九郎さんのセリフが宮野真守さんの声で脳内再生される点は儲けものですね!笑
      それにしてもよくこんな設定思いつきますよね。九郎さんも大変だけど一人でやってる六花さんの壮絶さよ……。虚構を組み立てるというアイデアから「未来決定×不老不死」能力の設定が必要になったのか、能力の方が先だったのか、、、制作秘話が気になります。
      2023/07/26
  • 電子書籍。
    普段あまりepubファイルで小説読むことないんだけど、インターネットのまとめサイトが暗躍したりする話なのでこれはこれでしっくり来るかも。
    軽妙かつ不思議な味わいの会話文は伊坂幸太郎を思わせるが、デビューはかの『名探偵に薔薇を』なので『オーデュボンの祈り』よりも前(でも年齢的には少し下)。
    妖怪変化の跋扈する舞台設定は京極堂のカリカチュアっぽくもあるが、この世にあってはならない現実化した虚構を、より魅力的な虚構で上書きし消していく設定は、奇妙にねじれてはいても紛れもない憑き物落としの系譜。

  • 多重解決の傑作。鋼人七瀬を消し去るために「嘘」の真相を成り立たせるために論理を構築し、それを読者に納得させ、信じ込ませる。犯人を当て真実を語るのではなく、真実を創る。この作品は、従来のミステリの常識を覆すアンチミステリと言えるのではないか。

  • '22年8月19日、Amazon audibleで、聴き終えました。この作者さんの作品、初体験です。

    クライマックスの「虚構の推理」の章で、集中力が持続できず、何度か中断して、ようやく聴き終えましたが…

    全体のアイデアは、素晴らしいと思いました。井上真偽さんの「その可能性はすでに考えた」を、連想したくらいです。こんな話、よく考えつくなぁ、と。

    でも、肝心のクライマックス、「虚構の推理」の章が、僕には冗長に感じられちょっと残念な感じでした。

    シリーズの次作も聴いてみます。

  • 妖怪から揉め事の仲裁や解決を頼まれる「知恵の神」となった主人公岩永琴子と異能の力を持っている大学生九郎の虚構の推理で都市伝説を解決していくミステリー作品

    表紙カバーの感じとタイトルからゴリゴリファンタジー物語かなって思ってたけどバリバリのミステリー作品やった!

    表現の仕方や台詞回しとかが好きな感じで読みやすくてどんどん話に引き込まれていった。漫画の新連載でありそうな展開も早くて面白い作品って思ってたら漫画でもアニメでももうすでにあったみたい。

  • 「初めは全くの作り話だった怪異が、幾度も語られ噂となり、信じられていくことで実体を持ってしまう」――という、怪談におけるひとつの定番であるモチーフを、ただのオカルトではなくロジカルな「特殊設定ミステリ」に組み込んで昇華させてしまった驚異の一作が、城平京(しろだいら・きょう)による長編『虚構推理』です。
     右目が義眼、左足に義足をつけて11歳の頃から病院に通っている岩永琴子。17歳になった5月のある日、2年前に一目惚れして以来想ってきた、同じ病院に入院する従姉の見舞いに通う大学生・桜川九郎についに声をかける。見かけるたびにいつも隣に付き添っていた年上の彼女、「サキさん」と別れたらしいという噂を看護師から聞いたからだ。琴子からの直接的なアプローチを笑いながらやんわりと受け流し、なぜ別れることになったのかと尋ねる琴子に、「川沿いの夜道を歩いていた時に恐ろしげなカッパが現れ、怯えて震える彼女を置いて逃げたから」と話した後、嘘だと笑って立ち去ろうとする九郎。しかし琴子は、その話を本当だと確信していた。彼女は幼い頃、ひょんなことで“知恵の神”となることを引き受け、この世ならざるもの――妖怪や物の怪と呼ばれるものたちから問題や揉め事の仲裁を頼まれる、神と人との中間にいる存在となっていたからだ。そして琴子は「逃げたのはあなたではなく、カッパの方ですね」と続ける――九郎が生まれた桜川家もまた、妖怪に関わる肌の粟立つような実験を続けてきた、業の深い家だった。
     そして2年後、九郎と別れてから警察官となった弓原紗季が住む真倉坂市では、誹謗中傷から逃れるように真倉坂へやって来た末に、建設現場で鉄骨の下敷きになるという凄惨な死を遂げたアイドル・七瀬かりんの亡霊だと噂される、2メートル近い鉄骨を持ってドレスとリボンをまとった顔のない女の都市伝説――「鋼人七瀬」の目撃情報が広がりつつあった。

     もともと2011年に講談社ノベルスから『虚構推理 鋼人七瀬』のタイトルで刊行されたもので、後にこれを原作とした片瀬茶柴によるコミカライズがスタート。いったん完結するも、そこから続編となる小説が書き下ろされ、それをまたコミカライズするというスタイルでシリーズ化されていきました。2020年にはアニメ化もされ、小説版は講談社タイガから現在も刊行が続いています。

     軽妙な掛け合いとキャラクター(ぜひチャーミングな片瀬絵で脳内置換を!)の魅力はもちろんのこと、妖怪や物の怪、亡霊といった理外の存在を前提とした、ややフィクションラインの高い特殊設定が単なるけれん味ではなく、事件の背後で糸を引く人物の存在と、その動機にも深く関係していることが垣間見えてくる構成が見事です。
     そして何より、人びとが願う現実や信じる妄想が生み出した強力な存在への対抗手段として、第六章「虚構争奪」で炸裂する、ネット空間の姿なき大衆を巻き込んで畳み掛けられる“合理的な虚構”の構築と対決こそが、本作の白眉。

     ――「だから誰かがその現実を守らなければなりません」

     虚構が肥大して侵食される現実と、現実を守るための虚構……そのアイロニーに深く考えさせられつつも、周到なロジックと決着に思わず拍手喝采したくなる一冊です。

  • アニメの出来がすこぶるいいので読んで見る気になった。題名の通り、鋼人七瀬によって起こされる事件を虚構の推理によって押し込めると言ったなかなかややこしい話である。小説自体が虚構であるのに普通の推理小説では名探偵が最後に解き明かしてそれで解決となりそうな推理が虚構であって、それによってこの小説で起こっている事実を虚構化させるわけだ。なんとも小説の虚構性を逆手に取ったような、最近散見されるニューウェイブ的な小説だ。登場人物たちも魅力的で正に日本のアニメには最適な虚構である。

  • この作者の作品を読むのは「名探偵に薔薇を」に続いて二作目。今作は通常の推理小説とは異なり、いかに嘘を築き上げそれを真実っぽく見せるかが肝となっている。物語の途中までは正直、他の小説でもよくあるような展開だったが、終盤の怒涛の虚構の連続には流石に目をむいた。一つの事柄から連想して続けて最後には突拍子もない結論を導くところには「九マイルは遠すぎる」を連想した。

  • アニメからの小説。
    事実を交えた虚構の積み重ねによって真実にする。
    とても面白い組み立てのお話だなぁと思う。こんなミステリーは初めて。
    妖、妖怪の類も出てきてファンタジーでミステリー♡自分の好きな要素満載。
    岩永琴子も一息つけるよいキャラ。
    次巻も楽しみ。

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著者プロフィール

【城平京(しろだいら・きょう)】
奈良県出身。代表作に漫画原作『絶園のテンペスト』『スパイラル~推理の絆~』、小説『虚構推理 』『名探偵に薔薇を』『雨の日も神様と相撲を』など。

「2021年 『虚構推理(15)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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