- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065141885
作品紹介・あらすじ
19世紀の西洋人にとって日本は「夢の国」でした。西洋のものとはまったく異なっていながらも洗練された文明があることを知り、鎖国による情報不足というミステリアスさともあいまって、西洋の日本への興味はこの時期に、これまでになく高まっていたのです。そしてついに日本が開国すると、その興味は「ジャポニスム」という日本ブームとして19世紀後半に西洋を熱狂の渦に巻き込むことになります。そのブームのインパクトは、現在の「クールジャパン」の流行をはるかに上回るものでした。おびただしい数の浮世絵を始めとする美術品、扇子を始めとする工芸品がヨーロッパ世界に流入し、人々はこぞって日本の美術工芸品をコレクションするようになったのです。
しかしそれは、単なるエキゾティシズムに止まることなく、それまでにはない、新たな美意識へとヨーロッパ人を開眼させることになりました。マネ、ゴッホ、ゴーギャン、ロートレック・・・印象派の画家たちは北斎、広重などの浮世絵の表現に、西洋絵画の伝統にはない斬新な表現法の可能性を見いだし、こぞって浮世絵をモデルにした作品を描きました。色彩法、空間処理、線の技法など、「モダンアート」と称される、現代にまでつながる美の感性の源流は、この、19世紀の「日本」にあるのです。
しかしブームにはかならず終わりがあるものです。「ジャポニスム」もその例外ではなく、日清戦争への勝利など、日本が「列強」の一角を占めるようになると、西洋人の「夢の国」へのあこがれは急速にしぼんで行きました。しかしそれでも、「ジャポニスム」の影響は「モダンアート」の中に流れ込み、見えないものになって残り続けました。現代、私たちが目にする「モダンアート」の中には、それゆえに、時間的にさかのぼっていけばジャポニスムにまでたどり着く要素をかならず見いだすことができるのです。
本書は、西洋の感性を変えた「19世紀のクールジャパン」とも言うべきインパクトを、美術の分野だけに止まらず、幅広く一つの文化現象として捉え直そうとするものです。
感想・レビュー・書評
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帯にあるモネの「ラ・ジャポネーズ」がまず目を惹く。絵を除く帯全体も赤く、「ラ・ジャポネーズ」を実際に見た時の第一印象と重なる。ところが、目次をみると、社会史で見かけたような言葉たちが並んでいる。「はじめに」に目を通して納得した。ジャポニスムの作品や作家の紹介よりは、むしろジャポニスムとして包括されてきたある種の文化伝播を、その背景や後世への影響も含めて俯瞰しようというのが宮崎の意図のようだ。ある時期の萬古焼、輸出用陶磁器、北斎、アール・ヌーヴォーなどを見るたび、日本と西洋の間での意匠や技法の往復運動が気になっていた。この本の問題意識とぴたりと重なる。情報、モノ、媒介者の存在を文化伝播と結び付ければ、確かに、社会史の言葉たちの舞台はできる。
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逆輸入的に自分の国の文化を愛することができる。
フィルターを通さないと見えてこないものばかりだ。 -
モネ、ゴッホ、ドガ・・・印象派の画家たちは日本美術を研究し、自身の絵画に取り入れた。彼らにとって「非西洋」の日本は神秘の国。夢の国だった。
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浮世絵、陶磁器など日本の制作物だけではなく、日本という国、未知で異質な高度文化を築いている東洋の国への関心の高さ。それがペリーの来航前の1852年2月18日の最初の記事から2年ほどにわたり、フランスのマスコミが月2回程度その動静を報じていたほど!日米和親条約締結(1853年3月31日)は、フランスでも一面トップ記事だった!!全くのビックリの事実である。今で言う、宇宙人との出会いを求めていたような感覚なのだ。印象派の絵画への浮世絵の影響はかねてから聞いてきたところだが、誇張されたまたは無視した遠近法、色彩感、俯瞰視、樹木の幹による唐突な絵の分断など具体的な手法の数々を理解でき、私も日本人の多数も好きなモネ、ゴッホ、ドガなどの印象派の秘密に触れたように感じた。
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東2法経図・6F開架:B1/2/2506/K
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ありそうでなかったジャポニズムについての新書。
日本美術の形式的な受容から、その本質を理解し、西洋美術の中に取り入れて、触媒となっていくまでの姿。
西洋に受容されたジャポニズムが、日本に回帰していく流れ。