- Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065139936
作品紹介・あらすじ
天(そら)の涯(はて)に希望はあるか。
23世紀、人々はごく一般的になったゲノム編集技術によって老いや病から緩やかに遠ざかりつつあった。ただ、ひとつ、”霧の病(ダークフォグ)”と呼ばれる原因不明の突然死をのぞいて。世界最高峰の頭脳が集まる香港島で、遺伝子工学の権威、ヒナコ・神崎博士は、海から現れたひとりの少年と出会った・・・・・・。
完璧な世界(パーフェクト・ワールド)で、滅びのカウントダウンが始まる。
感想・レビュー・書評
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ゲノム編集により先天的な障害や病気も、はては見た目すら手軽に「完璧」にできるという時代で、感情にムラがあるのは「異常」扱いという、将来的にも起こり得そうな世界観が魅力的。正常を追求しすぎると一周回ってしまうんだな、と。しかし、とことん管理や制御を受ける彼らが、自分と違うものに潜在的な恐怖を感じてしまうのは、とても人間らしい部分が残っている証拠にも思える。そこに現れた「規格外の彼」の正体がわかったとき、下敷きになっていた別の物語が浮き上がるのも面白かった。SFだけどファンタジーで、かつボーイミーツガール。やや若者向けな気もするが、自分は自分でいいんだと思いたい人におすすめかもしれない。
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ユヴァル・ノア・ハラリのホモデウスでは人類は神へとグレードアップしており、幸福の追求のために生命工学・サイボーグ技術といったバイオテクノロジーとAIによって自分自身を変えていく可能性があるとする。
AD22××年、最高学府機関が直轄機関の一つを香港島アカデミーに置く。本作の舞台香港ではすべての遺伝子を”正常”遺伝子に置き換えていることを求められる。神崎ヒナコは香港島に隣接するネオ九龍で全く遺伝子治療を受けていない少年HALと出会う。この世界では"異常”として排斥されるべきオリジナルDNAの持ち主HALと最高学府機関の遺伝子学部門最高位授与者であるヒナとのほろ苦い恋物語りと遺伝子治療ですべての病気を克服したはずの香港で急増する原因不明の死にいたる病「霧の病」の謎に迫るサスペンスが絡み合って進行する。
彩雲国物語の雪乃 紗衣が描く未来の香港には、例えばSF映画のオブリビオンだとかスペースオデッセイ(2001年宇宙の旅)のように美しく危うくはかなげな映像を見る。HALの住処、ルート4走廊、金魚街の光景、ヒナのマンションや一軒家。それぞれに配された小道具(金魚の棒付き飴だとか貝の入ったバケツ、コールドジャックバーガーセットとか)や登場人物の仕草とそれに反応し揺れ動くヒナの気持ちそんなものが文字を通してて映像イメージを想起させる。ネオ九龍はイノセンス(攻殻機動隊映画版)のイメージか。
遺伝子操作や私たちの生活へのAI技術の進出は既に未来の話ではなく現在進行中の話題となっているが、それに対する私たちの漠然として感じる不安をうまく表現している作品でもある。そうした不安を解決できないままに進む科学に未来はあるのだろうか。
最後の2章はあった方が良いのやら悪いのやらである。まあハッピーエンドで終わらせるために仕方がないか。 -
なんの前情報もなく読み始めたけど、タイムリーでうそ寒さを感じた。
2019年4月刊行だから、騒ぎが始まる1年ほど前。感慨深い。
それはさておきおもしろかった。 -
とてもよいボーイミーツガールだった。好き。世界最高峰の遺伝子工学博士という肩書を持ってる主人公がぽやぽやしててまわりがこっそり過保護しているギャップにやられた。
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死と恋ってくっつけて書いたらいけないんだよ、と雪乃紗衣を読むといつも思います。だって親和性高いんだもん。小学生みたいな気持ちになってしまう。子どもだましの恋愛小説もどきを読むのはたくさんだと読む前は思っていた。それでも作戦にはまったような気持ちにならず、べしょべしょに泣きました。なんでだろう。どう考えたっておとぎ話なんだけど、ほんとに最初の方、読みにくいんだけど、(この感想も引っ張られて読みにくくなっている)、この小説である登場人物が娘に対して言うことが、たぶん私が言いたいことでもあり、言われたいことでもあり、失くそうとも手放そうとも人類にとって普遍的に消えることがないことだからなんだろうなと思いました。大筋とは関係ないかもしれないけど、日本語っていいですよね。膠着語。順番が違っても伝わることっていいことだなと思った。
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やってきて、去る。
それまでの短い時間ー好きなフレーバーを、味わえ。