「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで (ブルーバックス)

制作 : 国立がん研究センター研究所 
  • 講談社
3.81
  • (16)
  • (22)
  • (16)
  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 334
感想 : 41
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065120934

作品紹介・あらすじ

日本のがん罹患者数は年々増加し、最近では年間約100万人が新たにがんを発症し、死亡者の3人に1人にあたる約37万人ががんで亡くなっています。近年の統計からは、日本人の2人に1人が生涯に一度はがんに罹り、男性の4人に1人、女性の6人に1人ががんで死亡するものと推計されています。同時に、がんの診断及び治療技術も近年急速に改善してきました。直近の統計では、がん患者全体の5年相対生存率は60%を超えており、がんの経験者やがん治療を継続されている「がんサバイバー」の数は既に数百万人、日本対がん協会によると700万人を数えているとされています。正に「がんは国民病」と言える時代になったと言えます。
がん撲滅に向けて、医学者や科学者たちは懸命の努力を続けていますが、いまだがんを根治する方法は見つかっていません。しかしながら、近年のゲノム医療の進展で、「がん根治」の手がかりが見えてきています。分子標的薬によるオーダーメイド治療、免疫チェックポイント阻害薬などの画期的新薬も登場しています。日本のがん医療・研究の拠点として、がん研究に取り組んできた「国立がん研究センター研究所」のトップ科学者たちが、「がんのメカニズム」から最先端の「ゲノム医療」まで語り尽くします。

革新的な治療法や検査法が次々に開発

※血液1滴でがんの早期発見できる「エクソソーム解析」

※最適な抗がん剤が見つかる網羅的遺伝子検査

※「魔法の弾丸」分子標的薬でオーダーメイド治療

※公的医療保険が適用できるゲノム医療

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 最新の研究成果が満載で、「がん」が何故できるのかそのメカニズムを詳しく知ることが出来た。 不安心を煽ることなく「がん」について冷静に記述する意志が随所に感じられる。まさに、「がん」の教科書とも呼べる一冊ではなかろうか。

  • これまで読んだがんに関する本の中で一番理屈的にわかりやすい本でした。医療に携わりがんについてこれまでとこれからを勉強し始めた人におすすめ。

  • ガンのでき方、仕組み、そして逃れる知恵、そしてそれを追いかける医療。遺伝子科学、分子化学、デジタルの進展から「がん」のメカニズムとその複雑さ、そして可変性。医療界の方々に頭が下がります。〇〇の機能が発現しないように抗体とか高分子の○○とか、それを見つけて作って送り込んでしまう医療もすごいし、それを掻い潜るガンも凄い。まるでウイルスみたいに遺伝子が変異して生き残ろうとする。細胞間の生存競争。変化したガンが生き残る。厄介。でも、今後の医療の進展に期待が持てる、そして非常に分かりやすい作品でした。

  • 遺伝子変異により無限に分裂できる細胞が生まれ、肥大化することで、臓器の機能不全や出血、体力消耗につながり死に至る。これががんらしい。
    通信で言うパリティチェックみたいのを想像した。正常な場合、遺伝子変異を訂正する細胞が抑止してるんだけど、そいつすらも侵食されて機能できなくなることで、手がつけられない状態になる。

    遺伝子変異の要因として炎症が考えられるため、炎症を避けるための「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」で、がんリスクはほぼ半減できるらしい。

  • 第1章 がんとは何か?
    悪性腫瘍とはコントロールされない細胞の増殖であり、自律性増殖、浸潤と転移、悪液質を引きおこすなどの特徴がある。癌腫(上皮性)、肉腫(間質性)、その他血液がんなどに大別される。がんは昔から知られており、近代以後は発がん性の発見(19世紀)、がん遺伝子の発見(20世紀)など研究が進んだ。リン酸化によるシグナル伝達の変異ががんを引きおこすこと、逆にがんを抑制する遺伝子も存在することが判明した。現在は遺伝子レベルのがん化を抑制する分子標的薬が開発され、主力になっている。
    第2章 どうして生じるのか?
    遺伝子変異の蓄積や、染色体異常によりがんが生じる。がん遺伝子の活性化やがん抑制遺伝子の不活性化など、異常の起こる遺伝子の機能も影響する。カビ毒やタール等の化学物質への曝露、放射線への曝露、細菌やウイルス感染などの外因的要素や、遺伝的素因など内因的な素因がある。がん細胞自体も変化してゆき、多様性を獲得することで、難治性がんに進行してゆく。変異遺伝子の種類によってがんの性質も変わってくるらしい。
    第3章 がんがしぶとく生き残る術
    がん細胞は健常人にも自然発生しており、免疫により排除されているが、悪性化細胞は免疫をかいくぐって無力化する性質を持っている。がん細胞自身が抗原性を失う変異を起こす、免疫抑制サイトカインを分泌する、免疫抑制機能を持つ細胞を利用する。また免疫チェックポイント分子を用いてT細胞を無力化するなどの戦略があり、これを利用した抗がん剤も開発されている。
    第4章 がんと老化の複雑な関係
    高齢になるとがんの発症率が上がるが、ストレスによる細胞老化がその一因である。老化細胞により起こる慢性炎症ががんの原因になる。
    第5章 再発と転移
    がんの再発は、がん細胞群の中にあるがん幹細胞が原因である。がん幹細胞は種のように休眠しており、抗がん剤治療にも影響されにくい。これを除去することで再発を予防できる可能性がある。がん細胞の転移は急速に進行する。がん細胞は細胞環境に依存して増殖する足場依存性を失っているにも関わらず増殖してしまう。また転移しやすい場所がある。
    第6章 がんを見つける、見極める
    良質ながん治療を行うためには早期発見が重要であるが、がん検診はコストがかかる。腫瘍マーカーも利用できるが早期発見にはあまり有用ではない。血中のmiRNAを利用する方法が有望であり開発されている。
    第7章 予防できるのか?
    発がん予防の鍵は生活習慣の改善にある。禁煙・節酒・食生活・身体活動・適正体重の維持が現時点で重要だと考えられている。がん予防効果のある薬剤も既存薬を中心に検討されている。
    第8章 ゲノムが拓く新しいがん医療
    抗がん剤は伝統的な細胞障害性抗がん剤と、近年の遺伝子的知見に基づく分子標的薬に大別される。分子標的薬の問題は副作用と治療抵抗性の発現である。遺伝子解析により抗がん剤が開発されることで、がんの分類も原因遺伝子に基づいて行われる可能性がある。更に分子標的薬の標的分子が発現する前にブロックする核酸医薬も開発中である。また治療抵抗性の発現も乗り越えるべき課題である。がんゲノム医療の拡大が期待されている。

  •  「がん」という病の不思議さ、それはひとえにその多様性に尽きる。なぜ様々な臓器に発生しそれぞれ性質が異なるのか。なぜ人によって同一治療の有効性に差があるのか。本書はがんの性質の不思議さをその本態と成因を詳述し、現代医療における最新治療との関連においてその謎を解き明かそうとする。
     
     本書によればがんの多様性は、がん細胞が単一ではなく非常に多くの種類の変異が蓄積されることによって発生することに起因するという。その原因の一つである遺伝子変異を例に挙げれば、その変異によりがんの発生と進展に直接関与する「ドライバー遺伝子」はこれまでに15個特定されているが、これらのうち同種のがんにおいて最も多く共通して現れるものでもせいぜい50%弱の頻度でしか発現しておらず、多くのものは10%以下にしか見られないという。つまりゲノムの変異自体は少数でもその組み合わせが症例によって大きく異なるのであり、従って治療にもその組み合わせごとに応じた個別性が要求されることになるというわけだ。

     また、がんは宿主の免疫系による攻撃を受けているが、変異の蓄積がゲノムの多様性をもたらすため、免疫系のチェックをかいくぐり環境に適応するゲノム変異がどうしても残存していくのだという(がんゲノム進化)。これにがん細胞のもつ増殖能、転移能を考え合わせれば、がん治療の困難さが否応なく理解される。

     余談。読んだ時期がノーベル賞の季節にたまたま重なったため印象に残ったのだが、本書中でフィビゲルなるデンマークの科学者に触れるくだりがいくつかある。彼は寄生虫ががんを引き起こすという「寄生虫発がん説」の提唱により1926年にノーベル賞を受賞しているのだが、後世にそれが誤りだったことが判明したという。現在のノーベル賞が、相当な期間をもって多面的に検証され、十分に確立された研究成果に対してのみ慎重に授与されるようになったのも、このような経験を経たからこそなのだろう。

全41件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1962年に日本のがん医療・がん研究の拠点となる国立の機関として創設された「国立がん研究センター」の基礎研究部門。これまで、国内的及び国際的に、がん研究に携わる人材を数多く育成・輩出してきた。創設以来、最新の技術・アプローチを駆使した独創的・イノベーティブながん基礎研究を土台として、発がん機構の理解から新しい診断・治療法の開発までを一貫して強力に進めている。現在、日本でのゲノム医療体制の構築と希少がん・小児がん・難治がん対策に重点的に取り込むとともに、製薬企業やアカデミアとの連携による基礎と臨床の橋渡し研究を積極的に推進している。

「2018年 『「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
リンダ グラット...
アンデシュ・ハン...
ジャレド・ダイア...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×