「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで (ブルーバックス)
- 講談社 (2018年6月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065120934
作品紹介・あらすじ
日本のがん罹患者数は年々増加し、最近では年間約100万人が新たにがんを発症し、死亡者の3人に1人にあたる約37万人ががんで亡くなっています。近年の統計からは、日本人の2人に1人が生涯に一度はがんに罹り、男性の4人に1人、女性の6人に1人ががんで死亡するものと推計されています。同時に、がんの診断及び治療技術も近年急速に改善してきました。直近の統計では、がん患者全体の5年相対生存率は60%を超えており、がんの経験者やがん治療を継続されている「がんサバイバー」の数は既に数百万人、日本対がん協会によると700万人を数えているとされています。正に「がんは国民病」と言える時代になったと言えます。
がん撲滅に向けて、医学者や科学者たちは懸命の努力を続けていますが、いまだがんを根治する方法は見つかっていません。しかしながら、近年のゲノム医療の進展で、「がん根治」の手がかりが見えてきています。分子標的薬によるオーダーメイド治療、免疫チェックポイント阻害薬などの画期的新薬も登場しています。日本のがん医療・研究の拠点として、がん研究に取り組んできた「国立がん研究センター研究所」のトップ科学者たちが、「がんのメカニズム」から最先端の「ゲノム医療」まで語り尽くします。
革新的な治療法や検査法が次々に開発
※血液1滴でがんの早期発見できる「エクソソーム解析」
※最適な抗がん剤が見つかる網羅的遺伝子検査
※「魔法の弾丸」分子標的薬でオーダーメイド治療
※公的医療保険が適用できるゲノム医療
感想・レビュー・書評
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最新の研究成果が満載で、「がん」が何故できるのかそのメカニズムを詳しく知ることが出来た。 不安心を煽ることなく「がん」について冷静に記述する意志が随所に感じられる。まさに、「がん」の教科書とも呼べる一冊ではなかろうか。
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これまで読んだがんに関する本の中で一番理屈的にわかりやすい本でした。医療に携わりがんについてこれまでとこれからを勉強し始めた人におすすめ。
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TEA-OPACへのリンクはこちら↓
https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00612127 -
遺伝子変異により無限に分裂できる細胞が生まれ、肥大化することで、臓器の機能不全や出血、体力消耗につながり死に至る。これががんらしい。
通信で言うパリティチェックみたいのを想像した。正常な場合、遺伝子変異を訂正する細胞が抑止してるんだけど、そいつすらも侵食されて機能できなくなることで、手がつけられない状態になる。
遺伝子変異の要因として炎症が考えられるため、炎症を避けるための「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」で、がんリスクはほぼ半減できるらしい。 -
「がん」という病の不思議さ、それはひとえにその多様性に尽きる。なぜ様々な臓器に発生しそれぞれ性質が異なるのか。なぜ人によって同一治療の有効性に差があるのか。本書はがんの性質の不思議さをその本態と成因を詳述し、現代医療における最新治療との関連においてその謎を解き明かそうとする。
本書によればがんの多様性は、がん細胞が単一ではなく非常に多くの種類の変異が蓄積されることによって発生することに起因するという。その原因の一つである遺伝子変異を例に挙げれば、その変異によりがんの発生と進展に直接関与する「ドライバー遺伝子」はこれまでに15個特定されているが、これらのうち同種のがんにおいて最も多く共通して現れるものでもせいぜい50%弱の頻度でしか発現しておらず、多くのものは10%以下にしか見られないという。つまりゲノムの変異自体は少数でもその組み合わせが症例によって大きく異なるのであり、従って治療にもその組み合わせごとに応じた個別性が要求されることになるというわけだ。
また、がんは宿主の免疫系による攻撃を受けているが、変異の蓄積がゲノムの多様性をもたらすため、免疫系のチェックをかいくぐり環境に適応するゲノム変異がどうしても残存していくのだという(がんゲノム進化)。これにがん細胞のもつ増殖能、転移能を考え合わせれば、がん治療の困難さが否応なく理解される。
余談。読んだ時期がノーベル賞の季節にたまたま重なったため印象に残ったのだが、本書中でフィビゲルなるデンマークの科学者に触れるくだりがいくつかある。彼は寄生虫ががんを引き起こすという「寄生虫発がん説」の提唱により1926年にノーベル賞を受賞しているのだが、後世にそれが誤りだったことが判明したという。現在のノーベル賞が、相当な期間をもって多面的に検証され、十分に確立された研究成果に対してのみ慎重に授与されるようになったのも、このような経験を経たからこそなのだろう。