もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)

  • 講談社
4.09
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065020548

作品紹介・あらすじ

脳の陰の支配者「グリア細胞」とはなにか?
脳内の全細胞の8割以上を占める「グリア」。
しかし、電気活動を行うニューロンの間を埋める
単なる梱包材とみなされ、軽視されてきた。
しかし、近年の研究で、グリア細胞は、
ニューロンの活動を感知し、その動きを制御できることがわかってきた。
脳に関する科学者の理解を揺るがす、
グリア細胞の役割とは?

脳科学でいま「大変革」が起きている
フィールズの到達した結論は、(略)神経科学の主流であり続けている「ニューロン中心主義」(略)という見解が、まったく不完全で、大きな変更を迫られており、実は「グリアがニューロンを制御する」という主客転倒、あるいはニューロン-グリア両立主義とも呼ぶべきものであるというのだ。これは大いなる驚きであり、つねに難問に挑み続ける多くの挑戦的な神経科学者たちにとっては、容易に看過できない言明である
「訳者あとがき」より

感想・レビュー・書評

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  • このテーマと内容の翻訳本を新書で出すとは、さすがのブルーバックス。感心した。心から応援する。

    タイトルにもなっている「もうひとつの脳」とは、脳を構成する細胞の内、ニューロンの他に存在するグリア細胞のことだ。実際に脳の細胞数に占める割合はニューロン細胞よりもグリア細胞の方が多い。そのグリア細胞はこれまで脳内の充填物程度に思われていたが、最近の研究により、これまで考えられていた以上に脳や神経系の動作に関与しているという。ニューロン中心主義からのパラダイムシフトと言っていいだろう。少なくともこの領域の研究者である著者はそう思っている。

    グリア細胞が注目されている例として、アインシュタインの脳の話がある。アインシュタインの脳はこれまで大きさもニューロンの数も一般のものと大きな違いは見られなかったというのが通説であった。最近になって、先日のNHKスペシャルでも取り上げられていたが、アインシュタインの脳の一般とのある違いが注目されている。それはニューロン以外の細胞の数 ― グリア細胞の数 ― が一般の脳のそれと比べてはるかに多かったのだ。一般に刺さりそうなネタではあるが、グリアが脳活動に大いに影響を与えていて、その多くの領域がまだ未知であることは確かなようだ。

    「グリア細胞」には、大きく4種類存在する。※この4つの分類だけでよいのかもまだ明確でないという。
    ・アストロサイト: 神経伝達物質を濾過して取り除いたり、ニューロンのエネルギー源である乳酸を供給。脳の発達における臨界期や可塑性にも大きく関与。アインシュタインの脳でその存在比が一般人よりも大きかった細胞
    ・ミクログリア: 脳を損傷や病気から保護する役割を持つ
    ・シュワン細胞: 末梢神経に存在し、軸索の周囲にミエリン鞘を形成する。ミエリン形成型、非ミエリン形成型、終末型の三つのタイプに分類される
    ・オリゴデンドロサイト: 脳や脊髄に存在し、軸索の周囲にミエリン鞘を形成
    また、シュワン細胞およびオリゴデンドロサイトが構成するミエリンは軸索を保護するとともに、その存在により軸索を通る神経信号の伝達速度が大きく制御されることがわかっている。

    著者らの研究により、シュワン細胞がニューロンの信号を検知して別の信号伝達に関与している可能性も取り上げられている。これからの脳の研究において、ニューロンの活動だけではなく、グリア細胞を含めたシステムとして脳を理解する必要があると言われている。

    まだまだグリア細胞の役割については論争中のものも多いらしく、新しい知見が生まれる場所になっているらしい。特にアストロサイトがニューロン間で交わされるメッセージを感知することでどのような役割を担っているのかというのは非常に大きな知見を得られるかもしれない。そうなると例えばニューロンの配線をすべて明らかにすることで脳活動の全貌や個々人の脳の違いがわかるだろうとするコネクト―ムと言われる研究活動にも影響があるだろう。

    一方、グリア細胞の異常が様々な疾患の直接的な病因にもなっていることがわかっている。ALS(多発性硬化症)はミエリンの消失により発症する。統合失調症、うつ病、双極性障害、癲癇などでグリアを含む白質で構造の変化が起きていることも明らかになり始めている。例えば統合失調症の患者の脳内でオリゴデンドロサイトとアストロサイトの減少が著しい。脳腫瘍は、分裂を起こさないニューロンには発生せず、グリア細胞で発生する。HIVウィルスはニューロンではなくグリア細胞に感染する。パーキンソン病やアルツハイマー病の原因のひとつとされるレピー小体の蓄積はニューロンだけでなくグリア細胞にも同様に蓄積されており、これらはニューロンの病気というよりもグリアも含めた病気と認識した方がよいのかもしれないと言われている。特にアルツハイマー病では蓄積されたβ-アミロイドによりミクログリアおよびアストロサイトの機能が大きく影響されることがわかっているらしい。また、妊娠時のアルコール摂取によっておこる胎児性アルコール症候群もグリアの正常な成長ががアルコールによって不可逆的に阻害されてしまうことから発生する。四肢の骨折が容易に治癒するのに、脊椎損傷の場合に神経系が再生できないこともグリアの機構によるものが大きい。また、老化による脳容積の減少はグリア(ミエリン)が多い白質の方が灰白質に比べて大きいことがわかっている。加齢によりアストロサイトの数も増加して損傷を補修するグリオーシスを多く生じるようになる。これらの疾患や老化についてはグリアの動きを理解することにより治癒や予防に向けた研究が進むことが期待されている。

    また、fMRIなどの脳イメージングの研究により、脳内の血流の制御にアストロサイトが大きく関与していることもわかっている。「神経血管ユニット」と呼ばれる「アストロサイト-毛細血管-ニューロン」群は、片頭痛とも大きく関わっているとのこと。この辺りのfMRIやEEGの技術による脳機能の調査は今後も大きく進展することが期待される。

    脳内に占める体積や細胞数はニューロンよりもグリア細胞の方が多い。グリアが脳活動や神経系の活動に大きく関わっていることから、今後より詳しく脳が動く仕組みがわかってくるのではないか。ただ、どんどん専門的な内容になってきてついていけなくなりそうだけれども。それにしても人体(生体といってもいいのかもしれない)は全く精妙で、どのようにして自然淘汰と進化の過程の末にこういう機構ができあがってきたのかはとても不思議である。今、グリアも含めて脳がどのように機能しているのかを知ることもひとつ大きな研究ターゲットだが、その仕組みが生物の歴史的にどのようにして生まれてきたのかを知ることがもうひとつの知的探求のターゲットになるだろう。また、ひとつの受精卵から細胞分裂により成体へと成長する胚発生のメカニズムも大きな探究のフロンティアである。今までもそこにあったグリアが長く無視されてきて、近年著者らの努力により脚光があたってきたというが、それも含めてまだまだわかっていないことは多いのだなと思う。

    それにしてもブルーバックスは新書の枠組みを超えているな。素晴らしい。

  • 脳の陰の支配者「グリア細胞」とはなにか?
    脳内の全細胞の8割以上を占める「グリア」。
    しかし、電気活動を行うニューロンの間を埋める
    単なる梱包材とみなされ、軽視されてきた。
    しかし、近年の研究で、グリア細胞は、
    ニューロンの活動を感知し、その動きを制御できることがわかってきた。
    脳に関する科学者の理解を揺るがす、
    グリア細胞の役割とは?

    脳科学でいま「大変革」が起きている
    フィールズの到達した結論は、(略)神経科学の主流であり続けている「ニューロン中心主義」(略)という見解が、まったく不完全で、大きな変更を迫られており、実は「グリアがニューロンを制御する」という主客転倒、あるいはニューロン-グリア両立主義とも呼ぶべきものであるというのだ。これは大いなる驚きであり、つねに難問に挑み続ける多くの挑戦的な神経科学者たちにとっては、容易に看過できない言明である
    「訳者あとがき」より

  • 電子ブックへのリンク:https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000057477
    ※学外から利用する場合、リンク先にて「学認アカウントをお持ちの方はこちら」からログイン

  • グリアが重要だということはよくわかった。ただその働きが広範なため、わかりやすく書こうとすると散漫な感じになってしまうのだろうか、正直細かい部分はあまり頭に残っていない。
    あとはお話が上手だという事。例えば、とある研究者の生涯、みたいな絞ったテーマだとすごく面白い本を書けるんじゃないかなと思った。

  • 脳の8割を占めながら、これまでただの緩衝材・絶縁体・
    支持構造だと思われニューロンの影に隠れて無視されてきた
    グリア細胞が、実は大きな役割を果たしているのではないか
    と徐々に明らかになりつつある。今現在どのようなことが
    わかってきているのかを並べ、グリア細胞への注目を図る
    著作。これから大きな研究フィールドが広がっていく予感と
    共にわくわくしながら読み進めた。

    ただし問題は全編の半ば以上が「脳疾患」に関わる内容で
    その手の話題にセンシティブな人間には向いてないことと、
    本当にまだ研究の端緒で、わかっていることはまだまだごく
    少ないということか。

  • 神経細胞についてでなく、グリア細胞についてひたすら書いてある。
    人食いの話やアインシュタインの脳については魅力的

  • 面白すぎてアクションポテンシャルバンバン出て、言うなればバキの脳イキ状態が続く。とてもいい本

  • 主旨にだいぶ偏りもあるが、グリアについて新しい見方ができる。
    ただ、客観的に考えてもグリアの働きが詳細に記載されており、その点が良い。

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