- Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062938761
作品紹介・あらすじ
「定年って生前葬だな。これからどうする?」
大手銀行の出世コースから子会社に出向、転籍させられ、そのまま定年を迎えた主人公・田代壮介。仕事一筋だった彼は途方に暮れる。年下でまだ仕事をしている妻は旅行などにも乗り気ではない。図書館通いやジムで体を鍛えることは、いかにも年寄りじみていて抵抗がある。どんな仕事でもいいから働きたいと職探しをしてみると、高学歴や立派な職歴がかえって邪魔をしてうまくいかない。妻や娘は「恋でもしたら」などとけしかけるが、気になる女性がいたところで、思い通りになるものでもない。
惑い、あがき続ける田代に再生の時は訪れるのか? ある人物との出会いが、彼の運命の歯車を回す──。
シニア世代の今日的問題であり、現役世代にとっても将来避けられない普遍的テーマを描いた、大反響ベストセラー「定年」小説。
感想・レビュー・書評
-
1.著者の内館牧子さんは、三菱重工で、約13年間社内報の編集を担当していました。妥協を嫌い、自分流を通しながらも、上司からも同僚からも可愛がられ慕われていたそうです。氏は、脚本家としてデビュー。テレビドラマの脚本で、橋田壽賀子賞を始め、アジアテレビジョンアワード賞等、数々の賞を受賞しています。小説家・エッセイストとしても活躍しています。相撲好きで、横綱審議委員を努め、大相撲研究の為に、東北大大学院入学し、修了しました。無類の相撲好きの成せる業かつ学びの達人なのでしょう。
2.本書は、「定年って生前葬だな」から始まります。主人公は、東大法学部を卒業し、メガバンクに入社。出世街道を走っていました。しかし、子会社に突然出向となり、定年を迎えます。定年後、小さな会社の社長になりましたが、倒産し、老後資金をほとんど失います。このように、出世競争に敗北したエリート人間の晩年を書いた小説です。
3.先ず、私の琴線に触れた箇所を、感想を添えて3点書きます。
(1)「本部は俺を必要としていなかった。人材なら幾らでもいる・・・ 俺は終わった。熱く面白く仕事をしてきた者ほど、この脱力感と虚無感は深い」
●感想⇒主人公は、東大卒で、エリートコースを歩んできました。肩書がなくなると相手にされなくなるのは、勤め人の性なのです。定年後は24時間すべて自分のものになります。主人公には、好きなことが出来るという心の柔軟性が欠如していたのではないでしょうか。これもエリート特有のプライド意識がなせる業と思います。仕事第一主義の人に良くあるケースです。私は、仕事も重要だが、まず家族があつて、次に仕事と思っています。衣食住を共にし、喜怒哀楽を共にする家族がいてこそ、仕事に打ち込めるのです。
(2)「企業というところは、人をさんざん頑張らせ、さんざん持ち上げ、年を取ると地に叩きつける。そうした末に”終わった人”が、どうやって誇りを 持てばよいのだ」
●感想⇒会社人間にありがちなパターンです。私も会社勤めの経験があります。勤務した会社は、この物語と違い、温かい日本的企業でした。OBからもここに書かれているような話を聞いたことがありません。このような会社は、早晩、社会から見放されるでしょう。一方で、個人も人生を会社任せにせずに、独立心を持って生きなければなりません。
(3)「嫌な人とはメシを食わず、気が向かない場所には行かず、好かれようと思わず、何を言われようと、どんなことに見舞われようと”どこ吹く風”で 好きなように生きればいい」
●感想⇒こうした考えでは、よき人生を全う出来ません。人間が生きていく 上で、他人からの支援は必要不可欠です。人に対する感謝の気持ちは社会生活の潤滑油です。思うだけなら許せますが、こういう考えで生活してはいけないと、切に思います。
4.まとめ;
本書は東大卒のエリートという特異な設定でストーリーを組み立てています。世の中には、種々雑多な人々が暮らしています。従って、この小説のようなパターンはごく少数のエリートが陥るジレンマと思います。確かにビジネスストレスは半端なものでないという事は理解できます。また、定年と言っても、若い人にはピンとこないでしょう。これからは定年年齢も60歳から70歳位まで引き上げられると思います。定年後生活の心配は、50歳以降に考えれば十分です。若い人でも興味があれば読むとよいです。人は、主義主張や生活環境に違いがあります。自分流に生きればよいのです。ちなみに、私は、渡部昇一氏(故人)の「知的生活の方法」の中の記述、「いっさいの義務から解放された状態で、次から次へと新刊を取り寄せて朝から読んでいられる定年後の人生が、今では待ち遠しいような気がする」に憧れています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
胸を膨らませて、輝く田代壮介
出世競争で同期入社の者に負けてメガバンクから従業員30人の子会社に飛ばされて63才で定年を迎えた田代壮介は、再び輝きを取り戻すために仕事に恋にと直走る物語です。
退職後、仕事もせず、愚痴を言い、美容師として働いている妻千草に文句を言われて。やっと自分には仕事が一番だと気が付き、仕事を探し出した。東大法学部での学歴が、メガバンクで役員一歩手前まで行った職歴が邪魔するのか自分の思った仕事に就けない。
今まで誇りにし、俺自身を育ててくれたものがマイナスになるのはおかしい。学歴や職歴は俺を作っている。俺らしさはそこに有る。誇りは捨ててはならない。「終わった人」でも、誇りを持てる場はきっとある。そんな時に千草は、独立して美容院をオープンさせた。
田代も張り切り、東大の大学院に行くという目標を立てる。そのためにカルチャースクールへ行って東大受験の論文を書く。この考えに妻の千草は、あなたらしいと喜んでくれる。カルチャースクールで講師の浜田久里39才と知りあう。女と恋をするのはいいものだ。
退職して9ヶ月。田代は、ジムで知りあったオーナー社長の鈴木からゴールドツリーの顧問として入社してほしいと。快諾して、仕事を楽しんで3ヶ月あっけなく鈴木が亡くなった。皆に推されて田代が社長となった。
しばらくして大きな取引先の倒産で三億円の負債を背負い、そのうち社長として九千万円を負担してゴールドツリーを清算させたが。田代は、長年築いてきた財産は千五百万円になり、千草の今後の生活設計も大きく狂ってきた。もう贅沢は出来ない。
田代は、それからは「主夫」として千草を助けて家事にいそしみ贖罪の日々であった。そんな中で銀行時代に身に付けた経理や経営計画の作成が、故郷の盛岡の同級生を助けたことから、生きがいが生まれる。そこで千草と離婚するのでなく「卒婚」して胸を膨らませて盛岡へ向かう。
【読後】
退職後にソフトランディングできなかった主人公が、あがきに足掻いて最後には、単身、夢を抱いて故郷盛岡に帰ります。著者は、再生の物語と言っていますが。私は、何か、ジーンと寂しさを感じます。テンポが速く、音読していて次のページを捲るのが楽しくてなりませんでした。田代と千草が離婚でなく「卒婚」します。卒婚は、初めて聞きました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【音読】
2022年9月13日から23日まで、音読で内館牧子さんの「終わった人」を大活字本で読みました。この大活字本の底本は、2018年3月に講談社文庫から発行された「終わった人」です。本の登録は、講談社文庫で行います。埼玉福祉会発行の大活字本は、上下巻の2冊からなっています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
終わった人
2021.05埼玉福祉会発行。字の大きさは…大活字。
2022.09.13~23音読で読了。★★★★☆
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ -
盛岡から東大へ進学、メガバンク勤務を経て定年退職した主人公・田代壮介の"その後"の物語。仕事一筋だったため「毎日が日曜日」の生活に馴染めず、何とか再就職するものの大きな「負債」を抱えたことで、夫婦仲も険悪になってしまう…。
最終的には田代も妻も、それぞれが『生きやすい』方法を見つけたようなので、まあ良かったんじゃないか、と思った。 -
分厚い本でしたが、文字が大きかったためすぐに読み終えました。
「定年って生前葬だな。これからどうする?」というキャッチーなフレーズが帯に書かれていて興味を持ちました。
主人公の田代壮介は東大法科卒、メガバンクを定年まで勤め上げたエリート。退職後もプライドが邪魔して老後を素直に楽しめず、他の学業や恋で何かを成し遂げねばと必死。
プライドは高いくせに優柔不断で行動に軸がない、あまり好感は持てないタイプの主人公。
浜田久里という女性にも執着しすぎでは?熱海で久里とワンチャン狙っていたことには驚きでした。
良くも悪くも映像的で、文面だけでは田代や他の登場人物の心情が読みづらいなぁ、と感じます。
映画ならもう少し面白いかもしれません。
-
内館牧子さん2冊目。一線を退いた年代が主人公という点では前に読んだ作品と共通していたが、本作の主人公は東大法学部卒の元エリート銀行員、役員の一歩手前まで行った男性で、仕事色が強かった。リタイア世代の人たちは大変な仕事から解放され、自由な時間を好きなことをし悠々自適に過ごしているイメージがあった。だが、そうした年代を取り扱っている複数の小説を読み、仕事から退いた人たち、またはその家族も何もばら色の時間を過ごしているわけではないことをつくづく思い知った。結局、どの年代・境遇の人たちにもそれぞれの悩みがあり、隣の芝は青く見えているということなのかもしれない。本書のあとがきでは現役時代にどんな経歴を歩もうがリタイア後の着地点は似たようなもの、と書かれていた。やはり「今」を大切に過ごしていくことが何よりも大事な気がした。本作の主人公は岩手県盛岡の出身で東北、特に岩手の好きな私はそれも楽しめた。全体的に満足のいく面白さだった。
-
NHKでのドラマ三田佳子さん主演「すぐ死ぬんだから」がとても好みだったので、手に取った一冊。
人生終盤の在り様、居場所の探し方は高齢化社会ならではのもの。先述のドラマ同様、そんな時期の男女の心の彷徨う様子を作品にしている。
東北の片田舎出身で東大法学部卒のエリート銀行マンであったはずの主人公 田代が主人公。
「であったはず」がミソ。気が付くと出世街道から外れ、出向先が転籍先となり、寂しく定年退職を迎えるところから話が始まる。
「であったはず」の人生を終盤にどう帳尻合わせするか、落としどころを見出すかが本当に難しい。
仕事や肩書と自分、あるいは長年の夫婦としての伴侶との関係性、親と子どもの距離等々、他者や周囲からの承認や受容に軸足を置いていると、最後独りぼっちなんだろうな。
脚本家である内館さんの作品らしく、良くも悪くも映像的というか、展開と会話でぐいぐい話が進むので、途中でおなかいっぱい。
東大法学部卒でエリート銀行員という主人公の設定もさもありなん。
東大卒も色々いるから、紋切り型だなと。
でも、内館さん脚本のドラマ『想い出にかわるまで』(今井美樹主演。松下由樹さんの好演が素晴らしかった。)、朝ドラ『ひらり』『私の青空』は今でも記憶に残る作品。
やっぱり映像のほうが好みかな。 -
2015年初版。売れっ子脚本家として、一時代を作った方だけあって展開が楽しみでページが進みました。主人公は東大法学部卒・メガバンクでバリバリと仕事をこなすも出世争いに敗れ子会社で63歳のサラリーマン生活を終えた男。私が63歳なので親近感を持ち読みました。実際は高学歴でもなく中小企業で50歳で体調を崩して、そこで終わったと言ってもよい時間を過ごしていますので、かなり主人公とは違いますが。読んでみて思ったのは、人生の最終章を、どう生きるのか考えないとと焦りの気持ちを持ちました。最後は学歴や職歴は、関係なくなるのは確かに思えますので有意義な時間を過ごせるように考えて行動を起こしたいです。
-
冒頭の「定年って生前葬だな。」という台詞と、
あとがきの「若い頃に秀才であろうとなかろうと、美人であろうとなかろうと、一流企業に勤務しようとしまいと、人間の着地点って大差ないのね」。
なるほど、そうかもしれない。
主人公の外から見たら「エリート」サラリーマンが定年を迎える。
ただのおじさんになることを拒否してあれこれ試したり、試さなかったり、結局は仕事に生き甲斐を求め、短い間にジェットコースター並みの展開を見せる。
壮介の気持ちがエリートでもなんでもない私にも手に取るように分かったよ。
まだ定年までしばらくあるけど、必死に勉強して上京したけど、今のところ何も成していない普通のおばさんだなと、たまに思うことあるから。
成功すること(日本だと成功しているように見えることの方が大事かな)、成功とは仕事などの社会的なものが輝いて見えるという価値観だと、定年後の生活はつらいだろうな。
自分が自分らしくいられる場所や物、他者からの評価など関係なく幸せでいられるものについて考えさせられた。 -
エリート意識が高い人が、不完全燃焼のまま定年退職後したら、何して過ごしたら良いのか分からなくなる話は良く聞きますが、この話の主人公は典型的ですね。
私はエリートでは無いけれど、仕事のやりがいは、恋愛や趣味では得られない充実感を感じるので、他の事では替えが効かない気持ちは共感しました。
社会や誰かの役に立っていると感じたいし、必要とされたい気持ちは私も有ります。
読む前は、もっとハッピーエンドで退職後の成功サクセスストーリーなのかと思っていたので、まさかの結末にびっくりでした。
奥さんとの今後が気になりますが、最後に少し希望が見えて良かったです。