一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062932721

作品紹介・あらすじ

民主主義は熟議を前提とする。しかし日本人は熟議が苦手と言われる。それならむしろ「空気」を技術的に可視化し、合意形成の基礎に据える新しい民主主義を構想できないか。ルソーの一般意志を大胆に翻案し、日本発の新しい政治を夢想して議論を招いた重要書。
文庫オリジナルとして政治学者・宇野重規氏との対論を収載。

高橋源一郎氏推薦――「民主主義」ということばは、危機の認識が広がる時、一斉に語られるようになる。現在もまた。この、ある意味で「手垢のついた」ことばを、東浩紀は、誰よりも深く、たったひとりで、原理にまで降り立って語った。時代に先立って準備されていた、この孤独な本は、いまこそ読まれなければならない。

感想・レビュー・書評

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  • 22世紀の民主主義を読んで、似た本を読んだことがあるのを思い出して再読してみた。解釈が難しいと言われるジャン・ジャック・ルソーが唱えた「一般意思」を哲学的な考察をしつつ現代(出版は2011年)に展開します。インターネットに散在する言説を無意識の集積としてビッグデータとして取りまとめ、それを一般意思として選良へ熟議を方向付けるとありますが、選良というより選悪なので難しそうです。

  • デジタル時代の民主主義の在り方について、10年以上前に出たこの本で触れているのは驚きです。政治にコミュニケーションは不可欠と思っていましたが、国民全員がコミュニケーションが得意なわけでもなく、ただ、こうして欲しいという潜在的な欲求は持っているもの。これをテクノロジを駆使すれは、一般意思として抽出できるという主張。
    ある意味、最近話題の成田先生の著作「22世紀の民主主義」の問いに対する答えを準備しているかの内容。一読再読の価値ありと思います。ChatGPTなどの優れたAIまで実装された現在、一般意思2.0を把握するところまであと一歩。どこかの国で試験的にシン民主主義が始まるような気がします。あるいは国内の自治体で潜在的な住民意思を細かな政策に反映していけば、シャイで内気な人も含めて、貴重な民意が反映され、快適な生活を求めて移住する人も増えるのではと思いました。

    • kuwatakaさん
      ミクロ視点からの正解(部分最適)と、マクロ視点からの正解(全体最適)が対立しちゃう辺りの、人間が苦手な「混ぜるな危険」領域(合成の誤謬)をバ...
      ミクロ視点からの正解(部分最適)と、マクロ視点からの正解(全体最適)が対立しちゃう辺りの、人間が苦手な「混ぜるな危険」領域(合成の誤謬)をバランスさせる(両者納得の仕組みを与える)のがAIの役目になってくるんだろうなぁと思いを巡らせつつ、本書を読み直そうと思いました。

      「一般意志」を「大衆の長期的願望」、「全体意志」を「大衆の短期的願望」と言い換えて、後者がより多くの支持を集めやすいことが昨今のポピュリズムや資本主義の問題の根幹にあると主張する長沼伸一郎さんの「世界史の構造的理解」も未来像を読み解くのに役立つかもしれません。オススメです。
      2023/04/16
    • ozwarashiさん
      kuwatakaさん コメントありがとうございます。
      AIとの共存は、分野とかテーマ絞っていけば、想像以上に成功するのではと期待しています...
      kuwatakaさん コメントありがとうございます。
      AIとの共存は、分野とかテーマ絞っていけば、想像以上に成功するのではと期待しています。調整とか、すり合わせとか、政治や企業、あらゆる組織(人間の集団)で起きている重要でやっかいな作業が、あっという間に完了するような時代がくればいいなと思っています。ただそのためには、AIを活用するだけでなく、既存の組織の形とか調整という人間が得意(と思っているが実は不得意?)な役割をある程度手放す事が必要になり、それらができた国地域組織から、変わっていけるのではと思っています。
      ご紹介いただいた、長沼さんの本読んでみます。
      2023/04/16
  • 面白い。
    わりと論旨はわかりやすくて、ルソーが昔語ったようわからんものだった「一般意志」は、現代のICT革命を経て可視化された。それを政治に活かしていったら面白いんちゃうん?て感じかな。
    ルソーの一般意志って「人間は真理に自然とたどり着ける」みたいな人間への信頼感が根底にはあると思ってて、2.0ではその人間観はどうかなぁと思ったら、全然変わってないように見える。うーんどうなんだ。なんて読み進めたら、2.0はあくまでカウンターパートとして使うべき。みたいにあって。バランス感覚があるなぁ。なんて思ったけどそれって本末転倒というか、思想の鋭さが鈍った感じもする。そこから先の章は正直紙幅も足りてないしとっちらかってるから流し読み。
    熟議やデータベースの限界性とか、人間は結局情念で動くとか、そんな知見も面白く読めた。
    仮に一般意志を可視化できるものだとして、そこにはやっぱり頭のいい人たちが必要なんだよな。バイアス緩和のプログラムデザインする人とかね。可視化されたそれを踏まえ正確に読解し、かつ議論を進め、それと対決できる人はなかなかいるのかなぁ。憲法草案に対してだってバイアス取り除いて中立に誤読せず発議してる人だってネットでも少なく見えるのに。そんなことを考える2016年参院選の日。

  • 1
    Googleの創業理念「世界中の情報の体系化」
    →ルソーの一般意志の実装化

    『社会契約論』=個人主義どころか、ラディカルな全体主義の、そしてナショナリズムの起源の書として読むことができる

    「個人の社会的制約からの解放・孤独と自由の価値」と「個人と国家の絶対的融合・個人の全体への無条件の包含」という矛盾

    集合知・群れの知恵の再検討
    →「多様性予測定理」と「群衆は平均を超える法則」

    2
    関係規定でなく、結合された人々、支配者も被支配者もともに属する共同体(→一般意志)を生み出すための本
    社会契約(社会を作ることそのもの)→一般意志→統治機構

    政府は一般意志の手足にすぎない
    一般意志の執行は民主制より君主制のほうが適する
    重要なのは国民主権だけで、誰が担うかはだれでもよい(→フランス革命)
    ←革命権を保証するもの
    ホッブス『リヴァイアサン』

    またこれらは虚構で、理念に過ぎない(学術的)

    一般意志も全体意志も特殊意志の集合にかわりない
    一般意志は共通の利害に関わる⇔全体意志は私的な利害の総和
    →特殊意志はベクトル(数学的)、全体意志はスカラーの和

    3
    一般意志が適切に抽出されるためには、市民は「情報を与えられて」いるだけで、たがいにコミュニケーションを取っていない状態のほうが好ましい
    =政治にコミュニケーションは必要ない

    4
    一般意志は人間による秩序の外部
    公共性アーレント/ハーバーマス→熟議民主主義

    シュミット
    ≒トーマス・フリードマンの「フラット化」

    5
    Googleやユビキタス社会
    「一般意志はデータベース」
    総記録社会
    一般意志1.0は物語で存在しない
    →一般意志2.0はデータベースとしてサーバにある(民間企業に占有されている)

    6
    「心の動揺」の起こし方

    7
    国民の必要なものをデータとして理解する
    ルソーの立法者=精神科医
    人間は中途半端に動物だから社会をつくってしまう

    ネットには無意識が記録(可視化)されている?
    夫と妻の非対称性
    メタ内容的記憶保持
    フロイト『日常生活の精神病理学』

    8
    総記録社会=市場原理主義・社会民主主義

    自分自身を認識するために、国家とデータベースという二つの手段をもっている
    いままでの自覚とは異なった自覚の回路が現れている
    熟議の限界をデータベースの拡大により補い、データベースの専制を熟議の論理により抑え込む国家

    大きな公共は存在できず、小さな公共の切り貼りで

    9
    一般意志をモノとして捉える

    10
    ひきこもりの作る公共性

    11
    無意識民主主義
    激安の機能制限普及型政治参加パッケージ
    ニコニコ動画の利用

    12
    市民の固有性を奪う

    13
    ローティのアイロニー=デリダの歓待の論理=柄谷のヒューモア
    動物としての人間がたがいに憐れみを抱き感情移入しあう
    Twitterについて

    14
    mixi民主主義 Google民主主義 Twitter民主主義

    15
    動物的な生の安全は国家が保障し、人間的な生の自由は市場が提供する

  • ルソーによると、一般意志とは国人の意思の集合体である共同体意思のことを指す。したがって市民はこの一般意志に従わなければならない。ただし政府は一般意志を執行するための"代理機関"にすぎないため、市民は政府に服従しなければならないわけではなく、むしろ革命権を肯定している点はホッブズと異なる考え方。

    現代社会において一般意志とは何か考えてみるとまず思いつくのは世論あたりになるが、これとは全く性質が異なる。なぜならルソーは一般意志について「一般意志はつねに正しく、つねに公共の利益に向かう」と述べているからだ。世論は、みんなの意思だがしばしば誤ることがある全体意志に該当することになる。

    このように一般意志は人間の秩序(コミュニケーションの秩序)ではなくモノの秩序(数学の秩序)に属するため、必ずしも共同体の成員の合意は必要ではない。つまり政治にコミュニケーションは不要という奇妙な結論が導かれることになる。

    コミュニケーションこの概念は常識的な意味での「政治」や「意志」からかけ離れているといえるが、現代の文脈においてGoogleのビックデータやSNS発信といった、膨大なデータ蓄積が進んだ現代社会に通じる点があり、もはやこのようなプラットフォーム上では個々人の思いを超えた無意識の欲望パターンの抽出が可能になっている(→データベース、集合知)本書では一般意志の概念全体を「一般意志」とした時、ルソーのテキストを総記録社会の現実の照らして捉え直し、それをアップデートして得られた概念を「一般意志2・0」と定義している。

  • この思想、めっちゃ面白い。
    なるほど、「一般意志」を技術をもって可視化し、政治の制約として使う。わくわくしますね。
    あと個人的には相対主義の概念に改めて?触れ、もっとこの思想を勉強したいと思った。

  • 再読。今読み返しても、東浩紀さんの思想は変わらず、会社経営という形で実「戦」していることが分かる。分かりやすいところではシラスのコメントの流れ方を何故こうしたのか、数年の経験から悩み抜いた事がわかる。

  • 2021年に読み直しても色褪せない。コミュニケーションを通じた集合意志による政治が実現不能になる中、かつてルソーが夢想したであろう、一般意志による自主統治が、デジタル技術の進展等でむしろ具現化しつつあるというのは、まさにその通りに思われます。

  • とてもロマンチックな、いや、もはやロマンティークな読書でした。とくに前半。

    200年以上前の社会哲学の概念で、これまではまったく現実的ではない(というか謎)と思われていた「一般意志」を、現代の情報技術の進化で実現可能なのでは?というシミュレーション論考。

    この「一般意志」という概念が不思議なもので、少なくとも自分自身の常識では、国や地域などの社会の意思決定をするときに、議論を重ね反対意見と折衝しつつ妥協点を探るモデルをイメージするが、一般意志は違う。
    まず政党などの結社を禁止し、議論や意見調整を否定している。しかし市民は一般意志に絶対に従わなくてはならない。
    意識や利害で選んだそれぞれの主張の総意ではなく、大衆の「無意識の欲望のパターン」みたいなものらしい。
    これには少し数学的な定義があり、まず、個人の欲望を「特殊意志」と呼び、特殊意志の合計を「全体意志」と呼ぶ。全体意志は世論みたいなものか。
    そこからプラスとマイナスを相殺しあい、残った差異の和が一般意志だという。

    現代社会は個人個人の欲望が枝分かれしすぎて共通の大きな欲望を持つことが難しい。誰かの得は常に誰かの損になる。そんな状況で意識的な議論による総意の調整は大変だ。
    意識的な利害を相殺して残った方向性(意志)が一般意志だという(たぶん)。

    そのなシステムでも現実的な運営をする政府は必要になるだろうが、一般意志の元で政府は、一般意志と市民の間で調整するだけの存在になる。意思決定はすでにされているので、粛々と決まったことを遂行するだけ。利権や汚職の機会はかなり減ると思う。

    けど当然、そんなものどうやって可視化できるの?という話だが、この辺のジャンプが本書の見せ所で、現代はSNSやネットショッピング、日常の電子マネー決算などで自分達一人一人の無意識の欲望丸出し情報が絶えず記録されているじゃん?それって一般意志じゃね?という話。
    さらに、前述した一般意志による独裁のようなシステムではなく、現状の民主主義システムの監視(ツッコミ)としてネット上に集められた無意識的総意を使ってはどうかというマイルドな提案。

    後半は上記のような一般意志の実現可能性と、その有用性についての地固め的な話になる。

    熱いのは、可視化不可能に思われた一般意志をネットなどの情報技術の発展で「可視化された集合的無意識」として「一般意志2.0」という概念を立ち上げる、その過程の説明。

    著者の熱量 もちろん冷静に細かく筋道をたどった説明を積み重ねているが、文章から気持ちが熱くなっていることがガンガンに伝わってくる。
    すっかり熱が伝わったころ、そういえば冒頭に「これから夢を語ろうと思う」という宣言していたことに気づいた。

    人が夢を語る姿には元気付けられる。夢といっても、荒唐無稽な誇大妄想過ぎず、明日の晩飯が少しリッチになるようなみみっちい話しすぎず、ワクワクやトキメキを感じるような話に元気付けられる。
    過去の遺物化した概念をテクノロジーで蘇らすSF的面白さ、理想主義的な一元解決を求めない中庸的なシステム。ロマンだらけ。

    世間的には突出した一元的な強さ(ヒロイックな)を求めがちだが、個人的には、どこか一方に寄らず何かと何かの衝突する瀬戸際でかろうじてバランスを取りながら奇妙なダンスを踊っているような立ち振る舞いが好きだ。
    それは、たぶん、狙って出来ることではなく、自分のカルマ(変えられないない言動の傾向)による衝動を感じる。

    「一般意志2.0」の論理的補強として照会される、アーレントの「ゾーエー」と「ビオス」、ローティの「アイロニスト」と「相対主義の苦悩」など、初見で面白そうな考え方にも出会え、種が蒔かれた感じで楽しみ。

  • 「日本人は「空気を読む」ことに長けている。そして情報技術の扱いにも長けている。それならば、わたしたちはもはや、自分たちに向かない熟議の理想を追い求めるのをやめて、むしろ「空気」を技術的に可視化し、合意形成の基礎に据えるような新しい民主主義を構想したほうがいいのではないか。そして、もしその構想への道すじがルソーによって二世紀半前に引かれていたのだとしたら、」


    誤解されやすい主張なので丁寧に読む必要がある。

    テクノロジーによって可視化された一般意志に従うべきだとか、一般意志がまるで生き物のように政治を行うことができるとかいう話ではない。

    モノとしての一般意志を、制約として加えるという提案だ。
    地球の重力のように、あらかじめ与えらている前提条件のひとつとして考える。


    イメージとしては、アメリカの建築家アレグザンダーの都市計画がわかりやすかった。

    「アレグザンダーの提案は基本的には単純である。彼はまず、経路の決定に影響を与える二六の要因を抽出し、各要因の分布状況を予定地の地図のうえにプロットする。」

    「この段階で、建設費用から地域の発展性や環境破壊のリスクまで、さまざまな要因の分布が色の濃淡で表現され可視化されている」

    「それら二六枚の地図を「重ね焼き」する。結果として浮かびあがってくるいくつかの太い線、それがさまざまな条件をクリアした最適の経路のパターンだとアレグザンダーは考える。」

    「アレグザンダーの提案を、デザインを決定するのではなく、むしろデザインに制約を与える方法論だと理解すれば、それは十分に機能するのではないだろうか。」


    読了後はルソーのイメージも大きく変わった。
    過去の偉い思想家みたいなイメージから一転、彼の姿は現代でいうところの「ナード」だ。
    ナイーブで近しい人間関係もうまくやれないくせに、国家や政治みたいな大きなことを考えては夢物語を語る。コミュニケーションすら必要ない理想郷。

    まさかルソーの人物像に、恥ずかしいような愛おしいような感覚になるとは想像もしなかった。


    「人間嫌いで、ひきこもりで、ロマンティックで繊細で、いささか被害妄想気味で、そして楽譜を写したり恋愛小説を書いたりして生活をしていた。『社会契約論』は、そのようなじつに弱い人間が記した理想社会論だったのだ。  だから彼は、コミュニケーションなしの政治を夢見た。サロンなしの一般意志の生成を摑もうとした。」

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著者プロフィール

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』など。

「2023年 『ゲンロン15』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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