- Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062931779
作品紹介・あらすじ
札幌に住む看護婦の貴子は、学校に行けなくなった11歳の少女、まりもと知り合う。自分が通う牧場(ランチ)にまりもを誘うが、そこで待っていたのは、風変わりな牧場主と、エンデュランスという乗馬耐久競技だった。馬をいたわりながら、野山にめぐらされたルートをたどり、長距離を翔けぬける。競技に魅せられた者たちだけが見ることのできる世界とは? それぞれに喪失感を抱えた男女たちが生きることに向き合っていく感動作。
感想・レビュー・書評
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村山由佳さんは初読。なんとなく濃密な恋愛小説のイメージが強い小説家さんでしたが、それがいい意味で裏切られる爽やかな成長物語でした。人と人とのかかわり、馬とのふれあい、そして競技にかける情熱を織り込み、登場人物の成長と再生を描いた作品です。
いじめと父の死で不登校になってしまった少女のまりも。ひょんなことからまりもと知り合った男性恐怖症気味の貴子は、まりもを自分が通う乗馬のできる牧場につれていく。
牧場主はアルコールにはまった結果、妻と離婚し子どもの親権も失った志渡。
それぞれに喪失やトラウマを抱えた三人。彼らがときに厳しく、そして優しく支え合っていく姿がまず好印象。
そして馬にも慣れ三人の信頼関係も深まっていく中で後半転機が訪れます。風変わりな芸能プロダクションの社長に誘われ、まりもが騎手となりエンデュランスとよばれる耐久レースに、三人で挑むことに。
エンデュランスというのはレースであるものの、馬の体調や疲労具合も審査されます。過酷な道のりをいかに馬を気遣いながら、心を合わせて走るかも重要なポイント。そこに志渡と過去に遺恨ある相手も現れ波乱含みの展開に。
臨場感のあるレースシーンに、登場人物たちのそれぞれの思いやドラマも相まって物語は佳境を迎えていき……
まりもの成長が爽やかでよかったのはもちろんのこと、大人たちの物語にも要所要所でスポットをあて、それぞれの再生を描いていくのも非常によかった。著者の村山さんの優しい視点が物語全体に感じられます。
そしてエンデュランスという競技の魅力も伝わってきます。競技のシーンやまりもと馬の信頼関係もさることながら、エンデュランスに掛ける芸能プロダクションの社長の思いも熱く、それがまた物語に盛り上げる。
ラストシーンもとてもよかった。冒頭のまりもと父親のシーンと結び付き、落ち着くところに落ち着きます。とにかく読後感のいい一冊でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
息子の学校の入試問題に出題された本を読め始めたのだが、なかなか考えさせられる本が多い。
必ずと言っていいほど、いじめや親が亡くなってしまうという内容が描かれることには、閉口してしまう。しかしながら、その後の主人公の成長には感動する。
今回は、やせ我慢、武士は食わねど高楊枝についての言葉が印象に残った。
誰だって、四六時中、理想の自分でいることなんかできやしない。かっこ悪くて情けない自分がいるのをわかっていながら、せめて周りの人間にはそれを見せまいとして歯を食いしばる意地みたいなものが、俺はけっこう大事だと思うんだな。
また、村山由佳さんの作品を読みたい。 -
我が愛馬イリデッセンス号の待望のデビュー戦が終わった。結果は4着であったが、レースっぷりは悪くなかったと思う。勝ち上がる日を夢見て、また次走へ思いを馳せる。
しかし、馬はいいねぇ~。私は動物は好きではないのだけど、馬だけは別。馬が走ることを思うと色んなことを忘れるよ。
さて、この本、それぞれに心にぽっかり空いた穴を持ち、馬に携わることでしかそれを埋められない3人-乗馬牧場を経営する志渡、看護師の傍ら牧場を手伝う貴子、父親を亡くしイジメによって不登校になってしまったまりも-の物語。
冒頭描かれる札幌競馬場での出来事を経て、3人が出会ってからの牧場の場面からして良いな。北海道の碧い空と海、風の音、草の匂い、その中で弾む蹄の音。出産や馴致や牧場経営の実情の話も織り交ぜながら、馬との世界の楽しさが語られる。
その3人が“エンデュランス”という馬術競技の世界を知ることとなり、物語の後半、その世界最高峰のレース、テヴィズ・カップ・ライドを目指すところが描かれる。
馬のことは好きだけど、エンデュランスのことは知らなかった。
ウィキペディアによれば『一般的に数十キロメートルの長距離を数時間かけて騎乗し、その走破タイムを競う競技である。耐久競技のため、一定の区間毎に獣医師が健康診断を行い、獣医師の判断により競技の続行を決定する。そのため、騎手は常に騎乗馬の状態に気を配る必要がある』という競技は、速さの遺伝子を淘汰する競馬とはまた別の意味で、馬本位の競技であることが分かる。
終盤、厳しいレースの様が描かれ、これを完走するために多くの人々がひとつになる。馬に乗る者、横に添う者、ゴールで待つ者、これまでのしがらみを捨て、悩みを置き去り、それぞれの思いが静かに滾り平らかになる。
牧場で疾走する漆黒の馬の姿で締めたエピローグがグッと来た。 -
競走の俊足とは違う耐久の力強さと、まりもの素直さが光る。喪失と思春期と二つの不安定要素を内包しつつも、芯の強さを存分に発揮して頑張る姿が頼もしくもある。駅伝やマラソン好きな日本人になら、もしかしてエンデュランスは結構受け入れられるのではないか。大会の下地を作るのは大変だろうけど。
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惹句から、馬の話かぁと読んでなかった村山由佳作品。読み始めたら一気。ぐいぐい読まされた。
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エンデュランス競技を通じた、まりも、貴子、志渡の三人の成長物語。漆原(モデルは蓮見清一氏)が完璧超人すぎるのと、なんか恋愛パートが貴子のトラウマとややミスマッチな気がするけれど、全体としては素晴らしい。
この本は飛行時間10時間の飛行機の中で読んだのだが、これ以上の時間を馬の上で過ごしているというのがなんとも過酷。この競技のスタートラインに立てる人馬は本当に凄い。エンデュランスに興味がわきます。 -
エンデュランスという、見たことも聞いたこともない乗馬の競技の話で、興味深かったです。
心の傷を抱え、乗り越えていこうと、もがいている。そんなお話なのかなと思いました。
自分の限界を超える経験というのは、そうそう出来るものではないと思いますが、経験したからこそ見える景色があることは、納得できますね。
どんなことも経験することを恐れないことが、人生を豊かにするのでしょうか。 -
お馬さんシリーズ第3弾は、村山由佳先生の作品。
今回は馬とともに160㎞を24時間以内に完走する長距離耐久レースが舞台。それだけに馬も人も忍耐と信頼関係が必要
こういうレースの存在を初めて知りました
まりも、貴子、志渡、漆原の素晴らしい人間関係と馬への深い愛情に感激
とても良かった(*^^*)