興亡の世界史 大英帝国という経験 (講談社学術文庫)

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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062924696

作品紹介・あらすじ

講談社創業100周年記企画「興亡の世界史」の学術文庫版。大好評、第3期の4冊目。
アイルランド、インド、オーストラリア、カナダ、南アフリカ、中東、香港……世界中いたる所にその足跡を残した大英帝国。この拡大は、紅茶や石鹸などの生活革命を世界的に広める一方で、時には深刻な問題の種を植民地に蒔く結果ともなり、その影響は現代にまで及んでいます。大英帝国を知ることは「今を知る」ことに他なりません。スコットランド独立やEU離脱をめぐる議論の際にも垣間見える、現代イギリスの国民性は、輝かしいヴィクトリア女王の時代に象徴される「大英帝国」という経験と不可分の関係にあります。
 これまでイギリス史のうえで「例外的なエピソード」として捉えられてきた「アメリカの独立」についても、著者は、むしろこの「アメリカ喪失」という経験こそが、のちに未曾有の発展を遂げる大英帝国の基礎になった、と述べています。保護貿易から自由貿易へ、奴隷貿易の支配者から博愛主義の旗手へ――変容を遂げた帝国の内実を、交易されるモノ、ミュージック・ホールなど都市の娯楽、世界を旅する女性たちの人生など、さまざまな観点から描き出します。
 また、21世紀に入り、「奴隷貿易の支配者」であった過去をどのように捉えるか、イギリス国民の間で議論が沸騰しています。欧米諸国に先んじて奴隷制度を廃止したこの国では、どのような人びとの努力で、奴隷廃止に至ったのでしょうか。ブリストルが誇る慈善家、エドワード・コルストンの銅像に書きつけられた、ある落書きの衝撃とは?
[原本:『興亡の世界史16 大英帝国という経験』講談社 2007年刊]

感想・レビュー・書評

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  •  英国は世界史の中で中心的に活躍する国の一つなのですが、私たちはその歴史については今ひとつ理解していないようです。たとえばなぜあれほど強大な国であるのに、国内にスコットランドや北アイルランドなど反イングランドの地域を抱えているのか?、なぜあんなにも小さな島国が世界帝国として君臨できたのか?、黒人が多いのは何故なのか?、日英同盟はなぜ締結されそして更新されなかったのか?などなど
     この本は、平面的な英国史というよりも、人物や事件を取り上げながら大英帝国という実像を描いているので、とても興味深く読むことができました。そして何よりも感じたことは日英同盟締結(1902年)の理由の一つに「国民の退化」という問題があった。南アフリカ戦争への志願者の6割が産業革命による少年労働などで、兵士としての肉体的な基準を満たさなくなっており、その30年前ころより出生率も低下していたようだ。
     そして少年労働は単純で長時間で低賃金の労働を少年に強いることから1898年頃から「フリーガン」が登場してロンドン大騒動を引き起こすようになる。
     ローマ帝国崩壊の一因は、ローマの若者たちが兵士としてかつて祖先が持っていた身体的な水準から後退してしまったことにあるのだ。
     そして日本もまさに英国の1900年前後にかけて国民の「退化」現象が起こったのと同じ現象が平成を通じて起こっている。自国の防衛をアメリカに任せているのはまるでローマ帝国時代の若者が競技場の剣闘士の試合に熱狂し、兵士としての鍛錬を忘れてしまっていたのと似ている。ゲルマン傭兵に帝国防衛を任せたローマ帝国は、やがて彼らに帝国を乗っ取られて滅亡したのです。
     
     ブレグジットのイギリスは、どこへ行くのだろう。そして何も戦略を持たない日本はいったいどうなってしまうのだろうと今更ながら心配になった。

  • イギリス人が自国に対して抱く屈折した感情の根源がなんとなくわかった気になった。
    「興亡の世界史」シリーズを通しての感想だが、輝かしい栄光だけの歴史など決してないことを思い知らされた。

  • 18世紀から現代まで、大英帝国が世界に与えた影響を概説する。

  • IK3a

  • 2018-1-28

  • 先に中公新書の『茶の世界史』を読んだばかりなので、関連していてちょうど良かった。
    もちろん、「大英帝国」をこのボリュームで語るのだから詳細は無理なのですが(当たり前)ああ、大英帝国ってのは、米国に独立されてからが本番だったのねぇと改めて認識するに至る。
    大きな時間軸で言えば、世界は未だに大英帝国が定めたフォーマットの上で動いているんだなあと。
    そして、奴隷貿易を率先して行いながら、奴隷解放に率先して動く「君主豹変す」
    何度でも変われる。変わってきたってのが、「大英帝国」繁栄の礎なんだろうなあと。

    もちろん、全てが光ではなくて、今も中東がああなのは、英国の「三枚舌外交」による物なのは言うまでも無い。(英国だけに全ての責を押しつけるのはアンフェアにしても、主犯は英国)

    ただし、文庫版あとがきは頂けない。酷い。イデオロギーが臭い。何が「知の軍事化に警鐘を」だよ。ただの左翼じゃねえか。英国がWW2において、科学技術を総動員して戦ったのは常識だろうが。新たにわかった事みたいに行ってるんじゃねえよ!(☆一つ減

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著者プロフィール

甲南大学文学部教授
『大英帝国という経験(興亡の世界史16)』(講談社、2007年;講談社学術文庫、2017年)
『「近代」とは何か―「昨日の世界・ヨーロッパ」からの問い』(かもがわ出版、2023年)

「2024年 『「世界」をどう問うか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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