興亡の世界史 東インド会社とアジアの海 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062924689

作品紹介・あらすじ

講談社創業100周年記念企画「興亡の世界史」の学術文庫版。大好評、第3期の3冊目。
近年ますます進展する世界の「グローバル化」は、いつ始まったのか。ひとつの大きな転機をもたらしたのが、17世紀のヨーロッパに相次いで誕生した「東インド会社」である。本書は、この「史上初の株式会社」の興亡を通して、世界が近代に向かって大きく変貌した200年を描きだす異色作である。
ヴァスコ・ダ・ガマの「インド発見」に始まった「ポルトガル海上帝国」に代わって、16世紀末から東インド航海で大きな富を得たのが、オランダとイギリスだった。喜望峰からインド、東南アジア、中国、長崎にいたる海域、すなわち「アジアの海」が、この時、世界の中心となり、人々の交流の舞台となったのである。
イェール大学の設立に大きく寄与したイギリス東インド会社マドラス総督、エリフ・イェールや、平戸の日蘭混血児で後にオランダ東インド会社バダヴィア首席商務員の妻となったコルネリアなど、数奇な運命をたどった人びと。綿織物や茶、胡椒など、ヨーロッパの市場を刺激し、近代の扉を開いたアジアの商品。そして、東インド会社がその歴史的役割を終えた時、世界はどのように変貌していたのか。
[原本:『興亡の世界史15 東インド会社とアジアの海』講談社 2007年刊]

感想・レビュー・書評

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  •  デジタル本の興亡の世界史21巻の20冊目を読み終えました。この「東インド会社」に焦点を当てた世界史は、必然的にグローバルな地球規模の世界史とならざるを得ないのでとても勉強になった。なぜヨーロッパ列強が次々に東インド会社をつくったのか。そして商事会社としての東インド会社が、暴力的に支配していくとはどういうことなのか?日本にとって対象となる南蛮人がオランダ人になったのはどうしてなのか?南蛮貿易の実態は?等様々な疑問がこの本で少し解けました。不思議に思っていた歴史が腑に落ちると、薄っぺらな知識が少し厚くなった気になります。
    デジタル本興亡の世界史が残り1冊になりました。ここまで来るとやはり紙の本にしておけば良かったと思います。

  • 「サピエンス全史」を読んだ時、こういった視座で日本目線の本があったら面白いだろうなぁと思っていたのですが、本著はまさにその1冊。
    元々は、(それこそサピエンス全史にあった)ヨーロッパのルネサンスから産業革命に至る流れをもっと詳しく知りたいと思って、東インド会社をテーマとした本著に手を伸ばしたのですが、なんだか得した気分です。
    「文化史的な情報としての面白さ」と「地域間の交流の相互作用を俯瞰的に見る知的刺激」が両方味わえる良著です。

    シンプルに本著の内容を書いてしまうと、史上初の株式会社たる東インド会社がどのように生まれ、どんな情勢下で、何をどこからどこまで運び、どう人の暮らしを変え、最後にどう終焉していったのかを描いています。
    著者の力量を感じさせるのが、豊富なデータや写真はもちろんのこと、そういった情報の出し方から考察まで、スムーズでわかりやすいこと。
    会社の利益率や船の保有スタイルから、個別の人物の半生を語るくだり、ヨーロッパの上流階級における香辛料の位置づけ等々、バラエティに富んだ記述は工夫を感じて、読んでいて飽きません。

    個別の感想を書いていくと、東インド会社の機関構成がまず情報として面白かったです。有限責任という現代まで続く考え方を取り入れ、オランダ会社は取締役が60人もいて、重役が17人。イギリス会社は取締役は24人で週1で取締役会を開く、等々。
    国民国家の成立前に生まれた同社が、次第に時代と合わなくなっていって終焉に至るくだりは、会社という存在はいつだろうと変わり続けないといけないということを再認識しました。
    それにしても、社員の副業が実質OKで莫大な財産を貯めこむくだり(例えば、イェール大学の名前の由来は、東インド会社のマドラス総督のイェール氏が莫大な寄付をしたから)は、さすがにどうなんだ、と思いました。赤字でも配当を続ける等、こういった点は現代の株式会社ではほぼ是正されている…はずです。

    本著を読了して思いを馳せたのは、当時の日本の鎖国自体は正しかったのかなぁということ。
    政治的自立を保ち、自給自足できる環境を作って、少なくとも17世紀は人口を増やしていた訳です。18世紀以降の停滞はどうだったんだろうとも思いつつ、ただアヘン中毒にさせられるよりは良い気もするし、これはこれで良かったのかなぁ。

    何にせよ、現代世界がどのように生まれたのかを知るための鍵となる良著でした。
    著者にはグローバル・ヒストリーについての著作もあるようなので、ぜひ読んでみたいと思っています。

  • 世界史を勉強しなおしていると、同じ「東インド会社」が国ごとにいくつもでてきてそれぞれどういう違いがあるのかを学びたくて読んでみた。内容がとてもわかりやすく、一言に東インド会社といっても地域によってビジネス戦略を変えており、多面的な性格を持っていたことが良くわかった。近代化は確かにヨーロッパから始まったが、それが生まれるためにはアジアやアメリカの存在があってこそという内容は、ヨーロッパ中心に歴史を見てしまいがちな自分の心によく残った。

  • 高校の時に学んだ世界史の断片的な知識しかなかったが、東インド会社の興亡の歴史という観点でこの時代の世界情勢を面として捉えることができた。この本から得られる新しい視点や発見も多く、もう一度世界史を勉強してまたこの本に戻ってきたいと思った。

  • ヨーロッパの今に繋がる近代化の源流が、東インド会社を仲立ちとしたアジアの産物とヨーロッパの出会いによるものとすれば、その後のアジア植民地化の動きは皮肉にもアジア社会がそれをもたらしてしまったと考える事が出来ないか。

  • 明の方針により西欧は中国との交易が出来ず、密貿易か東南アジアでの出会貿易か他船を略奪して中国産品を入手するしかなかった。
    しかし1573年にポルトガルがなし崩しでマカオの滞在を許可され、中国産品の仕入れ、物資補給が可能となる。
    オランダも1624年に台湾を占領し、中国貿易の拠点とする。(1662年に台湾を失った後はバタヴィアで中国産品を入手)
    当時の日本は明と交易関係が断絶しており、マカオのポルトガルを介して中国産品を手に入れる。
    明を倒した清朝は1656-1684まで明朝残党討伐のため海禁令を出したが1684年に解除、広州厦門寧波などを開港し西欧が直接茶や陶磁器を購入する事を可能とした。
    一方で1757年にカントンシステムを導入し貿易港を広州一港に限定するなど管理体制が強化された。

  • 近代国家の国民としての概念の成立を丁寧に紡いでいることで、現代に生きる我々の考えへの客観的視座を十分に与えてくれる名著です。うちと外の文化を解き明かした功績は異文化に興味を持つ全ての人の考え方の基礎にできると思います。海外ビジネスに、携わる皆さんに読んで頂きたい本です。

  •  世界で初の株式会社と言われる東インド会社。

     若い時、株屋で営業の仕事をしていたものの、歴史については全く不勉強だったため、「君、東インド会社、知っているよね?」とお客様に問われても、「はい、全く知りません!」と自信満々に断言して笑いを取るくらいしかできなかったものです。

     年を経て改めて歴史を学んでみると、なんと東インド会社が一つではない!驚きました(レベル低くてごめんなさい) イギリス、オランダ、フランスが類似のコンセプトの会社を(中身は違うけど)営んでいました。

     本作品は、そのような東インド会社について詳述した読み応えのある作品です。

     本作でためになったのは、東インド会社が隆盛を極め衰退していった時代を、各会社ごとにヒストリカルに見るのみならず、時に会社を並列に比較したり、同時代を横でヨーロッパ、東アジア・日本と、俯瞰する試みも行っていることです。縦横無尽。

     長崎の出島は、江戸時代はオランダとの貿易拠点であったことは多くの方がご存じだと思います。でも、その時のオランダはじめヨーロッパや他のアジア地域がどのような状況であったかは、なかなかピンとこないのではと思います。
     スペイン継承戦争や宗教改革を背景にイギリスの私掠船が増加、オランダはアジアとの独自の交易ルートが必要になりました。東シナ海では鎖国をしている日本の沖合で倭寇が存在感を示し、明の海禁令をよそに貿易業に勤しむ。列強は時に武力で、時に乞われて、インド、マレーシア、インドネシアに拠点を構え、交易を盛んにし、アジアでは東西が混じりゆく社会が形成されつつあった、などです。
     このような、いわゆる「横串」で歴史を見ると、歴史のうねりのようなものが感じられ面白いなと思います。
     
     もう一つ本作のカバレッジで興味を引いたのは、西洋の進出と共に必然的に生まれてくる混血児やその二世など、マージナルな方々の記録にスポットをあてていることです。
     本文ではイタリア人を父としたお春について記述しています。父親が亡くなったとたん、母・姉とともにバタヴィア(ジャカルタ)に流刑。しかし、お春はその後同じような混血児と結婚し使用人を9人使うほどの生活を営んだそう。もう一つの例は、長崎オランダ商館長と日本人女性のもとに生まれたコルネリア。このケースも父親の死後にバタヴィアに流刑(母親は再婚しており本人のみ)。本人はその後オランダ人と結婚し、財を成し、夫の死後に再婚したものの、再婚した夫と財産権でもめて最後にはオランダで裁判までしたそうです。
     400年も前にハーフが経験したダイナミックな逸話に驚くとともに、その苦労や苦難が偲ばれます。自分も外国人の連れ合いを得、ママ友達のイジリ以上いじめ以下の発言を耳にしていたので、ハーフの方々の生き方に自分の子供達の行く末を重ねつつ、シンパシーを感じながら読んでしまいました。

    ・・・

     上記は内容の本の一部しか案内していませんが、それ以外にも大航海時代の先駆けとなったポルトガル商人(相当なワルです)やイエズス会(上智大学)、また彼らとムスリム商人とのやり取りなど、東インド会社の航路に当たる国々との音信も描かれています。内容はてんこ盛りなのですが、ボリュームがあり過ぎなのか、後半の7, 8章でややダレた印象がありました。

     冒頭でも述べましたが、世界初の株式会社ですが、株とか金融という観点では特段みるものはないと感じました(へーなるほどという感じ)。寧ろ商社の本性やその暴力性を見て取る好材料であると感じました。勿論、歴史の読み物として純然たる歴史ファンには諸手を挙げてお勧めできます。

  • 209.5||Ha

  • なんでポルトガル人日本に来た?何取引した?なんでそれ取引した?など、細かいところまで、痒いところまで手が届くような本。わかりやすい。


    【読書目的】
    - ポルトガル・オランダが日本にやってきた理由を理解する
    - 主な貿易品と貿易の利益に関して理解する

    【まとめ】
    - ポルトガル・オランダが日本にやってきた理由
    - 大航海時代
    - 胡椒・香辛料のニーズ
    - 肉の保存・味付け、医薬品としてのニーズ
    - 中間業者と関税がかかっており、価格が高く、直接取引したかった
    - 技術革新
    - 羅針盤・造船技術
    - 宗教改革
    - カトリックの権威復活と拡大
    - 黄金の国・ジパング伝説
    - by マルコポーロ「世界の記述(東方見聞録)」
    - ポルトガルが先陣を切った理由(by ウォーラーステイン)
    - 大西洋岸にあり、アフリカに隣接しているという地理的条件
    - すでに遠距離貿易の経験を持っていたこと
    - 資本の調達が容易であったこと
    (ジェノヴァ人がヴェネツィアに対抗するため、ポルトガルに投資しており、リスボンで活躍していた商人の多くはジェノヴァ人であった)、
    - 他国が内乱に明け暮れていたのにポルトガルだけは平和を享受し、企業家が繁栄しうる環境があったこと
    - オランダが台頭した理由:
    - ポルトガルの衰退
    - 香辛料の入手ルートが増え、貿易の旨みが減った。
    - 港の維持費が馬鹿にならない。
    - 徐々に、個人貿易など広がる。管理できなくなる。
    - オランダの台頭
    - ベルギーのアントワープの商人、スペイン王に対抗してアムスに移る。
    - 定湿地帯で農業適さないので、漁業・海運業してた
    - 中には、ポルトガルのリスボンから仕入れた香辛料をバルト海沿岸に輸送するものも
    - オランダとハプスブルグが戦争→イベリア半島の港町に入れなくなった。
    - イギリスの私掠船のせい(イギリスvsスペインポルトガル)で、胡椒の価格高騰。
    - リスボンで買付できない(他のカトリック系が独占的に買いがち)
    - そして、高度な航海技術と資本が結びついたオランダ→自分たちで東インドへ!

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著者プロフィール

1953年生まれ。東京大学名誉教授。専門は世界史。現在は東京大学東京カレッジ長を務める。従来のヨーロッパを中心とした世界史像からの脱却をめざし、国民国家やヨーロッパ対アジアという構図にとらわれない新しい世界史=「グローバル・ヒストリー」の方法による世界史理解を提唱し、各国の歴史学者との共同研究にとりくんでいる。著書に『新しい世界史へ』(岩波新書、2011年)、『輪切りで見える!パノラマ世界史』1~5(大月書店、2016年)、『グローバル化と世界史』(東京大学出版会、2018年)など多数。

「2022年 『角川まんが学習シリーズ 世界の歴史 全20巻+別巻1冊定番セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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