チベット旅行記(上) (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062922784

作品紹介・あらすじ

仏教の原典を求めて、1900年当時厳重な鎖国をしていたチベットに、身に降りかかるさまざまな困難を乗り越えて、単身入国・帰国を果たした河口慧海師の旅行記です。
旅行記としてのおもしろさも第一級ですが、チベットの生活・風俗・習慣の的確な記録となっており、チベット研究の第一級の基本文献にもなっています。
チベット行を決心してから日本を出立するまでの準備。カルカッタ(コルコタ)での語学や物品の調達を経て、ヒマラヤに分け入ります。寒さ、盗賊、野生動物、厳しい地形、国境越えの苦労などを乗り越え何とかチベットに入国。厳重な警備の目をくぐり抜け、チベット第二の都市シカチェからラサへの道中。ラサに潜入した慧海は、チベット人を名乗り、医者として薬などを処方し、大活躍。ついには、法王に召されその盛名がますます高くなります。ラサの生活やチベット外交にも詳しくなります。しかしついに、素性が露顕しそうになり、チベット脱出を決意します。貴重な資料を持ち、幾重にも張り巡らされた関門を奇跡的にくぐり抜け、英領インドに到着し、日本へ帰国するまでの波瀾万丈の旅の記録です。
本書は、『西蔵旅行記』(1904、博文館)を底本とし、ノーカット版で、挿絵も全点収録しています。また、改訂版(1940年)と英訳本(1909年)も参照し、より完全な形になっています。学術文庫で五巻本で刊行されていたものを二巻本に再構成しました。

感想・レビュー・書評

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  • Audibleで聴了。
    仏教の原典を求めて当時不可能と言われた鎖国中のチベットへの入国を果たし、命がいくつあっても足りない艱難辛苦の嵐に遭いながらも、無事日本へ帰ってきた僧侶の波瀾万丈一大冒険記。事実は小説より奇なりで、嘘みたいに波瀾万丈すぎますが、紛れもなくノンフィクションです。
    装備は軽装と粗末な食べ物だけで、仏教者としての博識と類稀なる機転で出会う者たちと交渉しながらの命をかけた旅。これは玄奘三蔵の旅をも彷彿とさせる壮絶さです。

    高山病で大量に血を吐き、野犬に襲われて噛まれ、強盗に遭って荷物を奪われ、水のない荒野を彷徨い、低体温症で死にかけ、スパイの容疑をかけられ、極寒の川で凍え…
    これで生きて帰れたとは、まさに鋼の帰依心と断事観三昧(死にかけたり、進む道に迷ったりと、とりあえず困った時は瞑想状態に入り、御仏に道を示してもらう)と不屈の精神力の賜物。そして、いつでもどこでも、嬉しい時も悲しい時も、死にかけてる時でも、まるで息をするかのように歌を詠みまくるw自ら「ヘボ歌」なんて言いながらも相当楽しんでる様子が面白くて堪らないです。
    もう死にかけてて絶体絶命大ピンチな場面でも、「辺りの景色の美しいことといったら、こりゃ愉快愉快」などと歌を詠みつつ毎度余裕をブチかましてくる著者の(百戦錬磨の山屋っぽい)質実剛健な、それこそ愉快で明朗なお人柄が非常に魅力的で、何度も笑わせてもらいました。いつでもこんな調子だから、不可能を可能に出来たのかもしれない。

    チベットの人々や文化の様子の模写が異様に細かく、優れた洞察力を感じさせるもので興味深いですが、その内容のほぼ半分はチベット人の不潔さと性根の悪さへの文句w確かに不潔極まりなく人道に劣ることだらけなんですが、清く正しい僧侶だからこそ余計に耐え難いのか…そういった話を隣で聞きながら、まるで一緒にヒマラヤを越えて旅しているような気分になってくる。(そして、このAudibleを朗読している方の話ぶりがまた、著者のイメージピッタリで良いのです)

    下巻部分も今聴き進めていますが、さらに面白さが加熱してきて止まりません!

  • 仏典を求めてチベットに密入国した僧侶の旅行記上巻。
    旅行というよりは無謀極まる冒険といえるが河口慧海の鋭敏な知能、強固な意志、周到な準備が生死の極を突破させている。準備については岩を担いで登山して鍛えたり俗語まで子どもから習うなど徹底している。仏教徒としての知識も高いが医学的知識でも生き延びているのが凄い。ヒマラヤで凍死しかけたり、強盗に金を奪われて死にかけたりと苦難が多すぎるが本人の語り口が面白いので先が気になる構成。普通の冒険と異なり身分を隠しての入国とあって密告者の姦計にも機知で対応するなど人間としてのスキルの高さは現代にも通用すると思われる。
    世の中金が大事なのは確かであるがそれより大事なものを示してくれているのが本書だと思う。何故か。河口慧海は金も無い窮状に陥っていも僧侶・医師(これは本人の希望ではないが)としてのスキルで生き延びているからである。つまり金は一瞬で吹っ飛ぶことがあるがスキルは命があれば残り復活できる。自分としては拝金主義者よりはこちらの生き方に憧れる。
    断事観三味が印象深い。作者によると『およそ事柄が道理で極められることはその道理によりて善悪の判断を定めることは難しくない。理論上において少しも決められぬことで将来に対してどういうことが起こるか未定の問題について1つ決めておかねばならぬことがある。それは私のブッダの座禅を示された法則に従ってまず無我の観に入るのである。この無我の観中発見された観念のある点に傾くのをもって執るべき方法をいずれかに決定する。』とある。恐らく集中して問題を考え抜くことだと思うが自分も難問に当たったときには参考にしたい。

  • 上巻読了。面白い。ページをめくる手が止まらない。昔の装備でよくこんな旅ができるものだと感心。今の装備でも大変だろう。この時代の時代背景が分からなかったが、イギリスはインドからチベットに干渉して、中国とチベットへの覇権を争っていた時代のよう。中国は弱体化している時代だけど。複雑な時代だったからこそ、イギリスのスパイと疑われるんだな。しかし慧海の行動力と吸収力は凄い。しかも仏教って国際語なんだな。後、文化水準に違いが大きかったから、医術が魔術に見えるんだなとも思った。もうそう言う情報ギャップって今はないものな。下巻も楽しみ

  • 2016年9月14日 読み終わった。
    明治時代に日本人として初めて
    チベットを訪れた河口慧海の旅行記。

  • 僧侶である著者が、何故「旅行記」なのか。
    日本語に訳された仏教法典は訳者によって意味が真逆になるものまであったらしく、これじゃ困るということで原典に当たりたかった慧海。
    とはいえサンスクリットの原典は現存するのかも分からん。チベット辺りならまだ信頼の置ける訳が手に入る筈だ、ということでのチベット行きを決定。という具合。
    ここまでなら「教えのためにわざわざ海外まで行くとは凄い人だなぁ」で済むのだが、当時のチベットは鎖国状態。

    さぁ、密入国だ。

    と図らずも大冒険をすることになり、そのときの様子を聞き書きした新聞連載を本にしたものがこれである。

    本人は探検家の類ではないので、過酷な道程への備えはイマイチ。しかも時折舐めている。
    食事は教義上の理由から午前中のみ。肉は食べない。酒は飲まない。ほぼ麦焦がしとバタ茶で生きている。
    道に迷ったり寒くて寝られない晩は、一晩中座禅をして凌ぐ。
    「この先の目印で上の方に行けばいいよ」と言われているのに「登る体力が無いから」という理由で下る(当然変なところに出る)。
    など。ひょっとしてギャグでやってるのか?と思われる箇所すらある。
    なお都会であるラサ市に落ち着く辺りからは世人との絡みが多くなり、旅行記感は薄れる。

    本人曰く仏教のことをもっと書きたかったとのことだが、まぁそれじゃ新聞連載は厳しかったんじゃないかな…。

    己の目的のために他を全て無視できる男の話。

  • 旅行どころではなく冒険。こんなにもイベントに遭遇するのか。もしかしたら同じような旅行をして死んでいった者もいるのかもしれない。下巻は今のところ読む気は無い。

  • 登録番号:1027255、請求記号:292.29/Ka92/1

  • こんな人が日本にいたのかとビックリ。よくこんな偉業を達成されたと思う。

  • 築地本願寺のブックセンターにて購入。
    買うかすごい悩んだけど、買ってよかった。かなり面白くて夢中になって読んだ。

    明治時代、仏教の原典を求めて鎖国状態のチベットに単身で密入国する話。創作ではなく実話である。今でさえ難しいのに、よく決行したなと思う。
    出立するまでの一悶着から、道中のさまざまな困難をどうにか乗り越えて無事チベットへ入国する。

    まず河口慧海の知識量や勉強量が半端なく、そのおかげで数々の苦難を乗り越えているのがすごいし本気度を感じる。なかなか知ることができない、チベットへの道のりやチベット人の風習等も細かく書かれているため非常に勉強になるし、面白い。
    チベットについて何も知らず、自分の想像力に限界があったためぐぐったところ、想像以上に綺麗なところだった。行ってみたいが、現代でも難しい…。
    チベット人の汚いところや坊主の生活がだいぶ衝撃的であった…。

  • 冒険譚として超一級品なのだけれど、それをそうと感じさせないあっけらかんとした文体。
    このミスマッチ感が実に気持ちがいい。
    そこにこの方のある種の山っ気が絡まって、独特の味わいになっている。こんな本があったなんて気づきませんでした。名著!

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河口慧海の作品

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