北の十字軍 「ヨーロッパ」の北方拡大 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062920339

作品紹介・あらすじ

十一世紀、聖地エルサレムの奪還をはかった十字軍。そして中世、ヨーロッパ北方をめざす、もう一つの十字軍があった。教皇の名のもと、異教徒を根絶すべく残虐のかぎりを尽くすドイツ騎士修道会を正当化した思想とは何か?ゲルマンとスラブの相克から大航海時代までも展望し、ヨーロッパ拡大の理念とその矛盾を抉り出す、サントリー学芸賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 北の十字軍
    「ヨーロッパ」の北方拡大
    著:山内 進
    紙版
    講談社学術文庫

    良書、そして、驚異の書、そして、ヨーロッパへ見方が変わった警告の書である

    ドイツとロシア、そして、ポーランドとの歴史的な確執、その根底は「北の十字軍」だ
    北の十字軍とは、ドイツ騎士団をはじめとする、強大な軍事力による、イエス・キリストへの名のもとでの、非カトリック民族への殺戮と簒奪である
    ロシア・東ヨーロッパ世界は、東からのモンゴル軍の脅威に加えて、西から、北の十字軍の脅威に対抗しなければならなかった

    北の十字軍の特徴とは
    ①ドイツ騎士団を中心としたカトリック勢力を中心とした、バルト3国、ポーランド、ロシア地域による軍事行動である
    ②キリスト教の布教という名目の無差別殺戮と簒奪であった
    ③しかも、ローマ教皇公認のものであった
    ④さらに、キリスト教であるギリシャ正教をも、攻撃対象としていた
    ⑤タンネンベルクの戦いで終焉、それは、もはや、北・東ヨーロッパには、非キリスト世界=フロンティアがなくなったから

    <ローマ・カトリックを迎え撃つ東側勢力>
    ロシア 英雄アレクサンドル・ネフスキー 1240年の北の十字軍を撃退、ギリシャ正教によるロシアのカトリック化を推進、その精神はピョートル大帝へ受け継がれていく
    リトアニア 最後までキリスト教化しなかた大国、ドイツ騎士団に追われた難民を受け入れて強大となっていく
    ポーランド 穏やかなカトリック勢力として、リトアニアと連合、リトアニアの最後のキリスト教化と、タンネンベルクの東側の盟主をつとめる

    <ローマ・カトリック化する東側>
    ヴェンデ、バルト海沿岸、バルト・スラブと呼ばれた
    リーガ(ラトビア)
    エストニア
    プロイセン
    リトアニア

    十字軍
     その1 エルサレムへの巡礼の安全を確保する
     その2 レコンキスタ 再征服という意味、イベリア半島をイスラム勢力から奪還するための、第2の十字軍
     その3 ドイツ騎士団の北方征服、これが北の十字軍
     その4 そして、カトリック勢力は、大航海時代にアメリカ・アジア・アフリカを植民化すべく、拡大していく

    ヨーロッパとは、西ヨーロッパ+中央ヨーロッパのこと、つまり、ローマカトリック・ヨーロッパを意味する

    ■800年代 フランク王国カール大帝のザクセン攻略、そしてスペイン遠征、国家民族意識なき、フランク王国とは、戦う教会を意味している
    ■960年代 フランク王国オットー大帝 バルト海沿岸への派兵
    ■966 ポーランド ミェシュコ1世がカトリックに改宗、神聖ローマ帝国からの討伐名目を失わせることが目的
    ■1140年代~1190年代 第3回十字軍 いわゆる 北の十字軍が始まる
    ■1225 ハンガリーからドイツ騎士団が追放される
    ■1230年代 モンゴル軍がノブゴロド(ロシア)へ侵入、タタールくびきが始まる
    ■1249 クリストブルクの和約 一部の権利を非キリスト教徒に認めた初の条約
    ■1283 プロイセンの反乱 ドイツ騎士団のプロイセン人の奴隷化、簒奪、土地の荒廃化、その後その土地にドイツ人の入植がはじまる
    ■1330年代 ポーランドに開明君主、カジミェシュ大王が現れる。周辺の非カトリック民族、ユダヤ人を受け入れ、産業振興・経済発展につくす
     クラクフのユダヤ人もこのころから
    ■1410 中世史上、最大の会戦、タンネンベルクの戦いにて、ドイツ騎士団が大敗し、事実上、北の十字軍は終焉する

    目次
    プロローグ――映画『アレクサンドル・ネフスキー』が語るもの
    第1章 フランク帝国とキリスト教
    第2章 ヴェンデ十字軍
    第3章 リヴォニアからエストニアへ
    第4章 ドイツ騎士修道会
    第5章 タンネンベルクの戦い
    第6章 コンスタンツの論争
    エピローグ――「北の十字軍」の終焉とヨーロッパのグローバルな拡大

    原本あとがき
    学術文庫版あとがき
    関連年表
    解説

    ISBN:9784062920339
    出版社:講談社
    判型:文庫
    ページ数:382ページ
    定価:1180円(本体)
    発行年月日:2011年01月10日第1刷発行

  • 少し難しいテーマを負っているのだが、ドイツ北東部、バルト3国、ロシアを舞台にした、中世の壮大な戦記物語のようで、非常に楽しい作品に仕上がっていると思う。そんな「中世の壮大な戦記物語」に触れながらも、「正義が力」なのか「力が正義」なのか、人間が永い間考え続け、また戦いを繰り返してきたという歴史に想いを巡らせることも出来る。お勧めの一冊だ!!

  • ドイツ騎士修道会を中心に、バルト地方やプロイセン、ポーランドに侵攻した、十字軍のヨーロッパ北方への展開をわかりやすく解説している本です。

    聖地回復を元来の目的としていた十字軍が、世界のキリスト教化という使命にもとづいて、異教徒に対する軍事的な侵攻を進める論理をつくり出したのかということが、歴史的な事実をたどりつつ明らかにされています。

    その後、ドイツ騎士修道会とポーランド・リトアニア連合のあいだでおこなわれたタンネンベルクの戦いの経緯と、それにつづくコンスタンツの論争がとりあげられています。著者は、ポーランド側の弁護をおこなったパウルス・ウラディミリの議論に立ち入って、その意義を考察しています。ウラディミリは、異教徒の自然権を否定する「ホスティエンシスの見解」を反駁し、そこに著者は異教徒との共存を基礎づける論理を見いだしています。

    最後に、非ヨーロッパを征服し、従属させてきた大航海時代にも、北方の異教徒たちの征服と同様の論理がつらぬかれているとしながらも、同時にその論理を批判するウラディミリのような論者を生みだしてきたのもまたヨーロッパであったと論じています。

    「ヨーロッパ」をあらかじめその領域が定められた地域としてではなく、拡大の意図を内に含む運動体としてとらえ、その拡大の論理にせまる試みとして、興味深く読みました。

  • ドイツ騎士修道会の成立と変遷を核として、そして異教徒根絶のための征服を極めて学術的に叙述する。

    プロイセン、ポーランド、バルト三国へのカトリックの布教の仕方が武力を大いに伴ったことがよく分かる。

    塩野七生著のフリードリッヒ二世に、片腕として描かれるドイツ騎士修道会のヘルマン総長も当然出てくる。

    しかし、如何せん「学術的な叙述」すぎて、人物の描き方が平面過ぎてまったくもって面白くない。
    引用が多用されており文章の意図にフォーカスしにくい。

    他者の文章を羅列することで論を展開する叙述の仕方は、どうも苦手である。

  • エルサレム奪還を目指した十字軍は有名だが、本書のテーマはバルト海、東欧、ロシアへ領土拡張を目的とした北方十字軍の話。東欧の歴史に関する資料はあまり目にすることがないのでとても良い。異教徒に対して力を行使するキリスト教世界の正当性というかロジックが面白い。

  • 高校世界史ではいまいちマイナーな東欧世界の中世に関して入門するには調度良い一冊です。

    ヨーロッパ拡大とキリスト教がなぜ不可分なのか。その根本的な理論の部分から説明し、その理論を軸にフランク王国の拡大から大航海時代までを説明して見せます。その理論こそ「入るように強制せよ」。すべての異教徒を改宗させるための装置という性格をフランク王国や騎士団国家から見出し、鮮やかに中世東欧の世界を描き出していきます。

    またポーランド=リトアニア連合王国についてもその成立が触れられている点が嬉しかった。中世東欧の強国という割には、今まであまり知ることができなかったので。

  • 日本人にとって(少なくとも私にとって)なじみの薄い、北方ヨーロッパに派遣された十字軍に関する第一級の資料として、でも堅苦しくなく接することの出来る良書。

    東方十字軍は、エルサレムへの巡礼を保護することが目的であり、西方への十字軍は「レコンキスタ」として知られるとおりイスラム教徒からのヨーロッパの奪還であったのに対して、北方十字軍はローマ・カトリックを中心とするヨーロッパの「辺境」一帯における領土拡張を純粋な目的としていたことが本書で明らかにされる。

    本書のスタンスはあくまでも事実を丁寧に積み重ねることであり、単純にローマ・カトリックが悪だとか異教の民の野蛮さを告発するものではない。双方それぞれに言い分があり、当時としては少なからず説得力のあるロジックの下で戦いが行われたことがわかる。領土的野心を隠そうとしないローマ・カトリックの内部でも、古代ギリシアからヨーロッパ的精神の柱でもあった「自然法」の考え方のものとに、異教徒にも人権があるとした人々がいたことを知ることが出来たのも本書からの収穫だ。

    学術論文のようにカチカチでもなく、でも軟派に過ぎない、読み終わるのが惜しい良書。十字軍の血みどろの歴史に興味がある方には文句なくお勧めの一冊。

  • 中世ヨーロッパは、あまり興味なかったのですが、大航海時代の征服を正当化する思想の基礎が、十字軍にあるとは!作者に思い入れがないので、本としては面白くなかった。

  • 解説:松森奈津子、サントリー学芸賞

  • 新書文庫

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著者プロフィール

山内 進(やまうち・すすむ):1949年生まれ。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位修得退学。成城大学教授、一橋大学教授、一橋大学学長を歴任し、現在は一橋大学名誉教授。専門は西洋法制史、比較法制史。主な著書に『北の十字軍』(講談社学術文庫、サントリー学芸賞)、『増補 十字軍の思想』(ちくま学芸文庫)など多数。

「2024年 『増補 決闘裁判』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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