怪帝ナポレオン三世 第二帝政全史 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062920179

作品紹介・あらすじ

偉大な皇帝ナポレオンの凡庸な甥が、陰謀とクー・デタで権力を握った、間抜けな皇帝=ナポレオン三世。しかしこの紋切り型では、この摩訶不思議な人物の全貌は掴みきれない。近現代史の分水嶺は、ナポレオン三世と第二帝政にある。「博覧会的」なるものが、産業資本主義へと発展し、パリ改造が美しき都を生み出したのだ。謎多き皇帝の圧巻の大評伝。

感想・レビュー・書評

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  • ▼今年の読書の大テーマである、「フランス/パリを軸にして、ルイ14世から第2次大戦までを読んでいく」の一環です。ちなみに発端はロバート・キャパの評伝「キャパ」(ウィーラン作)があまりにオモシロかったからなのと、「第一次世界大戦っていうのが、どうもまだ皮膚感覚でよくわからん」なんですが。
    ここまで「キャパ評伝三部作」を除けば以下の道のり。

    ■集英社「まんが世界の歴史13・第一次世界大戦とロシア革命」
    ■「太陽王ルイ14世」鹿島茂
    ■「賭博者」ドストエフスキー ※これも20世紀初頭のフランスの感じってにじむなあ
    ■「異邦人」カミュ ※アルジェリアが仏植民地であるということが20世紀前半のフランス感だなー、と。
    ■「ナポレオン、フーシェ、タレーラン」鹿島茂
    ■「イギリスの歴史が2時間でわかる本」 ※比較してこの時期のイギリスっていうのがもやもやして気になってしまったので。
    ■「二都物語」ディケンズ ※このテーマを持っている今こそ読むべきだな、と。二都ってパリとロンドンですから。
    ■「贖罪」マキューアン ※第2次大戦前後。イギリス人兵隊がフランスの戦場で、もだえ苦しむ。
    ■「怪帝 ナポレオン三世」鹿島茂

    という歩み。

    今後も、(まあちょっとどこかで挫折するかもですが)

    ■「感情教育」※再読だが ■「葬送」平野啓一郎 ■第一次世界大戦の本2冊くらい? ■「西部戦線異状なし」 ■「第三帝国の興亡」 ■ルパンシリーズの未読のものを2~3冊 ■バルザックの未読のものをひとつくらい ■「移動祝祭日」 ■「武器よさらば」 ■「フランス組曲」 

    などを(できれば)読み進めて、「パリは燃えているか?」で閉幕したいと思っています。2024年いっぱいくらいは楽しめるかな、と。

    ▼閑話休題それはさておき。この本ですが、文庫本608ページという読み応え、各種脱線ありまくりの「ナポレオン三世とその時代」です。同じ鹿島さんの「ナポレオン、フーシェ、タレーラン」から続いて読むというのは正しかった気がします。

    ▼つまりは、「ナポレオン三世であるという妄執はあるんだけど、理想としては共和制と民主主義とナポレオン帝国の融合であったという不思議な人物」なんですね。そして、「今日のパリ、パリらしさ、みたいなものはナポレオン三世が作った」という事実。

    ▼それらが興味深いのは、結局、19世紀(日本で言えばまさに幕末前夜~明治維新なんですが)のこの時代に、ナポレオン三世は簡単に言っちゃえばロンドン育ちなんですね。で、ロンドンは当時の産業力学としては先端だった。しかもイングランドは以前から上手いこと、王政→ブルジョワジーによる民主的な政治 にソフトランディングできている。で結局、ナポレオン、といういかにもフランス革命そのものを代表する精神の塊のような固有名詞を持った「三世」は、ロンドンから吸収した美学をパリにぶち込んだんですよね。それでいて「ナポレオン」そのものは現代的に言うと「イタリア人」だったりするから、ヨーロッパって面白いなあ…。

  • いやー、こりゃすごい。
    ナポレオン三世の人となりだけでも十分に予想外の記述だけど、19世紀後半のフランス社会の変貌ぶりの記述がすばらしい。有名なパリ大改造にとどまらず、金融産業資本主義の誕生にバブル経済、貧民対策としての公団建築。
    特に金融に焦点をあてた章は面白い。利率を下げて投資を刺激した件はマクロ経済学のテキストに載っててもおかしくない。ソシエテ・ジェネラルが設立された経緯も興味深い。発券機能をめぐってのすったもんだも面白い。

    政治・外交に関しても、イタリア・ドイツの国民国家成立やクリミア戦争の展開、英仏の融和 などいろんなことに目配りされている。
    いや、たしかにこの時代の前と後ではフランス社会や外交の風景がガラッと変わったんだろうな、と思える本。

    次はナポレオン三世が範としたイギリス社会に関する本を読んでみよう。

  • 分厚い本ですが、短く区切られた構成と堅苦しさとは無縁な文章のおかげでちょっとの空き時間でも気軽に読める親しみやすさがあります。しかも時間を忘れてしまうほどの面白さ。ユゴーやマルクスなどのビッグネームにこきおろされたり、普仏戦争の惨敗が目立って後世に散々な評価を残したナポレオン3世ですが、この本を読むと「それなりに上手くやったトボけた味のおとっつあん」という印象を持ちます。もちろん看過できない失点もいくつかありますが、経済・産業政策では素晴らしい功績を残しています。ただこの人、女性関係があまりにも...

  • 全600ページに上る長い評伝だが、飽きさせない。文学者の鹿島氏が書いており、左翼史観に偏らず、産業皇帝として、フランスの近代制度の礎を築いた人物として、ナポレオン3世を正当に評価しようとしている所が勉強になる。なかでも、オスマンによるパリ改造、ペレール兄弟のクレディ・モヴィリエ(投資ファンド)、鉄道敷設、ロスチャイルドとの抗争、皇帝の発案による労働者慰労施設の建設や、労働者の集会を擁護する法律、関税クー・デタによる産業の育成、高級娼婦の暮らし、デパートの発展などはたいへん興味深い。モルリー公・ペルシニーを中心とした権力奪取の様相も面白い。ナポレオン3世は96%という大変高い得票で、「民主的」に皇帝に選ばれたのである。フランス革命は重要な歴史的事件であったが、右に左にゆれたフランスの歴史のなかで、民衆はいつも不幸であった。このなかにあって、「帝国とは平和である」というナポレオン三世の言葉は重い。普仏戦争で負けたときも、メンツを保つために、最後の突撃を進言する臣下を斥け、「私には兵士を殺す権利はない」といい、自ら捕虜となったところは、なかなか偉大な人物であったと思わせる。明治維新前後にフランスの皇帝だった人だから、渋沢栄一の銀行設立や、「坂の上の雲」の秋山好古の「馬術」にも関わってくる。ナポレオン三世は、日本の近代を理解するうえでも重要な人物である。

  • 作者的重點在於要彰顯拿破崙三世其實是個優秀的君主,並且擁有君主民主主義的信念,其信念在獄中著作即可窺見。拿破崙三世經過兩次失敗的政變、坐牢,直到選上總統(但根據憲法只能做一任),終於發動一次成功的政變,並發動公民投票,正式登基。作者很努力地想證明,拿破崙三世其實主要是被左翼老祖宗馬克思所抹黑,他的思潮也是先進特殊的(但其實說不定應該就是與他身邊環繞、流行的聖西門主義有關),而他的巴黎都市計畫也是空前絕後(這部分是我覺得整本裡面最有趣的地方)。然而拿破崙三世本人的影子與描寫,卻驟然在登基之後變得很薄弱,對於1860年代轉向自由帝政的理由也有些薄弱,最薄弱是作者處理拿破崙三世的外交問題。如想要替拿破崙三世正名他確實是被馬克思抹黑,是則拿破崙三世那受人高度非議東管管西戳戳的外交政策勢必必須有所交代,然而作者只說參加克里米亞戰爭單純是為了討好英國(然並未交代為何之後兩國關係又急凍?),至於法國當時在亞洲所發動的第二次亞羅船英法聯軍,甚至是對越南、朝鮮等地的戰爭,作者僅單純以全都是當地提督+傳教士的暴走為由帶過,墨西哥才真的是拿破崙三世跟身邊人的餿主意然而卻以失敗收場。至於在歐洲還一頭栽入義大利獨立戰爭等等(也因此獲得尼斯),政權短期內四處開戰這顯然不是正常現象也無法單純以都與其無關帶過,最終普奧戰爭選擇旁觀想賺調停的人情(結果一下子就結束了)是其一大失策(荒唐的是,當時法國輿論似乎支持普魯士,普魯士大勝法國股市還大漲),養虎貽患。最終在俾斯麥的計策下邁向普法戰爭,但作者亦陳完全是被輿論推著走,拿破崙三世本人根本不想戰,但是依然被推著病體御駕親征,導致最終被俘虜,第二帝政也被推翻。個人認為,在政治與外交部分,作者並未寫出其推崇拿破崙三世的說服力,毋寧說這兩塊寫得相當薄弱似乎他一切被動都被推著走的感覺,主要陳述內政"真心相信帝王民主主義"跟""真心關心勞工"這樣的內容有多先進,但那兩塊是拿破崙三世的形象怎麼樣都無法洗白的因素,也是這部作品寫得極為薄弱的部分。反而,登基之後,由拿破崙三世的傳記轉為第二帝政的描寫,略為可惜。

  • 三世というと、ルパン三世を思い出す。
    しかし、同じフランスが生んだこちらの三世は、とらえどころがない。

    学校の世界史を普通にさらっただけの知識では、叔父のナポレオンの威光で皇帝となり、普仏戦争で捕虜となった残念な皇帝、というイメージくらいか。
    もう少し詳しいと、今のパリの街並みを整備した人、という程度。
    当時、ヨーロッパ各国にいた”皇帝”像をもって捉えようとすると理解に苦しむ。
    かといって共和制寄りかというと、そうでもない。

    彼の時代を第二帝政と呼ぶが、”第二”と言っても実質ナポレオン三世の時代。
    彼だからこそあのような時代になったのだろう。
    帝政ではないが、その後のファシズムもシステム上はさほど差異はない。そのような意味で極めて幸運な時代、ベルエポックだったのかもしれない。

  • 『英国マザーグース物語』を再読したので
    『やる夫が鉄血宰相になるようです』を再読し
    『やる夫で学ぶ第一次世界大戦』を再読しつつこれも再読する
    ナポレオン三世はあんまり好きになれないが
    フランツ・ヨーゼフ1世はいいよね
    ヴィルヘルム1世もいいよね
    ビィクトリア女王もいいし
    ヴィルムヘルム2世も人間味があるね
    ナポレオン三世はフランス近代化に功績があったことは間違いないし
    イタリア戦争も普仏戦争もナポレオン三世でなかったからと言って
    結果が変わったかどうかはわからないから
    もっと評価されていいのはわかるが
    嫌われるのもわからないでもない

    2013/2/22
    ナポレオン三世=フランス第二帝政
    とすれば否定する余地はあまりないが
    「怪帝としての評伝」とフランス第二帝政の概観が
    整理されておらず読みづらい
    第二帝政について概説が不十分かつ主旨曖昧で
    第二次産業革命に結局王政でも共和制でもなく帝政が
    すなわちナポレオン三世がどれだけの役割を果たしたのか
    結論づけれらておらず怪帝のまま

    マルクスユーゴーへの批判もわかるけれど
    プロイセンフランス戦争の敗北は
    指導者ナポレオン三世の敗北と同時に
    同時代フランスの敗北でもあり
    そもそも相手にするほどのものでもないはず

    近世から近代へのいつでも急激な変移において
    国家指導者が理想主義であることがどれだけできるか
    後世からの成功したから良い政治
    失敗したから大悪人というのも
    結果からの一面でしかない

  • まあなんという振り幅の激しい人であったことか!
    あるときは慎重過ぎ、あるときは大胆過ぎ。
    どちらの場合も、成功と失敗があった。
    社会保障の先駆けやインフラの整備、パリの大改造等の
    功績は」素晴らしいけれど、同等にとんでもない事も多し。
    最後は捕虜になり、英国で余生を過ごす・・・あぁ怪帝!
    産業革命、旧新入り混じった政治情勢・・・加速する歴史に
    振り回されながらも、フランス最後の皇帝となった男の
    生涯を詳細に綴っている。
    女性関係もすごいもんだ!
    画像と不随する説明が多く、長文でもわかりやすい。
    なんといってもこの一冊で歴史とその当時の情勢がわかる。
    鹿島先生の渾身の一冊ですね♪

  • パリについての紀行文なら、鹿島茂氏が第一級。何より、詳しいし、文章も上手い。
    但しこの本は、筆者が少し構えて、研究者の側面を前に出した本格本。ナポレオン三世については、ちゃんとした本がないので、貴重な良書だ。以下別途

  • その生い立ちから、傍目には「無茶?」と見える振る舞いで権力奪取を目指してみて失敗し、やがて大統領となり、クーデタで皇帝となり、敗戦で廃されてしまうまでのナポレオン三世の歩みが本書には網羅されている。彼と行動を共にした、または対立した男達や、彼の人生を彩った女達に関する言及も多く、それぞれ面白い。更にナポレオン三世の強い望みを受けて、彼が抜擢したオスマンが推進した“パリ改造”に関する話題も、「ナポレオン三世の事を扱った本だったよな?」と一瞬思う程に詳しく綴られ、非常に興味深い…

    決して評価が高いでもない皇帝…しかし、「現代の基礎」を整えた側面もある、理想家肌な皇帝…非常に興味深い出会いということになった!!

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著者プロフィール

1949(昭和24)年、横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ風俗』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「All REVIEWS」を主宰。22年、神保町に共同書店「PASSAGE」を開店した。

「2022年 『神田神保町書肆街考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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