縄文の思想 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062884549

作品紹介・あらすじ

文字に残されることのなかった縄文人のリアルな思想、かれらの他界観や世界観といった生々しい観念の世界、すなわち縄文人の生き方を律した思想を、どうすれば知ることができるのか──。
 本書はこの難問に、考古学と日本列島の様々な神話・伝説といった具体的な資料にもとづき、さらには海辺や北海道、南島という日本列島の周縁に生きた人びとの、弥生時代以降の歴史に光を当てることによって解答しようとする試みです。縄文は単なる失われた過去ではなく、周縁の人びとの生を律する思想として、上記の人びとのなかに脈々と生き続けてきました。その生の様式をとおして、もうひとつの日本列島人の歴史を描くことが本書の目的です。
 では、なぜ周縁の人びとなのでしょうか。
 かれらは弥生時代以降、縄文伝統である狩猟漁撈のほか多様な生業に特化することで農耕民との共存を実現し、その結果、縄文の習俗や思想をとどめることになったと著者は考えています。周縁の人びとの、弥生時代以降の歴史に注目しようとする理由はこの点にあります。
 縄文を「思想」としてとらえようとする場合、これまでは、具体的な手がかりがほとんどないと考えられていたために、どうしても書き手の「ロマン」、思い込み先行になりがちだったのではないでしょうか。本書では、上記の画期的なアプローチにより、いままでに明らかにされることのなかった縄文の核心に迫るものです。

感想・レビュー・書評

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  • 貧富の差のない縄文時代に、農業がもたらされて弥生時代が始まった。こんな直線的な理解を打ち砕く名著。

    南方から渡来した原日本列島人=縄文人のもとに農業がもたらされる。縄文人は農業を部分的に受け入れ、渡来人と混血しつつも沿岸部を拠点とする「海民」として幅広い交易で繁栄する。縄文と弥生は長く併存するのだ。

    沖縄とアイヌの共通の文化的属性、DNAの解析、山陰と東北の言語的共通性などから「日本人の源流」が浮かび上がる(ここで、奥出雲弁と東北弁が非常に似ている、ということが推理のカギとなる松本清張「砂の器」を思い出す人はするどい)。

    日本各地の神話で、海にある洞窟はなぜ山の頂上につながっているのか。そして美しい姫が黄泉の国で醜い姿になっているのはなぜか。著者はこうした点を丹念に分析し、海の民が農耕系王朝に駆逐されていく過程を描いていく。

    本来の(美しく多様な)日本像を実感できる本。

    • ☆ベルガモット☆さん
      naosunayaさん 暑中お見舞い申し上げます

      いつもいいね!をくださりありがとうございます。
      縄文時代に興味を持つようになり、こちらの...
      naosunayaさん 暑中お見舞い申し上げます

      いつもいいね!をくださりありがとうございます。
      縄文時代に興味を持つようになり、こちらの本をnaosunayaさんの本棚で見つけました。紹介とレビュー参考になります。お正月に登録というのも素敵ですね。
      読みたい本リストに追加しようと思います。
      2022/07/24
    • naosunayaさん
      ありがとうございます!
      ありがとうございます!
      2022/07/24
  • 申し訳ありません。新しく得られるものがありませんでした。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/729433

  • 縄文文化、アイヌ文化、南島(鹿児島など)海民文化に、共通性が見られる、というところから、そこに残っているのは縄文の思想ではないか、という視点から書かれた本。
    (縄文文化に文字はないので文献等から知ることはできない)
    根底には、農耕(日本の弥生時代)を起源とする資本主義社会の生きづらさへに対するヒントとを縄文思想に求めようという著者の意図が伺える。

    弥生の農耕文化が朝鮮半島を経由して日本に広がったことはほとんど間違いない。
    このとき、縄文人は弥生人に駆逐されたのかというと、遺伝子が大陸の人々と十数%異なることから、縄文人は弥生人と同化もしたであろうことが書かれている(逆に言えば現代人の80%以上は中国や朝鮮半島と共通していることになる)。

    著者が縄文の思想を残しているとしているのは、アイヌと海民だ。
    イレズミや抜歯といった文化が共通しているという。

    また、縄文の思想はそれらの地域の口伝の神話と、『古事記』『風土記』などの文献との共通性からも見出だせるという。
    それは海の神と山の神がいて、海の神が山に向かうという共通性に見られる。
    もう1つはそれらの神話における(農耕の場である)平野の不在にある。
    あるいは女性が太陽光により赤い卵を授かり、そこから神的な人物が生まれる神話は朝鮮とすら共通しているという。

    この仮説通りであれば『古事記』などの神話の源流は縄文文化にあることになる。

    この本を読むと、確かに立地的に離れた地域で神話や文化の共通性が見られ、それが縄文の思想であると考えることもできる。
    一方で「共通性のみに言及」しているため、各地域の差異が分からない問題もある。

    アイヌや海民のような狩猟採集文化は平等な社会、農耕文化は支配・被支配的な社会になりやすいことはすでに知られている。

    狩猟採集は食物を蓄えられず小規模で、また獲得できるかは運次第にであるから、コミュニティ内で平等な分配が行われる。
    ただし、本書で贈与と呼ばれている行為は物々交換に近い。
    そのためマルセル・モースの『贈与論』的なものとは異なるが、「神により命を授かった」ということ自体が贈与を受けたことを意味し、その「負い目」がアイヌや海民に贈与文化を生んでいるというモース的な記述もされている。

    一方、農耕は食料の生産性の高さと定住から、人口が増える。
    (採集民族は多数の乳幼児を抱えて移動することは困難なので人口は一定以上増やせない)
    また食料の余剰が生まれ備蓄が可能なことから、管理者=生産に直接関わらない権力者や官僚が生まれる。
    (彼らは生産しなくても税金、昔で言えば年貢などで暮らすことが可能だ)

    アイヌや海民のような狩猟採集集団が、農耕の導入を拒否した理由は本書では明らかにされていないが、本州では同じ村に住んでいてさえ、農耕民と漁業民(海民)の交流はほとんどなかったとされる。
    そのため近現代でさえ、地域によっては縄文文化の痕跡と思われる信仰などが残っているという。
    なお、海民は時代によっては海賊(倭寇など)でもあった。

  • 自然との共存とは、低開発ではなく、
    自然と結び付いていた世界観、他界観が現実の世界そのものであり、
    自然自体が人々の生と死を結び付けるものであった。

    海民とアイヌは自らの社会に不可欠な自由と自治のために縄文の思想を選んだ。

    平等と分配 
    神からの贈与は魂でもあり、商品化して売り払ったり独り占めすることはしない。
    商品経済は人間性を否定している?

    ブログには、もう少し詳しく書いてあるので、よかったら見てください☆

  • アイヌの研究者である著者が、アイヌや南島のなかに生きる「縄文の思想」にせまろうとする試みです。

    アイヌにおける「閉じた」側面と「開かれた側面」の両面を指摘し、とくに海民との交流・交易について論じられている箇所は、スリリングな展開だと感じました。ただ、アイヌにかんする考古学的な事実と、本書のテーマとなっている「縄文の思想」をつなぐリンクは、十分に示されていないような印象を受けました。

    著者の語る「縄文の思想」が魅力的なものであるだけに、著者がいささか前のめりの姿勢になってしまっていることに危惧をおぼえてしまいます。

  • これまでの歴史の視点ではなく、いまなお伝承されていたり、日常生活の中で何となくやっていることと、3000年も昔の縄文時代が繋がっているという驚きたるや、言葉に尽くしても尽くし足りない。知的好奇心にグイグイと刺さってくる本は久しぶりです。

    一つ前に弥生時代の歴史という本を読んでいたので、次は縄文だな。ぐらいの軽い気持ちで読み始めたものの、これはすごい。アイヌ、南島の人々の神話から折口信夫、網野善彦、中沢新一まで。贅沢な本です。
    伝説の反転、海民の神話が農耕民に取り入れられたときにどうなるか、スサノオとは、自由とは。大いに刺激を受けた一冊でした。

  • アイヌ学からの流れで。
    縄文の沈黙貿易や解体場所の隔離が国家と階級の回避への必死の試み、という感覚はとても納得しやすかった。男女間の役割分担にその平等性への志向はあったのだろうか。

  • [自分のための読書メモ]
    講談社より同時期に出版された『世界神話学入門』(後藤明著)、また『歴史の中のコメと肉』平凡社、(原田信男著)と前後して読み進める。
    縄文の思想とゴンドワナ型の神話の類似性があるとすれば、海民のネットワークを地域を大幅に超え、時代もより長いスパンで考えることができる。

  • 私にとって最初の縄文入門となった。

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