指揮官の条件 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062883399

作品紹介・あらすじ

責任を取ろうとしないリーダーが組織を率いれば、組織に属する人間たちも忠誠心、帰属意識を持ちようもない……。東京五輪関連の問題や、大企業の不祥事など、「もろい組織」の存在が続々と明らかになっています。強い組織を作るにはいったいどうすればよいのか? リーダーとはどうあるべきか?
著者は元海上自衛隊幹部。東日本大震災という近年最大の国難に際して、被災者救援活動や福島第一原発事故後の対応で、海上自衛隊の指揮官を務めた人物。さかのぼってイラク戦争勃発のときには、インド洋で護衛艦隊を率いていました。先の見えない荒海を行く「船長」として、部下をまとめ、確たる実績を残しています。
「組織への忠誠心は一朝一夕で醸成できない」「有事に信用できる人間は、細部まで誠実である」「厳しさこそ優しさである」「自分の言葉で話せないトップは責任を取らない」「組織はどんどんシャッフルするべき」「想定外など甘い」「物事は地球儀とともに考えよ」・・・・・・。
真のリーダーなき時代に、正面から「リーダーの条件」「強い組織の作り方」を考察するシンプルで力強い1冊です。

感想・レビュー・書評

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  • 国を守る自衛官がいい加減で適当な気持ちで任務に当たってしまったら、国家が数千億を投じた軍艦や戦闘機などの損失に繋がる。民間企業ならクビや降格で済まされるだろうが、自衛官もクビにすればいいという単純な話では済まされない。彼らには国を守るという他のどの組織も持たない使命感と、国民の血税の上に成り立つ国民の資産を扱うという極度の緊張感もあるだろう。
    本書は海上自衛隊で護衛艦隊司令官や横須賀地方総監などを務め上げた元海上自衛官による組織統率の指南書と言える。海上自衛隊と言えば五万人規模の組織であるから、民間企業で言ってもかなりの規模の組織体である。
    大きな組織、様々な隊で構成される組織であるからこそ、目的達成には上に立つ者の指揮能力に大きく依存する。また、それを可能にするのは日々厳しい訓練に耐え、肉体的・精神的に鍛え上げられた自衛官の努力に支えられている。
    本書で記載された内容は民間企業の管理職にも大いに参考になる。私も筆者に比べる事も憚れるほどの僅かばかりの人数であるが部下がいる。読んで納得感が充分得られる。
    指揮される側の利益代表になってはいけないといった言葉には管理職なりたての若い自分を今でも恥ずかしく思い起こされると共に、今でもそうなってないかチェックするポイントだ。また、細かいことばかり見る、部下に好かれようとする、楽ばかり求めていないか、常に俯瞰して見て部下を察し、そうしながらも行くべき方向性を示して、部下の苦しみを自分ごとの様に思う。これらは日々できているか未だ不安を抱えながら職にあたっている。
    時には感情に流されてしまう。ついつい甘い事も言う。自らも明日でいいか、と甘える。部下はそうした上司の悪いところを全て真似する(中には反面教師にするものもいるが)。自制心とは非常に重要な要素である事は、本書を読むと痛いほど伝わってくる。
    また、企業においても目的達成のために必要なのは、下手な愛社精神では無く達成に十分なスキルであると説く。現状・状況に応じた今必要なスキルが何かを踏まえた教育の重要性を改めて感じる。愛国心(愛社精神)よりも、責任感・使命感を重視し、それが自衛隊という組織に欠けてしまったら、それは単なる「暴力装置」と化してしまう。職場でも信頼できるのは、そうした責任感・使命感のある人だし、私の部下にもいるが、自分の持ち場に誠実に寡黙にこつこつと自分の役割を果たす人こそ大切な人材だ。彼はほとんど喋らないが、資料作りや面倒な業務処理も誰よりも遅くまで独り残って片付けて行く。文句も言わずに。この責任感は毎日誠実に仕事して少しずつ身につけるしかないと思う。
    また、目的達成に必要な士気についても触れる。士気を維持するには終わりの見える仕事ばかりさせてはダメで、実践的に終わりの見えない訓練を続ける事で持続力をつけさせ、モチベーションを落とさない組織作りが必要だと感じた。
    そして、点(最も細かい仕事の単位)が見えなければ線が引けない(仕事と仕事の関連性)、線が引けない者に面は作れない(全体の整合性)。この言葉は正に自分が管理する組織を見て大いに感じる。担当者は基本的には自分の仕事に閉じこもる。その中から時間をかけて目標地点に向かい、他人の仕事と合流して線を成す。最終的にそれらを束ね揚げ面にし、更に効果を底上げして立方体にする。私もよくやってしまう、点をあれこれ細かく指示する必要はなく部下の仕事に任せる(多少の誤りは容認する)様にしないと前述の立方体を作れる人材が育たない。
    また組織のメンバーには末端まで考えさせる事が重要だ。組織全体が思考できないと目的を早く達成することが出来ないし、思考を繰り返すことなく意識しなくてもできる状態には成らない。
    チームのリーダー職にはよく言うが、これも全員に徹底したい一回級上位の考え方に立つ思考力。上位者の立場で考えるから、中身の濃い補佐ができるようになる。要は全て教育=人づくりだと感じる。
    途中羽生善治さんの言葉を紹介するが、ミスをして困難な局面に陥っても反省しない。打開に向けて瞬時に次の判断、手を打たないといけない。これにはトラブルに陥ってすぐに原因追及したがる部下の顔が思い浮かぶ。そんなの後回しで、今の業務を再開・継続させることが最優先なのだ。この辺りは将棋だけに限らず、自衛隊でも民間企業でも全く同じことである。反省は全てが終わってからで、戦いの最中ではない。
    他にも沢山の言葉・教訓に溢れる本書は、組織を統率する管理職におすすめしたい。順風に至っては細心に、逆風に至っては大胆に、常に地球儀を置いて仕事する山本五十六など、私も自身の仕事を振り返りながら、反省・改善すべき点と促進すべき点を頭の中で充分整理することが出来た。

  • 自衛官として,指揮官として、考え方の参考になります。

  • 元海上自衛隊の幹部で、インド洋での自衛隊の活動に参加し、東日本大震災では原発の処理にあたった著者が、指揮官のありかたを語った1冊。印象に残ったのは、ピンチになったとき、乗組員はみな、艦長の顔を見る、という言葉。リーダーは最後まで責任を持たねばならない。統率が取れていて、しかもコミュニケーションが円滑な組織をいかにして作るかについて、学ぶところの多い1冊でした。

  • 180120 中央図書館
    海将まで進んだ元海上自衛官による熱血で規律正しい組織統率の心得。部下とのコミュニケーション、静謐で澄明な意思決定の態勢を保てるよう、心身を鍛えろ、というようなところ。

  • インド洋給油活動や東日本大震災に指揮官として関わった海自の元将官による組織論・リーダーシップ論。
    社会に出てまだ短いけど、職場の上司や、入社後の教育とか思い浮かべながら、頷きながら読んだ。実際に管理職になったらもっと理解できるんだろうな。
    ここ最近、集団、組織、フォロワーシップやリーダーシップについて考えざるを得ない環境にいたのでタイムリーな内容だった。
    ここ最近リーダーシップをとるという経験で苦しんだことや、指導を受けたこと、そういう自分の経験や、それについて自分が思ったことと、根本で通じる面がある内容もあって、非常に参考になった。

  • 感想未記入、以下引用
    ●人の上に立つ者は、部下の多少の誤りや危なっかしさを許容する(飲み込む)懐の深さ、即ち包容力が求められる。若い人や経験の浅い人が、明らかに遠回りしていることが分かっていても、敢えてそれを見守ることが必要だろう。成功から得る教訓は少ないが、失敗から学ぶことは多々ある。失敗は将来の成功に向けた教訓の宝庫だ。そうやって我々は戦闘員として、人間として成長していくのだ思う。上級者は、若い人たちの成長を摘んではいけない
    ●自分以外の人と時間を共有する、他人の時間を占有するということは、実に大変なことである。時間はお金であることを、想起すべきである。
    ●その規則や習慣、あるいは取り決めが、本当に組織の維持・向上に寄与するかどうかを、真剣に吟味しなければならない。その際には、策定した時点まで遡らなければならに。現在の環境に合わないという理由だけで、軽々と処理していくと、後日、手痛いしっぺ返しくらうことになる。(略)過去のものを切る時に留意すべきことは、まず、そもそも今やっていることの当初の目的、趣旨はどこにあったのか、を考えてみる必要がある。その目的がしっかりしたものであれば、やり方を変えて、微修正やあるいは大修正して生かすこともある。ときには、今陳腐化しているように見えても、長い目で見ると必ずしも古くはなっていなかったことに気づくこともある。
    ●人間の性格につける薬はない。治療の仕方がないのだ。自分の悪い性格をどのようにして、改善あるいはカバーしていくのか。その答えは、人生のさまざまな過程において、その都度自分に厳しく接すること。自分は斯様に詰めが甘い性格だと、常に自分自身に言い聞かせ、だからこそさら慎重に物事を運ばなければならない、と。ひとつずつ、丁寧に目の前の事案を解決し処理していく。それしかないと思う。

  • 2015年12月新着

  • テロ対策特別措置法により海上自衛隊がインド洋に派遣された際の護衛艦隊指揮官であった著者が述べる指揮官の在り方、組織の在り方についての本。ご自身の経験を踏まえ具体的な事例を挙げておられますが、それらを集約するのは「あとがき」にある次の一節かと思います。以下抜粋「指揮官の心得であり、自らを戒めることば 1.誰よりも耐え、2.誰よりも忍び、3.誰よりも努力し、4.誰よりも心を砕き、5.誰よりも求めない」
    本書で挙げられている著者の経験の中でも、印象的なのは上記のインド洋派遣の際のものでした。以下抜粋「我々が直接戦闘に参加することはまずないだろう。しかし、その余波を受けることは大いにあり得る。『敵の友は敵』と判断するだろう。従って、テロによる攻撃を最も恐れた」、「(インド洋派遣で)私がやるべきことは大きく二つ。一つは当然のことながら、補給支援活動という任務の完遂。そしてもう一つは連れて行った隊員全員を、とにかく生きたまま帰国させること」
    自衛隊が派遣された地域は紛れもない戦場であったのだと改めて感じました。
    災害などの有事の際に最も頼られる存在の一つである自衛隊。こういう心意気の人たちによって維持運営されているんですね。

  • 戦艦大和の最後 軍人の真価は戦場でしかわからない

    いざとなったら乗員は館長の顔をみる

    指揮官には、危機に直面した時、断固として決断する判断力と、その意志を遂行する実行力が求められる

    論語 人しらずしてうらみず 自分が認められないからといって他人を恨んではいけない

    軍隊というものは、常に戦争に備えて準備し訓練されるべきものであって、いかなる組織とも融和してはならない

    羽生善治 ミスをして困難な局面に陥る。しかし反省はしない。瞬時に、打開に向けて集中する

    順風においては細心に、逆風に至っては大胆に

    樋端久 利雄 昭和の秋山真之 山本機に同乗

  • 指揮官とは何か。周りを引っ張るリーダシップで必要とされるものは何か、本書を読めばわかる。

    特に軍事関係や治安関係の人が語るリーダーシップ論は、長い歴史や目的(組織が崩壊することは即、死に繋がる)から照らし合わせても非常に信頼できる。

    今後も何回も目を通すことになると思う。おすすめ。

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著者プロフィール

昭和27年、香川県大川郡大川村(現さぬき市)生まれ。昭和46年香川県立三本松高等学校卒業(22回生)。昭和50年防衛大学校卒業(第19期生)。卒業後、海上自衛隊に入隊、在ノルウェー日本国大使館防衛駐在官、護衛艦隊司令部幕僚長、第1護衛隊群司令、海上幕僚監部人事教育部長、護衛艦隊司令官、統合幕僚副長、横須賀地方総監などを経て平成23年8月退官。元海将。現在は、執筆・講演活動を行っている。著書に『武人の本懐―東日本大震災における海上自衛隊の活動記録』(講談社、平成23年)、『指揮官の条件』(講談社現代新書、平成27年)がある。

「2017年 『ソロモンに散った聯合艦隊参謀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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