社会保障亡国論 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062882538

作品紹介・あらすじ

消費税が増税されると本当に社会保障は充実するのか。現在わが国の社会保障給付費は、GDPの約4分の1にあたる110兆円を超える規模に達しており、年間3~4兆円というペースで急増している。消費税率の引き上げの効果は3~4年で消失する計算となる。年金・医療・介護・子育て支援など、「少子高齢化」日本を暮らす人々の不安は拡がる一方だ。社会保障財源の現状を具体的に改善する議論と給付の抑制・効率化策も提言する。

感想・レビュー・書評

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  • 至極もっともな事が書いてある良書。孫子の財産を食いつぶしている今の状態が異常なのはもっとも。

    まず本書をリタイアした世代に読んでほしい。いや、おそらくかなりの数の人たちは、薄々気づいているはず。それでも、未だに、選挙になると、老人医療にしろ、年金にしろ、甘い事をささやく政党に一票を投じる。

    グルになって若い世代をいじめ、この国を亡国に導こうとしているとしか思えない。若い世代はまず、しっかり選挙に行く。

    論点はずれるが、政治家も今は基本的になりたい人がなっているが、別わくで、30人位は、やって欲しい人に投票するというのはどうだろうか。
    方法論として、現実的には難しいが、そうでもしないと、世の中変わらん気がする。

  • 本書を読む人は、年金制度の不公平さが、自分の身に一番応えることとして印象に残るかもしれないが、問題はそれにとどまらない。
    このままいけば社会保障制度が崩壊する。

    社会保障制度の崩壊というのは、社会基盤の崩壊である。
    そのときどうなるかというと、高齢者だけ限ってみても、病気になっても病院にかかれない、施設に入ろうとしても施設がない、いわゆる漂流老人が大発生する。

    経済は行き詰まり、破綻することは目に見えているが、残念なことに、誰も手をつけられずに、最後まで突っ走っていかざるをえないだろう。

    人口構造が将来どうなるかということは、もう数十年前から分かっていたことだ。人口シミュレーションは、そう難しいものではないし、そんなことをやらなくても、高齢者が多くなり支える層が少なくなれば、社会制度を維持できなくなることは誰でも分かることだ。わかっていたのに、誰もどうにもできないでいる。
    であれば、これからも、どうしようもないだろう。

    それは原発問題と似ている。
    原発がヤバイというのは、二十年前三十年前からいろいろなところで語られ、書かれ、訴えられてきた。
    危機は叫ばれていたけれども、当面の利害関係のために、物事は動かない。

    結局事故は起こってしまった。
    起こってしまったあとでも、事態の最終的な責任は誰にあるのか問われないまま、また再開されようとしている。

    社会保障の問題も、このまま進むだろう。
    このまま進んで、どこかの段階で、社会保障問題の「フクシマ」が訪れるだろう。

    それはおそらく、15年後の2030年あたりではないか。
    いま65歳の団塊の世代が80歳になり、介護が必要な人や、死者が急激に増え始めるが、病院や施設がなく、かといって住める家もなく、孤立死や野垂れ死が多発するだろう。
    あるいはその前に、日本経済が社会保障費の負担に耐えかねて破綻しているだろう。

    いずれにしても、破綻は早いほうが痛手は少なくてすむ。回復も早い。

    残念ながら、そこまでいかないと、抜本的な見直しはできない。
    そんな事態が本当にくるのかと思う人がいるかもしれないが、間違いなくそうなる。
    著者の危機感に、私は完全に同意する。

    ただ、破綻を回避するための努力について、著者は厚生労働省のサボタージュを疑っているが、私の意見は異なる。
    厚生労働省がシャカリキになって進めている介護医療の一体改革法案や地域包括ケアシステムは、そのためのものであることは明らかだ。

    ただ、その程度でいいのか、それのみが正しい方向なのか。著者から見れば、たぶん不十分かつ遅すぎるとしか映らないだろうが、それは、厚生労働省の怠慢というよりも、破綻回避の手を打とうという勢力と、現状維持勢力のせめぎあいの結果と見るべきだと思う。役人の中で改革を志す者がいたとしても、現実の政策としては、妥協の産物としてしか出てきようがないからだ。

    著者によると、社会保障問題を経済学者が扱うことに対して、抵抗感が強い介護や福祉の関係者がいるらしい。
    だが、この分野の問題はもはやそういった狭い世界の問題ではなく、国家財政を直接左右する話である。
    それがギリギリの状況にあるということなのだ。

  • 心情的に、また倫理的に否定意見を言えない事により拡大し続ける世代間の不公平。死亡消費税や、消費税率を逓減する方法など、少しでも是正する考えを提示してもらわないと、財政的幼児虐待と呼ばれても仕方がない。年配の方々は、豪華なランチや高級ブランドなんかより、実は一番高額で贅沢なサービスを受けているという自覚が欲しいところだ。201501

  • 社会保障制度を経済学の観点から分析し、財政健全化のために課題と解決策を分かり易く示した良書。現在の借金まみれの財政から考えるに、公費投入と給付抑制を実現する「身の丈に合った社会保障」は納得。世代間格差を是正する相続税率UP、中高所得者にも配分される公費投入の廃止、社会保障産業の高コスト脱却など、具体的な新しい知識を身につけられた。改革を実行するには、国民が正しい財政状況を理解し、改革しやすい環境を整えることが必要。自動的に改革が行われる仕組み作りのために、社会保障費への公費投入のシーリングなど、すぐにでも実行可能な施策も。

  • 現状の社会保障が財政的に持続不可能という著者の現状認識やある程度市場を活用して社会保障給付を縮減するという方向性での著者の提言には基本的に同意するが、社会保障財源としての消費税に対する低評価には賛同できなかった。新型相続税というアイデアは興味深いが、消費税の代替財源にはならないのではないかと思う。

  • 大きな改革がなければ日本の未来の社会保障はない。

  • 国の浮沈が掛かっているといっていい社会保障制度の現状と対策をまとめた本。特に若い世代にとっては余りに厳しい数字の羅列に、読むほどに暗澹とする事は間違いない。ただそれを知らねば何も始まらないという意味では日本人必読の書とさえ言える。時折舌鋒が鋭くなる箇所はあるが、問題を先送りばかりしている状態にはその価値があり、むしろ亡国というタイトルでトンデモ本に括られないかが心配。

  • 現状の社会保障制度のままでは日本は「亡国」するという真っ当な論。問題は最終章に書かれている、社会保障に関する財政の正確な情報・統計の不在、「共有資源」として使いたい放題の放置、の2点に尽きる。

    自分の世代(40代)はかろうじて耐えられるが、子どもの世代のことを考えると本当にまずい事態だと認識した。

    私は社会福祉士で、個々の社会福祉メニューには詳しいが、その裏付けとなる財政的な問題点についてはきわめて疎かった。

    細かな解決策は、まだまだ知恵を絞る必要がありそうだが。

    ・1991年から名目GDPは全く成長していないが、社会保障関係費だけは2倍以上になっている。
    ・2022年度には、高齢者比率は50.2%。二人の現役層で一人の高齢者を支える時代に。2040年度には、1.5人で一人を支える。これは少子化対策ではすでに手遅れなのだ。
    ・祖父母の世代はプラス5000万円、孫の世代はマイナス5000万円、両者に1億円の格差が。これが経済学者のコンセンサス。
    ・年金財政は100年安心どころか25年安心も危うい。厚生年金は2038年度、国民年金は2040年度に枯渇する。解決策は、保険料値上げが支給年齢の引き上げ。
    ・本来、個人の所得把握をしっかりと行いたいのであれば、アメリカの社会保障番号のように、所得と資産を同時に把握できるような仕組みを。アメリカではこれがないと銀行口座を作れない。
    ・まさに、持たざる若者から持てる高齢者への逆配分が社会保障への「公費の投入」であり、消費税の引き上げ。日本ほど多額の公費を社会保険に投じている国はない。
    ・二本では軽減税率を低所得者対策として正当化する見方がありますが、もしそうだとすれば、これは非常に効率の悪い「最悪の低所得者対策」。なぜならば、軽減税率が適用される食品や衣料品は中高所得者層でも購入するし、むしろ所得が高いほど多く購入する。事務コストも高くつく。
    ・日本の譲渡益税の実効税率が高く、家屋敷を売るときに多額の課税が、その時点で一気に行われる。日本では相続税の基礎控除が手厚く、不動産の路線評価額が低いこともあり、たとえ不便でも、子どもに相続させるまで不動産を保有する方が得になる。しかし、諸外国では、譲渡益課税の「死亡時一括精算方式」として、不動産を売った時点で課税せず、死亡したときにその僧俗資産に一括課税する方法をとっている国があり、不動産を流動化させやすくしている。
    ・主婦が保険料を納めずに基礎年金(介護、医療の保険も)を受け取っている問題は、働く女性との間に不公平を生じさせ、女性の社会進出にペナルティーをかけていることにほかならない。
    ・治療成績等の評価を価格体系に反映させようとする世界的な医療改革の潮流からも、日本は取り残されている。
    ・特養を運営する社会福祉法人の内部留保の総額は2010年度末において約2兆円。日立や東芝並み。
    ・生活保護で、高齢者、障害者、母子世帯についで、近年、その他の世帯が増加している。一番多い。そこへの施策(就労収入積立制度など)が必要。
    ・情報インフラ、正しい政府会計の整備が必要。
    ・国の公費が「共有資源」になっている。公費を使う側(厚労省)がその調達コストを考えないことが公費乱獲の原因になっている。
    ・民営化と地方分権の利点。競争原理が働いてコスト削減に努力がなされる。民間は給付と負担の一致が原則だから。自治体会計は安易に巨額の財政赤字を作れない。

  • 日本の社会保障の危機的状況について財政面からわかりやすく解説した本。最終的に主張されるのは規制緩和と公費投入縮減。この議論に反対するのであればもっと大きな視野から日本の財政をみなければいけない。

  • 8月新着

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著者プロフィール

1991年生まれ。現在、東京大学大学院人文社会系研究科助教。専門は美学。主な論文に、「ランシエールの政治的テクスト読解の諸相──フロベール論に基づいて」(『表象』第15号、2021年)、「ランシエール美学におけるマラルメの地位変化──『マラルメ』から『アイステーシス』まで 」(『美学』第256号、2020年)。他に、「おしゃべりな小三治──柳家の美学について 」(『ユリイカ』2022年1月号、特集:柳家小三治)など。訳書に、ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『受肉した絵画』(水声社、2021年、共訳)など。

「2024年 『声なきものの声を聴く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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