いじめの構造-なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062879842

作品紹介・あらすじ

学校や社会からこの苦しみが消えない理由とは?

感想・レビュー・書評

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  •  なぜ悪質ないじめが起きるのか。

     自殺に追い込むようないじめはなぜ起きるのか。そこには集団の空気が社会のルールを上回ってしまうような特殊な心理状況が関係している。いじめをした経験のある人々の証言がそれを裏づけている。
     だから、いじめをなくすには逃げ場のない集団をなくすことが何よりの対策になる。

     やや複雑なところもあるが、図で説明してくれる部分も多い。
     いじめの原因と対策を社会心理学から的確に指摘している必読書。

  • いじめの原因は、その場の雰囲気、空気、ノリを仲間と共有し、群れの勢いを何よりも大切にする群生秩序にある。群れから浮いた人や嫌悪感を感じる人には残酷に振る舞う。その反対の秩序は、普遍的なヒューマニズムの理念やルールを大切にする市民社会による普遍秩序。いじめは市民社会から離れた学校、職場、軍隊、収容所、戦時中の隣組など閉鎖的な空間で生じる。自由な社会とは、各自が適度な距離をおきながら、私的な幸福を追求できる社会であるが、このような社会は、自分中心で他人を巻き込みコントロールしたい人物にとって都合が悪い。

  • (自分が定義した用語に対して)「~~と呼ぼう」とか、妙なルビとか気に食わん表現がけっこうあった。社会学とか文学(理論、批評)などでたまにある。
    いじめの実例がけったくそ悪すぎるが、社会学的に淡々と説明される。
    (多様性を認めるということは)「我慢」すればいいだけで、「仲良く」する必要はない。というのは、腑に落ちて楽な気持になった。
    あと、戦後のいじめや社畜のような状況は、戦時中の国体維持が形を変えて残ったものだ、というのも確かにそうかもしれない、と思った。

  • いじめの構造を知ることで、
    ハラスメント対策について、鑑みることができました

  • 普遍的な現象としてのいじめを構造的に示し、構造的な苦しみに着目したやり方で現状を克服することを提示している。

    人がどうして残酷な行動に至るのか、構造的に理解することができた。



    26
    生徒も教師も「学校的」な秩序を生きているだけ
    29
    生徒たちは自分たちなりの「よい」「悪い」を体得しておりそれにかなりの自信を持っている
    32
    希薄かつ濃密な人間関係
    秩序の生態学的布置
    34
    秩序の生態学モデル
    あるタイプの秩序と現実感覚が、他のタイプの秩序と現実感覚を圧倒し、突出している
    35
    群生秩序
    =いま・ここのノリをみんなで生きるかたちがそのまま畏怖の対象となり、よしあしを分かつ規範の準拠点になるタイプの秩序
    36
    群生秩序⇔普遍秩序
    =その場の雰囲気を超えた普遍的な理念やルールに照合してよしあしを分ける秩序
    〜41
    群生秩序に従えばノリを外した浮いている者が悪い
    普遍的ヒューマニズムは悪い
    人権、個の尊厳、チクリ… は悪い
    42
    (普遍秩序において犯罪者をこらしめるべきと思う感覚と、群生秩序においてノリを外した浮いている者をこらしめるべきと思う感覚は同じなんだろうなぁ) 

    身分関係が決まっており、下の身分の者が笑っているだけで悪い。身の程をわきまえろ、ムカツク、ジコチュウ。
    47
    みんなの関係が第一次的にあり、個人はその第二次的な項として関係規定的にある。
    その場の空気を読んで集団に同調することが唯一の規範である学校共同体では個人の責任などという事態は生じ得ない
    52(コラム)
    筆者によるいじめの定義
    「社会状況に構造的に埋め込まれたしかたで、かつ集合性の力を当事者が体験するようなしかたで、実効的に遂行それた嗜虐的関与」
    58
    学校の集団生活によって生徒にされた人たちは集合的な場の情報により内的モードが別のモードに切り替わる
    市民的交際というモードから、いじめが止められないというモードに変換してしまう
    モードの変換は連鎖しループが生じる
    68
    暴力集団のむかつき
    漠然とした存在論的な不全感
    暴力によりかたちを与えられる全能感によりむかつきから守られなんでもできる気分になる(全能感)
    ↑心理システム(認知情動システム)が誤作動(暴発)を起こしている
    70
    暴力の全能感と暴力を中心に群れて響き合う全能感によるサイクル
    →内的モードの転換
    不全感と全能感の心理社会的なサイクル
    76
    他者コントロールによる全能
    思い通りにする快感
    教育や世話のもとでも行われる
    78
    被害者の悲痛により他者を思い通りにする全能欲望が現実化することがいじめの全能筋書
    117
    「タフ」に耐えることでみじめな自分を否認する被害者

    いじめはやっても大丈夫な利害構造に支えられている

    仲間と仲良くする選択しかなく、強制的に濃密な関係を強いられている
    185
    制度、政策的なマクロ環境によって群生秩序が形成されている
    202
    暴力←利害と場の情報の効果により法を入れる政策が効果を持たす

    213
    ひとつの透明な社会(コスモス)が強制される苦しみと比較して自由な社会で強制されるのはなじめないものの存在を許す我慢(寛容)だけ
    230
    内部評価により教師が誇大気分になる
    様々なスタイルの学習サポート団体が地域に林立すれば良くない教員が淘汰される
    235
    大切なのは、魅力の幸福感を指針とする試行錯誤の結果に応じた生のスタイルを生きやすい生活環境が用意されていること。
    238
    利害構造と全能図式が一致すると悪ノリが蔓延しエスカレートする危険性が高い
    243
    全体主義は単なる外形的な服従にとどまらず、人間存在の根底からの、全人的なコミットを人々に無理強いする
    252
    大切なことは、群れた隣人たちが狼になるメカニズムを研究し、そのうえでこのメカニズムを阻害するような制度、政策的設計を行うことだ
    258
    トクヴィル
    風習の方が法律よりもはるかにきびしかった
    262
    大切なことは
    中間集団全体主義社会と名前をつけること
    構造的な苦しみの諸相を明るみに出すこと

  • 著者はいじめにおける名前のない現象や感情にひとつずつ名前をつけ、簡易な言葉で実相を紐解いていきます。わたしはなんの知識もない素人ですが、するっと理解できる一冊でした。特に前半、加害者の心理や構造を読み解く部分は目から鱗の連続。折に触れ読み返すと思います。人間の悪について知りたい方はぜひ。

  • 前半は、いじめの構造の説明。
      「ノリは神聖にして侵すべからず」とかよくわかった。全能感からいじめを説明しようとしてる点もかなり納得できた。いじめられてタフになったやつがタフを他人に求めるとかの説明もよかった。
    後半は、だからどうしよう、という提案なんだけど、正直前半を読み物として読んでた(データとかはない)から、実際によいわるいの判断ができない。

  • 全体的になぜ人はいじめるのかを書いていた。私には「全能筋書」や「全能感」などのワードの意味があまりしっくり掴めなかった。いじめの起きる原理、その連鎖がなぜなのか、新たな視点で見ることができるかと思う。

  • 2009年初版の本なのに2018年の今読んでもしっくりくる。全く進歩のない日本教育が恐ろしい。これだけの提案もしているけれど、実践するのは夢のまた夢なんだろうか。集団のノリの怖さ、思春期の「いま、このとき」を生きるという説得力。怪物になるというワードに納得。

  • 大変な名著。学校のいじめを通じて普遍的ないじめ、つまり「人間が人間にとっての怪物になる心理ー社会的メカニズムである、普遍的な現象としてのいじめ」の構造を分析し、そのようないじめが生まれないための構造の作り方(制度設計論)を提案している。短期的な教育制度改革論から、中長期的な社会構想まで論じられている。その構想はリチャード・ローティの「リベラル・ユートピア」に通じる。

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著者プロフィール

1962年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部准教授。専門は社会学。著書に『いじめの社会理論』『いじめの構造』、論文「学校の秩序分析から社会の原理論へ:暴力の進化理論・いじめというモデル現象・理論的ブレークスルー」(『岩波講座 現代 第8巻 学習する社会の明日』)などがある。

「2018年 『子どもの人権をまもるために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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